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7 戦渦の彼女

 夏生はゴニョゴニョいう話声を聞いた。内容は聞き取れない。――初めに声ありき――、そんなことが書かれていたのは聖書だろうか……、古いアニメにもそんな台詞があったような気がする。思考が働き出すと瞼を持ち上げることができた。道祖神がヘッドライトの灯りの中に浮かんでいる。


 アー痛かった。……出産時の強烈な痛みの記憶はあったが、自分の身体そのものに痛みはなかった。


 そうだ。義経のことだ。……自分が義経の子孫かどうか、シズカは自分で確かめろと言った。そうしてわかったのは、白拍子の静が傀儡女になったことと、越後の小屋で義経と関係を持ったということだ。彼女は傀儡女として猟師や宮司、伊之助なども関係を持ったから、産んだ子が義経の子だという確証はない。ただ彼女は義経の子どもと考えていたようだった。自分と同じように芙美婆ちゃんが静と旅をしたのなら、彼女の思いを信じたかもしれない。


 ゴニョゴニョいう声が続いていた。春奈がアイドルに会いたいと一心不乱に祈る声だった。

夏生は立ち上がって空を見上げた。青い半月があった。静と旅をする前と、ほとんど同じ場所だ。やはり、向こうの世界にいた1年もの時間は、こちらでは数分のことなのだろう。


 春奈のつぶやく声が消えた。


「あっ……」


 彼女が見上げていた。


「夏生さんはクグツメノシズカと話せたの?」


「ええ、義経や静御前とも会えました」


「そうなんだ。私は全然ダメだったよ」


 立ち上がる彼女は、決して残念そうではなかった。


〝ホテル歌人〟に向かう車の中で、夏生は自分が追体験してきた静御前の物語をした。現代とはあまりにも違った価値観の世界なのでうまく説明できなかったが、春奈は疑問も持たず、「へー」「ふうーん」「すごーい」と相槌を打った。


〝ホテル歌人〟に着くと、春奈は真水を捕まえて、自分が見て来たことのように静の物語を語って悦に入っていた。春奈というフィルターを通した物語は、南極大陸横断のような冒険ストーリーに変わっていた。


 食後、夏生と春奈は大浴場で湯に浸かった。春奈は静の物語の感想や自分の生活のことなどをラジオのように話し続けた。夏生は聞いている振りをしていたが、心は別なところにあった。頭の中には静の記憶が濃く残っていて、――亡くなった者を引き戻すことより、新たな存在を生み育てることを考えよ……、という西行の言葉に強く意識がひかれていた。


「……ねえねえ、聞いてるのぉ?」


「え、うん。聞いているわよ」


「ありがとう。嬉しいよ。……あー、のぼせそうだ」


 彼女が満面の笑みを浮かべた。


 何を話していたんだっけ?……夏生は思い出せなかった。聞きなおそうとした時、春奈は走り出していた。


「夏生さん、明日ねー」


 声を残して彼女は消えた。


 その夜、スマホが寂しげにうなった。理沙からのメッセージだった。


≪遊びに行かこう≫


 普段ならすぐに返信するところだが、できなかった。文字を見つめ、色気がないなぁ、と思った。感情が固まっているようだ。それからおもむろに文字を打った。


<ムリ、福島ナウ>


 返信するとすぐに、スマホが震える。


≪なーんだ。彼と?≫


<ひとりよ>


≪???≫


 空虚な文字が行きかう。


<理沙の言う通り、人生は厳しいと知ったわ>


≪彼にふられたの? 傷心の旅?≫


<お婆ちゃんの墓参りよ>


≪なーんだ≫


<生きるのは大変だけど、現代は恵まれているね>


≪オイ、オイ、どうした? 現実逃避か? 就活はこれからだよ≫


<西行法師、知ってる?>


≪百人一首のやつね。それが?≫


<お金を借りるのに、奈良から岩手まで歩いた>


≪ホウホウ、つわものだね≫


<死者の声を聞いたり、死人を生き返らせたりしたらしい>


≪マジ?≫


<マジよ。本人がそう話していた>


≪ナツキー、戻ってこーい。マンガの世界から、戻ってこーい≫


<信じてもらえないだろうけど、私、死者の経験を追体験できるんだ>


≪マジ?≫


<マジ>


≪超能力者? 霊媒師? 魔女?≫


 夏生は、クグツメノシズカと話し、祖母と静御前の時代に行って彼女らの中で数年間を共に生きたことを説明した。理沙は茶化さずに相手をしたけれど、文字だけの世界では信じたのかどうか判別できなかった。


 リアルな時間とエネルギーが消費される。そうして力尽きた2人は、深夜遅くに眠りに落ちた。




 翌朝は朝から断続的に雨が降っていた。夏生がだらだらするのに絶好の天候だった。ところが、ノックと同時に扉が開いた。


「おっはよー」


 春奈がパタパタと部屋に駆け込んでくる。


「まだ寝てるんだ……」


「眼は覚めてるわよ。どうして……」


 布団から眼まで顔を出し、抗議しようとした。


「鍵は開いていたわよ」


 春奈がニッと笑った。


「何か用事?」


「冷たいなぁ、ナニカはないでしょ。友達なのに……。遊ぼう!」


「えー……」


 断りたかった。いつから友達になったのかもわからない。


「昨日、約束したじゃない」


「あ……」大浴場で彼女が――ありがとう――と言ったのは、その事だったのかもしれない。――明日ねー――と言ったのも思い出した。


「仕方がないわね」


 意を決して上体を起こした。すると、隣の部屋にいた倫也と目が合った。


「エッ……」自分の眼が点になるのがわかる。


 彼の視線が下に、……夏生の胸元に落ち、逃げるようにそらした。


「アッ……」浴衣の前が開いていたのに気づき、慌てて布団にもぐりこんだ。


「夏生さん、丸見えだよ」


 春奈が笑い転げる。


「どうしてこんなに早く来るの」


 夏生は抗議した。


「雨の日は仕事にならないんだよ。起きなさいよぉ……」


 彼女が力づくで布団をまくり上げようとした。


「……夏生さんの寝坊を直してくれって、若女将に頼まれているのよ」


 真水の名を持ち出されると、逆らえない。第一彼女は、身体は小さいのにとても力が強かった。


「わかったから……、降参です」


 もぞもぞと寝床から抜け出して顔を洗った。


「今日は3人でドライブー!」


 食後、彼女が拳を突き上げた。


 倫也が、どこか行きたいところがあるかと訊くので、蜷河庄の寺と安積の八幡神社に行きたいと話した。


「それって……」


 春奈が首を傾げる。


「道祖神で見た静御前が、訪ねた場所なのよ。それが実在したら、私が見たものが事実だと確信が持てる……、気がする」


 自信なさげな物言いに、春奈がアハハと笑った。


「もう少し詳しいことはわからないかな。寺の名前とか? 蜷河庄にも寺は沢山あるし、安積、今の郡山の八幡神社というのも沢山あるよ」


 スマホで検索する倫也が顔を曇らせた。


「行徳という住職がいたわ」


 静を南無観世音菩薩と拝んだ行徳の平べったい顔を思い出した。


「名僧だったら見つかるかな……」


 言いながら、倫也がスマホをいじった。


「……それらしい坊さんの名前はないな」


「全部、まわってみればいいのよ。おもしろいじゃない。宝探しみたいで」


 春奈の強力なプッシュがあって、冒険の旅に出ることに決まった。


 その日の車は春奈の軽自動車ではなかった。当初から遠出を計画していたのだろう。倫也が父親のミニバンを借りてきていた。ミニとはいっても8人乗りの大きな車だ。


 ハンドルを握るのは倫也で、夏生が助手席に座らされた。景色を見るだけで、何かを思い出すかもしれない、と倫也が言うのだ。とはいえ、小雨が降っていて景色は霞んでいた。そこから何かを見つけることも、楽しむことも難しそうに思えた。


