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PLOT OF WIZARD  作者: O2
11/25

3日目…バーク街(2)

ネオンが朝食を済ませると、早速街中散策パーティが組まれた。

当初の予想通りクロムとテルルが不参加、残りの暇組3人で町へ繰り出す。


ウィンドウショッピングをしつつ、ランダムにブラつき歩いていたが、朝食をまともにとっていなかったリンが

小腹を気にし始め、3人は一旦バーク町のメイン・ストリートにある大衆酒場へ落ち着くことにした。

酒場は200人以上は収容できると見える広さがあったが、『昼間』という時間帯からか、奥まで見渡しても客は

まばらだった。


リンは2人を適当に座らせると、手早くメニューをめくり始める。


「何か頼むぅ? 私、お腹空いちゃったわ」


「あ、俺はいいよ」


「えぇ? 何よ、遠慮することないのよ?」


リンが把握している限り、シドは朝からコーヒー一杯しか口にしていないはずだ。ただ気兼ねしているだけと思った

リンは、彼に強引にメニューを押し付けた。


「この中から、なんでも好きなもの頼んで! 最低一品!」


すると、隣からメニューを眺めていたネオンが、シドの代わりに指差した。


「おれね、これ! 『海と山のミックスピザ』」


「ネオンには聞いてないの! しかも高…っ!」


「いいじゃんいいじゃん、美味そうじゃん」


「いや理由になってないし…てかあんた、朝食べたばっかじゃない!!」


「え〜、でもおれも腹減った」


「…ありえない」


呆れ顔のリンに、早くも空腹を訴え始めたネオンが駄々をこねる。


「ねー、リンお願い」


「仕方ないわね〜… テルルには内緒よ?」


「やったー」


泣く子をあやすには、欲しがるものを与えてしまうのが一番早い。が、教育上良くないし、ジリ貧パーティの財政担当

であるテルルなら、絶対許さないだろう。常に強気のリンだったが、ネオンには甘いのだ。


「で? シドはどうする?」


「…じゃあ、ネオンのから少しもらうよ」


「…悪いわね」


結局、ネオンセレクトのミックスピザを、3人で分け合うことになった。

ほどなく運ばれてきたそれに、ネオンが真っ先に手を伸ばす。


「うめー!!」


「…それは良かったわ」


勢いよくピザを口に運ぶネオンを見やりながら、シドが感慨深げな顔をする。


「ピザなんて、何年振りかな」


「そうなの?」


「あぁ。小さい頃は何度か食べたけど」


「ピザっつったら、定番メニューじゃん?」


当然のことのように言うネオンに、シドは小さく笑った。


「[ATOMIA]ではそうかもしれないけど、俺は少し前まで[ORIGAオリザ]にいたんだ。こういう食べ物は無くてね」


「…おりざ?」


「国名よ。[ATOMIA]の南にあるの」


首を傾げるネオンに、リンが助け船を出すと、ネオンは感嘆の声を上げた。


「ほえー、そんな国あったんだぁ」


「うん。[ATOMIA]に来たのは、つい最近だよ。この町が、この国で初めて着いたところなんだ」


「…へ〜」


「他にもいくつか国に入ったことがあるよ。…一か所にとどまっているのがあまり好きじゃなくてね」


「これじゃあ出身地がはっきりしない訳よね…まさに根無し草って感じ?」


リンは頬杖をついて納得する。シドは苦笑いを浮かべた。


「君たちは、ずっと[ATOMIA]に?」


シドの問いに、ネオンは大きく頷いた。


「おれローレンって村出身なんだけど、ついこないだまでそこにずっといたんだ。だから…16年くらい?」


「いわゆる『田舎者』よね」


「うっ…別にいいじゃんかー、それにテルルだって同じだぞっ」


からかうようにニヤつくリンに、ネオンは少しむくれてみせる。シドはそれをなだめつつ、リンの方へ視線を向けた。


「リンも、ずっと[ATOMIA]にいたのか? 旅芸者だったって話だけど」


