地味な魔導武装②
ソロルは疲れた様に近くの椅子に
腰かけると、フィーディに言う。
「・・はぁ・・ところでピューネは?」
「お出かけです、数時間は戻らないかと」
フィーディがそう答えると、
ソロルは続ける。
「ふふふ、しかしピューネも大変ね、アレンに纏わりつかれて」
「・・・それはどうだろうね」
ソロルの言葉を否定する様に
ナトスがそう言うと、
不思議そうにソロルが続ける。
「ん?どういう意味?毎週毎週アレンが絡んでくるでしょ?それにアレンって・・ちょっと・・ほら、ねぇ」
「変態だよね」
ソロルが言いにくそうにしているのを
ミノアが代弁すると、
ナトスがその問いに答える。
「アレンさんは母さんが言ったように毎週月曜日、決まってこの時間にやってくる、そしてピューネおばさんも、毎週月曜日のこの時間は決まってギルドに居るんだ」
「言われてみれば確かに・・去年まで日曜月曜が学校休みだったから毎週のようにこの光景を見てた・・」
ミノアがそう追従すると
フィーディが言う。
「考えすぎなのでは?ピューネ様はアルフィーンの専属治癒士ですし、基本的に居てあたり前なんですよ」
「そうよ、ナトスが言いたい事って、ピューネが意図的にアレンを待ってるって事でしょ?」
ソロルが追従するとナトスは言う。
「・・だからどうだろうねって話だよ、母さんが言ったそれを否定できる根拠はないし、少しの間、用事でピューネおばさんがギルドに居ないって事はよくある事、それが月曜のこの時間に限っては無いって事実の方が俺目線不自然で意図的なものを感じるだけ」
それを聞いたフィーディがソロルへ言う。
「で、でましたね、ナトス坊ちゃんの自論展開・・なんなんでしょうこの異常なほどの説得力は・・必ず言い負かされてしまう、そんな恐怖心も芽生えそうです・・」
「そ、そうね・・私も昔の嫌な記憶を思い出しそう・・」
「ハクション!・・」
何処かのベンチに腰掛ける
ピューネがくしゃみをすると、
コーヒーを持って近付く女性が
声をかける。
「なーに?風邪?はいコーヒー」
「違いますよユナさん、多分どこぞの悪ガキが私の話をある事ない事言ってるんだと思います」
ピューネがコーヒーを受け取りながら
そう言うと、ユナと呼ばれた壮年の女性は
笑いながら言う。
「ははは♪心当たりありそうな言い方じゃん、どうせナトスあたりでしょ?」
「・・・」
ピューネが面白くなさそうな表情で
コーヒーを飲むと、ユナは続ける。
「そうそう・・はいコレ・・」
ユナは何かのリストをピューネに手渡しつつ
続ける。
「今年の分は何とか賄えたけど・・来期以降は正直無理・・これ以上収入源の確保が出来ないなら、出費の方を抑えるしかなくなるよ」
ピューネはリストに目を通しながら
呟くように答えた。
「・・・わかっています・・」
「えっ?フィーディさんって執事じゃないんですか?」
ランが驚いたようにそう言うと、
フィーディは笑いながら答える。
「そうだよ♪私はアルフィーンの専属ギルド職員、誰の執事でもないよ」
「す、すみません・・そんな格好だったからてっきり・・」
「ははははは♪似合ってるでしょ!マスターが言ってくれたの“ギルド職員の服装に規定などは無い、自分で最良のパフォーマンスが出来ると思える服装で構わない”って、これが身も心も引き締まる私の制服♪」
フィーディが胸を張ってそう言うと、
ミノアが追従する。
「あぁ、父さん言ってたね、確か“もちろんビキニ水着もOKだ!”っとも付け加えてた」
ソロル「・・ほ~・・」
「ミノア、それは内緒にしてないと駄目じゃなかったか?確か“シー!今のは母さんに内緒な!!”っとも付け加えていた」
ソロル「・・へ、へ~・・」
ナトスの追従を聞いたソロルが、
怒気を纏った声を発すると、
ランとエミーレは苦笑いを浮かべた。
するとフィーディが声を発する。
「魔力変動!転移、来ます!!」
その声に反応しみんなが後ろを振り返ると
赤い魔法陣が展開されていた。
ラン「(な、何なのよここ、今度は何!?)」
エミーレ「(立て続けに色々起きすぎ!)」
困惑する二人の目の前に、
魔法陣に4名の人影が浮かぶ。
エミーレはその中の一人を見て、
反射的に皆より前へ躍り出ていた。
一同「!?」
「アン!どうしたのその怪我!?」
ソロルに達の目の前にアンプレス率いる
アルフィーンのメインパーティーが現れた。
右肩から出血し、折れている様にダランとさせた
アンプレスが答える。
「・・い、いや・・魔獣が強すぎて・・後れを取った・・みたいな・・」
どことなく挙動不審気味なアンプレスがそう言うと、
メインパーティーの一人ティーケーが言う。
「はぁ・・誤認させるような良い方ですよマスター・・取りあえずそこに掛けましょう」
それを見ていたソロルが
心配そうに駆け寄りつつ言う。
