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6話 魔王の記憶

 それから少し――


「イオリさーん! 見積もりが終わりました!」


 ギルドの酒場で夕食を食べ終わったところで、受付カウンターの方からイオリを呼ぶ受付嬢の声がする。どうやらドレイクの首の見積もりが済んだようだ。


「今行きます!」


 そう言って水を一気に飲み干すと、イオリはコレットを連れて受付へと向かう。

 受付にはすでにトレーが用意されており、かなりの額の硬貨が乗せられていた。

 少しばかり贅沢しても、三ヶ月くらいは生活できてしまうほどの大金だ。


「首から上だけでしたが、状態がすごくよかったので、勉強させていただきました♪」


 想像以上の金額に驚くイオリに、受付嬢がウィンクしながら言ってくる。


「では、コレットさんと山分けで」


 そう言って、イオリは硬貨を半分ほど手に取り、腰の革袋にしまう。


「え、ちょ……何を言ってるんですか、イオリ様! ドレイクを倒したのはイオリ様ですよ!?」


 イオリの言葉をようやく理解したのか、コレットが声を上げる。

 しかし、イオリは――


「そもそも、最初にドレイクと戦っていたのはコレットさんですし、同じパーティになったのですから、報酬は半々です」


 ――と、コレットに残りの報酬を受け取るように促す。


「え、えっと……」


 イオリの言い分に、戸惑った声を漏らすコレット。

 そんなコレットなどお構いなしとばかりに、イオリはギルドの出入り口に向かって歩き出してしまう。


「ああ! もう……!」


 お金をこのままにしておくわけにはいかない。

 コレットは仕方なく、硬貨の小山を受け取るのであった。


 ◆


 ギルドを出て少し――


「イオリ様、この後はどうするおつもりですか?」


 王都の道を歩きながら、コレットがイオリに問いかける。


「とりあえず今日は解散にしませんか? まだやり残したクエストがあるので、明日の朝にでもまた迷宮に行くつもりです」


「わかりました。それでは、明日の朝八時にギルドに集合でいかがでしょうか? 私も今日やり損ねたクエストがあるので」


「了解です、ではまた明日」


 そんなやり取りを交わし、イオリはその場を去ろうとする……のだが――


「あ、まってください! イオリ様!」


 ――そう言って、コレットがイオリに近づき、ちゅっ……と、彼の頬に軽くキスをする。


「え、え……!?」


 突然のキスに、驚いた表情を浮かべるイオリ。


 そんな彼に、「それではまた明日♡」と、悪戯っぽい表情で言い残しコレットは去っていった。


 イオリは戸惑った表情を浮かべながら、彼女の後ろ姿を見送るのだった。


 ◆


 その日の夜――


「ふぅ、なんだか疲れたな」


 そう言いながら、イオリが宿屋のベッドにドカッと寝転ぶ。

 勇者パーティを追放されたかと思えば、いきなり自分が魔王ベヒーモスの生まれ変わりだということが発覚し、とんでもない力を手に入れた。


 断片的に流れ込んできた記憶のおかげで、他にもいくつか強力な魔法スキルを扱うことができることを、イオリは理解している。


 もっとも、流れ込んできた記憶が断片的だったため、魔王ベヒーモスがどんな性格や生活を送っていたかなどは、残念ながら知ることはできなかった。


「それに、ドレイクを倒した時も魔王ベヒーモスの人格が表に出てきた感覚があったけど、特に乗っ取られるような雰囲気はなかったし……」


 ドレイクを倒した時の感覚を思い出すイオリ。


 恐らく、あの時喋っていたのは自身の中に眠る魔王ベヒーモスだ。

 しかし、不思議なことにそれ自体に不快感がなく、人格を乗っ取られる感覚すらなかったのだ。


「やっぱり、魔王の魂が憑依したのではなく、ぼく自身が魔王の転生者だからかな?」


 ――と、イオリは推測する。


「まぁ、考えても仕方ない。明日もあるし今日は寝よう」


 そう判断すると、イオリは静かにまぶたを閉じる。

 明日から始まる、コレットとの冒険者生活に備えて――。

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