プレゼントは俺
「あのさぁ…」
「どうした?」
「なんで手繋いでんのさ」
「いやー彼女出来たら一回はやってみたくてね?」
「俺はおめーの彼女じゃねえってさっきから言ってんだろうがっ!」
「でも今はそうなんでしょ?」
「そうだけど違うからっ!」
クリスマス。
街中を歩く男女二人。
傍から見たら恋人か何かに見えているであろうことは嫌と言うほど分かっている。
だが俺は断じて隣を歩いている男の彼女ではない。
というか女ですらない。
こんなことになるなんてついさっきまで思ってもいなかった。
どうしてこうなってしまったかは数時間前を思い起こす必要がある。
□□□□□□
「おっはー勝也。メリクリ」
「おはよう秀則。メリークリスマス」
俺たちは同じ大学の同級生。
お互いに一人暮らしだが、クリスマスイブ及びクリスマスに一人で過ごすのが悲しすぎるという理由により、急遽秀則の奴が俺の家へと転がり込んできて一夜経ったところである。
「お前今日予定は?」
「あるわけないだろ?あったらお前の家に来ると思うか?」
「まあそうだよな」
「その分かってましたみたいな解答やめーや傷つく」
「事実だろ」
「くっそ俺に彼女いたらお前にマウント取りに行くのに」
「そんなわけ分からん見栄で彼女を使おうとするなや。だから彼女出来ねえんだろうが」
前から彼女欲しいと言い続けて早数年。
未だに秀則の奴に彼女の影も形も無い。
なお俺にもない。
「はー今年も結局クリスマスはお前と過ごすだけかー」
「不服か」
「いやー別に。お前なら気心知れてるしなー。ただせっかくのクリスマスだし、何かクリスマスらしいことしたいよなってな」
「クリスマスらしいことねえ…」
「サンタがプレゼントでもくれたらいいんだけどな」
「…プレゼントね」
「そーそー。俺の寂しさを紛らわせてくれる感じの」
「…なー。ほんとに欲しいか?プレゼント」
「あ?え?くれるの?」
「お前が本当にやりたいことがあるなら叶えてやろう」
「急にランプの魔人みたいなこと言いだしたぞこいつ」
「何?いらないの?」
「いやいやいるいる叶えてくれるならありがたく」
「ただし今日だけな。明日には無かったことにする」
「えーなんだそれけち臭いな」
この言葉に嘘は無い。
何故なら俺は、クリスマス限定で相手の望むことを引き起こすことができるという謎の能力があるからである。
とは言っても一日限定で俺には使えない上に、次の日には全部なかったことになるから基本的に意味ないのでほとんど使うことが無いし、誰にも言わないんだが…
まあでもそれなりにお世話になっているこいつにまあ一日限りの夢を見せてやるのも悪くないかなと思ったからこんなことを言い出したわけだ。
「で?何か欲しいもんでもあるか?それともやりたいことでもあるか?」
「えーちょっと待てよ。一日だけなんだろ?」
「そうだ。ある程度無茶なお願いなら叶えてやるが一日だけな」
実際はある程度の無茶どころではないレベルまでやれるのは過去の実験で実証済みだが、あんまりでかいお願いされても後々が面倒くさそうなのでこう言っておく。
「んー…ちょっと待てよ。どうせ何かお願いするなら悔いのないものにするわ」
「分かったから早くしろ。あ、だけど一個だけな。後から取り消しも受け付けねえから」
「制約多いなあ…まあ待て。ちょっと真面目に考えるわ」
ちょっとした静寂。
割とマジな顔で悩んでいるのが分かる。
まあ何か一つ好きなこと叶えてやると言われるとこうなるもんなのかもしれないなあと思いながら秀則が答えを出すのを能力を発動させつつ待つ。
…だが、俺はここまでの流れで予想するべきだった。
この時奴が言いそうな願いを。
だからちゃんと奴の願いを聞いてから能力を使うべきだったのだ。
「俺は…」
「俺は?」
「一日だけでもいい!彼女を俺にくれえ!」
「え?ちょっ」
