chaputer1 Y-27
超能力者やサイボーグ、ロボットに、近未来兵器。企業同士の軍事戦略。アクションもの。ときどきラブコメ?よろしくお願いします。
カタカタカタカカタカタ
真夜中の研究室に響く単調な音。電気も付けず夢中でパソコンに向かっている。
正確には集中しすぎて日が暮れたことにも気がつかないでいた。
手入れされていないボサボサの髪を無理やり束ね、身嗜みなど全く気にしない。白衣に赤い縁の眼鏡をかけ、懸命にタイピングをする姿は研究者の鏡といってもいいだろう。
恋人を亡くしてから10年の年月が過ぎた。人類進化学の若き天才と呼ばれた才葉友子はそれ以来この計画に没頭していた。
『人工超能力者計画』
通称 MMS計画。友子の人生をかけたこの研究。
友子はとらわれていた。恋人を奪われた憎しみに。出来ることなら私の手で、私自らの手であいつらの首を絞めてやりたい、と何度も思っていた。
でも、それはできない。エターナルは今ではこの地球の企業の3分の1を占める大企業だ。だからこそその悲願をこの子達に託していた。
大きな研究室の真ん中、透明な筒状の装置が3つ、黄緑色の液体で満たされて行く。
「お願い…目を覚まして…」
必死な思いは無意識にも口からこぼれ出す。
「お願い。時間がないの」
ビーッ!ビーッ!
静観としていた研究室に突如として警報が鳴り響く。
嗅ぎ付けられたか…、エターナルの追手がすぐそこまで迫っている事に友子は焦りを感じ始める。
「お願い…Y-27、S‐46、K‐9いいえ…、ユウセイ、シアン、カイト…」
ダダダダダダッ!ガシャン!
銃声と研究室の扉が開く音、振り向けば完全武装した特殊部隊が横隊し、銃をこちらに構えている。
「ハァーハッハァァ!見つけましたよぉー才葉博士ぇー」
自慢の鼻の下に蓄えた髭を触りながら1人だけ軍服にタンクトップ姿の男が歩み寄ってくる。廊下から差し込む逆光で顔はよく見えないが、おそらく…
「ローベス・ピエール…!」
ピエールはニタニタと笑いながら友子に話しかけた。フランス人である彼の言葉をエターナル製の自動翻訳機が寸分たがわぬ速さで日本語に変える。
「探したんですよぉ?、突然姿をくらましちゃったもんだからエターナルは大騒ぎだったんですからねぇ。さ、早くその子たちを連れて帰りましょお」
「ダメよ…!もうあなた達なんかに力は貸せない、その物騒なサイボーグ部隊を連れて帰んなさい!」
必死の剣幕で訴える友子。それを聞いたピエールは一瞬フッと顔を緩めたが、ゆっくりと人が変わったように激昂する。
「……ソウ言われてはいそうですかって帰るわけねえだろくそアマ!!勝手に貴重なサンプルを三体も持ち逃げしやがって!口で言ってるうちに大人しくついてこい!」
先程の笑顔からは想像もできない、そうでなくてもピエールは平均男性に比べ二回りも大きいため、目を大きく見張り友子に迫るその姿はさながら鬼のようだった。
思わずたじろいでしまう友子に詰め寄るピエール。ピエールからは目をそらさずに友子は一歩一歩後ろに下がる。
ガンッと音を立て、装置にぶつかる友子。
友子が後ろを一瞥すると、迫るピエールに友子はバッと両手を広げ、背後にある筒状の装置をかばうような体勢をとる。
「この子達は渡さない…!」
ピエールが友子の背後の装置に目をやる。そこには目的としていた物、エターナルが戦力増加のために発案したMMS計画の実験体Y-27、S-46、K9が黄緑色の液体に満たされ、口元には呼吸器をつけた状態で入っている。
超能力‐‐その人智を超えた力の恐ろしさはエターナルが一番よくわかっている。事実エターナルのA級超能力者であるピエールを実験体奪還に差し向けたのがいい証拠。