 春奈は、ひとりで遊んでいるという。広い後部座席にはカラオケセットが据えられているので、彼女はそれを楽しむつもりのようだった。実際、彼女は、絶え間なく歌い続けた。その歌がやんだのは、車が高速道路を走っているときだった。歌い疲れた彼女はスヤスヤ眠った。


「困ったやつだな……」


 倫也がバックミラーを見て言った。


「邪気がなくて可愛らしい……。羨ましいです」


「ただの子供なんだよ」


 彼が再びバックミラーに眼をやる。夏生は身体をひねって春奈の寝姿に眼をやり、年齢を聞いていなかったことを思い出した。


「歳は……、私ぐらいですか?」


「22歳だね」


「それじゃ、私よりふたつ上じゃないですか……」


「精神年齢は10歳くらい下かもしれないよ。時々、痛々しく見えるよね」


 薄く笑ったと思うと、一転、真顔を作った。


「僕は、夏生さんに謝らなければならない」


「えっ……、何のことでしょう?」


「クグツメノシズカのことだよ。正直、信じていなかった。夏生さんが道祖神と話しができるなんて……。でも、今は信じるよ。東京から来た大学生が、蜷河庄とか安積の八幡神社を知っているはずがないからね」


 夏生は無意識のうちに倫也をにらんでいた。今まで疑われていたと知って、面白くなかった。

車は会津若松市の中心部を通り過ぎ、かつて蜷河庄といわれたエリアに入った。倫也が最初の寺の前に車を停めた時、春奈が目を覚まして欠伸をした。図ったように雨が上がっていた。


「おー、寺だぁ……」


 彼女がピョンと車を飛び下りる。住職を見つけると、平安時代の終わりごろに行徳という住職はいなかったか、と尋ねた。人見知りの夏生にはできないことだ。住職は、「おりませんなぁ」と答えた。墓地には歴代の住職の墓があって、そこには行徳という名はないという。


 念のために夏生は本堂の前に立ってぐるりと見回した。小さな寺だった。伽藍も本堂も、庫裏の雰囲気も、静が見たものとは違っていた。


「どうだい?」


 倫也が訊いた。


「違うわ……」


 夏生が応えるのと「つぎー」と言って春奈が走り出すのが同時だった。

次へ、次へ、と地図上にある寺を回った。同じようにして住職を訪ね、建物を確認した。多くの寺の創建は、静が生きていた時代より後だった。古い寺でも最初に訪ねた寺のように、明確な答えがあることは少なかった。住職に相手にされないこともあった。そうやって10を超える寺を回ったが、夏生の記憶と一致する寺はなかった。


「仕方がないですね。昔のことだし……。でも、この辺りを歩いたとわかっただけで感慨深いわ」


 豊かな森林を渡る風は涼やかで、濃い緑の香りがした。


「ヨッシ、次は八幡神社よ!」


 ――グー……、声と同時に鳴ったのは春奈の腹だった。時刻が1時を過ぎていた。


「アハハ……、神社の前に、蕎麦屋だ」


 そう言って春奈が車に向かう。


「蕎麦、限定かい?」


「会津では蕎麦と、決めてるのよ」


 3人は蕎麦屋を目指した。


 最初に見つけた蕎麦屋に飛び込み、もり蕎麦を注文する。待つ間、倫也は八幡神社を調べた。


「昔の安積の地に八幡神社は沢山あるな」


「ごめんなさ。つきあわせてしまって……」


「どうってことないよ」


 夏生には、彼がとても頼もしく見えた。


 春奈が、テーブルの上にぐいっと顔を突き出してくる。


「どうして同じ神社が沢山あるのぉ?」


「八幡様は戦いの神なんだ。それで昔から八幡様を信仰する武士が多かった。そんな武士は、治めた土地、土地に、八幡様を分祀したんだろうね」


「ブンシ?」


「大本の神様から分けてもらって、別の場所に神様を祀ることだよ。坂上田村麻呂って学校で習っただろう?」


「知らなーい」


 春奈が偉そうに言った。


「正しくは、覚えてない、だろう?……大和朝廷が東北を制圧するために派遣した征夷大将軍だよ。東北地方には、平安時代から鎌倉時代まで、何人かの征夷大将軍が攻め入った。そうして占領した土地が同行した武士に与えられたんだろう。おそらく彼らが八幡様を祀ったんだ」


「商売人が、庭にお稲荷さんを祀るようなものだね。夏生さんなら、八幡様やお稲荷さんとも話せるのかな?」


「まさか、出来るはずないわよ」


 否定してみたものの、もしかしたらできるかも、と気持ちが動いた。


「やってみればいいんだよ。神様のお告げが聞けたら占いは百発百中だから、立派な占い師になれる。神様の力で未来を予知したり、未来を思い通りに変えられたらすごいよね。夏生さんが神々の力で超売れっ子占い師になったらご馳走してよ」


 春奈が夏生の手を握り、真顔で言った。


 もしかしたらできるかも、と思う夏生は半笑い。欲にかられながら、欲張りだとは思われたくなかった。


「占いじゃ、お金になんてならないわよ」


「政財界の大物が、占い師を頼って大金を使うことがあるらしいよ。大きな権力を持ちながら、信仰に頼るんだな。力を持ったら持ったなりの、新たな不安が生まれて神仏や占いに頼るんだろう」


 倫也の話に夏生の欲が動いた。鞄の中をそっと覗く。そこには念のために持ってきた形代があった。八幡神社では、賽銭と一緒にそれを納めてみようと思った。


「どうしたんだい? にやついてるけど……」


 倫也の声で我に返る。とても恥ずかしかった。注文した蕎麦が出てきて、にやけた理由は説明せずに済んだ。




 夏生のささやかな野望はすぐに消えた。郡山市内にある数カ所の八幡神社を訪ね、形代を納めて拝んでみたものの、神様はうんともすんとも応えてくれなかった。静が滞在した鎮守の森らしいものも見当たらなかった。代わりに、静御前が入水したという伝承のある美女池びじょがいけを見つけた。


