浦潟くんと士衣さん
始めて恋愛モノ書きました。
士衣さんをアルビノから白変種に変更しました。
注・ネットで調べたところアルビノと白変種は違うようです。
俺の名前は浦潟 九呂。
名前の通り、目立たないように日々を暮らす地味な高校二年生だ。
裏方の人のように、人の前にでなくとも誰かの役に立つというのに憧れて、将来はそういう仕事に就きたいと考えている。
普段は、先生から頼まれた雑用をこなしつつ、誰も気づかないような些細な事━━花瓶の花を変えるだとか、そういうの━━をやりつつ、そういうのが無い時は静かに読書、図書館はかなり好きだ。
とにもかくにも、友達も殆どいないボッチで地味で他人から見たら暗めな俺━━妹曰く━━だが、それなりに充実した生活を送っていた。
そんな日常が変わったのは突然だった。
何時ものように登校し、下駄箱を開けた俺の目にはいったのは………
「手紙?」
綺麗に封がされた、真っ白な封筒。
裏返してみると
『士衣 彩葉』
そう書かれていた。
数秒固まる。
士衣 彩葉。
腰まである長く艶やかな白髪、サファイアが埋め込まれているのでは? と、思ってしまうような瞳。スラリとしていながら、でるとこはそれなりにでているスタイル。デフォルトの無表情と、ハーフで白変種という存在が、ミステリアスで彼女の魅力を引き立てている。
さらに、文武両道の才女で、勉強の教え方が上手く、次期生徒会長候補筆頭(というか、決定しているようなもの。)
そんな彼女に惚れた男は多いが、全員断られている。そして、断り方が独特だ。
「申し訳ありませんが、貴方と付き合ってもメリットがありませんので。」
「貴方と付き合ってもデメリットしかありませんので。」
「はぁ。(ため息)」→何も言わずに帰る。
上記の断り方以降、何事もなかったように生活する。
そんな彼女はこの学校の有名人で、知らない人はいない。更に、誰に対しても分け隔てなく話しかけるので━━殆どがプリント出してとか、アンケートに協力等の事務的なモノ━━、友人も男女関係なく多い。
さて、ここまで語ったところで、幾つも疑問が生じ、教室の自分の机に座った俺は、いつも通り読書を始められず、悩み始めた。
「どしたん浦潟?」
「いや、なんでもない。」
前に座っている友人が、いつもと違う俺に疑問を思ったようだ。
ちらりと、同じクラスにいる士衣さんのほうを見る。彼女は何時も通りに、自分の机で静かに読書をしていた。
「お、なんだなんだ? お前でも士衣さんは気になるか?」
「まぁな。ちょっとトイレ。」
今朝下駄箱に入っていた手紙を読むために、トイレに移動する。
ドキドキしながらも、手紙を開けようとしてふと、誰かの━━おそらく数少ない友人または、先輩か後輩━━イタズラでは? と思ったが、アイツら、もしくはあの人達が、裏に書いてあったような綺麗な文字書けるか? と思い、ならば、士衣さんが間違えたのでは? しかし、あの士衣さんが?
とにかく、読みますか。
『浦潟 九呂くんへ』
どうやら、俺宛てらしい。
『本日の放課後、予定が開いているならよければ、屋上に来てください。お話しがあります。』
士衣さんらしい手紙で、丁寧な字だった。
上の空で授業を受けていたら、直ぐに放課後になった。
既に教室には誰もいなくて、運動部の掛け声や、蝉の鳴き声だけが聞こえている。
「行くか。」
彼女が俺にどんなようなのか分からないが、行くしかないだろう。
階段を一段一段登るたびに、色々な考えが浮かんでは消えていく。
・もしかして、士衣さんは以外と茶目っ気があって、俺をからかおうとしているのでは?
・俺に消えてほしいのでは?
・俺に協力してほしいことがあるのでは?
なんにせよ、劇でいうなら照明や大道具をやるような裏方の俺に、主役やヒロインを演じるような、表舞台の彼女が話しとは、なんなのだろう?
とても重く感じる屋上のドアを開けると、強い日差しが差してきて、思わず目を瞑る。
そして、目を開けると、風でそよぐ髪を押さえつけた士衣さんがいた。
そんな芸術的な彼女の美しさに、思わず見惚れてしまう。
「来てくれたんですね。」
「え、あ、うん。」
「お忙しい中、ありがとうございます。」
「いやいや! 部活入ってないし、用事もなかったから!」
「そうですか。」
丁寧にお辞儀をする士衣さんに、慌てて声をかける。
「本日呼びだしたのは、大事なお話しだったので、他の人に聞かれたくなかったからです。」
「だ、大事な話?」
「はい。」
なんだろう? 俺が目障りなのか? 視界にいれたくないのか?
