1日目…宿屋(1)
「――ありがとよ、お嬢ちゃん。いやぁ、良い働きっぷりだ」
「ううん! こういうこと好きなんだ、気分転換になるの」
「約束通り、ちゃんと代は払うからね」
「ありがとう」
「礼を言いたいのはこっちの方さ。なんならこのまま住み込んで欲しいくらいだよ」
と悪戯気に笑い、宿主は『お嬢ちゃん』の背中をぽんぽんと叩いた。
彼女――テルル・アンドレィも、軽く振り返りながら明るく笑った。束ねていた髪をほどき、キッチンを後にする。
腰にまで届くくらい長く、美しい金髪が背中に揺れた。
宿のフロアにあった壁掛け時計をちらっと見ると、もう16時過ぎになっていた。テルルは思わず”あらら”とつぶやき、
宿の外を見渡す。
「…まだ、誰も帰って来ないんだ」
バークにつき、この宿に荷物を置いてから、テルルは一度も宿の外に出ていなかった。
この土地には以前に1度来ているし、懐かしいと感じるだけで、特に真新しい景色ではない。それほど疲れて到着した
訳ではなかったし、気分転換したいとは思ったが、先に述べている通り彼女にとっては、掃除,炊事,洗濯など、
家事全般をこなすことが何よりの気分転換の種であったのだ。遊び歩いているより、余程楽しさを見出すことができる。
そんな訳で宿の外に出る理由も無く、宿の手伝いでもしながらパーティの帰りを待つことにしたのだ。
手持ち無沙汰に、入り口に一番近いテーブル席に腰掛けた。
「――あったまるよ」
ふいに先程の宿主が、横から視界に入り…彼女の席の前に、淹れたてのホットカフェ・オレ入りのカップを差し入れてくれた。
「ありがとう」
もうすぐ10月とあって、午後四時頃となると肌寒さを感じる。テルルは喜んで受け取り、カップを両手で包み込む
ようにして持ち、口に運んだ。ミルクの分量が多めで、彼女好みの味だった。
もうすぐ宿の食堂も混んでくる頃だったが、テルルはそこに居させてもらうことにした。
ぼーっと外の行き交う人を眺め、パーティの帰りを待つ。
――すると、正面から見慣れた服装の、細長い人物の姿が近付いてきた。
テルルはすぐさま確認でき、その場でカタンと立ち上がる。
「――お帰り、クロム」
テルルの柔らかな笑顔に、クロムは無言で、やや首を傾げて答えた。声は無いが、彼なりの返事だ。
入り口を通り抜けると、クロムはテルルの頭の上から宿内を見回した。テルルは慌てて彼を見上げる。
「あっ、まだみんな帰って来てないの…クロムが一番先だよ」
彼女の助言に、クロムは目線だけ下に向ける。
「…そうか」
「リンに会った? どこかの酒場に行くって言ってたんだけど」
「会ったが…すぐに分かれた。『付いて来るな』と言われたからな」
特に関心も無さそうに、クロムは答えた。
テルルはリンが言っただろう一言が少し気になったが、どうせまたリンがクロムを突きはねたのだろう、と納得する
ことにした。
「ネオンは…まだなのか。北の森へ行ったとリンから聞いたが」
それに、彼的にはネオンの方が気になっていたらしい。
その問いに、テルルも不安げな顔を浮かべて頷く。
「うん、まだ…」
テルルもネオンを、気にはしていた。
[彼ら]の気配は無いとクロムから聞かされ、興味本位で一人森へ向かっていったネオン。無鉄砲なのはわかっていたが、
仮にもそこ――北の森は前回訪れた際、[彼ら]に襲われた場所だ。気配が無いと言って、決して『安全』ではない。
念のため、テルルは再度クロムに問う。
「…来た時と、雰囲気変わってきた?」
「いや…だが、気は許せんな」
テルルは小さく、でもはっきりとうなずいた。
確かに…不意打ちの多い[彼ら]のこと、いつ急に姿を現して来るかわからない。