「ここで死んだの?」


 春奈が今は養殖場になっている大きな池の淵に屈み、水中を覗き込んだ。


 夏生は「さぁ?」としか応えられなかった。夏生が見た静御前の人生は、まだ鎌倉を出て1年ほどに過ぎない。


 宿主の人生を途中までしか知らないのは、芙美婆ちゃんのも同じだった。もっと祖母のことを知りたい、知らなければならない、と強い衝動に駆られた。


「ねえ、あの道祖神に行ってもらえないかな」


 夏生が頼むと、春奈と倫也は少し驚いた表情を見せた。


「いいけど……。夏生さんが自分から言うなんて、思わなかったな」


「静御前のことを訊くのかい?」


「ううん……」少し迷ってから、正直に話した。「芙美婆ちゃんのことをね」


「ふーん、芙美婆ちゃんに謎があるの?」


 車に向かって歩きながら、春奈が目線を向ける。


「秘密とかじゃなくて、幸せだったのかどうか、それをね。ちゃんと、芙美婆ちゃんの人生と向き合ってみたいの」


「あー、ごめんね。ウチの爺ちゃんが戦争中のことなんかを言ったから……」


「違うの。安田さんは関係ないのよ……」


 車に乗ってから、父親が祖母の過去を話したがらないのだ、と説明した。


「そうなんだ……」


 春奈たちは、夏生が案じるほど芙美子の人生に関心を持ってはいなかった。倫也は黙って車を走らせ、春奈はカラオケに興じた。夏生は景色を眺めながら、篤と不倫して明美を産んだ芙美婆ちゃんの笑顔や声を、繰り返し、繰り返し思い出していた。


 道祖神には1時間ほどで着いた。それは、まだ濡れていて夕日を妖しく映していた。


「降ってもいないのに、おかしいね」


 春奈が言うので、確かめようとそれに触れた。――ズン……、とそれはやってきた。夏生の魂を握って支配するような熱を伴う圧力だった。




「芙美子、逃げるのよ!」


 頭の中で、誰かが叫んだ。それから目の前が真っ赤になった。それがメラメラと揺らいでいる。


(えっ、火事?)


 空が燃えていた。いや、周囲の炎の明かりが雲に映っていた。轟轟と爆音が轟く。エンジン音や爆発音が混じったものだ。赤い空を大型の飛行機が飛んでいた。それが通り過ぎるとヒュルヒュルと不気味な音を立てて無数の火が降ってくる。正に火の雨だ。地上ではサイレンの音、建物が燃え落ちる音、人間の悲鳴、助けを呼ぶ声……、様々な音が夏生を包んでいた。


(なんなの、どうなっているの?……そうだ! 今の私は誰だろう?)


 夏生はひどく動揺していた。戦場にいたからだけでなく、クグツメノシズカに会うことなく、いきなり誰かに宿ったのも一因だった。


「芙美子、早く!」


 怒鳴るような声がしたかと思うとドンと背中を押された。


(やだ、なによ?)


「危ない! 焼夷弾……」


 声の主が夏生の頭を押さえた。ヒュルヒュルいっていたものが背後に落ちて、ドンと大きな音がした。爆風はない。振り返ると火柱が立っていた。機械油が燃えるような嫌な臭いが鼻についた。


(怯えている)


 夏生は、その時初めて芙美子の中にいると気づいた。その彼女が怯え、立ちすくんでいる。


「芙美子、ぼんやりしていたら、死ぬわよ」


 夏生は目の前の女性が芙美子の姉の亜矢子だとわかった。ずいぶん昔の記憶の中にいるのだと思った。芙美子の記憶を読むと、彼女は17歳で空を飛んでいるのはアメリカ軍の爆撃機B29だった。今いる場所は東京の下町、芙美婆ちゃんが生まれ育った町だ。そこが昭和20年3月の深夜、空襲を受けていた。


(昭和20年って、西暦何年だ?)


「走りなさい」


 耳元でしたのは、母、千恵子の声だった。


 防空頭巾をかぶった母娘3人は、小さな手荷物だけを持って走った。

どうしてこんな状況に置かれているのか、芙美子は理解していなかった。戦局が不利だということは噂にはなっていた。とはいえ、政府の広報では大日本帝国が勝つはずなのだ……。いざとなれば、神風が吹いてアメリカ軍を倒してくれるのではないのか?……それは噓だったのか?……困惑を通り越して、怒りを覚えた。


 視界にある下町は、炎に包まれて地獄と化していた。劫火は渦を巻き、火竜となって住民を襲う。焼夷弾が撒き散らす油で、家も人も地面も燃えた。皮膚が焼けなくても、熱風で喉や肺が火傷して窒息死した。炎から逃れようと隅田川に飛び込む人、人、人……。


 芙美子は走りながら泣いた。焼夷弾の油が燃える煙は刺激が強く、喉が痛み、呼吸もままならない。痛む目からは、涙が止めどなく流れた。


 芙美子の恐怖と怒りが混ぜこぜになって夏生の感情を冒していた。その赤黒い感情にのまれ、狂ってしまうのではないかと思った。(夢だ、私は夢を見ているのよ……、リアルな夢の中にいるのよ)夏生はそう信じようとした。すると、少しだけ気持ちが落ち着いた。


(芙美婆ちゃん、私よ。夏生よ。わかる? 怖がらないで。私たちは死ぬことはないの。だって、芙美婆ちゃんは92歳まで生きるのよ)


 夏生は芙美子の意識に声をかけた。聞こえないとわかっていても、話し続けなければ、自分が狂ってしまいそうだった。


 3人はひたすら走った。北へ、北へ、北へ……。


 母娘は運よく炎の壁の隙間をすり抜けることができた。それでもまだ、「もっと、もっと」「もう少し、もう少し」と、逃げる足を止めることはなかった。ところが、徐々に千恵子の足が遅くなり、ついに止まった。


「お母さん、どうしたの?」


 姉妹は振り返った。千恵子は地面に両手をついて肩で息をしていた。その背中が街を焼く炎で照らされている。得体の知れない突起があった。


「姉さん。これ……」


 半纏はんてんの背中の一部が焼け焦げ、炎よりも赤黒い血が流れていた。その中央にある突起は、まるで体内で発芽した植物の芽のようだった。


「何か、刺さっているわね」


「お母さん。痛い?」


「す、少しだけよ。まだ、大丈夫だから……」


 千恵子は応えたが、立ち上がることは出来なかった。


 背後から深紅の炎の壁が迫っている。それを恐れる人々が芙美子たちを追い越していく。


「あなた達、……先に逃げなさい。お祖母さんの所に……。お母さんは、……あとで、行くから……」


 途切れ途切れに言った後、千恵子は意識を失った。


「お母さんを置いていけるわけがないでしょ」


 鬼の形相の亜矢子が、千恵子の背中の突起を握り「エイッ」と引き抜いた。金属製のそれは焼夷弾の破片だった。


 姉妹は交代で母を背負い、1歩、2歩と、山を登るような歩みで北に向かった。


 母娘は汽車を乗り継ぎ、荷車に乗せてもらって千恵子の実家にたどり着いた。彼女の兄とその息子たちは徴兵されて不在だったが、老母は健在で、嫁の泰子やすこと田畑を耕して暮らしていた。地主に土地を借りる小作のうえ、米は政府に供出きょうしゅつするので豊かではなかったが、生きるのに困らない程度の食料はあった。