「うんそうよ。『通国証』発行しなきゃならないでしょう?」


「…そうか」


相槌を入れるシドを見て、ネオンが横から首を突っ込む。


「何で? 『ツーコクショー』って、面倒なのか?」


「面倒って言うか…お金が掛かるの。手続き自体にも一日は拘束されちゃうしね。退屈するわ」


「ふーん」


「でもねー、前々から[ORIGA]は行ってみたいと思ってるのよね! 海がそこら中から見えるって聞いたの。

[ATOMIA]はほとんど内陸だから、風景が飽きるのよね~」


「確かに、[ORIGA]は海が多い国だね。リンは海が好きなの?」


「んー、故郷から海が見えたからね、懐かしい感じがするの」


「そうなんだ」


「テルビって小さな町なんだけどね、綺麗なところだったわ」


リンが思い出にふけるようにやや上を向きながら説明し、シドは興味深げに聞き入る。


「そういえば、[ORIGA]は統治者がいないから自由都市が多いみたいね」


「うん…ただそれが原因で、都市間の権力闘争がそこかしこで始まってしまって。段々と[ORIGA]全域で紛争が

激しくなって、いられなくなってしまったんだ」


「…そうだったの…荒れてるのね」


「うん。それもあって、[ATOMIA]へ来たってところかな…」


「なるほどぉ」


ネオンやリンには、正直[ATOMIA]外の国の内省はどうでもいい話だったが、


「なぁなぁ、他の国は?」


「うん、私も聞きたいわ」


少し沈んだ空気の中で話を戻したネオンに、リンが表情を再び明るくして、同調する。


「そうだね、この近辺だと…」


[FOUNDIAファウンディア]は? 近いし、行ったことあるでしょ?」


しばらくそらを見て考え込んでいたシドに、リンが勢いよく切り出した。


「……ああ、あるよ」


「あそこは王権国家で、治安は良いみたいじゃない?」


「…そうだね」


「オウケンって?」


再び首を傾げるネオンに、またすかさずリンが注釈を入れる。


「王様がいる国ってことよ」


「そう。国で定められた法と規律が絶対なんだ」


「そんなの、[ATOMIA]には無いよな??」


「[ATOMIA]も一応王権国家みたいよ。…ほとんど無法状態だと思うけど。あって無いようなものかしら」


「…へぇ~…」


リンの返答に心底感心したような声をあげるネオンに、リンは溜息をついてみせる。


「ネオン…あんたいくら国外れ育ちだからって、自分の生まれた国のこと知らな過ぎよ」


「だぁって、興味ねぇもん。知らなくても生きていけるじゃん」


「そう言われちゃ、話が続かないわね…」


呆れたような表情を向けるリンと、なかば他人事のようにそっぽ向くネオンの掛け合いに、シドは笑った。


「でもね、[FOUNDIA]も一度は行きたい国なの。城と城下の街並が、すごく綺麗なんだって…見てみたいわ」


「へー、そうなのか?」


ネオンとリンが、揃ってシドを見た。


「――…うん。綺麗だよ」


シドは、少し間を置いて――微かに笑って頷いた。





ネオンらが宿を後にして小一時間後。

朝のモーニングラッシュにてんてこまいだった宿の食堂も、ようやく鎮火し、もちろんネオンの誘いを断ったテルルは、

フロアとキッチンの後片付けに追われていた。


しかしテルルは、朝起きてから今に至るまで、始終上の空だった。

身支度をして、一人で早めの朝食を摂って、例のごとく宿の手伝いをしている間もずっと、今朝のことが頭から

離れなかった。


シドは、どこへ行っていたんだろうか。


リンが起きていた時間はほんのわずかだろうし、朝はきちんと居た訳だし、特に気に掛けることでもないような気はする。

しかし、最後にリンがテルルに言った言葉がやけに印象に残って、それがかえって、普通なら気にならないような

シドの行動を、なんだか重大なことのように思わせていた。


――ネオンとクロムには、言わないで――


