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封 神 伝  作者: 原 海象
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第24話 紂王 臣下の諫言に激怒し、妖言を弄し衆を惑わせた罪として死罪を与える

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>

第24話 紂王 臣下の諫言に激怒し、妖言を弄し衆を惑わせた罪として死罪を与える



その頃、司天台(天文・暦を司る部署)の杜元銭とげんせんは天文を視ていた。


「ここ連日、夜天象を視ていたが、妖気は日ごとに増し、宮廷を離れようとはしない。これは不吉が現れる兆しと視ていいだろう。天子が女色におぼれて朝政を疎かにしているので権臣が勝手にふるまい、天は怒り民は怨んでいる。これでは国が亡びるだけだ。先帝の恩を受けた者としてこれを黙って見ているわけにはいかない」


そう考えて杜元銭はその夜すぐに上奏文を書きあげた。


翌日、杜元銭は文書房に訪れ、この日誰が上奏文に目を通すのかをたずねた。

すると丞相の商容ということで彼は喜び、九間大殿で商容の前に進み出て一礼をした。


「丞相閣下、昨夜この私は天象を視て、妖気が深宮を取り巻いていることに気づきました。まもなく、災禍がおきましょう。天象は天下の情勢の先触れ。これは国の大事、どうして黙って見てられましょう。そこで、わたくし上奏文を持ってまいった次第です。丞相閣下、どうぞこれを陛下にお渡しいただけないでしょうか」


商容はうなずいた。

「杜元銭殿が上奏文を持たれたというならわしも黙っているわけにはゆかぬ。ただ天子はここのところまったく上朝されないので、お目にかかることができないのだ。今日はわしとともに内宮へ赴き天子に上奏するとしよう」


こうして商容は九間大殿を出て。竜徳殿、顕慶殿、嘉善殿を過ぎて分宮楼に来た。これを見た奉御官が制止した。


「丞相閣下、寿仙宮は天子の御門。天子の寝室に外官は入れませんぞ」

「それはわかっておる。商容がお待ち申し上げていると陛下にお伝えしてくれ」

奉御官が中に入って取り次いだ。紂王は言った。


「はて、商容は何の用でここに来たのか……。やつは外官と言っても、三代仕えた老臣だから特別だ。こちらに通すことを許す」


商容が入ってくると、寝台の下にひれ伏した。

「丞相、わざわざ宮中に来るとはあわただしい。いったい何事だ」

「司天台主官の杜元銭が昨夜天象を視て、妖気が宮中を照らし、まもなく災禍が起こると申しております。杜元銭は三代仕えた老臣で、無視するわけにもまいりません。それなのに陛下はいつになっても上朝なされない。群臣は日夜憂慮しております。このたび、この身を捨てて天威を犯してでも、陛下に我らの上奏文を見て頂きたく参上したしだいです」

こう言った、商容は上奏文を差し出しので、側近がこれを受け取り紂王は開いて目を通した。



臣、司天台主官杜元銭が申し上げます。これもすべて国を守り、民を安んじ、妖魅を除き、お国の隆盛のためとおぼしめくださいますよう。臣、夜天象を視ておりましたところ、妖霧・妖光が内殿に入り、慚気が深宮を覆うのを視ました。陛下は前日、大殿で終南山の雲中子なる人物から妖魅退治に木剣を受け取りました。しかし陛下が木剣を焼かれ、かの大賢の忠告をお聞き入れなかった為に、妖気は再び勢いを取り戻し、日一日と強くなって、いまは天に昇るほど、大きな禍患となっております。陛下の不在なことから朝廷は大いに乱れて、文武諸官はいずれも失望を禁じえません。今や私たち臣下が陛下にお目にかかるのは至難の業。陛下は美色に迷い、日夜遊びにふけっておられますが、君臣が合うことができないとは、まさに陽が雲に隠されたも同然です。臣、この身を顧みず、死罪を覚悟で申し上げましたのも、臣下としての義務を微力ながらも尽くしたいためにほかなりません。

もし、臣の諫言が正しいと思いになりますなら、一刻も早く聖旨を下され、行動を改めてくださいませ。臣らは陛下のお言葉を一心にお待ちしております。謹んで上奏致します。



紂王は読み終えると考えた。

(よく申したものだ。しかし、雲中子の件を蒸し返すとは。あのときは、もう少しで美人が死ぬところであったのを、あの木剣を焼いて無事にすんだのだ。それをまた、妖気が深宮を覆うなど申しでるとは)


紂王は妲己を振りかえてたずねた。

「杜元銭がまたも妖魅が朝廷を乱すと申しておる。いったいこれはどういうことだろうか」


妲己はひざまずいて答えた。

「雲中子は陛下を虚言で欺き、国を乱そうとしました。杜元銭はこのことを借りて何やら申しておりおますが、これも数人の奸臣が結託して噂を立て、こんな噂を耳にしましたら冷静さを失って、何事もなかった者たちまで混乱を起こして誰もが浮き足だち、天下はひどく乱れるでしょう。それも、ひとえにこう言った根も葉もない噂のためというもの。ですから、こんな噂を立て、民を惑わす者達を放っておいてはならぬと思います。生かしておいてはならぬと思います」


「美人の言うとおりだ。よし命令を伝えよ。妖言をなくすため、見せしめに杜元銭を斬首して、さらし首にしろ」


これを聞いて商容は慌てて言った。

「陛下、それはなりません。杜元銭は三代にわたって商に仕えた老臣です。忠誠を尽くし、国の為と思って、率直に思うところを申し上げたもの。それもこれも、天子のご恩に報いんものと心を痛めてのことです。それに、天象を視て吉凶をはかるのはその者の勤めで、もし天象から読み取った兆しを報告しなければ、それこそとがめを受けるというもの。陛下がいま直諫に死を持って報いたとしても杜元銭はむしろ本望でしょう。しかし、文武諸官はそのなりようにみな不満をいだくことになります。陛下、どうか杜元銭の忠誠心をおくみとりの上、お許しのほどをお願い致します」


だが、紂王は相手にしなかった。

「丞相、何を言う。杜元銭を斬首しなければ、事実無根の噂はいつまでも消えぬ。

民も不安がり、太平ではいられないだろう」


これを聞いた商容はさらに諫めようとした。

しかし、紂王は耳を貸さない。命を受けた奉御官に、商容はその場から追い出されてしまった。


仕方がなく商容は文書房に引き返した。自分の運命を知らない杜元銭は、そこで天子の御言葉を待っていた。そこに命令が伝えられた。


「妖言を弄し衆を惑わせた罪で杜元銭を斬首し、国法を正せ!」

聖旨を読み終えると奉御官は有無を言わさず杜元銭の礼服をはぎ取ると、縄で縛り付けて午門の外に突き出した。


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