 千恵子は虫の息で、往診した町医者は「もう長くないだろう」と言う。


「長くないって、どれくらいだい?」


 ぞんざいな町医者を叱るように泰子が問い質した。その姿が、夏生には頼もしく見えた。


「余命は2カ月というところだな」


 診たてに自信がないのか、顔に困惑を浮かべた彼はそう告げて帰った。


「お母さんのことは大変だけど寿命だと諦めるしかないよ。生まれた家にたどり着けただけでも幸せだったんだ。だから、あとは自分のことを考えるんだよ」


 泰子に励まされた姉妹は納屋を借りて住み、交替で看病をし、田おこし、田植え、草取りと、祖母や伯母と一緒に汗を流した。


 夏生は、黙々と辛抱強く働く芙美子の姿に、道祖神のある土地のススキを刈った安田元春の寡黙な姿を重ねた。土に向かうというのは、そう言うことなのかもしれない、と何かを悟った気さえした。


生まれ故郷の水が身体にあったのか、余命2カ月と宣告された千恵子は8月15日の終戦時も生きていた。動くことも声を発することもなかったが、穏やかな呼吸を繰り返し、時折、目尻に涙をにじませた。姉妹と老父母は千恵子の息があるのを喜んだが、泰子は違った。


「藪医者だったんだね。余命2カ月と言いながら、もう5カ月だよ。医者に見せるだけでも大変な出費だ」


 彼女が大きな声で嫌味を言う。芙美子は、もちろん夏生も、泰子の変わりようが理解できなかった。


 翌月、泰子が姉妹に仕事の話を持ってきた。


「特殊慰安施設協会というのが、お国のために仕事をする若い女を募集していたから申し込んで来たよ」


 そう恩着せがましく言った。


 芙美子は泰子の話を素直に聞いたが、亜矢子は違った。


「お国のためって……。伯母さま、戦争は終わったじゃないですか?」


「戦争が終わっても、日本がなくなったわけじゃないよ。これから生き残った者の力で、国を復興させなければならないんだ」


 泰子は、〝特別女子従業員募集〟と書いた宣伝チラシにあるのと同じことを話した。


「お国のためと言って、それでどれだけ多くの日本人が死んだか……」


「そんなことはわかっているよ。息子たちだって……」


 泰子が声を詰まらせた。彼女の夫や子供たちが生きているのかどうか、まだ、定かではなかった。


「戦死報告がないんだものの。無事に帰りますよ」


 芙美子は、伯母に同情していた。(芙美婆ちゃんは、人が良すぎるよ)夏生は、そんな芙美子に同情した。


「私、働きます。お金があったら、お母さんを入院させられるし……。それで、どんな仕事なんですか?」


 芙美子は特別女子従業員になるという。


「馬鹿!」と亜矢子が叱った。


 泰子は猫なで声で言う。


「これ、これ……」宣伝チラシを示した。「……進駐軍を接待する仕事で、給金は破格だそうだ。住み込みで食事も出るそうだから、良い話じゃないか……。なあに簡単なことだよ。一緒にお酒を飲んだり、ダンスをしたりすればいいそうだから……」


(ふーん、私には無理だな……)夏生はキャバクラを想像した。(あぁ……)芙美子がキャバレーで働いた様子を思い出した。その時の彼女は、水商売にずいぶん馴染んでいるように見えた。おそらく特別女子従業員の仕事の経験から、そちらの道に進んだのだろう。それにしても、今の純情な芙美子とは全く違っている。それが、とても不思議に感じた。


「伯母さん。芙美子には、そんなことをさせられません」


 亜矢子が反対すると、泰子は眉をつり上げた。


「息子たちが帰ってきたら、どうやって食って行くんだ? 畑は狭いんだよ。ウチには食べ物がなくなってしまう。それとも何かい。お前たち、病人を連れて出て行ってくれるかい?」


 伯母の剣幕に亜矢子は言葉を失なった。夏生は(ひどい!)と、声にならない声を上げた。


「どうなんだい?」


 泰子が詰め寄り、亜矢子は渋々働くことに同意した。芙美子は仲裁するようなつもりで口を開いた。


「私、しっかり働きます。お姉さんと一緒なら、安心だもの」


「そうだよ。芙美子はいい子だ」


 泰子が満面の笑みを浮かべた。




 特殊慰安施設協会というのはRecreation and Amusement Associationの和名で、RAAと略して呼ばれていた。その事務所に向かう前に、芙美子は姉に声をかけられた。


「芙美子、今からでも遅くないのよ。RAAで働くのは止めなさい。身体を売ることになるのよ。お母さんの治療費は私が働くだけで十分だと思うから」


 たった2歳の歳の差だったが、姉はRAAの実態を理解しているようだった。


(お酒を飲んでダンスをする仕事ではなかったの?)夏生は、泰子に騙されたのに気づいた。


「私なら大丈夫。お姉さんが考えているほど、子供じゃないのよ。女学校では、友達にいろいろ教えてもらったから。しっかり、お国のために働きます」


 本当は、芙美子は恐れている。それが夏生にはわかった。彼女は姉を安心させようと、懸命に気持ちを奮い立たせて笑顔を作って見せていた。


 RAAの事務所に出向いた2人は、他の女性と共にトラックに乗せられた。見張りなのだろう。事務員が一緒だった。彼が「施設はなぁ、市民の目につかない場所に設置するよう通達が出ている」と説明した。逃げ出すのは難しいぞ、という脅しなのだろう。


 トラックはゴトゴトと1時間ほど走った。停まったのは水路にかかる橋の手前だった。


「降りろ」事務員が命じた。


 トラックを降りた芙美子は、亜矢子と並んで橋を渡った。それは狭いのに、その先の道は広場のようだった。片側には監視所や蕎麦屋、商店、美容室が並び、反対側に飯盛楼いいもりろう今井楼いまいろう風月楼ふうげつろうといった女郎屋が7件並んでいる。夫々に女郎の部屋や待合所、食堂、風呂といった用途の異なる大小の建物が建ち並んでいた。


「ここは江戸時代からある由緒正しい遊郭ゆうかくだ……」風紀が乱れるという理由で太平洋戦争中に廃止されたそれが、特殊慰安施設として再利用されることになったことを事務員が説明した。……やっぱり昭和は野蛮だったわよ。夏生は優斗を思い出していた。


 施設全体を取り仕切るのは、猪熊晋佐久いのくましんさくという学校の校長のような風貌の中年男だった。彼は施設に入る女たちに「お国のために全身全霊をもって努めろ」と訓示し、それから写真を撮った。手続き上必要なものなのか、彼の趣味なのか、芙美子にはわからない。命じられるまま、姉妹はレンズの前に立った。


