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柚科葉槻の怪談噺。  作者: 柚科葉槻
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自分が体験した話。2

 社会人になった私は、よく車を運転するようになった。

 仕事ではもちろん、性に合っていたのか私生活でも車で出かけることが多くなっていた。


 ある日、私は車を運転して買い物に行っていた。車のおかげで、家からは遠いお店にも楽々行ける。「ドライブ」は私にとってストレス発散にも効果的だったため、その日は上々の気分で家へと向かっていた。


 大通りから私の家へは、川の土手の下を沿って走る裏道を通るのが早い。ただ、その道はところどころ軽自動車でも対面できないほど狭くなり、また川側は夏になると背の高い雑草が茫々に生え、反対側は家が所狭しと連なる住宅街という視界の悪さがあり、慎重に運転していた。


 ぽつりぽつりと雨が降ってきていた気がする。

 人が道の真ん中に立っていた。


 女の人だったと思う。ナチュラルテイストといわれそうな白っぽいワンピースを着て、彼女は道の真ん中に立っていた。

 顔はこちらを向いていたと思ったが、彼女は近づいてくる私の車を見ても、全く微動だにしなかった。


 私の車は親が十年以上も乗っていた古い車だ。駆動音だって今の静かな車に比べると格段に五月蠅い。後ろから近づいても一瞥はしてくれるような代物だ。

 そんなある意味存在感のある車が近づいてきているというのに、本当に彼女は全く動かなかった。


 彼女の手前で車を止める。

 そこら辺は珍しく車同士対面できる道幅だったが、その女は丁度道の真ん中にいた。幅を空けて通るのは難しく、もし通ろうとするなら女と住宅側の塀の間をかなりギリギリの距離で抜けなくてはいけなくなる。

 そして彼女は、ここまで接近しても動こうとはしなかった。まるでそこに突如生えた無機物の塊のように、身じろぎ一つしていない。


 クラクションを鳴らすか、それとももうそのまま通ってしまうか。少し考えていると、彼女の向こう側から一台の車が、つまり対向車が来た。その車は、通常時その道を走る速度、徐行より少し早いくらいのスピードで、道の真ん中に立つ彼女とすれ違った。

 女はそれでも動かなかった。後ろから来た車に驚くでもなく一瞥するでもなく、私が発見したときから全く変わらぬ体勢で、道の真ん中に通っていた。


 ふとバックミラーを見ると、後続車が近づいてきていた。私は先ほどの対向車と同じように、しかし女と塀の隙間を擦らないようにとてもゆっくりに彼女の脇を通り抜けた。


 端に寄りすぎた車体を戻しているうちに道はカーブし、女は見えなくなっていた。


 その道はそのあとも何度も通ったが、その女を見たことはない。

 彼女は一体何をしていたのか、私は今でも不思議に思う。

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