逆・異世界転移物語
「ふふふ、勇者ガトーよ、よくぞここまで辿り着いたな。しかしもう遅い。あとはキサマらを倒すだけ。この世界は我輩のものだ!!」
「黙って聞いてれば勝手なこと…!この世界はお前なんかに渡さねえよ!行くぜみんな!!うおおぉぉぉぉぉっ!!!!!」
「「「っっガトーーー!!!!」」」
そのとき俺は悟った。
あ、これは終わった…と。
この世界の災厄といわれ、世界征服を目論み自らの野望を叶えるために数多の魔物を生み出した"ランブリエル" —いわゆるラスボスである—の討伐。
俺とアリーは勇者の村で育った幼なじみ。
この村に伝わる伝説の勇者"セリアス"が魔王から世界を救って数百年。しばらくは平穏な暮らしが続いていたが、なにかをきっかけにまた魔物が増え続けていた。
そして迎えた18歳の誕生日。このままではまたこの世界が危険に脅かされてしまうと危惧した村長から魔物退治を命じられ、ひとりでは心ぼso…いや、仲間がいたほうが心強いため、魔法が使えるアリーと共に魔物退治の旅を始めた。
ここからはよくある話さ。
各地方で幅を利かせてた魔物をやっつけ、その途中で出会ったエレックとレノンを仲間に入れ旅をしていた。
—それから4年の歳月が経った。
ランブリエルの情報はずっと前に掴んでいたのだか、俺たちは最強の武器、最強の防具、最強の呪文を手にするために、今まで旅してきた町やダンジョンを含め、地図に載っていない島を開拓し、世界を隅から隅まで冒険していた。
そこまでしなくても倒せるんじゃないかって?
まあ念には念をってやつだ。
無事に最強の装備を手に入れた俺たちは、いつの間にかLv99になっていた。
<<<これなら確実に勝てる!!>>>
自信が確信に変わり、俺たちはランブリエルの住処に向かった。
そして対決。
長年の苦労が報われる日が来るはずだった—。
結果、パーティーは全滅。
もういやだ。
闘いたくない。
心が折れてしまった。
Lv99まであげたのに。
「直前のセーブポイントに戻りますか?」
…どこからか声が聞こえる。
もう戻りたくないときはどうすればいいのだろう。
「この世界に戻りたくないのですね。では、どんな世界をご所望でしょうか。」
そうだな、次は武器を持たなくてもいい平和な国がいいな。仲間が死ぬのももう見たくないし。
そうだ、今度はひとりで生きて行こう。
そうなると、ある程度お金は必要だな。住むところも食べるものも着るものも必要だしな。
そう考えるとお金はいくらあっても困らないな。ゴールド稼ぎのためにレベル上げしてたところもあるしな。ははは。
思えば、これまで色々なことがあったな。
アリーには怪我したときいつも回復魔法で助けてもらっていたし、頭脳派のエレックは、知識が豊富でモンスターの解析にも長けてたから相手の弱点を見つけるのが上手かったし、レノンは武器を作るのが最高に上手いんだよな。あいつの武器のおかげでMPの消費をほとんどせずに必殺技使えてたな。
なのに。
なのに。
なんで俺は…!
最後の最後に泥に足を滑らせて敵の前でべしゃって倒れちゃうかなー!!!///
思い出しただけでも恥ずかしい///
そもそもなんでラスボスが山にいるの?ラスボスって島ごと浮いてるでっかい城とか地下のダンジョンとかに住んでるんじゃないの?しかも急に雨降る?たしかに天気予報はくもりときどき雨だったけど!お昼まで晴れてたじゃん!くもりときどき雨なのに晴れてたら、今日討伐しかないっしょ!って気になんじゃん!!
ラスボスと戦ってるときに雨は降ってくるし雷も鳴りはじめるし、山だから地面ぬかるむし、そりゃ足滑っちゃうよね、だって俺ブーツだもん!ブーツって雨の日けっこう足滑っちゃうよね、なんなんだろうねアレ!
…はぁ。
ごめんな、みんな。
みんなの努力を無駄にはしたくなかったけど、恥ずかしすぎてもうみんなに顔向けできないよ。
セーブポイントまで戻っても俺には記憶があるんだもん!そういやここで足滑らせたなって鮮明に思い出しちゃうもん!もうある意味トラウマだよね!!
俺はみんなの役に立ちたかったんだ。仲間はもちろん、育ちの村の人々や行きつけの酒場の常連たち、武器屋のおっちゃんに宿屋のおばちゃん。みんなの笑顔がみたくて旅してた部分もあったな。
もう無理だけど、もし今度会えたらみんなが困ってるときに手を差し伸べられる奴になりたい。勇者以外だったらなんだってやってやる!
あぁ、でもせっかくLv99まで鍛えたのにこのまま死ぬのはもったいない気もする。
俺の能力は残したまま別の人生を歩める、なーんて都合のいい話ないかな。
「平和な世界…金貨を稼げる…人の役に立つ…能力活用…。条件マッチしました。今から転移モードに入ります。」
転移?
転生は聞いたことあるが、なんだかよくわからないな。もう、なるようになればいいか。
「完了しました。貴方様に神の御加護があらんことを—。」
その瞬間、眼の前が真っ暗になった。
このときは知る由もなかった。
俺の第2の人生—逆・異世界転移物語—が始まろうとしていることを。
2話へ続く。