第5話 億の宝(1)
「はぁ!?船が出せない!?なんでよ!!」
ザラが子分の一人に問い詰める。その迫力に子分もタジタジだ。
「お、怒らないでほしいでやんす!船が穴だらけで・・・修理がいるでやんす!」
港に着いたシン・ハク・ザラだったが、ザラが紹介しようと指差したものは、2本のマストが折れ、甲板も荒れて傷だらけ、側面もそこら中穴だらけと見るに耐えないが、軍船までは行かずともかなり大きな帆船だった。
「うおー、でけぇ・・・」
「随分大きな船だな。スピードも出そうだ」
シンとハクは当初このような帆船だとは思っていなかった。ザラ達4人と自分達2人が乗れる小型の船程度だと考えていたが、帆船の威風堂々(のはずだった)たる存在感と子分の人数の多さに圧倒されていた。
「ここに着いた時はばっちしだったじゃない!!どういうことよ!!」
「し、知らないでやんす!アネゴが宝を取り返しに行ってる間に・・・」
「見張りはどうしたのよ!!!!常に2人は付けろって言ってるでしょ!!!!」
「ひぃぃアネゴ怖いでやんす!落ち着くでやんす!!」
声を荒げすぎたのか、息を切らすザラ。
赤い砦を潰さんと意気揚々としていた矢先だ。思いもよらないことで苛立ってしまっても仕方ない。
「んの馬鹿どもが!!!修理は幾らかかるのよ!!!!」
「船大工に聞いたら1000万はかかるって・・・」
「・・・ったく出費にしてはデカすぎるわね。まだ換金してないやつさっさと金に換えて来なさい!億は下らないだろうから、それなら足りるでしょ!」
「そ、それが・・・」
「なによ!!!!!!まさか盗られたとか言うんじゃないでしょうね!!!!!!」
「そ、その通りでやんすぅぅぅ!」
「ふざけんじゃねえぞ!!!!!!」
「ギャァァァァッッッ!!!」
ゴンッッッ!!!
ザラが子分の頭を殴りつける音が辺りに響く。かなり鈍重な音だ。
彼女の怒りは留まることを知らず、次々と子分達を殴りつけていく。
ゴンッッッ!!!
ゴンッッッ!!!
ゴンッッッ!!!
「お、おいザラ。そのくらいにしといてやれよ。わざとじゃねぇんだろ?」
子分達が殴り飛ばされ海に放り出されるのを見かねたのかシンが声をかける。
「あんた・・・あの箱並みに価値のある宝もあったのよ。それをこんな簡単に・・・」
「取り返してやるよ。それなら船も直るんだろ?」
その言葉に子分達の目に輝きが蘇る。
「い、いいんでやんすか!!!???」
「・・・ごめん、助かる。あんた達がいれば百人力だわ」
ザラが胸ぐらを掴んでいた子分を解放し、残った荷に腰掛ける。子分達はザラが落ち着いたのを確認するとシンの元に猛ダッシュし、囲い込む。
「キレると鳴り止まない豪雷と呼ばれた姉御を落ち着かれるなんて・・・アニキと呼ばしてほしいでやんす!!」
「アニキ!!!」「アニキ!!!」
「うおっ!」
子分達がシンを持ち上げ、辺りを走り始める。
「アーニーキ!!!アーニーキ!!!」
「お、おいやめろ!!俺はそんなつもりじゃ・・・」
ーーー
ーーー
「うわぁそりゃ悲惨だなぁおい・・・」
子分達のアニキ大行進も収まり、夜になった。今日の分を売り終えたゲルドも戻り、ハクから現状を聞いた後だ。
「その盗んだ奴らはわかってるのか?」
「見た奴らはいない。でも心当たりはあるわ」
「山賊か?」
ハクが答えがわかっていたかの様だ。
彼にも心当たりがあるらしい。
「え、よくわかったわね!なんで?」
「あの船の穴だが、あれは何か硬いもので無理やり貫かれた跡だろう。俺の予想は鎖付きの鉄球。それなら高いところにも届く。その鉄球を辺りで持っているのは賞金首のこいつだ」
ハクが懐から似顔絵が描かれた手配書を3人に見せる。
「えーっと、名前はアバヤか。って800万ギル!?」
ゲルドが手配書をみて飛び跳ねるように驚く。彼が半年売り続けても到達できない金だ。
「そう、ザガンがいなくなった今、これからこの街の裏を牛耳るのはこいつだ。金も手に入るしちょうどいいだろう」
「こいつに間違いなさそうね。しょっちゅう盗みの噂を聞くわ・・・てゆーかこいつ私のこと知ってるのに船を襲ったの・・・?」
ザラはアバヤと顔見知りだった。だが仲がいいというわけではなさそうだ。
「舐めやがって・・・!赤い砦の前にぶっ潰してやるわ!!!」
「んで、どこにいるんだ?」
「恐らくスルガ山だ。生物と水が豊富だ。この山が一番生活しやすいだろう」
「あそこかー、なら俺の馬車で3日ってとこだな」
「決まりね!!!ぶっ潰す!!!」
「・・・やっぱ俺もいくの?」
ゲルドは戦闘が得意ではない。それはシンとハクも薄々感じていたのだが、
「誰が馬車を運転すんだよ」
「お前がやれよ!こちとら往復6日分の売り上げが無くなるだろうが!」
「馬の勝手がわからない。運転してくれ。アバヤの懸賞金の半分は君のものでいい」
「行くわ!!!!!!!」
「落ち着けって・・・」