クロムは、ネオンやテルルとパーティを組む前からずっと、一人旅を続けていた。『昔の職種』も相まって、クロムは
敵の気配…いわゆる『殺気』に恐ろしく敏感なのである。――もっとも、相手が気配を消してしまえば効果は期待できない
のだが――だからこそ、クロムの周囲への警戒心はネオンや、ましてテルルなんかより数段鋭敏だ。
クロムはなんとなく、テルルの座っていた席の向かいに腰掛けた。
「何か頼む?」
テルルは思い出したように声を掛けたが、クロムは無言で首を横に振った。およそ、ネオンの帰りを待つつもり
なのだろう。椅子に深く腰掛けて腕を組み、横目で入り口の外に見える景色を眺め始めた。
「……」
向かった先はわかっているにしろ、違う所へ移動しているかもしれないあの行動派・ネオン少年を確実に捉えるには、
下手に動くよりも必ず戻ってくる場所で待つ方が得策と言えた。
クロムに合わせる様に、テルルももと座っていた席に座り直し、さっきと同じようにまた、ぼーっと外の景色へ
視線を漂わせた。
それから10分も経たずして、二人は、また見慣れた細っこい人物がこちらへ近付いてくるのを確認できた。
「あ…」
と声を掛けそうになって、テルルははっと止まる。
クロムも腕を解き、少し目を見開いて一点を見つめていた。
その人物は、一緒に何かを連れていた。横切る人々も、それを見て何事かを小さく叫び、通り過ぎざまに数歩遠のき、
過ぎると振り返ってざわつく。近付くにつれ、二人にも何にそれほど驚愕しているのかが、はっきりわかってきた。
テルルはガタンッ、とふいに立ち上がり、自らも悲鳴に近い声をあげる。
「ネオンっ…!?」
「…ただいまぁ」
見慣れた服装の人物――ネオンは、至って普通に二人の前に立っていて、微妙に気まずいような、はにかんだ表情を
浮かべていた。
注目すべきは、彼の隣である。
「…どうしたの、その人は…!!」
驚かないはずがない。ネオンは連れと一緒だったのだが…その人物が全身真っ赤という恰好だったのである。
遠目に見た時点では赤っぽい服装なのかと思えていたが、徐々にそれが、どうやら血汚れのものらしいと判り…テルルは
立ち上がったものの、足を動かす事が出来なかった。あまりの痛々しい光景に、近寄ることを躊躇ってしまったのだ。
しかし、その人物――男は、何かしらの重症を負っているだろうにもかかわらず、表情はとても苦しそうには見えない。
テルルの困惑した顔を見て、ネオンは男の方をちらっと見、また向き直った。
「森の中で会ったんだ。もうだいぶ平気みたいなんだけど…怪我したから一応診てやってくれね?」
「…う、うん、その方がいいと思うけど…」
テルルはまごついて、クロムの方へ振り返る。彼に判断を委ねたいらしい。ネオンも、クロムの方を向く。
クロムはずっと、男を凝視していたようだ。ネオンの視線に気付くとちらと彼に視線をやり、一寸後に顔をそむけた。
ゆっくりと静かに立ち上がる。
「…怪我人が先だ」
そう言い、一人先に宿部屋に続く奥へと向かっていった。“先だ”のニュアンスには、いろいろ言いたいことがある、
という思惑が隠されているようだった。
ネオンは見るからに困っていた。テルルの顔を決まり悪そうに覗う。
「…まずかったかな」
「そんなことないよ! 心配してただけ」
テルルは笑って返し、男の方へ向く。
男もやはり、立ち去っていったクロムを見送り、やや緊張したような面持ちでテルルを見ていたが…
「とにかく、治療しなくっちゃ! ね?」
「…ありがとう」
明るい笑顔を見せるテルルに安心したのか、人懐っこそうに少し笑った。
それからすぐに、一同は宿の部屋へ引っ込んだ。