「それはどういう・・何があったの?」
アンプレスはその問いに答えたくないのか、
話を変える様にフィーディへ声をかける。
「そ、そんなことより、ピューネは何処だ?治癒をお願いしたいんだが」
「はっ・・ピュ、ピューネ様はお出かけになられています・・す、すぐ探してきます」
慌てた様にフィーディがそう言うと、
ナトスが声をかける。
「待ってフィーディさん」
「え!?」
フィーディが立ち止まると
ナトスは自分の前に立つエミーレに
向けて続ける。
「エミーレ、どうなんだ?」
「え?・・んと・・あの・・」
そのやり取りを見ていた
アンプレスがエミーレに言う。
「・・もしかして治癒士か?」
「あ、あの・・はい・・」
終始自信なさそうに見える
エミーレだったが、
アンプレスは続ける。
「(・・なるほど、道理で・・)失敗しても構わない、お願いできるか?」
「は、はい!・・やってみます」
エミーレはさらにアンプレスへ近づくと
右側に立ち治癒を開始する。
「・・はじめます・・治癒魔法!」
エミーレの両手から発生する黄色い光は
アンプレスの腕を包むように広がる。
出血している肩の傷は見る見る塞がっていく。
「(・・裂傷は・・簡単・・でも、折れた骨が・・動かない・・)」
エミーレは最大限の力で治癒に集中していたが、
折れている骨の治癒が進まない事に動揺する。
「・・傷に対する治癒はかなりの物だ・・」
アンプレスが呟くと、骨の治癒が旨く行かず
動揺しているのを感じ取られたと思ったエミーレが
反射的に謝罪する。
「(・・動揺が治癒の力に伝わったんだ・・)す、すみません・・」
「いい、続けてくれ・・」
アンプレスはそう言うと
左手で右手首を掴み続ける。
「まだまだパワー不足と言うだけ、そんなものは後々付いてくる、器用である事・・治癒士にとってはそれが一番重要・・自信を持て、君はすでにそれを持っている・・フン!」
ゴ・・パギ・・
アンプレスは右腕を引っ張り、
腕の筋力で強制的に折れた骨を
真っすぐに保持する。
ナトス「(うぁぁ・・)」
ミノア「(痛そー・・)」
「・・後は頼んだ・・」
アンプレスがそう言うと
額に汗をにじませたエミーレは言う。
「は、はい!・・」
~5分後~
「・・OKだ、助かったよ」
アンプレスがそう言うと、
大きく息を吐きながらエミーレは言う。
「ふ~・・・良かったうまく出来た・・」
「フィーディ!・・」
アンプレスは治療の終わった腕を
指さしながらフィーディに声をかけた。
フィーディはそれが何を意味しているのか
すぐに悟ると、時間を見ながら
あるものを準備する。
「・・えーっと・・10分ぐらいで・・えっと・・・OK!」
フィーディはアンプレスに封筒を手渡す。
「へいお待ちー♪お世話になりましたねエミーレさん」
アンプレスはその封筒を
今度はエミーレに差し出す。
「受け取ってくれ、報酬だ」
「え?え?報酬??」
エミーレが困惑すると、
ナトスが言う。
「・・冒険者規定・・自身の所属するギルド専属もしくはパーティー外の治癒士による治癒を受けた場合、その対価・報酬を支払う義務がある」
「え!?じゃぁ私の治癒に対する報酬って事!?そ、そんな・・だ、大丈夫です、そんなつもりじゃなかったし・・」
エミーレが慌ててそう言うと
ナトスは補足する様に言う。
「・・因みに、冒険者規定・・では無いが、治癒を行った側の治癒士は取りあえず受け取った方が良い、暗黙の了解、マナーの類だ・・」
「・・・」
なにも言わないエミーレに
アンプレスが言う。
「まっ、そう言う事だ、後々のトラブルを避けるためにも、守った方が良いルール・・受け取ってくれエミーレちゃん、おじさんが義務違反になっちまう♪」
そう言われたエミーレは、
封筒を受け取りつつ言う。
「・・・わ、わかりました・・そ、その・・ありがたく頂きます・・」
すると、一連の流れを見ていた、
メインパーティーの一人、
狩人のバルパルが言う。
「・・・えらく格好い感じになってますが、僕たちはそうでもないですからねアンさん」
「そうです、まさかマスターの口から義務の話が飛び出るとは・・失笑ものです・・」
ティーケーが追従すると
慌ててアンプレスが割り込む。
「や、やめろ・・話を蒸し返すな・・」
すぐさま魔法士のルイーナが割り込む。
「私達からはマスターの自業自得にしか感じられません、流石に今回は右腕もげちゃえぐらい思っちゃいましたし・・」
「お、おい・・こら・・俺はギルドマスター・・パーティーリーダーで仲間・・」
そのやり取りを見ていたソロルが
割り込むように言う。
「やっぱり・・なんかあったのね?」
「も、もういいじゃないか・・ね?ね?」
アンプレスの静止も空しく
バルパルはソロルへ詰め寄る。
「聞いて下さいソロル様!僕たちの苦悩を・・」