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PLOT OF WIZARD  作者: O2
9/25

2日目…パーティ(3)

「――そんな流れで、パーティに入ることになったんだけどさ」


嬉々としてネオンとの出会いを語るリンだったが、ここで一変して険しい表情に変わる。

一瞬キョトンとしたネオンが、ああと気付く。


「そういや、クロムは反対したんだったよな」


「そーよ。あのカタブツを黙らせるのに工夫が要った訳」


「…そうだったんだ」


「あんたの時もひどかったけど、私の時も結構なものだったわよ。結局、あいつを押し切って仲間に

入っちゃった感じだしねぇ」


「賛成はしないまま、パーティに入ったのか?」


「すーる訳ないじゃない、あいつが! いまだに嫌がってるんじゃない?」


気遣うような表情を向けるシドに、リンはそらを見て、鼻で笑いながら続けた。





「えっ…、あんたパーティ組んでるの?」


「うん。半年くらい前から旅してるんだ」


「いいなー…私ずっと一人で旅してるの。気楽だけどさぁ、もう飽き飽きしちゃって。何か刺激が欲しいな―って

思う毎日よ」


「そりゃそうだろうなぁ。…じゃさ、おれらとパーティ組んでみる?」


「うーん、私もそれ考えたんだけどさぁ…いきなりじゃさすがに迷惑だと思うし、ちょっと保留ね。とりあえず、

あんたの仲間も見てみたいな」


「そだなー。おれもあいつらに聞いてみないと…」


思いっきりやりあった経緯からか、すっかり意気投合したネオンとリンは、揃ってネオンの泊まる宿屋に向かっていた。

そして、宿部屋にいたテルルとクロムに対面し…簡単に自己紹介し、事の経過を話してみる。

いい感じで話が盛り上がり、テルルも久し振りの同年代の同性との会話に、嬉しそうな表情を見せていた。


しかし、その和やかな雰囲気を破るのはやはり、クロムだった。


「…ネオン、お前まさかその女をパーティに加える気ではないだろうな」


「えっ!? うん、実はそうしようかなって思ってるんだけど…だめ?」


クロムの問いにしれっと言ってのけるネオンだったが、彼は無言で首を振る。


「えー、何で…」


「このパーティに、これ以上数は要らない」


少しごねて見せたネオンだったが、いつも通りの無表情で、当然のことのように返答してくるクロムに、虚を

突かれたのか口を開けたまま固まってしまった。彼らのやり取りに、テルルはただおろおろと、二人を交互に

見守っている。


当事者であるものの外野だったリンは、ひとまずは黙って応酬を眺めていたが…ふと口を開く。


「…クロムだっけ? あんたの言い分は、“足手まといは要らない”ってことになるのよね?」


「…そう取るなら、それでいい」


「そう。じゃあ、“あんた”の足手まといにならないんだったら、入っていいってことよね」


「……」


リンの問いかけにも、何事も無くやり過ごそうと思っていたのだろうか、思いがけない彼女からの応戦に、クロムは

閉口し…視線をそらして息をつく。

彼のその顔を確認すると、リンはしてやったりという表情を浮かべた。


「商談成立ね! 安心なさいな、少なくとも、腕吊ってるあんたの世話にはならないわよ。あんたこそ、私の手を

焼かせる羽目にならないように気をつけることね」


「あっ…あのね、これは…」


クロムの、包帯の巻かれた左腕を見て言うリンに、テルルが何かを言いかけたが、既に彼女は勝ち誇ってしまったようだ。

事の成り行きについていけてなかったネオンを見やると、ニカッと笑う。


「決めた。私、あんたらのパーティに入るわ。…楽しくやりましょ♪」





「なんとなくね、“負けたくない”って思ったの。だって、最初から全否定じゃない? 何とか見返してやりたく

なっちゃったのよ。まぁ…とんだ思い違いだった訳だけどさ」


当時を思い出しながら話すリンは、ペロッと舌を出しながら、恥ずかしそうに肩をすくめた。


ネオンとの偶然の出会いを経て…リンは半ば強引にこのパーティの一員となった。

パーティに入ったことで、リンが望んだ『戦いのない生活』は立ち消えてしまったが、リンはそれに勝る『仲間』

という存在を得ることができた。



結局あの後早々に、クロムが反対した理由が見えてくる訳だが…それでもリンは、このパーティに加わったことに

後悔は全くしていない。


「あの時、ネオンに声を掛けてなかったら…私今頃何やってるんだろうって。そう考えると少し怖くなるの。

それぐらい、このパーティに救われたと思ってる」


そらを見上げながらぽつぽつと話すリンが、ふとネオンに振り返る。


「ネオンにはね、ホントに感謝してる。出会ったことにもだし、もちろんあんた自体にもね。今も、これからもずーっと、よ」


「…リン…」


リンはベッドの端にもたれ掛かりながら、ネオンに流し目をした。


「……」


言葉が見つからず、少し顔を赤らめているネオンを置いて、リンはひらっと立ち上がる。


