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封 神 伝  作者: 原 海象
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第25話 紂王 無道に炮烙を造らせ、商容は朝廷からとんずらする

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>

第25話 紂王 無道に炮烙を造らせ、商容は朝廷からとんずらする




一行が九竜橋に差しかかったところで、赤い礼服を着た梅伯という上大夫が反対側から来合わせた。

梅伯は杜元銭が縛られているのを見て、近づいてきて尋ねた。

「杜元銭殿、いったい何の罪でこのような目に?」


杜元銭は言った。

「陛下が国政を顧みないので、妖気が内宮に積もり、天下に災難が近いことを上奏文に記し、それを商容殿にお渡しして頂いたのだ。ところが、それが陛下の怒りを買い、死罪を命じられたのだ。天子の命には逆らえない。梅殿、これで『功名』の二文字は灰と化し、長年の忠義も希望も無駄となったわけです」


これを聞いた梅伯は大声で、その方らしばしまっていろと言って駆けだした。


そして内宮へ向かい、九竜橋のところで商容と出会った。

「丞相殿、杜元銭殿はいったい何の罪で天子の怒りを買い、死を賜ったのか?」


商容は言った。

「杜元銭殿の上奏は、内宮に妖気があることを知り、朝廷の為になされたものだ。ところが、陛下は蘇美人の言葉をいれて、杜元銭殿を妖言で衆を惑わせた罪で処分するというのだ。わしがいくらお諫めしても耳を貸されぬ。こうなってはどうすることもできん」


梅伯はこれを聞いて怒り心頭に達して商容に言った。

「丞相殿のお役目は、陰陽の調和をとり、君臣の関係をやわらげ、好物を斬り、おもねる者を誅し、賢人を推し、能ある者には報いるというもの。君主が正しければ丞相は言無し、君主が不正であれば直諫するというものではないのではありませんか?今日、天子が理由もなく臣を殺そうというのに、何も言えず、どうしょうもないなどとは、おのれの功名のみを重んじ、朝廷の臣など眼中にないのではないのでしょうか?死を恐れ、おのれの命を汲々(きゅうきゅう)として罪を受けることを恐れているようで、丞相とは片腹痛いことこの上ない。おいお前たち、手を下さずにそこで待っていろ。この俺が直々に陛下にお会いしてくる!」


梅伯は商容の手を引っつかんで、大殿を過ぎ、内宮へ向かった。梅伯は外官なので寿仙宮には入れない。その為その一歩前まで来てひざまずいた。

「商容、梅伯両名が外でかしこまっております」奉御官が中に取いた。紂王は不満げに言った。

「商容は三代仕えた老臣だから内宮に来てもまあ大目に見る。

しかし、梅伯などが勝手に来るとは、国法を何だと思っているのだ!」


しぶしぶ、紂王は二人を中に入れた。商容のあとに続いて梅伯も入り、二人はひざまずいた。

「二人そろっていったい何事だというのだ」


梅伯は口を開いた。

「陛下、臣、梅伯恐れながらおたずねします。杜元銭はどんな罪で国法にふれたのでございますか?」


紂王は言う。

「杜元銭は道士と共謀して、妖言を立て人心を惑わし、朝政を乱し、朝廷を侮辱しおった。朝廷の大臣でありながら恩に報いず、妖魅がいるなどと言い立てて、余を騙そうとしたのだ。それゆえ、国法に基づき好物を殺すことにした。何も間違ってはおらん」


梅伯は、紂王の言いように思わず声を上げた。

「陛下はいま、半年も上朝されず、深宮に閉じこもり、日々快楽酒にふけられ、朝政を顧みず、諫言を受け入れようとしない。杜元銭は国の忠臣、陛下が杜元銭を殺し、先帝の大臣を廃するのは、艶妃えんびの言葉をうのみにして国の棟梁を傷つけるというものです。陛下、杜元銭の命を救い、文武諸官に聖明たる君主の大徳をどうぞお見せください」


紂王はこれを聞いて言った。

「梅伯も杜元銭の一味か。国法を犯し、内外の区別なしに勝手に内宮に入りこんだ罪で、本来なら杜元銭とともに処分するところだ。だが、これまでの功績をかんがみ、おまえは大目に見てやる。上大夫の職は免じる。二度と顔をみせるな!」