「こいつは上玉だ。まるで牡丹ぼたん芍薬しゃくやくの花を並べているようだな」


 彼の評価にも笑みが浮かぶことはなかった。緊張と恐怖が芙美子を支配していた。シャッターが切られる。


「神野亜矢子、芙美子。お前たちは姉妹だな。19と17か……」


 彼は書類に目を走らせた。


「……商売女ではないだろう。どうしてここにきた?」


 質問の意図が分からず芙美子がポカンとしていると、彼は「何も知らないのだな」と笑った。それに対する亜矢子の声は、まるで竹槍を手にして敵に挑むようだった。


「母の治療費を稼ぐためです」


「ふむ……。ならば精々気を入れて働くのだな。アメリカさんに可愛がってもらえよ」


 晋佐久は意味ありげに笑った。


 芙美子の職場は、かつての風月楼だった。昭和初期に建てられた石蔵造りの建物は、左右シンメトリーのデザインが学校のようだった。窓は木製の格子窓で1階部分には鉄格子が取り付けられていた。従業員の個室は4畳ほどの和室で、寝具と化粧台は用意されていたが、他には何もなかった。


 翌日、始めて見るアメリカ兵は優斗と同じような体格だった。夏生は女性を金で買おうという兵隊に汚らしいものを感じただけだったが、芙美子は違った。彼女にはその巨体も肌の色も、目の色も、同じ人類ではない何か、鬼や妖怪といった異質な生き物に見えていた。


「こんにちは」


 彼女は怯えながら頭を下げた。同時に、屈辱と怒りを覚えていた。その理由が、敵だったアメリカ人に頭を下げることなのか、売春を国家に強いられることなのか、それは彼女自身もわからなかった。


「Oh! Cute」


 異国の言葉が芙美子の鼓膜を貫通し、思考を止めた。彼に抱きかかえられて布団に運ばれる。――さあ、やるぞ……、と意気込みを見せられたようだ。


(どうしてこんなことをしなければならないのよ)


 夏生はアメリカ人もセックスも怖くなかった。芙美子は違う。すべてが初めてのことだった。何も悪いことをしていない彼女が、貧乏というだけで無垢な肉体を差し出さなければならない理不尽に、夏生は怒りを覚えた。


 客は郊外に駐屯するアメリカ陸軍第105歩兵連隊の兵隊だ。彼らは陽気で、よく飲み、よく食い、よく歌う。普段は紳士的で金払いも良い。だが、身体が大きく傲慢で、ことセックスという点では野獣のような者が多かった。彼らは避妊具を一つ持ってやってくる。それを使ったら交代だ。人数をこなせば芙美子の収入は増えるが、質の悪いゴム製のそれに痛い思いをすることにもなる。


 芙美子は母親のために必死に働いた。時には1日で10人以上の相手をし、粘膜が炎症を患った。筋肉痛に眠れない夜もあったが、病気で苦しむ母のことを思えば苦も無くそれができた。伯母が言ったように報酬は高く、おまけに目玉が飛び出るような額のチップをくれる兵隊がいた。そうして得た金は、全て伯母に送った。


 芙美子は淡々と仕事をこなしたが、喜んでそれをしているのではなかった。こんなことでお国のお役にたっているのだろうか? いつになったらこの地獄から解放されるのだろうか?……多くの兵隊に抱かれながら考えた。


 疑問は澄んだ心に広がる影だ。仕事をすればするほど心が病んだ。そうした状況を、夏生は赤い海を泳ぐ自分のようだと思った。


 病むのは芙美子だけではない。そこで働く女性すべてに共通していた。それまで貞節や純潔が美徳、道徳と教えられてきたのだ。いかに国家の要請とはいえ、アメリカ兵の玩具になることに、心は易々と従わない。誰もが金や食料のために、あるいは誰かに追いやられ、嫌々ながら生きるためにそこにいた。そうして病んだ者たちは、慰め合うのではなく、その痛みや苦しみを誰かにぶつけて回復しようとしていた。大人しい芙美子は、同僚にいじめられることが多かった。


 夏生は芙美子の心と身体を案じていたが、どうしようもなかった。(せめて亜矢子さんと話せたら、気持ちが楽になるのに……)そんなことを考えていたが、姉妹が働く建物は別々で自由に会うことができなかった。彼女の心が衰弱していくのを、夏生は、ただ見ているしかなかった。


 1946年1月、千恵子が他界した。葬儀のために姉妹は外出を許された。雪まじりの風が吹きすさぶ中、施設を囲む水路の橋の上で姉妹は会った。2人は互いの名を呼び、抱き合って無事を喜んだ。その時は、母の死さえ忘れていた。


 芙美子の心に生気が戻り、不謹慎だけれど、夏生はホッとした。姉妹を励ますために、母親は死んだのではないか、と想像した。


 2人はトラックの荷台に揺られて母の遺体が待つ寺に向かう。それは山に挟まれた小さな田畑の中の道を上ったところにあった。供出して釣鐘を欠いた、鐘楼の寂しげな古寺だった。


 葬式を仕切っていたのは復員した伯父だった。戦地では食料の乏しい生活をしていたのだろう。全身痩せこけ、顔は骸骨のように表情がなかった。左手の指が2本欠けているのが痛々しい。彼は、小奇麗な洋服姿の姉妹を見ると顔を歪めた。


「お前たちは贅沢できていいな」


 ぶっきらぼうに言った。


「戦地では、みんな飢えていたぞ。死ぬのはマラリアか赤痢か、餓死だ。みな、骨と皮だけになって死んだ」


 彼は、やせていない芙美子たちを皮肉ったのだ。実際、RAAで働くようになってから、わずかだが芙美子は太った。そこは辛い職場だが、進駐軍の援助があって食料は豊富だった。特別女子従業員がそこを逃げ出さないのは、外には満足な食料がないと知っているからだ。


(食べ物さえあれば幸せというのかって、怒ってやりなさいよ)夏生はけしかけた。


「東京も同じでした。道端の雑草まで食べました」


 夏生の気持ちが通じたのか、芙美子が伯父に小さな抵抗を試みた。フン、と鼻を鳴らし、伯父は話しをやめた。


 葬儀は簡素なものだった。参列者は集落の者ばかりが二十名ほどで、姉妹がRAAで働いていることが噂になっているらしく、冷たい視線を投げては顔を寄せ合ってヒソヒソと言葉を交わした。


 誰の口から自分たちの仕事のことが漏れたのだろう?……芙美子は伯父を疑っていた。


(芙美婆ちゃんは、悪くないのよ)そう教えても聞こえるはずなどない。芙美子は自分を責めていた。お国のためとはいえ、自分の仕事は売春だから後ろ指を指されるのは仕方がないと……。彼女が一番傷ついたのは、そんな仕事を勧めた伯母が、汚いものを見るような目をしていることだった。母親の死よりもそれが悔しくて芙美子は泣き、夏生は怒った。亜矢子は違っていた。何かと戦うような強い眼で、ずっと白木の位牌を見ていた。


