第6話 億の宝(2)
スルガ山への道のり。
地面の起伏が激しく、馬車が上り下りを繰り返し、ガタガタと揺れる。
そして周りは何やら薄暗い色をした霧に覆われており、とてもリラックスできるような場所ではなかった。
「ほんとにこの道であってんのか・・・?気味が悪りぃ」
馬の手綱を握りながらゲルドは周りを見渡す。その視線には霧しか映らず、その先は見えない。
「道は大丈夫だ。だがこの霧は・・・」
「私も見たことないわ。なんかジメジメしてるし嫌ねーほんと」
「な、なにも出ないでやすよねぇ・・・?」
ザラの手下も3名、代表で同行している。
船が壊されるのをみすみす許したことを恥じ、せめてということで宝の回収係になった。
「霊の類は出ない。だがこれは確実に魔力による霧だな。水分が感じられない」
「!?魔力でこんなことができるでやんすか!?じゃあ・・・」
「ああ、アバヤだろうな。俺たちの接近に気づいているかもしれん。しかも広範囲でハイレベルの魔力を持っている」
「ふん、あいつも魔人とはねー・・・」
魔人は魔力を持つだけでなく、自身が成長すると魔力に伴った固有の能力を得る。アバヤにとってはこの霧がそうらしい。
「んで、あとどんくらいで着くんだ?」
「あとちょっとで麓だ!言っとくけど俺はそこで待つぞ」
「わかってるって。戦うのは俺たちだろ?」
ハクとザラが頷く。戦うことに恐怖などはなく、むしろ戦意が漲っているように見えた。
「ん・・・?霧が濃くなってきたな」
麓に近づくにつれ、徐々に霧の濃度が増していく。先ほどまではなんとか足元が見える程だったが、今はそれすらもよく見えない。
「ゲルド、これ以上は馬車で行くのは危険だ。戦う俺たちだけで歩いて行こう」
「ああ、じゃあ止めるぞ」
ゲルドが手綱を引き、馬を止める。
休むにはちょうどいい岩場があったのでゲルドと子分たちは持ってきた折りたたみの椅子を立て、一息つく。
「よし、先は見えねぇけどまあなんとかいけんだろ。道なりでいいんだよな?」
「ああ、念のため俺が先を歩く。付いてきてくれ」
ハクがそう告げ、霧の中に消えていく。シンとザラがそれに次いで歩き出した。
「んじゃ、気長に待つとしますか・・・」
「でやんすねぇ。ところでゲルド君はなんで兄貴たちと一緒に?
「ああ、それは・・・」
ーーー
ーーー
3人が歩き出して随分時間が経った。
霧はますます濃くなり、お互いの存在が確認できないほどだ。
「ここまで濃いとどこに進んでるかも怪しい・・・霧を晴らしたいが・・・」
「ねぇ、なんか見えない?あれよ」
ザラが霧の向こうに見えたものに指を指す。
「あれ?どれだ?」
「あー、手で指しても見えないわよね。進行方向から2時のとこ、小さいけど見えない?」
「ん・・・灯りか?」
ハクもそれが見え、そこに足を進める。
すると、
「お、動いた」
サンも灯りを確認し、近づいたが灯りが進んで止まり、進んで止まりを繰り返す。動く方向も定まっていない。
「・・・そうか、ヒネズミだ。灯りの理由だ」
「ネズミ!?ちょっと追い払ってよ!!」
「大丈夫だ。こっちには近づかん」
ヒネズミは尾を発光させることが特徴的なげっ歯類。繁殖性は低く、人の目の前に現れることは少ない。
「ほぉ・・・強い灯りは霧を通すのか。おいシン、火をくれ」
「・・・」
「シン?」
ハクがシンに呼びかけるが応答がない。
「なに?どっかいったのあいつ」
「この霧の中でか?そこまで馬鹿じゃないはずだが」
「馬鹿の雰囲気はあるけどね、トイレでも行ってんじゃない?」
「はぁ、待つか」
「ネズミがいるところで待たせんじゃないわよもう・・・やだ・・・」
来ない。
いくら待ってもシンが戻ってこない。
「・・・ほんとなにしてんのあいつ。静かすぎてネズミものんびりしてるわよ」
「これ以上は待てんな、アバヤに逃げられる前に先に行こう」
2人は先を急ぎ歩き始めた。
やはり歩くにつれ霧は濃くなっていく。
山を登る道も傾斜が大きくなり、険しい道となる。
(この霧ほんとに気味悪いわね・・・あいつらしいわ)
(この道、馬は通れないな。宝はどうやって運んだ・・・?)
ハクが思考を巡らすその時、
パァン!
