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封 神 伝  作者: 原 海象
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第16話 祟候虎 兄よりすぐれた弟なぞ存在しねぇ!!

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>

第16話 祟候虎 兄よりすぐれた弟なぞ存在しねぇ!!



一方で、城内の蘇護は何の手立てもなく、ほかに身に寄せるところもないので、ただ死を待つのみというありさまだった。じわじわと苦しんでいる将兵のなかで不意に知らせがあった。

「我が君、督糧官とくりょうかん鄭倫ていりん殿が只今戻りました。

「食糧が届いたところで、何になるというのだ」


蘇護はため息をついたが、鄭倫をここへ通せと急いで命じた。


やがて、鄭倫が軒端のきばの前で一礼した。

「それがし、途中で我が君が朝廷に逆らい祟候虎が天子の命を受けて征伐に向かったと聞き、

このことを確かめようすぐに戻ってまいりました。

一体戦の勝敗はどのようになっているのでしょうか?」

と、鄭倫は怪訝な顔をする。蘇護はこれまでの経緯と状況を説明した。


そして蘇護は涙を浮かべて言った。

「実はいましがた、天下の笑い者になりたくないので、妻子を始末して自刃しようと考えていた。

諸将にはのちほど言い渡すつもりだが、お前はいいところに帰って来た。

色々と苦労をかけたが、これまでの忠勤には、深く感謝する。旅装を解かず糧秣部隊を率いて城を出てくれ。そして、その糧秣を手みあげに、どこかの諸侯に身を寄せるのだ」


「これは異なことをおっしゃる。我が君は酒にでも酔っておられるのか?

いったいどうしてそのようなことをおっしゃるのです。

四大諸侯いや、八百諸侯が束となってもこの冀州城を征伐にきたとしても、この鄭倫には大した敵とは思えません。

なぜ、そのようにご自分をおとしめるのですか。

それがしは幼いときから我が君にお仕えし、君候の恩をうけていまの地位と高禄を頂いている者です。非才ではありますが、我が君へのご恩返しのためなら犬馬の労もいといません」


蘇護はこの言葉を聞いて頭を振った。

「やれやれ、お前は糧秣を運ぶ途中で邪気にでも当てられ、訳のわからぬことを言っているのだろう。天下の八百諸侯どころの話ではない。祟黒虎を見よ。かって仙人を師と仰ぎ玄術を身につけ鬼神すらも恐れるという祟黒虎一人、その謀略に誰一人として相手にはなれないではないか。鄭倫、お前はやつすら敵ではないというのか?」


「では、これから祟黒虎を生け捕ってまいります」

「全忠も同じことを言っていたぞ」と蘇護は制止した。しかし鄭倫は火眼金晴獣に乗り手には二本の降魔杵を手に取り、直属の三千の鳥鴉兵を率いて城門を出た。

それは地を這う黒雲のように祟候虎の陣営の前まで押し寄せて来た。

「祟黒虎出てこい!」

そこでこれを聞いた祟黒虎は兄に一礼すると、三千の飛虎兵を率いて陣営を出て旗を後ろに先頭に立った。

見ると冀州城下に一陣の騎馬が陣を張ってその様子は一かたまりの黒雲のようであった。

その武将は立派ないで立ちのことから名のある武将に違いないと考え祟黒虎は鄭倫に問うた。

「冀州の武将、名を名乗れ!」

「我こそは、冀州督糧上将の鄭倫ていりんだ。おまえが曹州の祟黒虎か?

我が君のご子息を捕らえて威張りかえっているそうだな。さっさとご子息を返し、捕縛されよ。

さもないとすぐにでも木っ端みじんにしてくれるぞ」


これには祟黒虎も腹を立て、ののしった。

「この匹夫が!蘇護は朝廷の掟に背き、身を滅ぼそうとしているのだぞ。

それを家臣が主を諫めることをせず、大胆不敵に何をほざくか!」

こう言うと、火眼金晴獣を走らせ、金斧を振りかざして鄭倫に向かったので、鄭倫も手中の降魔杵で迎え討った。二頭の聖獣は入れ乱れ、二人は激戦を交えた。


いずれも武芸自慢、二十四・二十五合のわたり合っても勝負はつかない。

このとき、鄭倫は祟黒虎の背の紅瓢箪を見た。

祟黒虎は仙人から玄術を学んだと我が君から言われたが、どうやらあの紅瓢箪が宝貝らしい。

先に手を下した方が有利だと鄭倫は考えた。


というのも鄭倫自身も西崑崙の仙人を師と拝したことがあり

このときに鼻で相手の魂を吸い取る術を伝授された。

この玄術を身につければ、相手となった者は必ず捕らえることができる。

鄭倫の左手がサッと上がる。三千の鳥鴉兵は展開して長蛇の陣を布く。全員が左手で一本の長い鉄索に取りつき、右手にからめ鉤を下げている。それが長蛇のように、くねりながら殺到した。生け捕りの陣、と祟黒虎は見破ったが別に慌てる様子もなかった。


しかし、不意に鄭倫の鼻孔から、僅かな鐘の響きとともに、白い光が二条、稲妻のように走った。この術こそ鄭倫が仙人から学んだ術『吸魂光』である。


一瞬、この鐘の音を聞いて、身体から魂魄が吸い取られ祟黒虎は聖獣から転げ落ちた。それを助け上げようと飛虎兵が殺到する。しかし、長い鉄索に阻まれて近づけない。一瞬吸い出された祟黒虎の魂魄は、すぐに身体に戻った。しかし、そのときにはすでに鳥鴉兵にからめ取られていた。

祟黒虎を生け捕ると鄭倫は、勝鼓を叩いて帰城した。


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