そして名前だけをとりあえず名乗るような簡単な自己紹介の後、テルルによってすぐに男――シドの治療が始まった。
確かにほぼ全身に噛み傷や引っ掻き傷があって、凄惨たるいでたちだったことも理解できた。しかし…
「…ねぇ、これって本当に今さっき出来た傷なの?」
コートを脱がせ、テルルがしっかりと傷を確認する頃には、先程ネオンが見たよりも更に傷は浅くなっていて、
ほとんどかさぶたになっていた。
ネオンも改めて目を丸くする。
「そうだよ! おれが見つけた時には野犬に襲われててさ、そりゃひどいモンだったんだぜ」
「…野犬…!? あの森、野犬なんていたんだ」
テルルは想像したのか、ブルッと身震いした。そこへネオンがまた続ける。
「でも、こいつ回復魔法が使えるんだ。だからすぐ治っちまうんだよ」
「回復魔法…!?」
「俺が使えるのは簡単な『治癒』だけ。大した程じゃないよ」
聞き慣れないフレーズに驚きの声を上げたテルルに、シドはそう軽く答えたが、ネオンが横から付け足すように口をはさむ。
「でも、ホントすげーんだ。おれも怪我、治してもらったの」
「えっ、ネオン怪我したのっ!?」
テルルは再び驚愕の声をあげ、差し出されたネオンの左足を確かめる。それもやはり、とっくに傷はふさがって、
治りかけている状態であった。
テルルは、溜め息まじりに感心の声を上げる。
「いいなぁ…回復魔法、使えるんだ」
「な〜、お前、そういうの使えるようにならねぇの?」
「う…」
「お前の攻撃魔法ってば、実戦で全然役に立たねぇもんな。回復魔法の方が絶対使えると思うけどな~」
「う、うるさいなぁ! ちょっとは役に立ってるでしょー!?」
ネオンのもっともな注文に、テルルは顔を赤らめながらがなり返した。
テルルの職種は『魔法士』だが、センスが無いのか幼い頃から修行をし続けてきたにもかかわらず、強度は低いままだ。
だから、攻撃魔法はたいまつ程度の火を出すとか小さなつむじ風を起こすとか、基本的なことしか出来ないし、
運用も成功したりしなかったりで、かなり不安定だ。
なのに、その上回復魔法なんて…覚えてる余裕が無いのだ。
それにである。
「あたしだって、使えるようになりたいよ! 役に…立ちたいし。でも、覚えても使えないっていうか、出来ないっていうか…」
自信無さ気な声になり、テルルは恥ずかしそうにうつむいてしまった。ネオンも言い過ぎたかな、と思ったのか、
それ以上は口をつぐんだ。しかし疑問は残る。
「? 使えないって…どういうこと?」
「回復魔法はね、魔法使いによっても向き不向きがあるんだよ」
とそこへ、『回復魔法』使いのシドが割って入って来た。テルルもネオンも、シドの方へ向く。
「いや、全ての魔法には、その魔法士が元から持つ能力に応じて、覚え易さが大体決まってるらしいんだ。
だから、俺みたいに回復魔法しか覚えられない奴もいれば」
シドはテルルを見て、
「君のように、攻撃魔法に長けている人もいる。でも君ならこの先、使いこなせるようになる可能性はいくらでも
あると思うよ。素質がちゃんと備わっているんだから」
「…そっか…うん、そう思えば、楽になるな…」
シドにやさしく笑い掛けられたテルルは、少しはにかんだ表情を見せ、つられて笑った。
ネオンも、素直に感心したよう。
「なるほどね~」
「博識なんだね。職種は学者か何か?」
テルルの質問に、シドはまた、ちょっと困ったような笑顔をする。
「学者じゃないよ! 昔よく本を読んでいただけ」
「じゃー『魔法剣士』とでもしとけば?」
「…そっかぁ」
「…聞こえが良過ぎるけどね。そういう風にしとこうか」
ネオンが珍しく綺麗にまとめたので、そういうことでシドもテルルも納得した。