この子達がもし目を覚まし、強力な超能力者だったら殺戮兵器として使いつぶされるに決まっている…彼みたいに。友子はそう確信していた。
「……」
お互い言葉を発しないまま、にらみ合っているとピエールは冷静になったのか入っていた肩の力を抜きハァーと深いため息をついた。
「残念ですよ。私は惜しい人材だと思うんですけどねぇ…。まあクレアシオンや九龍宝刀の奴らにつかまりでもしたら厄介ですから仕方ないですね」
そう言ってピエールは背を見せ研究室の入り口へと歩き出す。ロックを壊された研究室の扉は大きな機材も搬入できるように横幅5メートルはあり、今は横隊したピエールの部下が身じろぎもせずこちらに銃を向けている。
廊下へと出たピエールは横隊の一番端にいた部下の肩にポンと手を置くとこちらを見ることもなく呟いた。
「始末しろ。実験体もろともね」
「…っ!」
覚悟をしていなかったわけではないけれど、心蔵の鼓動がドキリと音を立てる。
了解と頷く部下、もはやこれまでかと友子はギュッと目をつぶる。
一発ではなく、連続した自動小銃の発射音が深夜の研究室に鳴り響いた。当たれば蜂の巣どころか肉片すら残らなそうなほどに弾丸を打ち尽くす。
しかしその瞬間、発砲音と同時にガシャンッと何かガラスが割れるような音が混じっていた。
「……生きてる?」
銃声が止んで5秒ほど、体のどこにも痛みを感じず、弾がどこかに当たった音もしないことに友子はゆっくりと目を開ける。
目大きくして友子はその信じられない光景を目にした。目の前数十センチで弾丸が止まっていた、完全に静止しているのではなく、どことなく小刻みに震えている。
自分の目を疑った。敵のうろたえる様子が敵のフェイスヘルメット越しにも伝わる。ピエールも異変に気が付き振り向く。
呆然とその光景を眺める敵の視線は、徐々に友子の後ろ、高さ2メートル半径1メートルはある筒状の装置から飛び出した手のひらに移る。
その様子に気が付いた友子が振り向くと、驚倒のあまり座り込んでしまった。
「ユウセイ!」
驚きと喜びが混じった声で友子は叫んだ。友子がユウセイと呼んでいるのは実験体Y-27。肉体年齢にして15歳程度の男子とみこまれるユウセイは筒の中から真っ直ぐに伸ばし、ガラスを突き破っている。
徐々に機械の中の液体が引き、ユウセイは反対の手で顔周りの包帯と呼吸器を外すと突き出した手をゆっくりと引き戻す。
すると空中に浮かんだまま止まっていた弾丸がバララと音を立て床に落ちた。
おお…とどよめく敵の声、見ればピエールは口を開けて目を丸くしている。
「不可能だといわれていた人工的な超能力者の生産を成功した…あれはあいつの能力…なの?」
「ピ、ピエール…様!」
部下の一人がうろたえながら訴える、どうすればいいのかと。サイボーグ化手術を受けたエターナル実働部隊の彼らでさえ銃弾は有効だ。その自動小銃の一斉掃射が一発も届かないまま床に転がっている光景は動揺をせずにはいられなかった。
「うろたえないでちょうだい、隊列を整えてもう一度構えて」
敵が構えなおしている間友子は装置のスイッチを押す、するとユウセイを包むようにしてあったガラスが開かれ、装置の中からゆっくりとユウセイは出た。
「ココハ…」
ユウセイはまだおぼつかない発音で一言呟くと、辺りを見回した。
ただの人造人間の製造は何度も成功している。人間としての機能は確認するまでもないのだが、友子は言語を話したことに安堵した。
ただ、目の前の問題が解決したわけではない。なんとか現状を打開しなくてはとユウセイとの会話を試みる。
「ユウセイ…わかる?私があなたの母親よ…」
「ハハヲ…ヤ?」