 葬儀の後、亜矢子が伯母に尋ねた。


「母はどこの病院に入院していたのですか?」


 姉妹が働いて得た金は、ほとんど余さず母親の治療のために送っていた。小作農家が生涯かけても見ることができないような大金だったから、当然、母親は入院していただろうし、もう少し良い葬式ができたのではないか、と考えたのに違いない。


「生きている人間の方が大切だろう……」


 泰子の言葉は意外なところから始まった。


「……私は姑も食わせなければならないんだ。千恵子さんの分まで、お義母さんには長生きしてもらわないといけないからね。だから肉や魚も買ったよ。贅沢していたわけではないよ。……息子たちが帰った時に耕す畑も必要だ。その準備もした。そりゃ、千恵子さんは大怪我をして可哀そうだけど、死ぬと分かっているのに、入院させる必要などないじゃないか。凍えないよう、納屋は暖かくしてやったからね」


 彼女はぬけぬけと言い放った。2人が送った金で田畑を買い、肉や魚を食べていたのだと。それを知った時、初めて亜矢子が声を上げて泣いた。


「もう、送金しなくていいからね」


 帰りのトラックの荷台で亜矢子が言った。当然だ、と芙美子と夏生は思った。


 葬儀で覚えた怒りを、施設に戻った芙美子と夏生が忘れることはなかった。芙美子は、東京大空襲や伯父夫婦の夢を見て、夜中に目を覚ますことが多くなった。


 ひと月ほど経つと庭の梅がちらほらと白い花をつけた。その事実が芙美子の心を慰めることはなかった。部屋に戻る時、1人の特別女子従業員の遺体が運び出されるところに遭遇した。手首を切ったらしい。左腕は真っ赤なのに顔は蝋人形のように白く美しかった。それを見ても、芙美子の心は梅の花を見た程度にしか動かなかった。


 直後、兵隊に乱暴に扱われた。子供が人形をもてあそぶようだった。初めての事ではなかったから動じることはなかったが、蝋人形のような遺体を思い出した。――わたくしは修羅をあるいているのだから――芙美子は宮澤賢治みやざわけんじの詩の一節をつぶやいた。手首を切ったあの女性は、思い通りに死ねて良かったのだ。そう思うと初めて涙がこぼれた。夏生も泣いた。


 数日後、芙美子たちはトラックの荷台に乗せられた。同じ建物の特別女子従業員ばかり7人が一緒だった。晋佐久が、「外に出すのはお前たちの気分転換のためだ」と説明した。自殺者がでたからだ、と夏生は理解した。


 広い川を渡ったトラックは、田舎道をずいぶん長く走って一軒の農家の庭に停まった。建物の雨戸はすべて閉められていたが、中からは「駄目だよ」という大人の声と、「見たい」という子供の声がした。


「降りろー」


 晋佐久ともう1人の男がパンパンと手を打ち鳴らす。芙美子たちは牧羊犬に追われる羊のように庭の片隅に集まった。そこに小さな社があった。戦争中に道祖神を隠すために作られた簡単なものだ。扉が開かれると、女陰の形を刻んだ丸い石が現れた。


「変な石だね」


 特別女子従業員の多くが薄ら笑いを浮かべた。


(あの石だ)夏生は、真水とそれを洗った時のことを思い出した。


「昔から遊郭で働く女郎たちが、気を晴らすために参拝していた道祖神だ。疱瘡ほうそう梅毒ばいどくからお前たちを守る瘡神かさがみでもある」


 晋佐久が物知り顔で説明する。


「これを撫でるんだ」


 彼が社の中に手を入れて石を撫でてみせた。


「気持ちがいいぞ」と下卑た笑みを浮かべ、「やってみろ」と促した。


 特別女子従業員が列を作り、順番に撫でる。恍惚とする者がいれば、泣いてしまう者もいた。


 神を拝んだところで苦痛がやわらぐものか……。芙美子が胸の内で言った。


(そんなことないわよ)夏生はクグツメノシズカを思い出していた。彼女と出会ったら、きっと、芙美婆ちゃんは驚くだろう。


 芙美子が石に手を置く。人に触れているような暖かなさわり心地だった。やっぱり……、と夏生は思う。


 芙美子が眼を閉じると、脳裏に水干姿のクグツメノシズカが現れた。


 ――今は、今を受け入れるのです。いずれ、あなたも時代も変わる。その時に向かって自分がしていることを信じるのです。百太夫を信じなさい。……彼女は毎日紙人形を作ることを勧めた。


 クグツメノシズカが励ますのは、芙美婆ちゃんなのか私なのか……。夏生は不思議な思いで彼女の声を聞いた。


 その夜から、芙美子は寝る前に紙人形を作った。和紙はないので、兵隊が置いていった英字新聞や雑誌を使った。英単語がならぶ紙面を見ると、女学校を思い出す。戦争さえなければ、そこで英語を学ぶはずだった。それが今、文字は読めないけれど片言ながらアメリカ兵と言葉を交わしている。それが情けなかった。


 芙美婆ちゃんは、戦争のためにやりたかった勉強ができなかったのだ。そう知った夏生の胸に、これまで無自覚に学んでいた罪悪感のようなものが生まれた。同時に、芙美婆ちゃんから解放されたいと思った。芙美子が兵隊と交わるのを見るのは自分のセックスを見るより恥ずかしく、苦しいからだ。(逃げ出すの?)解放されたい自分を責める自分と、(もう見たくない!)と素直に叫ぶ自分がいた。(東京大空襲から1年が過ぎたのよ。本来の自分の身体に戻る時期じゃないの?)2人の自分は、目の前にはいないクグツメノシズカに向かって言った。


 紙人形を作って祈ると、芙美子の中の屈辱や哀しみ、怒り、罪悪感といった負の感情が薄らいだ。夜、悪夢を見る数も減った。


 1週間後の夜、紙人形を作っているところに晋佐久がやってきて、驚くべきことを告げた。


「2週間ほど前に、亜矢子が首をつって死んだ。母親の葬儀から帰った後、落ち込んでいる様子ではあったが……」


 芙美子は震えた。姉は母を失ったことで働く目的をなくし、生きる望みを失ったのだろう。そんな彼女には施設での暮らしが辛すぎたのだ。そう考える芙美子が、姉を失って抱く失望は……。夏生は、芙美婆ちゃんが姉の後を追うのではないかと危ぶんだ。が、すぐにその考えを改めた。芙美婆ちゃんは92歳まで生きるはずなのだから……。


「道祖神を拝まなければ、芙美子は後を追っただろう。道祖神と俺に感謝するんだな」


 晋佐久は、亜矢子の死を隠していたことを詫びるどころか、恩着せがましく言った。


「遺体は、身元引受人の伯母さんに引き取ってもらったぞ」


 彼の口からそう聞いて、芙美子は殴られたようなショックを覚えた。唇から漏れたのは恨み言や怒りではなく嗚咽だった。憎んでいたに違いない伯母に引き取られた姉が不憫でならない。その悔しさが、夏生にもひしひしと伝わった。


 自分は死んでも、伯父夫婦に引き取られることがないようにしよう。芙美子が決意した。その時、思わず強く握りしめた糸切ハサミが、手のひらを深く傷つけた。赤い血が手を汚した。


(痛い!)声を上げたのは夏生だった。21世紀に戻るんだ……。遠ざかる意識の中で考えた。




 ――ホギャー――産声と、それに勝る痛みがあった。全身を真っ二つに引き裂かれたような焼ける痛みだ。


 産湯をつかう音が聞こえ、痛みが徐々に引いていく。


「立派な女の子だよ」


 暗闇の中に産婆の声がした。女の子に向かって立派はないだろう。普通なら、可愛い女の子だよ、と言うものだ。夏生は突っ込んだ。そうしてから、自分の意識が別の場所に飛んだのに気付いた。芙美婆ちゃんが最初に生んだのは伯父の流星だ。なのに、今産んだのは立派な女の子だという。今、自分は誰に宿っているのだろう?


