第4話 槍来(2)
「やってくれるわねあんた!宝を盗んだ上こいつらを・・・」
「手出したのはお前らだろ!セイトウボウエイってやつだ!」
女性が蹴りを繰り出し、シンが腕で受け止めるがあまりの力に吹き飛ばされてしまう。
ドガッッッ!
「ぐぁ!」
その隙に女性が槍を持ちシンに追撃をしようとするが、蹴り飛ばした先にシンはいなかった。
(もういない!?私の蹴りで動ける・・・!)
違和感を感じた女性の背後に殺気が襲いかかる。シンが剣を振り下ろす瞬間だった。
女性が背後に槍を回し、咄嗟に剣を受け止める。振り向くが彼の姿はない。また背後に回られている。
(速い・・・速さじゃ私以上か!)
後、右、左、上、右と次々と女性に斬撃が襲いかかる。
剣と槍がぶつかり合う高い音が街に鳴り響く。
シンのスピードにゲルドは唖然としていた。
「お、おいハク、どうなってんだよ」
「・・・互角か」
最初はシンのスピードに振り回された女性だったが、慣れてきたのか徐々に槍で受け止めず躱せるようになる。
(こいつ・・・!もう慣れたのか!)
シンがさらにスピードを上げ、女性にさらに斬りかかる。
(まだ上がある!?ちょこまかと・・・!)
女性が一つの斬撃を槍で受け止め、力で大きく吹き飛ばす。
吹き飛ばされても瞬時に立て直し、シンは体に力を込める。
「ちっ、このままじゃ拉致があかねぇ。ちょっと力使うぞ!」
「なに!?おい!!やめろ!!」
ハクが叫ぶがシンには届かない。
ドンッッッ!!
シンが剣を構え直した時、彼の周りの足元に亀裂が走る。
その姿を見て青鎧の女性に戦慄が走る。
「あ、あいつ!!こんな街中で!?」
シンが地面を蹴り出し、大きく跳ぶ。
重力を利用し、袈裟斬りを浴びせようとした時。
ドンッッッ!!
「! あいつもか!」
青鎧の女性も槍を構え、「力」を使ったようだ。同様に亀裂が走る。
振り下ろされた剣と槍が激しくぶつかり合い、波動のようなものが周りに響く。
周りに砂埃が舞い、近くの小さな物は軽々吹き飛ばされる。
ゲルドはその波動に押され、尻餅をついた。
「んだよこれぇ!」
「ゲルド!!・・・ちっ!!!」
ハクが空に銃を向け、一発の銃弾を放つ。
その音に反応し女性が後ろに引き、シンも剣を収める。
ハクが空中に向けて発砲したようだ。
「んだよハク!」
「周りを見ろ。みんな怯えてる」
二人の激烈な戦いに、酒場の周りに住む住民
達は怯え、その場から離れる者、家に立てこ者、腰が抜けて動けない者がたくさんいる。
「わ、悪りぃみんな!怖がらせるつもりはないんだ!」
シンが必死に周りに訴えかけるが、住民からすれば彼はもはや化け物。差し伸ばされた手も自分に害をなそうとする魔物に見えてしまう。
「ひぃっ!ま、「魔人」!!」
「!ごめん!ちょっと喧嘩しただけだ!みんなに危害は・・・」
差し伸ばした手に目もくれず、動ける住民達は逃げ出した。腰を抜かした人達はゲルドが手を貸し、ゆっくり立ち上がらせている。
「おい、もうだめだ」
「・・・ちくしょぉ・・・おい!!」
シンが女性に体を向け、叫ぶ。だが、もっと遠くにいるものと思い叫んでいたがすぐ隣に立っていた。
「うぉぉぉぉい!!近ぇよ!!」
「ふぅん、根っからの悪人ってわけじゃなさそうね」
「は!?悪人はお前だろ!人のこと襲ってきやがって!」
「あんたがうちの宝を盗んだからでしょ!早く返しなさいよ!!」
「盗んでねぇよ!!勝手に載ってたんだ!」
「・・・はぁ?」
「落ち着け二人とも、俺が説明するから。だがここではまたみんなを怖がらせる。酒場に入ろう」
ーーー
ーーー
「あんなことになったのになにもなかったような感じだなこの酒場・・・」
「この酒場喧嘩はしょっちゅうあるんだよ。慣れだな」
酒場でハクが丁寧に女性に経緯を説明する。自分達がゲルドの商売を手伝っていること、いつのまにかあの箱が積まれており、それにまったく見覚えがないことだ。
「じゃあ私の勘違いってこと?」
「そうだ」
「なによもう・・・悪かったわね、ごめん」
女性が頭を下げる。案外素直な性格のようだ。
「誤解が解けたならそれでいいんだ、お前もいいだろ?」
ハクがシンの顔を見る。
「・・・」
シンは目の前の水を手に取り、口にする。
「なによ、まだなんかあるわけ?」
「・・・やっぱ魔人ってこうなるんだな」
「・・・」
魔人。
普通の人間なら持ち得ない力「魔力」を持つ人間のこと。
人を容易に殺すことができる超常的な力なため、一般市民からは恐れられ、化け物扱いされている。都市によっては人とみなされない場所もあるほどだ。
「仕方ないわよ。そりゃ怖いわこんな馬鹿げた力」
「怖がられるってわかってたのにやっちまった。本当はみんなの味方になりたいんだけどな」