一発の銃声が響く。
「!」
「何?今の」
「わからん、だが頂上からだな、近いぞ」
ハクとザラはスピードを上げ、魔人特有の身体能力で山道を駆け上がった。
頂上が近づくにつれて霧が薄くなり、銃声を含む騒音が大きくなる。
「・・・悲鳴も聞こえる。何かあるな」
「普通じゃないわよ。気引き締めなさい」
「ああ」
頂上に近づき、おそらくアジトであろう砦に到着した。木製の柵壁に囲まれた奥からは先ほどの騒音が鳴り止まない。
「これは・・・戦闘の音だ」
「入るわよ」
「扉はどこだ?薄いとはいえ霧で見えないが・・・」
「ここよ」
ドガァン!!
ザラが拳で壁をこじ開ける。
空いた穴は大人3人は余裕で通れる大きさだ。
「ええ・・・普通は気づかれないように」
「いいのよ!入るわよ!」
二人は砦に侵入する。
白は周りを見渡し、現状を把握する。
砦の中は荒れ果て、人も数十名は倒れている。木の破片や銃などの武器も散乱しており、至る所に血痕がみられる。
「これは・・・」
「ハク!!!」
大きな木箱が勢いよくハクに降りかかる。
ザラがとっさにハクに飛びかかり、木箱から回避する。
落ちた木箱は大きな音を立てバラバラに破壊した。
「ザラ・・・ありがとう」
「あいつよ、投げたの」
「投げた・・・?」
ハクとザラの視線の先には、木の根。
先が尖っており、人間二人ほどの大きさのものが10本はあるだろうか、それが縦横無尽に暴れまわり、アバヤの部下たちを次々となぎ倒していく。
「なんだあれは・・・」
「わかんないわよ、でも私たちのこともわかってる」
「あんな開け方するから・・・」
「うるさいわね!!!とりあえず相手は敵意むき出し!やるわよ!!」
そう言い、ザラは担いだ槍を持ち、魔力を解放する。
周りに風が起こり、軽く砂埃が舞う。
「君が先に行ってくれ、援護する」
ハクも腰から銃を抜き、魔力を解放する。
ザラと同じように周りに砂埃が舞う。
「了解!」
ザラが勢いよく走り出し、根に近づく。
根もそれを感知し、ザラに向かって上下左右から次々と攻撃を繰り出す。
「ふん、手入れがなってないんじゃない?私が綺麗にしてあげる♪」
ザラが攻撃を躱しながら、槍で根を1本、2本と切り落としていく。
だが、先っぽを切り落とされた根から新しい根が生え、再生している。
「な、なによそれ!反則じゃない!!」
「ルールなどない!根の中心を見つけろ!!」
ハクはザラに襲いかかる根を銃撃でインターセプト、撃ち落としている。
その中、10本の根の元は一つに集まっていることを見つけた。
「中心は結構遠いわ!近づくには根の数を半分にしたい!」
「半分、5本か・・・ザラ、飛べ!」
「!」
ハクの声に応じ、ザラは上に大きく飛ぶ。
「わかってるな!」
「ええ!いいわよ!」
ザラが空中に槍を構え、大きく力を込める、これはシンと戦った時に見せた、槍を投げる構えだ。
「・・・久々だな」
ハクは両手の銃をクロスさせ、根に向ける。息を止めながら、根がザラに襲いかかるのを待つ。
(まだだ・・・3.2.1、ここだ!)
ドンッッッ!
クロスさせた銃から二発の白く光る弾丸が放たれる。
弾丸は根に命中し、命中した部分からなんと氷が広範囲に発生し、10本の根を拘束した。
「氷か・・・いい能力じゃない」
根が拘束されるのを確認しザラはさらに力を込める。
「じゃあ、私も見せてあげるわ」
すると、槍が徐々に魔力を帯び、ついには雷の力を発生させる。
「いったいわよぉ・・・いけぇ!!!」
ザラが槍を思い切り投げつける。
槍は根を次々と貫き、地面に突き刺さった瞬間に上空から雷が落ちる。
ドガァ!!!
「うおっ!!!」
あまりの衝撃にハクが腕で体をかばう。
衝撃波が止み、彼が顔を上げた時には、彼の周りには破壊された氷の破片が光を反射し、それは雷を帯びていた。
根は焼け焦げ、地面に倒れこんでいる。もう再生できないようだ。
「ふぅ・・・」
「凄い威力だな」
「まぁね、私も単発の強さじゃかなりいい方だと思ってるわ」
「・・・君が素直でよかったよ」
「なにぃそれ?バカにしてる?」
「違う違う笑
知り合ってばかりの俺に背を預けるなんて普通できないだろう。でも後ろを任せてくれた、ありがとう」
ハクがザラに微笑みかける。
ザラもそれに笑顔で返す。
「私が仲間って言ったら仲間よ。さ、中心に行くわよ!!」
「ああ!!」