8話 剣聖姫の力
迷宮一層目――
「さて、それでは進みましょう」
「はい、イオリ様!」
どこまでも岩肌の続く道を、イオリとコレットは歩き始める。
昨日と違い、この時点で迷宮の奥から強力な気配を感じ取れる。
『グォォォォ――ン!』
歩くこと少し、そんな咆哮とともに一体の異形が現れた。
鋼鉄の体を持つ巨人型のBランクモンスター、ゴーレムだ。
「イオリ様、ここはわたしにお任せください!」
そう言って、コレットが腰から剣を引き抜く。
白銀の刀身が美しい、見るからに上物の直剣だ。
「ハァァァァ――ッ!」
裂帛の声とともに、コレットがその場を飛び出した。
さすがは近接戦を得意とするAランク冒険者、凄まじいスピードだ。
『グゴッ!?』
コレットのとんでもないスピードに驚愕の声を漏らすゴーレム。
しかし、そんな反応を示しながらも、コレットに巨大な拳を振り下ろしてくる。
「遅い!」
ゴーレムの動きに合わせ、コレットはその場で軽やかにステップすると拳を難なく躱してみせる。
そのままその場で体を捻り、スパン――ッ! と、目にも止まらぬ回転斬りを放つ。
凄まじい剣技だ。
ゴーレムの腕が横真っ二つに叩き斬られてしまったではないか。
「これでお終いです!」
片腕を失い、雄叫びを上げるゴーレムの体の上を駆け上がるコレット。
そのままゴーレムの額に刻まれた特殊な古代文字に剣を突き立てる。
『グゴ……ォォォ……ッ』
額の古代文字を削られると、ゴーレムはその場に崩れ落ちていく。
体に刻まれた古代文字こそ、ゴーレムの弱点であり命の源なのだ。
「いかがでしたか、イオリ様?」
ゴーレムが完全に沈黙したのを確認したところで、コレットがイオリの方へと振り向く。
「さすがAランク冒険者、それに剣聖姫と呼ばれているだけのことはありますね」
コレットの戦いぶりに、イオリは素直に称賛の言葉を送る。
単純な剣技だけでいえば、勇者であるアレクにも勝らずとも劣らず、と評することができるほどの戦闘レベルだ。
聞けば、彼女は数年前に剣聖というクラスに目覚め、ずっと剣術と体術を磨いてきたらしい。
今もスキルを一切使っていないというのに、ゴーレムを余裕で倒してしまった。イオリの言うとおり、剣聖姫と呼ばれるだけのことはある。
「ふふっ、イオリ様に褒められてしまいました♡」
イオリからの称賛に、花の咲くような笑顔を浮かべるコレット。
彼に褒められたのが、よっぽど嬉しかったようだ。
「それにしても、本格的に迷宮内で異変が起きているようですね」
「そうですね。普段なら、ゴーレムなんて十層目からじゃないと現れないのに……」
イオリの言葉に頷きながら、剣を鞘に納めるコレット。
一層目でこの調子なら、いくら勇者とはいえアレクたちが撤退するハメになったのも頷ける。
「あ、忘れずに回収しておきますね」
思い出したかのように、イオリは収納魔法、《黒次元ノ黒匣》を発動しゴーレムの亡骸を次元の狭間に収納する。ゴーレムの鋼鉄の体は武具などの素材になるので、それなりに高く売れるはずだ。
「ゴ、ゴーレムの体を丸ごと収納できてしまうなんて、凄まじいスキルですね……」
ちょっと引いた表情を浮かべながら、そんな感想を漏らすコレット。
通常、収納魔法というのはそこまで容量はなく、収納できる大きさもかなり限られているものだ。
しかし、魔王ベヒーモスの力のいくつかに覚醒したイオリの魔法スキルに、そんな制限など存在しないのである。
「この調子で進めば、報酬が楽しみですね」
「……ふふっ、そうですね」
イオリが少し悪い顔を浮かべて言うと、コレットは呆れたような様子を、それでいて笑顔を浮かべながらイオリに答える。
普段よりも危険な状態の迷宮の中だというのに、二人は余裕の表情で奥へと進んでいく――。
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