「――なぁ、シドのこと、いくつか聞かせてよ。今までの旅のこととか…生い立ちとかさ」
段々と、シドのことがあらわになってきた所で、緑色の瞳を一段と輝かせながらネオンはこう切り出した。
「…あぁ、いいよ」
溢れんばかりの好奇心のあらかたを向けてくるネオンに、幾分か気負いしたシドだったが、すぐ了承した。
四つん這いになったままのネオンをなだめるようにしゃがませ、自分はテルルの治療に身を投じた。
シド・レーン、18歳。
10歳頃親きょうだいと生き別れ、そのころから一人で各地を点々と旅し、適当かつ気ままに時を過ごしてきたという。
旅は続けているものの、目的は特に無い。そろそろどこかの土地に落ち着いてもいいとは思っているが、
何しろ先立つものが常に不足しているゆえ、腰を据えるふんぎりがなかなか付かないでいるらしい。
ネオンは、シドが言葉をつなげる度に“ふんふん”とうなずき、すっかり彼の話に聞き入った。
「へぇぇ…すっげぇなぁ。ちびの頃からずっと一人旅かぁ」
「うん、まあ。不自由なこともあるけど、気楽だよ。他には?」
「ぅえ? あ、う~んと、ね…」
質問を促され、ネオンは首をひねって二の句を接げようとする。眉をしかめ、上目遣いに言葉を捜した。
「う゛~ん…だめだ、こう、いざって時に出て来ねぇんだよな。聞きたいことはいっぱいあったはずなんだけどなぁ」
「そういうもんだよ」
考え込んだもののなかなか浮かばず、口をひん曲げて苦悩するネオンの表情を見て、シドは笑ってとりなす。
自分の頭の無さに、不甲斐なさそうにしているネオンだったが…すぐ、思いついたように顔を上げた。
シドの方へ体を向けたまま、後方へ振り返る。
ネオンの真後ろには、電報などを執筆するためにあるのだろう、木製の小さなデスクが一つあった。そこの椅子には、
ネオン達がさっき部屋に入って来た時からずっと、クロムが座っていた。テルルがシドの介抱をし、ネオンが彼へ矢継ぎ早に
質問を浴びせていた間もずっと、彼は後方から、静かにその場を見届けていたのである。
最初部屋に入った途端、彼・クロムから一言くらい叱責を食らうだろうと、体で悲鳴をあげながら覚悟していたのに、
何事も無いまま彼が沈黙してしまったことを、ネオンは少々疑問に思っていた。
そんな不自然なまでに押し黙っているクロムに、ネオンは下から覗き込むように声を掛ける。
「…ねぇ、クロムはシドに、何か聞きたいこと、ない?」
不意にネオンに振られ、クロムは片眉を少し上げてネオンに視線をやった。今までどこを見ていたのか…何となく、
やはりシドの方だろうと察しはつくが。
「……」
そのまま視線をシドへ移し、軽く息をついてから、クロムはいくつか、彼に問い掛けていった――
あまり時間を掛けずに、クロムのシドに対する質問は終わった。
頃合いも良く、テルルも一通りシドの具合を診終える。
「すごいの、ほとんど治りかけてる。消毒のしようもないくらい」
ふぅっと一息つき、テルルはシドを見上げ、それからネオンへと振り返った。今まで入っていた力みを抜いたように、
穏やかな表情を浮かべる。
「お湯、いただいて来れば? さっききれいにしておいたから、気持ち良いと思うよ」
テルルはシドの血まみれの全身を見、こう提案した。もちろん、怪我がそれほどひどくない状態なら、清潔にしておいた方が
衛生上良いだろう、と考えてのことだ。
「そうだな、そうする」
シドも、テルルの勧めに二つ返事でうなずいた。
「手当てありがとう、テルル」
「ううん、やるところが無くて困ったくらい」
苦笑するテルルに笑いかけ、シドは軽く会釈しながら部屋を後にした。
「……」
