3話 魔王の記憶と強制メロンダイブ
「ぼくが、魔王ベヒーモスの転生体だった、だと……?」
地面に横たわるドレイクの首を見つめながら、イオリが声を漏らす。
たった今放った力、そしてイオリの頭の中に流れ込んできた膨大な記憶の数々……それらによって、イオリは過去に世界を滅ぼしかけた史上最強の魔王〝ベヒーモス〟の生まれ変わりだったことを理解する。
そう、イオリの中に流れてきた記憶、そしてドレイクを屠った力は魔王ベヒーモスのものだったのだ。
イオリ自身、にわかに信じがたいが、流れてきた記憶によってそれが事実なのだと理解できてしまうのだ。
強大な力を手に入れ、魔王の転生体だったという事実に戸惑うイオリ。
そんなタイミングで――
「すごいです! ドレイクを一撃で倒してしまうなんて!」
――そんな声とともにエルフの少女が駆けてきて、イオリを抱きしめてしまった。
「うむぅ!?」
イオリがくぐもった声を漏らす。
エルフの少女の身長は少し高く、逆にイオリの身長が低かったのがいけなかった。
イオリの顔が完全にエルフの少女の胸に埋もれてしまっている。
少年一人の顔を埋れさせてしまうほどの少女の双丘、例えるならばメロン級といったところだろうか。
「ぷはぁっ! ち、ちょっと落ち着いて……!」
エルフの少女の胸の中から何とか抜け出すイオリ。
そんな彼の瞳に、エルフの少女の顔が映る。
絶世の美少女と言える容姿をしている。
腰まである髪の色はプラチナ、肌の色は白磁、瞳の色はどこまで澄んだアイスブルー。
まるでビスクドールのような美しくも愛らしいエルフだ。
「ごめんなさい! わたしったら……」
そう言って、エルフの少女は少し名残惜しそうな表情を浮かべながらもイオリを抱擁から解放する。
「とりあえず、これを飲んでください」
そう言って、イオリはエルフの少女に回復薬を差し出す。
「あ、ありがとうございます!」
イオリからポーションを受け取り、口に運ぶエルフの少女。
中身を飲み干すうちに、少女の肩の傷がみるみる治っていく。
「助けていただいただけではなく、ポーションまでくださるなんて、なんてお優しい方なのでしょう……♡」
そう言って、エルフの少女が両手でイオリの腕に触れてくる。
よく見ると、どういう構造になっているのか、瞳の奥に小さなピンクのハートを浮かべている。
そんな彼女に戸惑いながらも、イオリが質問をする。
「えっと、君は? それにどうしてドレイクなんかに襲われていたの?」
「あ、申し遅れました! わたしはAランク冒険者で、名前はコレットといいます。実はギルドからの依頼で中層にモンスターの討伐に向かっていたのですが、その途中で普段はこの層に現れることのないドレイクと出くわしまして……」
イオリの質問に、そんな風に答えるエルフの少女――コレット。
質問に答えながら、なぜかイオリに寄り添ってくる。
「普段出現しないモンスターからの急襲でピンチに陥ったと、なるほど……」
寄り添ってくるコレットに戸惑いながらも、彼女の言葉に嫌な予感を覚えるイオリ。
恐らく、迷宮の中で何か異変が起きているのではないかと。
「あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか……?」
「ああ、すみません。ぼくの名前はイオリ。Eランクの冒険者です」
「……え? Eランク!? あの強さで!?」
イオリの言葉に素っ頓狂な声を漏らすコレット。
そんな彼女に苦笑しながら、「ほら」と言って、イオリは首から下がった冒険者タグを見せる。
「信じられません、ドレイクを一撃で倒してしまったのに……」
「まぁ、ついさっき冒険者登録したばかりだしね」
コレットの言葉に答えながら、イオリはドレイクの首の方へと歩き始める。
「あ、待ってください!」
そう言って、イオリの腕を掴んだまま一緒についてくるコレット。
どうやらイオリから離れるつもりはないようだ。
絶世の美少女エルフに引っ付かれ、イオリは(困ったな……)と心の中で呟きながら、右手をドレイクの首の上に翳し――
「《黒次元ノ黒匣》、発動」
――と、静かにその名を紡ぐ。
するとドレイクの首が黒い霧のようなものに包まれた……かと思いきや、忽然とその場から消え去ってしまったではないか。
「い、いったい何が起きたのですか!?」
驚いた表情を浮かべ、そんな質問をするコレット。
そんな彼女に、イオリは「収納魔法だよ」と答える。
魔法スキル、《黒次元ノ黒匣》――。
先ほど頭の中に流れてきた魔王ベヒーモスの断片的な記憶を元に、転生前に彼が使っていた魔法スキルを再現してみたのだ。
結果は成功。イオリが得た魔王ベヒーモスの記憶通り、《黒次元ノ黒匣》は収納魔法としての効果を発揮した。
「あんなに強いのに収納魔法まで使えるなんて! イオリ様はすごいです!」
「ちょ――うむぅ!?」
イオリの力に興奮したのか、またもや彼の顔を豊かな胸元に、むにゅん! と強制メロンダイブさせてくるコレット。
結局、彼女はイオリから離れてくれることはなく、腕を組まれ密着された状態でギルドに戻るハメになる。
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