 眼を開けると、産婆が差し出す真っ赤な赤ん坊が瞳に映った。女性としての感動と喜びがじわっと心に沁みてくる。それが自分の感情なのか、〝赤ん坊を産んだ誰か〟のものなのか分からない。


 周囲の様子が目に映る。景色はRAAの施設にある芙美子の部屋だった。


 まだ芙美婆ちゃんと一緒なんだ。……ホッとしたものの、子供を産むことに至った状況は理解できなかった。夏生は、芙美子の記憶を探る。故人とひとつになるのが3度めにもなると、宿主の記憶をまさぐるのにも慣れ始めていた。


 1946年に閉鎖が決まったRAAの施設は、あの猪熊晋佐久の手によって特別女子従業員ごと売られていた。(そんなことができるの?)敗戦後の混乱期とはいえ、そうしたことができたのが信じられなかった。


 施設の新しい経営者は闇市を取り仕切っている裏社会の人間で、彼は日本人相手の売春宿を始めた。芙美子はそこを出ることが許されず、毎日、紙人形を作り、渋々働き続けていた。そうして彼女が知らないうちに、大日本帝国は消滅して日本国に変わっていた。国民はアメリカ合衆国にならい、自由と平等、民主主義や戦後復興を叫んで産業の近代化にいそしんでいた。一方、戦争で中断していた道祖神の祭りが復活した。理由はわからないけれど、芙美子たちの外出を許さない経営者も、その祭に行く自由だけは与えてくれた。


 ――今は、今を受け入れるのです。いずれ、あなたも時代も変わる。その時に向かって自分がしていることを信じるのです。あなたがしていることは正しいのだから。……クグツメノシズカは以前と同じように芙美子を認め、励ましていた。


 自由、平等と声高に叫びながら、芙美婆ちゃんを奴隷同然にあつかう時代に、夏生は胸がむかついて仕方がなかった。クグツメノシズカにしても、もう少し役に立つ手の貸しかたがないものか、と不満を覚えた。しかし、芙美子の中には感謝こそあれ、クグツメノシズカにたいする不平や不満など少しもなかった。


「お母ちゃん大丈夫か?」


 男の子がひょいっと顔を見せ、夏生の思索を遮った。


「流星、大丈夫よ。赤ちゃんを見てごらんなさい。可愛いでしょ。妹よ」


 この子が伯父の流星か……。夏生は目の前の男の子を観察した。髪はぼさぼさで浅黒い肌もガサガサだったが、利発そうな眼をしていた。


 流星の相手は芙美子にまかせ、夏生は芙美子の記憶を探った。流星の父親は二階堂和樹にかいどうかずきという元大日本帝国海軍少尉だった。神風特攻隊に志願して死に場所を求めていたのだが、その機会が得られずに逝き遅れた彼は、好き勝手をやり暴力をふるう客だった。避妊せずに芙美子を抱くこともあった。「お前は内地でのうのうと暮らし、戦後はアメリカの女郎に成り果てたのだ。売女ばいただ。恩知らずだ」それが彼女に投げつけられた彼の言葉だった。彼女は殴られながらも、「助けて」と声を上げることはなかった。


(どうしてそんな男の子供を……)夏生は芙美婆ちゃんに対しても憤りを覚えた。


 妊娠に気づいた芙美子の頭を占めたのは困惑や不安ではなかった。子供がいれば、自分が死んでも遺体があの伯父夫婦に引き渡されずにすむという安堵であり、子供と共に生きようという意欲だった。


 売春宿では、妊娠すると強制的に堕胎させられる。仕事ができなくなるからだ。芙美子は妊娠したことを隠して働いた。サンフランシスコ平和条約が締結され、沖縄県のみをアメリカの占領下に残して日本国は主権を回復していた。日本国が主権を回復したように、自分も授かった子供を産むことぐらいの権利を勝ち取ろうと決めたのだ。


 腹が大きく膨らんで妊娠が発覚すると、蓄えていた金を払って施設に置いてもらった。そうやって長男の流星を産んだ。


(そうまでして産んだのに、流星伯父様とは仲たがいして……)夏生はぼやき、同情した。芙美婆ちゃんの心をまさぐってみて、ひどく悲しく感じたのは、彼女が流星の父親を愛していないことだった。


(静佳伯母さまの父親は……)その名前を見つけて驚いた。それは春奈の祖父、安田元春だった。彼は芙美子よりずっと年下で、米や野菜を闇市で金に換えて遊びに来ていた。言葉数は少ないが、彼女にはとてもやさしかった。彼女が最初の相手だったようだ。


 芙美子が元春を愛しているかどうか、微妙だった。以前は彼と一緒に暮らせたら、もし結婚できたらと考えていたが、今ではすっかりあきらめていた。妊娠したことを告げると彼は豹変し、子供は誰の種かわからないし遊郭の女とも結婚はできない、と釘を刺さされたからだ。それまで優しかっただけに、彼の刺した釘は芙美子の心を深くえぐっていた。


 静佳を産んだひと月後から、彼女は調理場に子供たちを預けて働きだした。最初はほんの少しの客相手だったが、徐々にその数を増やした。多くは常連客で、子供の話を聞かれると「あなたの子ですよ」とふざけて媚びを売った。常連客の中には元春もいた。彼には子供を産んだことは教えたが、それが彼の子供だとは話さなかった。


 当然のことだが、夏生は芙美子とずっと行動を共にしていて、彼女と共に泣き、彼女と共に苦しんだ。が、夏生だけの苦悩もあった。マンガやアニメが見られないことだ。彼女の欲求は、そこにある。(いつ、21世紀に戻れるのかなぁ)そうぼやくのが習慣になった。




 1958年のことだ。経営者は売春宿を廃業し、駅前の繁華街にキャバレーを開いた。後で知ったことだが、売春防止法が施行されたためだった。芙美子の仕事は、そこのホステスに変わった。相変わらず4畳の部屋に住む暮らしだったが、そこからキャバレーまで通う自由を得た。そうして彼女は、紙人形を作る習慣からも自由になった。


 キャバレーには20人ほどのホステスがいて、仕事帰りのサラリーマンや商店街の店主相手に濃厚なサービスを行った。売上や指名の数で収入が大きく変わるからだ。固定客を増やして収入を増やすために、彼女たちは常連客と肉体関係さえ持つ。自由恋愛という呼称で、売春防止法の網の目をかいくぐるのだ。


