第19話 祟黒虎 腐った枝は大木をもゆるがす! 蘇護 一生の不覚……!
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第19話 祟黒虎 腐った枝は大木をもゆるがす! 蘇護 一生の不覚……!
散宣生は蘇護の返書を手に西岐へ帰っていった。祟黒虎は蘇護に言った。
「仁兄の大事は既に決まった。この上は一刻も早く旅装を整え、ご令嬢を朝歌に送ることだ。
遅れるとまた思わぬことがおきるかもしれん。
俺は戻ってご子息を放し、兄者とともに撤退して国へ帰って、仁兄が商王に拝礼し、罪を認めることについての上奏文を朝廷に出すとしよう。これ以上は何も考えないことだ。さもないと禍端を招くことになる」
「賢弟の厚情と西伯候の恩徳を受けたいまは、わしは娘いとおしさから自ら滅びるようなことはもうしない。ただ、この蘇護には息子は一人しかいない。それが貴公の兄上の軍営に捕らわれているので、いち早くお返しいただき、妻を安心させたいのだ。そうなれば我が一家の者は感激にたえない」
「仁兄、安心してくれ。俺が戻ったら、すぐに放すようにしよう。もう心配しないでくれ」
二人はお互いに礼を言い、祟黒虎は冀州城を離れて祟候虎の本陣に戻った。
*****
軍門を抜け、祟候虎のいる天幕に入って祟黒虎が席に着いた。
「あのいまいましい西伯候の姫昌め!兵を動かさず、高見の見物をしおって、先日も姫昌の使者の散宣生に書状を持たせて、蘇護に娘を天子に献上するように説得するなどと言っておった。いまだなんの消息もない。賢弟が捕らえられてからというもの、わしは一時として気が安まらなかった。いま賢弟が戻って来て、これほどうれしいことはない。ところで、蘇護は本当に朝廷に、赴き罪を認めるのか?おまえはやつのところから戻って来たのだから、何か知っているのではないか?」
とあまりのいい加減さに祟黒虎はムッとして、これにはさすがに大声で怒鳴った。
「長兄、我ら兄弟二人は、同じ先祖の流れをくむ六代目、同じ血を分けた兄弟だが、その中身は大違いだな。『一樹の果実でも酸有り甘有り、一母の子にも愚有り賢有り』と言う。長兄、蘇護は商に逆らったと言って、あんたはさっさと軍を率いて征伐に来たあげく、多くの将兵を失った。また、長兄は一応朝廷では一鎮の大諸侯たる身分だ。それなのに朝廷の為になることをせず、軍を動かし民や将兵に苦しみを与えたことにより、天下の人々はすべてあんたを憎んでいる。五万の大軍が一通の書状におよばないとはな!
蘇護はすでに娘を天子に献上することを承知し。朝廷に赴き罪を認めるのだ。あんたは無駄に将兵を失って恥ずかしいとは思わないのか?まったく我が祟家の恥だ。
長兄、今後はいっさい付き合いを絶つ。
この黒虎、もうあんたの顔を二度と見たくない。おい、そこの者。蘇家のご子息を解放しろ」
部下たちはこれに背くことはできず、蘇全忠の縄を解いた。
そして、蘇全忠は天幕には入り祟黒虎に礼を言った。
「叔父上、この愚かな甥の命を救ってくださった御恩、忘れません。感謝の極みです」
「賢甥よ。お前の父上に一刻も早く天子拝礼の仕度をして、遅れることのないように伝えてくれ。俺が代わって上奏文を書き、お前たち親子が朝廷へ罪を認めに行くことを申し上げるからな」
蘇全忠は祟黒虎に礼を言うと軍営を離れて馬に乗り、冀州へ戻って行った。そして祟黒虎も兄に対して烈火のごとく腹を立てたまま、三千の飛虎兵を引き連れ火眼金晴獣にまたがって曹州へと戻って行った。
残された祟候虎はというと、祟黒虎の言葉に恥じいって何も言えなかった。
そして残った将兵を集めて国に帰り、自分の不始末を天子に申し出ることにした。
さて、蘇全忠は冀州に戻って父母に会い、互いに慰め合った。蘇護は言う。
「先日、西伯候から書状が届いたのだ。たしかに滅亡寸前にあった我が蘇一族は救われた。この大恩を忘れはしない。全忠、君臣の義はもっとも大事だ。君命があれば臣は死なぬわけにはいかんというもの。このわしも、娘可愛さに迷って自ら滅びるわけにはいかない。いまとなっては、お前の妹を朝歌に送り、天子の前で罪を認めるしかないだろう。お前はしばらく冀州の守りについてくれ。わしはすぐ戻ってくるが、そのあいだ民の害がおよばないように」
全忠もすべて承知したので、蘇護はすぐさま奥には入り夫人の揚氏に西伯候の書状で自分で天子に拝礼するように勧めていることを詳しく話した。
楊夫人はこれを聞き大声で泣きだしたので、蘇護はなだめた。
「あの子は小さいときから甘やかしておりましたので、天子への作法など知らず、かえって災いを招くことになるかもしれません」と楊夫人は涙を浮かべて言う。
「それも仕方あるまい。あとは運に任せよう」と蘇護は言い、
こうして夫婦二人はその夜一晩、悲しみに暮れた。