「テルルの様子、見てくるわ」


そして軽やかに手を振りながら、リンは部屋を後にした。


シドはリンを見送り、そして、うつむき加減のネオンをうかがう。それに気付いたネオンは、パッと顔を上げた。


「っち、違うんだ、別に、おれそういうんじゃ…」


「…俺、何も言ってないけど?」


慌てふためくネオンに、シドは可笑しそうに笑う。


「シド!! おれ、本当にっ……」


「わかったよ、悪かった。 …ネオン?」


むきになってがなるネオンを、笑っていなしたシドだったが、ネオンは再びうつむいた。シドはやや焦った風に、

彼の顔を覗き込もうとする。


「ネオン? 気に障ったなら――」


「…違うんだ、感謝してるのは……」


「…え?」


ネオンが、うっすらと顔を上げた。その顔を見て…シドはわずかに眉根を寄せる。

赤くなっている訳でもなく、怒っている訳でもなく……ネオンの顔に浮かぶ表情は、『苦悩』だった。


「……おれなんだ。あの時、助けられたのは…おれの方なんだ…」


「……」


誰に言うでもなく、ネオンは独り言のようにつぶやいた。

そしてそのままネオンは、ただうつろげに床に視線を落とし…シドはその様子を黙って見守っていた。


そんな姿勢がしばらく続き…ふいにネオンは顔を上げる。その時には既に、表情が元の明るい調子に戻っていた。


「…もうすぐ夕飯だな!」


「え? あ、ああ…」


「もう起きれる?」


「ああ、大丈夫だ。みんなのお陰だ」


急にネオンが元に戻ったので、シドはやや面食らったが…彼に合わせるように相槌を打つ。

ネオンが、ニカッと笑った。


「そっか! じゃあ今日は、5人で食べよっ!」


「ああ」


「一足先にメニュー見てくる!! あ、あとクロム呼んで来なきゃな! ったく、どこ行ったんだかな!!」


あははと笑いながら、ネオンはぎこちない動作で足早に部屋を出ていった。明らかに、カラ元気だった。


「……」


そんな彼を見送ったシドは、何事かを考えふけるようにその場に沈黙する。


「…あんたが気に病むことじゃないわ。ネオンが勝手に悩んでるだけよ」


すると、どこに潜んでいたのか、ネオンと入れ替わりにリンが部屋へ入ってきた。気付いたシドが顔を上げると、

彼女は緩やかに笑った。


「でも、君が…」


シドが言いかけると、リンは彼の前を過ぎり、ベッドに腰掛けた。


「…軽率だったな…あんなこと、言うんじゃなかった…」


聞こえるか聞こえないかの声でそうつぶやき、リンはシドに振り向いた。


「ネオンにはね、いつも笑ってて欲しいのよ。パーティに入ろうと思ったのも、単純にあのコの笑顔を見て

いたかったからっていうのがきっかけだったし。だからこうして、剣から離れてる間くらいは…何も考えないで

いて欲しいの」


リンは、自分の変化に気付いていないようだった。が、シドから見た彼女の表情は、言葉を重ねるごとに険しさを

増していっていた。


「忘れさせてあげたい。過去も、今も、ネオンの……、あっ」


そこまで口から流れると、リンは自分の言動にハッと気付き、我に返ったようにシドへ焦点を合わせた。

シドが、心配そうに彼女を窺っていた。


「…リン?」


「ご、ごめんっ…何でもない。今の話、忘れちゃって」


「…ああ」


「…っあー、えと…」


「……」


リンがシドから視線をそらしたのを最後に、二人の間にしばらく沈黙が起こった。すっかり動揺したリンは、

努めて何か別の話を考え出そうとする。


「…コートも洗ってくれたんだな、ありがとう」


「えっ? あ、うん…どういたしまして」


しかし気を遣ったのか、ここはシドのほうから話題を移した。リンは、あからさまにホッとした表情を見せる。


シドは、リンがたたんでおいたコートを探った。


「…あれ?」


「何? どうしたの?」


探っていた手を止め、シドはリンに振り返る。


「リン、このコートに入れてあったガラス瓶、覚えないか?」


「ガラス? ……あ~~」


リンは一瞬動きが止まり、すぐに理解したようだ。ベッドの脇にあった小さめのドレッサーの引き出しを開け、

数本の小さな透明瓶を手に取る。


「コレ? 洗濯する時に抜いて、そのままだったわね」


「ありがとう」


シドはリンから小瓶を受け取り、コートの胸ポケットにしまった。

リンは何となく、彼の仕草を眺めていた。


「…大事なものだった?」


「うん…まぁね」


そう言うと、シドはリンにニコリと微笑んだ。その柔らかな笑顔に、彼女もつられて笑う。


「夕飯、だろ?」


「あ! そうだったわ、忘れてた〜」


その時にはもう、リンも普段と変わらない様子に戻っていた。

あまり力の出し具合に手加減を知らないリンが、シドの腕をグイグイ引っ張っていった。


「行こ行こ~♪」


「っリンっ…痛い」





…その夜、シドは再び、宿から姿を消した。


2011/1/10 一部改変

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