海の向こうからの手紙
[注]
この物語に出てくる人物は、フィクションです。
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芽島家:鎌倉に昔から住んでいる名家。
現当主の芽島葵子は、当時では珍しいオランダ語の翻訳家である。
大正初期の頃。
――ここは、鎌倉。
「……こんにちは。芽島殿はいらっしゃるか」
外から、声が聞こえた。
「はい、ただいま」
この家の当主である、芽島葵子が出る。
「手紙でございます」
そう、配達員が手紙を渡した。
「あら、そうでございましたか。ありがとうございます」
この切手と消印、文字からして和蘭陀からだ。
部屋に戻り、封を切る。
中身を出してみると、折り畳まれた紙と写真が出てきた。
手紙を開くと、達筆な和蘭陀語が書かれている。
写真は、家族写真であろうか。
葵子は、書斎の席へ座り……手紙を読み始めた。
▪▪▪
拝啓 アオイコへ
僕の事を覚えている、かな。
長崎で宣教師として活動している、エドウィンさ。
アオイコと出会ったのは、昨日のように覚えているよ。
鎌倉の地を知りたいと思ったときに、丁度アオイコが相手してくれたのが、交流の始まりだったね。
実家に帰省したあと、落ち着いたからこの手紙の筆を執ったのさ。
ほら、こちらの家族の顔を見たいと言っただろう?
だから、写真と共に送ろうと思ってね。
帰省したのは良いものの、いつ戻れるか正直分からないのが現実でな。
地元の教会の宣教師が、人手不足で僕に話が来たのだ。
日本に戻ってきた際、またアオイコの世話になるかもしれない。
その時、またよろしく頼みます。
それでは、また逢う機会まで。
エドウィン・ウーウェルト
▪▪▪
手紙を読み終えた葵子は、写真を見た。
真ん中に居るのは、エドウィン。
その右隣に居るのは、母と父。
そして、その左隣は妹。
なんと微笑ましい写真だろうか。
「……記念に、取っておこうかしら」
書斎の片隅に、写真と手紙を飾った。
この手紙は、彼女の思い出の片隅と……
運命の糸となったのは、また後日談であります。
読んで頂き、ありがとうございました。