表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/7

プロローグ


新歴147年 1年で最も太陽が長く昇り続ける

この日、世界が驚倒した。


これ以上に美しい光景があるだろうか。

この世界「ルーン」の夜に、空一面を覆うほど巨大な彗星が現れた。

彗星はゆっくり、ゆっくり進み、空で青く輝き続けている。

彗星は数え切れないほどの流れ星を纏い、その流れ星から生まれる光線は互いに交差し、幻想的な光景を生み出していた。

人は皆、空を見上げ、感動する者、腰を抜かす者、祈る者様々だ。


「・・・」


少年シンも彗星を見ていた。

土と木材で作られたベランダの柵に座り、風で涼んでいたところに突如彗星が現れた。

あまりに突然のことに言葉を失い、その幾多の流れ星を連れる青い光をただただ眺めていた。


「形状からするにあれは彗星だな」


そこに現れた白髪の少年、ハク。

ベランダを登りシンの隣に座る。

彼も彗星の美しさに心躍っていた。


「ハク、わかんの?」

「ああ、図書館で見たから間違いない。

でも、周りに星はなかったな」

「綺麗だなー、でもなんかさ・・・」


シンは不思議そうな顔で立ち上がり、彗星に手を伸ばした。


「ん?なんだ?」

「なんか、初めてじゃない気がするんだよなー」


シンは手を下ろし、自分の掌を見る。

だが当然なにもない。

ハクも一瞬その手に気を取られたが、すぐに彗星を見つめ直した。


「そんなわけない。こんな現象の記録見たことないし、俺たちはずっとここに・・・」

「ああもう!そういう理屈じゃねえよ!なんか、そう思ったんだ」


ハクは事実を言っただけだと不満げな顔だ。

だが、彗星の輝きの前には嫌なことはすぐに消え去ってしまう。


本来なら彗星は雷のように一瞬の出来事であるが、青い光はまだこの場に残り続けている。纏う流れ星も彗星と同様に進み、光線の尾も筆をなぞったかのように滑らかな曲線を描き続ける。


「不思議だ。有り得ないことが目の前で起きている。普通なら恐怖するはずなのに、こんなに・・・」

「ワクワクするよな!」

「ああ!」


二人は高ぶりを隠し切れない。

ずっと同じ地域での生活を続け、デシャヴのような日々に飽き飽きしていた二人は、少年ながら人生とは、などと難しい事を語り合っていたほどだ。感動するのもわけはない。


「なぁシン、知ってるか?」

「なにが?」

「ある国では、流れ星に願いを言うとそれが叶うと言われているらしい」

「へぇー!いいじゃん!」


シンは拳を握り、また空に掲げた。

その瞳は彗星を反射し、いつもより輝いている。


「俺らもあんな風にでっっっっっかくなれますように!!」

「なれるよ、俺たちなら」


ハクは二人のこれからの活躍を確信している様子だ。それほど自分達に可能性を感じていたのだ。


「おい、セナもだろ!」

「わかってる」

「でもせっかくなら色んな奴とでっかくなりてぇなぁ」

「それもいい。俺達が成長したら旅に出よう」

「そしたら会えるな!色んなやつに!」


少年二人は目を合わせ、互いに頷き合う。

二人の心に、この空は深く刻まれた。




ーーー同刻、同じ彗星を眺める少女が一人。

窓から体を乗り出し、桃色の髪を風になびかせている。


「ユミル様!危のうございます!」


少し年配の女性が少女を身を案じ、小走りで駆け寄る。

それも当然、少女が乗り出す窓は一般の建物なら10を超える高さを持つ城の最上階の窓なのだから。


「大丈夫じゃ!それほど阿呆ではない!下がっとれ!」


少女が笑いながら振り向く。

彗星の光を浴び、彼女はいつもより美しく見えた。


「・・・綺麗じゃのう」


ユミルは女性の声もあってか、少し体を引き、窓枠に肘をつきながら空を眺めた。


「あの星たちは自由じゃろうのう。羨ましい限りじゃ」


シン達のように、彼女も退屈していた。

自分の周りの大人達は皆同じで、城の中はもちろん、どんなに派手で高価な衣装を召した人物であろうと、自分に頭を下げ膝をつく。

人以外でも、少女の頭で思いつくこと全てが自分の思い通りになる。

食事も、遊び道具も、希少な宝石も、全て手に入る。彼女はそれが面白くなかった。


彼女は自分と同等の、それこそなにも壁がない友人を欲していた。


「妾もあんな風に飛んでいってしまえるのなら、誰かに会えるのかのう」


ユミルはまた窓から身を乗り出してみた。

飛べるわけもなく、ただ少し彗星が近くなっただけだ。

だかそれでも自分に吹き付ける風が心地よく、もっと乗り出してみたくなる。


「どこに飛んで行くんだい?ユミル」


背後から低い声がユミルに話しかけた。

少し驚きながら彼女が振り向くと、


「父さま!」


そこに立っていたのはユミルの父であった。

ユミルは飛びつくように父に抱きつく。

彼女は父を強く愛していた。


「ははは、痛いよユミル」

「ごめんなさい!みて!父さま!」

「あぁ、彗星だね。君のように美しい」


父もまたユミルを強く愛していた。

妻を亡くし、両親もとうの昔に逝ってしまった彼の家族はユミルだけだった。


「ユミル、あの星に願い事をしてごらん?

ある国ではそれで願いが叶うと言われているんだよ」

「ほんとうに!?」

「ああ、やってごらん」


ユミルは目を瞑り、両手を合わせ、握る。


「・・・」

「なんて願ったんだい?」

「ひみつ!」

「ははは、君は意地悪だなぁ。さぁ、今日はもう寝なさい。明日も挨拶があるからね」

「・・・はい、父さま」


ユミルの顔は暗くなる。父もそれを感じていたが、静かに部屋を出た。

ユミルはまだ星を眺める。風はもう吹いていなかったが、青い輝きが彼女を惹きつける。


「もう嫌なのです、父さま・・・」



ーーシン、ハク、ユミルの見た空は世界を大きく動かす運命の鍵となる。

3人はそれを知る由もなく、星に希望を覚え、自分の将来を夢見た。

だが、夢とは程遠く、彗星をきっかけに戦乱の嵐を巻き起こす世界に、3人は身を投じることになる。


少年少女の未来は如何に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