第3話 槍来(1)
「ゲルド!!すっげえな!!今日の分完売じゃねぇか!!」
「今日は結構調子よかったなー。手伝ってくれてありがとな」
日も暮れた頃の帰り道。
市場で簡易的な商店での販売を終え、ゲルドとシンは酒場に戻る。
シンは本日のゲルドの店捌きに感動し、赤い砦のことなど抜けてしまったようだ。
「売り上げもすごいんだろ?」
「いやー、実はそうでもない。数は売れるけどな、このご時世、軍に金が回ってる。市民達には金が回らず、商品自体の値段が高いとまぁ売れねぇ。だから安く売るしかないんだ。ま、それでもラスィードは高めに売れるほうだけどな」
「へぇー、そんなもんか」
シンが商売の話をゲルドに振り続け、帰り道の時間はあっという間に過ぎていった。
彼は元より商売、特に直接客に売ること小売に興味があるようだ。
「よし、着いたぜ。荷物下ろすの手伝ってくれ」
「俺も手伝おう」
馬車が酒場に到着し、酒場からハクが現れた。彼は今回別行動で、自身の足で赤い砦についての情報を集めていたのだ。
「今日はどうだったんだ?」
「売るのはうまくいったんだけどなー、赤い砦について知ってる人はいなかった」
「やはりそうか。俺の方も収穫がなかった」
「とりあえずさっさと下ろそうぜ。飯食いてえ」
シンが馬車の後ろ側に回り、カーテンを端に寄せる。夕日を浴びた商品達の中に、彼の見覚えのない荷が積まれていた。
「・・・んん?おいゲルド、こんなのあったっけ?」
「いや、そんな箱うちじゃ使わねぇ」
見覚えのないその荷は様々な装飾が施されており、商品運送用の木箱よりも奇抜だった。
しかも、やけに頑丈な作りになっており蓋も容易に開けられそうにない。
「なんだぁ?これ。開かねーぞ」
「気味悪りぃな。とりあえずほっといて他を部屋に入れよう」
3人は商品達を酒場の一室に運び込む。
一々全て運ぶのは面倒だが、盗まれては元も子もないので致し方ない。
「んで、どうする?これ」
シンが開かない荷を指差す。
「うちのじゃねぇからなー、このまま馬車に置いとこう。持ち主が取りに来るかもしれねぇ。盗まれてもまぁいいや」
「そうだなー。まず飯だ飯」
「もう払わねぇぞ!?」
酒場に戻り、食事を始める3人。
今回は特にゲルドの商才についての話に花が咲いたようだ。
だが、新たなる脅威に気づかずにいた。
酒場の裏になにやら不審な動きをする4人組。一人は金髪の女性で、指揮を取っている。
「姉御!あったでやんす!例の宝箱でやんす!」
子分の一人がゲルドの馬車に積まれた開かない荷を指差し、「姉御」に知らせる。
馬車は綺麗に駐車されているだけで、荷に対する盗みの防止対策などはなにも施されていなかった。
「へぇ、盗んだ割に随分不用心じゃない」
「どうするでやすか!?」
「宝を横取りする奴を逃すわけにいかない。明日宿から出てきたところを襲うわよ」
ーーー
ーーー
ーーー
シンの暴食も収まり、夜も更けた頃。
ハクが自分の部屋にシン、ゲルドを呼び出す。
「なんだよ?こんな遅くに」
シンが眠そうに頭を掻く。
眠る寸前のところでハクに起こされたようだ。
「賊がいるぞ」
「・・・なんで?」
「例の荷だ。どうやら重要なものらしい」
「おいおいまじか、もしかして危ねぇもんか?」
「分からない。中身のことは聞けなかった」
「聞けなかった?どういうことだ?」
ゲルドが感じた違和感は当然だった。
彼が聞きたいのは「聞けなかった」ことではない。なぜ他のことを「聞けた」ことである。
「こいつ、地獄耳じゃねぇけど地獄耳なんだよ」
シンがあくびをしながらゲルドに告げる。
台詞が矛盾していてよくわからない。
「よくわかんねぇけどお前ら超人だから信じるよ。とりあえずあの箱が狙われてんだな?」
「それもそうだが、まず俺たちを襲うつもりだ」
「は!?なんで!?」
「しっ、声を抑えろ」
ハクがゲルドに瞬時に近づき、口を抑える。
ハクはまだ近くに4人組が潜んでいることに気づいていた。
「賊がいると言っただろう。ああいう者たちは潜伏に気づかれると強硬手段に出ることが多い。今回は静かに待ち構える」
「・・・返り討ちにすんのか?」
ゲルドが声を抑え、今後の展開について尋ねる。だがあまりに小さすぎて蚊の羽音のようだ。
「いや、戦う意味がない。明日荷をそのまま返せばいいだけだ」
「・・・確かに」
「だが、血の気の多いとなにも言わさず襲ってくる場合もある。用心はしておこう」
「了解。ねみぃから寝ていい?」
シンは話半分にしか聞いていなかったようだ。目が開いていない。
「・・・緊張感のない奴だな。ああ、いいよ。ゲルドも今日は疲れただろう。早めに休もう」
「そうだな、どうせお前らの実力で負けることはないだろ。まったく心強いぜ」
(・・・どうだろうな。相手もどうやら・・・)
ーーー
ーーー
朝日が地を照らし、風が気持ちいい。
ゲルドが部屋の窓を開け、空気を入れ替える。
(ハクが賊がいるって言ってたけど、まだいんのか?)