 そうした行為はキャバレーのオーナーの方針と合致していた。時には、オーナーが多額の金銭を受け取って売春を強要したが、それは例外的なケースだった。


 牡丹か芍薬か、といわれた芙美子は、子供を産んでもその容姿容貌が衰えることがなかった。彼女を指名する客は多く、ナンバーワン・ホステスの地位を獲得した。彼女と酒を飲むために、そして店外デートや肉体関係を持つために、客は惜しみなく金を使った。芙美子が客と寝るのは、彼らの関心を引くためではなく、自分のために金を使っうことに対する同情からだった。


 そうした客の中に篤の顔はあったが、元春の姿はなかった。国の戦後復興政策は工業に重点が置かれ、農業は保護という名目のもとで置いてきぼりにされていた。貿易が拡大して食糧事情が良くなると農作物の価格は低価で維持され、貧しくなった元春がキャバレーで遊ぶことはできなかった。


 時折、芙美子は元春のことを懐かしく思うのだが、夏生は違った。芙美子の気持ちを踏みにじった報いだ、と笑った。が、そうすると一緒にススキを刈った時の老人の顔を思い出すのが常だった。


 あの顔に刻まれた深いシワは、芙美婆ちゃんを地獄から助け出そうとしなかった悔いが作ったものではなかったか? 彼が悪いのではなく、RAAで働いた女性を受け入れない社会が悪いのではないか? そんな分析をしては元春に対する感情を中立にした。


 芙美子は、道祖神への恩を忘れてはいなかった。いや、未だにそれを心の支えとしているようなところがあった。祭りには、必ず2人の子供を連れて行った。子供たちは道祖神などに関心を示さず、食べ物や玩具の並ぶ露店に夢中だ。ちょろちょろ走る流星を追いかけて農家の軒先に入り込んだとき、芙美子は壁の張り紙に気づいた。――売家――黒々とした文字があった。


「この家を売るのですか?」


 芙美子は住人に声をかけた。彼は家屋と田畑を売り払って上京するという。道祖神もその土地を買った者のもので、残すも撤去するも、自由だと説明した。


(みんな東京に行くのね)非難めいた感想を言葉にしてから、興味本位に東京の大学に進学した自分を思い出した。


「私が買います」


 芙美子の声に夏生は驚いた。彼女は、その場で決断したのだ。


(芙美婆ちゃん、大胆だわー)目の前の十分に古い家は、5人の兄弟を育て、東日本大震災の後に取り壊されるのだ。そう知っているから感慨深い。


 晩夏、引越した芙美子は、前の住人が残していった鍬を取って道祖神の前に立った。


「すぐに自由にしてあげますからね」


 彼女は鍬を振り上げ、「エイッ!」と打ち下ろした。社がバリバリと乾いた音を立てて砕け散った。青空のもとに現れた丸い道祖神は、微笑むように輝いていた。今日から自分と道祖神の新しい生活が始まる。そう心を新たにすると、芙美子はとても幸せな気分だった。


「どうして壊したの?」


 いつの間にやって来たのか、さっきまで家の中を走り回っていた流星が目をぱちくりさせていた。夏生も彼と同じ気持ちだ。


「隠しておくのが間違っているからよ。これは、恥ずかしいものじゃないの。堂々としていなくっちゃ」


 それは、芙美子が女性として生きていることの宣言であり、未来を迎える覚悟だったのだろう。その時から彼女が元春を思うことはなくなり、篤の存在が大きくなった。彼は辛抱強く、数年をかけて芙美子を口説き落とし、いつかキャバレーの仕事から解放してやろうと誓った。


「俺は、源義経の血を引いているんだ」


 ある日、敦がささやき、芙美子は心を躍らせた。


(またあの場面だ……。どういうこと?)


 過去、芙美婆ちゃんと静御前に宿った時には1年ほどで元の身体に戻った。ところが今回は15年以上、祖母の中にいる。そして以前に経験した場面に遭遇しているのだ。


 もう一度、明美を産み、光紀と出会うのだろうか?……考えると、一つの言葉が閃いた。


(ループ)


 それはSFやゲームにありがちな展開だった。ある1日が終わると、翌日もその1日だったり、夏休みが繰り返されたり、戦争中に死ぬと、戦闘前の特定の日時に戻ったり……。そうしたマンガやアニメは沢山ある。このまま芙美婆ちゃんの人生を繰り返し、21世紀の自分の身体には戻らないのだろうか?……このまま芙美子の宿り木のまま一生を終えるのではないかと不安を覚えた。


 夏生が恐れていた通り、芙美子が夏生を産み、光紀と出会う現場に再び立ち会った。そこで彼女の予想ははずれた。道祖神のある家に戻ったあとも時間はもどらず、東京オリンピックにむかってズンズン進んだ。そうして俊史が生まれた。


 自分の父親を産むという経験に、夏生は不思議な喜びを覚えていた。(出産に慣れたなぁ)とも思った。自分の、正確には芙美婆ちゃんの乳房に吸い付いた俊史が黙々と乳を吸う姿を見ると、しみじみ幸せを感じる。それは芙美婆ちゃんの気持ちと同一のものだ。


 RAAの存在、異なる父親たち……。芙美子の子供たちが自分の父親を知らず、話題にすることを避ける理由はわかった。そうした疑問が解けたところで喜べるわけはなく、21世紀にもどれないかもしれないという不安は恐怖に変わっていた。


 ――後悔するかもしれませんよ――


 思い出したのは、2度めにあった時のクグツメノシズカの言葉だった。彼女が言った後悔というものが、元に戻れなくなるということだったのかもしれない……。そう気づき、本当に後悔した。21世紀の日本に特段の夢や希望はないけれど、面白いマンガや美しいアニメがあった。それが見られないのは残念だ。いや、芙美婆ちゃんは21世紀まで生きるから、見られる可能性は残っているのだけれど、芙美婆ちゃんがマンガ本やアニメ番組を見てくれるとは思えなかった。


(ダメだー!)夏生は声を上げて泣いた。(でも、このままなら、34年後には生まれたばかりの自分に会うことになるのか……)好奇心がムクムク頭をもたげるのを(ダメだ、ダメだ……)と抑え込んだ。(芙美婆ちゃんの人生は波乱万丈で刺激的だけれど、これは私の人生じゃない。就活だって……、それは想像するだけで辛いものだけれど、漫画研究会の先輩が人事部長を紹介してくれると話していた。……少し、光が差し込んでいたところじゃない)


(あっ!)と気づく。(道祖神の前の私の肉体はどうなるの? 意識のない人間として病院に行くのかな。まさか、脳死と判定されて……)脳死の際には臓器提供に同意する、と保険証に書いたことを思い出して蒼ざめた。(静佳伯母さんも、私みたいに戻れなくなって死んだのかもしれない……)その時、形にならない涙を絶望と呼ぶのだ、と声が過った。


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