「好きです浦潟くん。結婚を前提にお付き合いしてください。」
「はい?」
言ってることが分からず、聞き返す。
「では、これからは九呂くんと呼びますね。私の事は彩葉と呼んでください。」
「え、えーと? 士衣さん」
「彩葉です。」
「あ、い、彩葉さん?」
「彩葉です。」
「い、彩葉?」
「はい。なんでしょう?」
「その、からかってるの?」
士衣さんのような表舞台の人間が、裏方の俺に告白………それも結婚を前提になんてあり得るわけがなく、そう聞いてしまった。士衣さんが本気ならとても失礼なのに、その時の俺は微塵もそんなことを思いつかなかった。
「はぁ…………九呂くん。」
「な、なにかな彩葉━━ッ!?」
いきなり唇を塞がれる。
ゆっくり唇を離されたが、状況が理解出来ないまま、赤面した状態であわあわしてしまう。
「これでも駄目ですか? なら━━━」
「ちよっ!? なにを!」
今度は手を捕まれて胸に押し付けられる。この時の俺は軽くパニックになっていた。
「分かりませんか?」
「なにが━━━」
そこで気づいた。士衣さんの心臓の鼓動がとても速くなっており、何時もの無表情な顔は少し赤くなっていた。
「こんな事、九呂くんにしかしませんよ?」
「な、なんで俺? とくにメリットもないのに━━━」
「最近気付きましたが、本当に好きな人はメリットも、デメリットも関係なくなるようです。」
士衣さんは、そこで一旦言葉を切り、再び話し始めた。
「九呂くんのことが気になりだしたのは2ヶ月前、貴方が教室にある花瓶の水と花を替えているのを、偶然見た日からです。それまで私は、教室の花瓶を管理しているのは先生だと思っていたので、少し驚きました。そして、何故貴方がそんなことをするのか理解出来ませんでした。」
「へぇ~。」
ここで、士衣さんが俺を見つめた。
「そこで、観察することにしました。」
「観察?」
「はい。観察を始めてみると、貴方は花瓶以外にも他の委員会の手伝いや、先生の手伝い。それに、恋愛相談なんかにものっていましたね。」
「ハハハハ。まぁ………」
「そして、観察すればするほど、貴方が分からなくなってきました。メリットは何もないのに………貴方のやっている事は日常に埋没して誰にも気づかれないのに………だから分からない、九呂くんがどうしてそんなことをするのか………」
「それは━━」
「ですが。」
俺が理由を言おうとしたのを遮って、士衣さんは話していく。
「ある時ふと、貴方がそうしている時、どこか満足した顔をしているのに気付きました。だから分かりました、貴方はそうすることが好きなのだと………」
「うん。自分でも分からないけど、なんとなく好きなんだよね。」
「そうでしょうね。そして、その時から貴方に対する感情は興味に変わり、いつしか“好き”という感情になりました。」
「そ、そうなんだ。」
どこかうっとりしたような━━デフォルトの無表情は変わらず━━士衣さんに戸惑いつつ、続きを聞く。
「貴方を見ていると、私との共通点が色々分かってきました。」
「へ? 共通点?」
裏方の俺と、表舞台の彼女の共通点?
「九呂くんがライトノベルが好きなことや、好きな動物が猫という点が分かりやすいでしょう。」
「士衣さんラノベ読むの?」
「はい。興味深いので。それと、彩葉です。」
「ご、ごめん彩葉。」
「とにかく、気付いたら貴方を好きになっていました。何処が好きだとか、何時好きになったとかは分かりませんが、“好き”です。貴方の側にいたい。貴方を誰にも渡したくない。貴方の一番でありたい。私の想いは強すぎるかもしれません。でも………」
士衣さんが口を閉じる。そして、数秒の静寂の後………
「好きです九呂くん。結婚を前提にお付き合いしてください。」
最初より声を震わせて、再び俺に告白する士衣さん。
こんな俺でいいのだろうか? 俺より相応しい男がいるハズなのに。
違う。
俺が士衣さんに釣り合うかは関係ない。
俺の気持ちは?
俺は士衣さんの………いや、彩葉のことが━━━
「俺も好きです。」
気がつくと、声が出ていた。そして、一度出たら止まらなくなる。
「俺は目立たないし、地味だし、頭がいいわけでも運動ができるわけでもない。覚えてるかは分からないけど、入学式の時、桜の木の下で本を読んでいた俺に、君が話しかけてきた時からずっと、ずっと、好きだ。どうせ叶わないと、君の一番にはなれないと思ってた。だから、告白された時嬉しくて、でも、信じられなくて………」
1年以上心にしまっていた想いを、口に出したら止まらなくなった。
「これは俺の都合のいい夢かもしれない。それでも、それでも………」
ここで一旦言葉を切って、大きく深呼吸をする。そして━━━
「好きだ彩葉。こんな俺でよかったら、末永くお願いします。」
「はい。」
そう言って彼女は、目尻に涙を浮かべて微笑んだ。
その時の彼女の笑顔は、一生忘れられなくなるぐらい綺麗だった。
浦潟→裏方
士衣→士+衣=表
名字はこんな感じで、名前はなんとなくです。
人気が出たら、続編や連載バージョンも書く予定です。