梅伯は大声を張り上げた。

「昏君!妲己の言葉に惑わされ、君臣の大義を捨ておって!今日、杜元銭を殺すことは朝歌の民を殺すことに等しいのだ。わしが免職になったところ、何も惜しくはない。ただ、高祖成湯数百年の偉業が昏君に葬り去られることだけは我慢ならん。聞太師は北伐でおられず、朝廷に法紀なく、政事は乱れ、昏君は奸臣のたわごとを信じ、妲己と日夜深宮で荒淫に明けくれる。天下の混乱も目前だ!ああ、この梅伯、あの世で先帝に合わせる顔がござらん」


紂王はかんかんになって奉御官に怒鳴った。

「こやつを取り押さえ、金爪で頭を叩き割れ!」


侍従が手を下そうとしたとき、妲己は口をはさんだ。

「陛下に申し上げたいことがございます。臣下の身でありながら、大胆にも殿上で険しい顔で口汚く君主を罵るなどは、実に大逆非道、倫を乱し常に反することで、その罪は単に一命を償えるものではありません。刑具を用いて、地獄のように責め殺すべきです。そうでもしなければ、今後も内宮に闖入ちんにゅうして、妖言邪説を並べ立てる者は絶えません。そこで梅伯を見せしめにつかってはいかがと存じます、取りあえず獄舎に繋ぎください。刑具については名案がございます」」


「その刑具とはなんだ?」

「この刑具は、円柱形をしていて、高さ二丈、直径八尺で、上、中、下三つに火の門を開け銅で造ります。その中で炭をおこし、銅柱を赤く焼いた上で鎖で銅柱に縛り付けるのです。赤く焼かれた柱は逆臣の身体を徐々に焼き灰になってしまうでしょう。この刑具を炮烙と申します。このような酷刑なくしては、あのように悪賢く自分の名誉しか考えない悪臣を、法に添ってかしこまらせることはできますまいと考えます」


美人の言う刑具はなんと素晴らしいものだと紂王は言い、杜元銭は妖言を流した罪でただちに斬首され、さらし首となってしまった。

更に紂王の命令により、梅伯を牢屋に入れ妲己が考案した炮烙を期日までに造り上げるように言いわした。

一方、商容は紂王が無道を行い、妲己の言を信じ炮烙などという残酷な刑具を造らせるのを見て寿仙宮の前で嘆いた。


商容は心の中で嘆いた。

(あの英明な若君がこうも暴虐非道の昏君になり果てたのだ?商の天下が崩れ落ちるのは明らかだ。しかも自分の力では、もはやどうすることも出来ない。坐して王朝の崩壊を見るよりは、身をひこう)


そこで商容はひざまずいて紂王に申した。

「申し上げます。いま天下の大事は既に定まり、国内は太平無事でなんの問題もありません。臣も年をとりました。すでに重責に耐えることは苦しく、万一、不始末をしでかしたら陛下のお怒りを買うようなことはと日々恐れております。臣は三代にわたって仕え、長年丞相を務めたことにお心をとどめて頂けるならば、臣の職を免じてください。このまま丞相を務めたとしましても老年ゆえ大した働きもできないでしょう。どうか、臣を故郷に帰ることをお許し下さい。いまの太平の世に、晩年を安らかに過ごせるようにして頂ければ余生の幸というもの、心より感謝致します」

紂王は商容が丞相を辞めると言い出したので簡単に言った。

「老年とはいえ、まだまだ元気だのにのう。職を辞すると言われても、お前は長年朝廷の為に力を尽くしてくれた臣。手放すことは忍びないことだ」


紂王はただちに随侍官に命じた。

「余の命を伝えよ。退任する丞相には、文武二官を特使に任じ、帰着するまで丞相の礼をもって国許まで送り、四通りの土産を添えて商容を晴れて帰郷させるのだ。地方官にも常に挨拶に行かせるようにと沙汰せよ」

と一応は礼を尽くしながら、しかも、追い立てるかのような態度であった。


その意味を呑みこんで商容は謝して朝廷を離れた。


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