「そう…お母さんよ」
不思議そうに友子をユウセイは見つめる。そして徐々に意識を取り戻し始めたかのようにユウセイの瞳にはハッキリと友子の顔が映り、口調を確かに呟いた。
「かあさん…」
「構え、撃てえ!」
二人の会話も束の間、再びすさまじい騒音が敵の銃口から放たれる。その様子をピエールは部下の後ろからじっと見ていた。そして舌打ちをすると不満げに顔をしかめる。
「やっぱりあいつの能力ね、キッチリ超能力に目覚めてやがる…」
放たれた弾丸は再び対象に届く前に静止する。止まった弾丸の壁の向こう側で実験体Y-27がこちらをにらみ返していることにピエールは気が付いた。
「危ないだろ…誰だお前らは!」
右手を前に突き出し、ユウセイは自らの能力で弾丸を防ぐ。超能力に目覚める人間は最初はその力に無自覚なものだが、人造人間の時点でデータを送り、備え付けることで時間をかけずに超能力に目覚めさることに成功していた。
「念動力…これがこの子の能力…」
作り手である友子自身、目を覚ますまではどんな能力を持っているのかわからなかった。それこそY-27が初めての成功例だった。
「母さん…危ないから下がってて。あいつらは…あいつらが母さんの敵なんだね?」
装置の中でしっかりと知識も積まれていたユウセイは知っていた。敵の存在、そして自分が友子によって造られた人造人間だということも。
ユウセイは敵部隊の方に体を向けぐっと力を込める。
小刻みに震える弾丸を見てピエールは何かに気が付くのと同時に大声を上げた。
「避けなさい!!弾丸が返ってくる!」
ユウセイが力を加えると空中でで止まっていた弾丸が一斉に敵サイボーグ部隊に襲い掛かる。
「ぐふぅっ!があああ!」
「ぎゃあああああ!!」
「ち、畜生!腕が使えねえ!」
回避が間に合わなかった部下は自身の放った弾丸の雨に襲われた。幸い生きているものがほとんどであったがほぼ全員が戦闘不能なほどに重傷を負った。
その惨状に冷や汗をかきつつも、ピエールはユウセイに視線を合わせるとその巨躯でひねりつぶさんと突進する。
「このクソガキがああああああああ!」
迫るピエールをユウセイは眉一つ動かさずに吹き飛ばした。入り口に転がっている部下を巻き込み、ものすごい勢いで廊下の壁に叩き付けられるピエール。口から大量の血を吹き出し、尚且つ更に壁にめり込んだ。
「ガッ…!ガハァ!」
衝撃でミシミシと音を立て、壁はピエールがめり込んだ部分を中心にひび割れていく。
「…そのまま飛んでいけ!!」
更にユウセイが力をこめると、壁をぶち抜き、ピエールは真っ暗な夜の彼方へと吹き飛んで行った。
生き残った部下も一目散に逃げ出していき、ガラガラと落ちる壁の破片だけがそこに残った。
エターナルの追手が全滅したのを確認すると、友子は勢い良くユウセイに抱きついた。
「ユウセイ…!ありがとう、ありがとぉ…よくやったね…!」
そう言って泣きながら微笑んで、強く胸にユウセイの顔を押し付けた。
「ガ、フゴフゴォ!フグィイ!(か、母さん!苦しい!)」
「あら…!ゴメンね」
友子が手を離すと、息を整えまじまじとユウセイは友子の顔を見つめた
母さん…、俺を造ってくれた人…。俺は…、この人の為に生まれてきた…?
MMS第1号Y-27 個体名ユウセイ。
その莫大な資金力から国をも凌駕する力を持った大企業、エターナルのMMS計画によって生み出された人造人間。
後に数々の超能力者、サイボーグ達との壮絶な闘いの日々を送ることを彼はまだ知らない。
友子は実はとても美人なのですがヒロインではありません。
反応が良かったら続きかきます。たぶんなくても書きます(書きたい)
感想、評価お待ちしてます。