リンは、あの2人に余計な心配をかけたくないから、黙っていてくれと頼んだのだ。

しかし、このまま知らせないで平気だろうか。もし、自分が言わなかったことで何かあったら――


「…っ!」


ふいに軽く肩に手を置かれただけだったが、テルルは上半身を飛び上がらせた。振り向くと、宿主のおかみさんが

怪訝な面持ちでテルルの顔を覗いていた。


「大丈夫かい? あんた」


「あっ…ごめんなさい」


傍目から見ても、テルルの様子は普通じゃなかったらしい。テルルは初めて、自分が上の空だったことに気付く。


「長旅で、疲れてるんじゃないのかい?」


「いえっ…違います」


「いいから! あんた元々ここの客人なんだから。休んでたらいいよ」


「…あ…はい」


おかみさんに気を遣わせてしまい、テルルは半ば強制的に手伝いを中断させられた。弁解しようと思ったテルル

だったが、やはり忙しそうに動き回る彼女に、声を掛けるのは気が引けてしまった。おかみさんの後姿を目で

追いながら、その場に立ち尽くす。


しかして急にやることが無くなって、テルルはかえって困った。出来れば何かに従事していた方が、まだ気が

紛れていいのだけど…

行き場を無くし、とりあえず部屋に戻ろうかと考え始めた時である。


「――どうした」


「! クロム」


ふいに後ろから聞こえた声に振り返ると、階下に降りてきたクロムが立っていた。テルルは、自分の立ち位置が

彼の行き先を塞ぐ格好になっていたのに気付き、あわてて横にずれる。


「ごめんっ…どこか、出掛けるの?」


「ああ」


「そっか。いってらっしゃい」


「お前は。まだ宿の仕事か」


「うん、そのつもりだったんだけど…」


テルルは言葉に詰まり、つい視線をそらす。


「…今日は、もういいの」


何故か、クロムを直視できない。今朝の件で――彼に隠し事をしている形になっているからだろうか。

2人に向けてとは言っていたものの、リンは確実に、クロムに知られることの方を懸念していたはずだ。

テルルも、リンのその意味を理解はしている。でもだからこそ、話すべきだとも思っていた。


そんなことを内で考え、不自然さが表に出ている彼女に、クロムも気に留めた。テルルの顔を確認するように、

やや首を傾げる。


「具合でも悪いのか」


「ううん、そんなんじゃないから」


しかしテルルは、引きつったような笑顔で誤魔化す。

彼女は、内心焦れていた。本当のことを言いたいのは山々だし、その上で勘違いされることは決して望んでない。

加えて、元来テルルは嘘が下手な性格だった。どうしても表情に出てしまう。それを自分でもわかっているから、

早くこの場を立ち去りたい、そんな気持ちが募る。


「…じゃ、あたし部屋に…」


「出るか」


クロムを通り過ぎて部屋へ行こうとしたテルルの言葉を切るように、クロムが言葉を漏らした。


「…え?」


「戻ったところで、暇を持て余すだけだろう」


「えっ…えっ、クロムと、一緒に?」


突然の彼の言葉に動揺するテルルだったが、クロムは無表情で頷いた。


「外に出れば、気が晴れるぞ」


「――」


明らかにいつもと違うテルルの様子に、彼なりに気を遣っているのだろう。

テルルは、自分の顔が熱くなっていくのを感じていた。うつむき加減に、コクリと頷く。


「…行きます」


「支度は」


「いい! このままで平気だから!」


エプロンをまごつきながら外し、スカートの埃をパンパンとはたく。そして、テルルの返答を受けて既に宿の外に

出かけている彼の後を、慌てて追った。


テルルは、自分の頬にきつく手を当てていた。


…え〜い、おさまれっ!!


15歳の純情乙女は、こんな些細なことにも幸せを感じていた。


次回更新予定日…2010/3/1

◆登場人物設定 を若干更新しました。

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