辺りを凄まじい閃光が包む。
俺の意識はそこで吹っ飛んだ。
□□□□□□
「…ぁぐ」
吹っ飛んでいた意識が戻ってくる。
見慣れた俺の家の天井。
時計を見てみれば先ほどのあの願いから数分経ったところであることが分かる。
「くそ…何が起こった?」
俺の能力には欠点が一つある。
相手の願いを叶えてはくれるがどのようにそれを叶えるのかは俺にもわからないという点である。
前お金が欲しいという直球な願いをしたやつはその日の間中増殖する一円玉の処理に追われることとなったり…
とにかくどの方向に願いを叶えるのかは分からないのだ。
「…ん?」
何か足元が急にスースーするなと思って下を見てみれば、そこにあったのは俺の足…ではなく、俺の足の面影が全部吹っ飛んだ白くて細い足である。
「…」
しかもその周辺が何かに遮られて非常に見づらいなと思えば、目線の下にあるのは男にあるはずもない謎のふくらみ。
手を伸ばして触ってみれば、何やら柔らかくて弾力のあるこうマシュマロのようなものが…
しかもついでにその手を見てみればこれまた線の細い到底男のものとは程遠い白い腕が…
「…」
目の前で俺と同じように気絶している秀則を無視して、洗面所の鏡の前まで行ってみる。
そこにいたのは俺の面影が一ミリくらいしか残っていない金髪ロングの美人なサンタガールであった。
「…なんじゃこりゃぁ!」
俺の叫びによってこれを引き起こした本人を叩き起こしてしまったが、俺は悪くない。
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「なんで、なんで俺がお前の彼女になるんだよっ!」
「いやーお前がそんな特殊な力があるなんて知らなかったぞ?もっと早く言ってくれれば毎年こういうことできたのに」
「来年は絶対やらねえからなっ!」
そう。まあ要するに奴の願った彼女が欲しいという願いは確かに叶えられた。
目の前にいた俺を無理やり奴の好きな女へと変えるという無理矢理な形で。
サンタガールになったのはクリスマスのせいなのかなんなのか。
「まーまー一日だけなんだろ?だったら付き合ってくれよ。外で一緒に遊んでくれればそれでいいから」
「はー…仕方のない奴。手出すなよ…」
「え?」
「え?じゃねえよ中身考えろ中身!」
「分かった。分かったからそんなに切れるな。かわいい顔が台無しだぞ?」
「俺にそれ言ってもぞわっとするだけだからな…」
実際どうやってもこの能力はクリスマスの間中続く。
なのでどうあがいても今日一日はこいつの彼女をやらなければならないというわけである。
「よーしじゃあ出かけるぞー!」
「え?この格好のまま?」
「クリスマスだし問題ないだろ?行くぞー」
「うわちょひっぱるな馬鹿っ!」
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というわけで冒頭に戻る。
俺はそんなこんなで自分自身も彼女がいないのにも関わらずこいつの一日彼女になってしまったわけである。
「あーもうこの際仕方ない。何故か恋人繋ぎなのもこの際許容してやる。仕方ないからさっさとどっかに入るぞ」
「あれ?なんか行きたいとこあるの?」
「ちげえ!寒いんだよこの格好!どっかの馬鹿がこのまんま連れ出すからっ!」
そう今日はクリスマス。
12月の終わり。極寒である。
にもかかわらず俺の格好は何故かミニスカサンタガールである。
しかも生足。
もはや女であることがどうでもよくなるレベルで下が寒い。
「あー…いやでも個人的には生足が見えてるのが好みでですね」
「お前の性癖はどうでもいいからさっさとあったかいとこ連れてけっ!死ぬ!」
「分かったからそんな風に下から睨むなって」
女になったことで身長が下がったせいか、下から睨む形になってしまうのが若干恨めしい。
