10話 隷属魔法
魅了魔法、《グレートチャーム》――。
淫魔種のモンスターの中でも最上級に位置する個体が使用することができる魔法スキルだ。その効果は異性を魅了し、自分の制御下におき、自在に操るというものだ。
恐らく、アレクもこの魔法スキルに操られそうになり、それでも何とか勇者の力で抵抗することで、命からがら迷宮から撤退してきた……というところだろうか。
「イオリ様!」
オーラ――《グレートチャーム》を喰らってしまったイオリを見て、コレットが思わず声を漏らす。
「ふふふ……さぁ、私の前に平伏しなさい?」
妖艶な笑みを浮かべ、サキュバスクイーン・ティアがイオリに命令をする。
しかし――
「断る」
――何ともない表情で、イオリはティアの命令を拒否してみせた。
「な……!? どういうこと!? どうして私の《グレートチャーム》が効いていないの!」
涼しい表情を浮かべるイオリを前に、ティアが狼狽した声を漏らす。
答えは簡単だ。
イオリは魔王ベヒーモスの持つパッシブスキル、《黒ノ防御領域》を発動していたのだ。
その効果は状態異常を引き起こすスキルを無効化するというものである。
「さすがです! イオリ様!!」
抜け目のないイオリの戦略に、称賛の声を送るコレット。
対し、自身の得意とするスキルを無効化されたことで、ティアは悔しげに表情を歪める。
「さて、今度はこっちの番だな」
そう言って、長杖を構えるイオリ。
対し、ティアが「いきなさい! 下僕ども!」と声を上げる。
すると彼女の目の前の空間が歪み、中からドレイクが二体出現したではないか。
「なるほど、召喚魔法……或いは転移系の魔法も使えるわけか」
少し感心した様子で、イオリが呟く。
ドレイクを前にしても冷静なイオリに、ティアは「……ッッ!?」と驚いた様子を見せる。
「来い、《黒雷ノ魔槍》!」
高らかに叫ぶイオリ。
頭上に魔法陣を展開し、漆黒の魔槍を二本召喚する。
先ほどと同じように、魔槍は紫電を走らせながらドレイク向かって飛び出す魔槍。
ドレイクは反応することすら許されず、それぞれ土手っ腹を――
ドパンッッ!!
――と撃ち貫かれた。
「そ、そんな……ドレイクを一撃で!?」
自身の使役するAランクモンスター二体を瞬時に屠られるという信じられない出来事に、とうとうティアは戦意を喪失したのか、その場にペタリと尻餅を着いてしまう。
「さぁ、これで終わりだ」
目の前の敵を始末しようと、イオリが長杖を頭上に構える。
「ま、待って! なんでもするから命だけは助けて……!」
悲痛な表情で、ティアが命乞いをする。
完全に戦意を喪失しているようだし、攻撃の意思はなさそうだ。
「ふむ……」
そんな風に呟くと、イオリは構えを解く。
「イオリ様!?」
敵を前に構えを解くなど、いったいどういうことだと、コレットが声を上げる。
そんなコレットにイオリはこんな風に答える。
「少し試したい魔法があります。見ていてください」
……と――。
そのままティアへと近づくイオリ。
ティアは何をされるのかと、怯えた表情で彼を見上げている。
「えっと、ティアといったかな? さっき何でもするって言ってたけど、ぼくの配下になる気はないか?」
「あ、あなた様の配下ですか……? なります! 命さえ助けてくださるのならなんでも受け入れます!」
イオリの質問に、悲痛な表情で答えるティア。
彼女の意志を確認したところで、イオリは言葉を続ける。
「ティア、今から君に隷属魔法をかける。この魔法は本人に受け入れる意志がなければ効果を発揮しない、その意味がわかるね?」
「わ、私が心からあなた様への隷属を心から望んでいなければ、この場で始末なさるおつもり、ですね……?」
イオリの質問に答えるティアに、イオリはその通りだと頷く。
「わ、わかりました! 私に隷属魔法をかけてください!」
決意した表情でティアが言う。
イオリはそれに応えるように長杖を構え――
「《黒ノ隷属魔契約》……」
――と、その名を口にする。
するとティアの体が漆黒の陽炎のようなものに包まれる。
少し苦しいのか、ティアが頬を紅潮させ「……んっ、あぁっ……! お腹が、熱い……ッ!」と、声を漏らす。
少々刺激の強い喘ぎ声に、コレットが「うわぁ……」と気まずげに呟いている。
やがて陽炎は収まり、ティアも声を漏らすのを止める。
「まだ、お腹が熱い……」
蕩けそうな甘い声を漏らし、ティアが自分の手でスカートを捲り上げ、自身の腹のあたりを確認する。するとそこには、漆黒色の歪なハートを模した紋章のようなものが刻まれていた。
「よし、魔法の発動は成功したみたいだ」
ティアの下腹部に刻まれた紋様を見て、満足げに頷くイオリ。
この紋様こそが、彼女がイオリの隷属魔法の管理下に置かれた証なのだ。
「これで、私はあなた様のものに……♡」
魔法の効果で隷属させられたというのに、なぜかティアは甘い声を漏らし、自身の下腹部に刻まれた紋様を愛おしげに撫でる。