シドが出て行ってから、部屋には一抹の沈黙が流れた。
質問し終わってからのクロムは、相変わらずだんまりだったし、テルルも彼の方を伺ってはいたが、自分の手元に残った
シドの血の染みたタオルにはたと気付き、そのまま足早に、部屋の隅に備え付けてある小さな流し場へと消えていった。
ネオンはそんなテルルの動きを目で追い、彼女の姿が見えなくなると、いよいよ困惑した顔をする。視線も定まらず、
何かきっかけが無いかと落ち着きなく動き回る。
そんな彼の目が結局行き着いた先は、クロムであった。
クロムは口元に手の甲を当てる格好で杖をつき、目を閉じていた。
普段部屋の中にいようがいまいがはしゃぎ、言葉の絶えないネオンに比べ、クロムのこんな姿はそう珍しくはない。
大体ブレードの手入れをしていたり、宿にある本を読んでいたり、単にくつろいだり(寝てる?)しているのだが、
いずれにしても何かを口にする場面は少ない。しかし、頬杖をついて目を閉じている時は、単に物思いにふけて
いるのではなく、何かを考えている。周囲からの声掛けに対しても、気付かなくなることが多くなる。
なのでそういう時はネオン以下パーティ一同、彼に話し掛けることはせず、そっとしておくようにしていた。
しかし…今はそれではネオンが困るのだ。
やはりネオンが、この沈黙を破った。
「…ね、クロム…」
「…駄目だ」
せっかく話し掛けるきっかけをつかめた所なのに、話を切り出した途端、早くもその目的の相手・クロムに一掃された。
見事に出鼻をくじかれたネオンは、幾分面食らう。
「な…な、まだ何も言ってねぇじゃねーかよぉ!!」
「いや、お前の言おうとしていることくらい、予想つく」
閉じていた目を片方、うっすらと見開き、クロムはネオンへ視線をやった。その小さいながらも鋭い視線に、
ネオンは身をすくませる。
クロムが続ける。
「大方、あのシドという奴をパーティに加えたい、などと言い出すつもりだったのだろう?」
「うっ…」
どうやら、ドンピシャだったようだ。何も言えずにひるんでいるネオンを見、クロムは視線をそらして息をつく。
目に見えて、呆れた様子で。
しかし、負けず嫌いなネオンは、何とか彼に言い返す言葉を捜す。
「だってっ…あいつ、怪我人だし」
「見たところ、明日には完治していそうだが」
「一人で旅してるよか、生活だって助かると思うっ…」
「『一人の方が気楽だ』、と言っていたな」
「っ…」
しかし…思案し、ひねり出した反論も、ことごとくクロムにはね返された。
ネオンは悔しそうな今にも泣きそうな、何とも言えない表情で沈黙した…が、すぐに今度は立ち上がり、デスクに
座ったままの彼の前につかつかと歩み寄り、仁王立ちした。
「何で駄目なんだよ、納得いかない!!」
突然の大声に、タオルを洗い終わって部屋へ戻りかけていたテルルは数センチ飛び上がった。蒼い目を見開かせ、
戻りかけていた部屋の端で足を止める。
いつの間にか一触即発の距離にまで縮めていたネオンとクロムの様子を、背後から恐々と見守った。
しかしてクロムは、感情をあらわにしているネオンを、ただ落ち着いた様子で見据えていた。
「…あの男と、“お前の”ためだ」
「…どおいうこと?」
予想していなかったクロムの返答に、虚を突かれたネオンは、いぶかし気な表情を作る。
クロムはただ無機質に、細く開かれた視線を静かに、ネオンの両の瞳に注ぐだけだったが…その口元からは
決して無感情ではない、何かを感じ取ったような言葉が、ネオンの耳へと滑り落ちていた。
「恐らくあいつは、俺達と行動を共にすることはできない」
クロムはその一言だけ、ボソリとつぶやいた。
2011/1/2 一部改変