まあともかく近くのスーパー内部に逃げ込むことができたのでよかったと思うことにする。
「あー…寒かった」
「そんな寒い?」
「寒くないと思う?」
「いや思わない」
「聞くな馬鹿。つーかいい加減手ぇ放せ」
「嫌だ。なんかラブラブしてんの見せつけたいじゃん」
「意味わからんプライドで俺の精神を削らないでもらえます?」
たとえ見た目が女…いやたぶん体の構造は隅々まで女になってはいるが、それを差し置いても精神面は男のままでこれを延々と続けるのは精神的には全くよろしくない。
「というかお前中身俺って分かっててよくこんなことできるな?」
「いやだってさ。見た目は俺好みの女の子じゃん?」
「まあお前がそう望んだんだからそうなんだろうな」
「でしかも中身がお前じゃん?遠慮しなくていいじゃん?」
「少しは遠慮しろ」
「だからまあ気兼ねなくこういうことできるわけよ。しかも一日だけときたなら楽しまなきゃ損だろ?というわけで次は腕組もうぜ」
「お前なあ…」
「まあまあ。今日一日は色々と奢るからそれで許して?」
「ったく…仕方ねえな」
「ちょろいなお前」
「それを本人の前で言うな」
貧乏学生なので多少なりとも出費が浮けばいいかなと思ってしまう自分が嫌だ。
「さて、どこに行く?」
「なんだ乗り気になってんじゃん?」
「金がかからないならどこへでも行く」
「うわ現金なやつ」
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「ただいまー」
「うう…ただいまー」
「なんだお前好みの女の子とデートできたのにそのしけた声は」
「お前のせいで財布空っぽだよ!」
「はん。俺の精神力を削った罰だと思え」
結局あの後数時間ほど遊び続けた俺たち。
昼飯から始まりゲーセン、映画、等々やりたいことは大体全部やった。
費用全部秀則持ちだったのをいいことに滅茶苦茶な遊び方をした結果奴の財布はすっからかんになってしまったわけである。
まあそれ以上に失ったものも大きい気がするのでこれでトントンである。
「なーなー。それってどんだけもつの?」
「もつとは?」
「後どんだけ女でいるんだよ?」
「え?…基本的にクリスマスの終わりで終わりだけど」
「ということはあと数時間?」
「まあそうだな」
「…なあ」
「何?」
ずずずっとよってくる秀則。
若干引く俺。
「…やらね?」
「…をい。それは無しだといったはずだが?」
「だってさ!せっかくクリスマスに俺好みの子が俺と一緒にいるんだぞ!?」
「俺だがな」
「ここでDT喪失しなかったらどこでするの!?」
「おれもしてねえよ!お前のせいでDTより先に処女喪失の危機だよ!」
「頼む!一生に一度のお願い!」
「…おまえなあ」
土下座しやがった。
そこまでか。そこまでなのか。
「…ち、分かった。分かったから頭上げろこの阿保」
「え?ということは?」
「…まあ、俺も気にならないわけじゃないし…どうせ無かったことになるからな」
「よっしゃ!ベッド行くぞ!ベッド!」
「気が早いっ!」
□□□□□□
「…やば。朝だ」
結局あの後テンションが変な方向に吹っ切れた俺たちは、連続で行為に及び続け、どこかのタイミングからか記憶がない。
「かー…変に吹っ切れすぎたか…」
「うーなんかあそこ痛い…」
「起きたか。おはよう大馬鹿」
「あ…おはよう勝也…でいいんだよな?」
「そりゃそうだが?」
「…あれ?お前戻ってないの?」
「あ?」
「もう26日じゃねえの?」
「え?」
慌てて自分の体を確認する。
…戻ってない。
「…なんで、これ25日限定の能力のはずなのに」
「…勝也」
「どうしよ秀則。戻ってない」
「…責任はとるよ?」
「どういう意味だそれっ!」
結局その後元に戻ることは叶わず、自分は最初から女で秀則の彼女であったという風に周囲から認識されていると知り、自分の能力の正確さに頭を抱える羽目になるのであった。