彼は自分が一般市民からどう見られるかは理解している。世の目から見ると彼の力は蔓延る魔物と大差ない。
「俺たちの宿命だな。力を持つものは妬まれ、求められ、時に恐れられる。力を使って街を脅す者もいる。そんな奴らがいる限りもう直らん」
「・・・」
「ねぇ、なんでもいいけどとりあえず箱返してくんない?」
「いや、まだできない」
「はぁ!?なんでよ!?」
ザラが強引に話を自分の方に引き寄せるが、ハクにはまだ問うことがあった。
「あの箱、本当に君のものか?」
「今はそうよ。私が手に入れたんだから」
「今は、か。君は盗賊だろ?」
「は、ご明察。でもちょっと違うわね」
「そうか、ではあれも盗んだのだな」
「え・・・なんでわかんの?」
同席していたゲルドが思わずハクに問いかける。自分の荷に盗品が積まれていたとなるとたまったものではない。
「あの箱な、華麗な装飾に頑丈な構造、専用の鍵付きとなるとおそらく王族の宝箱だ」
「おいおい嘘だろ!そんなもんうちに載せんなよ!」
「逆に見てわからないの?あんなのそういうレベルの人しか持ってないわよ」
「平民は知らねぇよ・・・」
「だから私も盗まれたと思ったのよ。あんなわかりやすい上に確実に価値があるもの」
「な、なるほど・・・」
「で、私が盗む悪党だから返せないってこと?」
「違う。情報が欲しい」
「あぁ・・・ま、当然ね。転がり込んできたものちゃんと利用するじゃない。いいわ、なによ」
「話が早くて助かる。赤い砦を知っているか?」
「うん」
「!!」
3人が強く反応する。それに女性も驚き、体を引く。
「な、なによ!びっくりするじゃん」
「知ってること全部教えてくれ。あの箱と交換だ」
「だから話すって!でもあんな奴らをねー・・・」
女性は赤い砦について話し始めた。
盗賊なだけあり、情報にかなり精通しているようだ。
この話でわかったことは、
・反ロッシ組織で、ロッシを潰すためならなりふり構わないこと
・各地から戦力や他に力になりそうな者を攫っていること。
・よって最近ますます力を得ていること
・アジトの場所が湖に浮かぶ孤島にあること
・ボスが残虐非道で、近づくのは危険なこと
「・・・と、こんなとこね。これでいい?」
「ああ、ありがとう十分だ」
「なんでこんな情報が欲しいのよ。完全に嫌な世界の話よ?」
「君の二つ目の話だ。仲間が攫われた」
「なるほどね。そら探すわ。でもあいつら簡単には返さないわよ。戦ったことあるけどイカれてる奴らばかりだわ」
「分かっている。簡単には済まんことはな」
「・・・ふぅん。じゃあ潰すんだ」
「ああ」
女性が壁に体を預けながら飲み物を口にする。なにか考えているようだ。
「面白そうじゃん。ねぇ、私も混ぜてよ」
ぐっと飲み物を飲み干し、笑顔を見せる。
その言葉にシンが呆れたように話し出す。
「はぁ?危険ってわかってんだろ?」
「あら、私の強さはあんたが一番わかるんじゃない?」
「お前じゃねぇよ!あの外の奴らも連れて行くつもりだろ?」
扉の外に伸びている手下たちのことだ。
彼は手下の身を考えているらしい。
「へぇ、案外優しいのね。でもあいつらは戦わせないから大丈夫よ。弱いから」
「弱いってわかってて俺にけしかけたのか」
「あんたがあんなにやり手って知らないし」
「もうちょっと丁寧に使ってやれよ」
「まぁあいつらのことはいいわ。で、どうなのよ!私を連れて行くならあの箱、あんたらにあげる!」
「うーん、別にいらねぇけどなぁ。どうする?」
シンがハクのほうを見る。
「理由は?君は仲間も連れ去られていないだろ?」
「あんなに街を壊したり人攫いをしてる野蛮な奴らよ?宝の一つや二つ隠してるはずだわ。それに気に入らないのよ。あいつら国を取り戻そうとするけど他の国はどうなってもいい、物資を奪うだなんてとんだ横暴だわ」
「・・・いいのか?こいつも言ったが危険だぞ?」
「あぁもう!まさか女扱いしてないでしょうね!さっき戦ったって言ったけど、私の圧勝だからね。心配ないわ」
「・・・戦力が多いに越したことはないが」
「でしょ!ていうか、あんたら私を入れないと損よ。島のアジトまでどうやって行く気?」
「船を借りるしかないだろうな」
「たっかいわよぉ?100万はかかるわ」
「・・・」
ハクがシンの顔を見る。シンは「向こう」を見つめ目をあわさんとしており、自分の食費で金がないことはわかっているようだ。
「確かに高いな」
「でしょ?でも私ならタダよタダ!」
「? どういうことだ?」
「もう仲間でいいわよね?じゃあ名乗ってあげる」
「ザラっていうの。海賊よ!」
新キャラきました〜!
女海賊ザラです!!
かなり重要なキャラになるので彼女の活躍をお見逃しなく!
それでは!!