身支度を整え、階段を降りる。
酒場は既に客が入っており、シンとハクも先に席についていた。
酒場は朝は食堂として朝食を安値で提供している。こういったところもゲルドがここを拠点にする理由だ。
「っはよ。ハク、まだいるのか」
「おはよう。ああ、俺達が出るのを待ち伏せしてる」
「夜通し俺らのこと見張ってたのか?そんなに大切なのかあの箱・・・」
「見張られ続けるのも気持ちいいものじゃない。邪魔だな」
「んじゃ、とっととやっちまうかー」
そう言うと、シンが朝食で汚れた口を拭いた後、剣を腰に差し出口に向かう。ちなみに朝食は夕食ほど大量に食べないようだ。
「おい、無理に戦う必要はないと言ったろう?・・・聞いてるか?」
ハクの言葉を尻目にシンが扉を開けると、同時に例の子分の3人が彼に襲いかかる。2人は剣、1人は銃を持っている。
「知らなかったらびっくりするんだけどな」
シンが次々と攻撃を躱し、蹴りで一人を仕留める。
「うげぇ!」
「こ、こいつ全部躱しやがるでやす!」
子分達の実力は高くなく集団戦術を得意とするようだが、シンの力には遥か及ばない。
「俺を襲うにはずいぶん早かったなぁ」
子分の一人が剣を振りかぶり、さらにシンに襲いかかるが軽くいなされてしまい、地面に転がされる。
「うわぁ!」
「こ、このぉ!!」
残った銃を持つ子分がシンに発砲する。
「おっと」
銃弾を剣で受け止める。銃弾が見えているのか、にっと笑い余裕の表情だ。
「真っ先に頭を狙うのは良くないぜ。読める」
「ア、アネゴ・・・たすけてぇ!」
ドゴォ!!
脳天にかかと落としを浴びせ、この子分も一撃で倒されてしまう。
(・・・もう一人いるな、どこだ・・・)
シンが周りを索敵するが、誰も見当たらない。辺りは並立された建物ばかりだ。
「上だ!」
ハクの声にシンが瞬時に見上げる。
どこから現れたのか、女性がシンの頭上から槍を投げ、貫かんとしている。
放たれた槍をシンはギリギリで躱したが、槍は凄まじい威力を発揮し、周りは広く深く抉られ、そのまた周りにも大きな亀裂が走っている。
(えげつねぇ力だな・・・本当に女か?)
シンは怯むことなく女性に立ち向かい、拳を浴びせる。が、女性も反応し、掌で拳を受け止めていた。
どうぅぅっも!
作者のMAENAKAです!!
前のお話では書きませんでしたが、投稿に関してのお話です。
今のところは頑張って毎日投稿したいと思っています!
ただ話のストックもめちゃくちゃあるわけじゃなく・・・途中で止まっても心配なさらずに!
では、よろしければ評価・ブックマークをお忘れのないよう!(もちろん今後気に入って頂ければで大丈夫です^_^)
それではまた前書き、後書きで!