想い絵
小さくて、大きくて。
届いて欲しくて、届かないで欲しくて。
そんな彼女の片恋の相手は、
幼なじみの女の子。
少なくとも十畳はあるであろう大きな部屋に、
小さな女の子がひとり。
彼女が見つめる先には一枚の写真。
おそらく七、八歳ほどの女の子のツーショットだ。
「この頃に、戻れたらいいのに・・・。」
そう呟いた少女の頬に、ひとすじ涙がつたった。
私には、幼なじみがいる。
私は小さい頃から引っ込み思案な性格で、
何をするにもあの子についてまわった。
そんな私の、憧れの人。
そして、私の・・・・・・たった一人のすきなひと。
美術部は、文化祭で展示を行う。
今の時期は皆その展示物の製作に追われている。
作品は一人二点以上五点以内で、ジャンルは問われない。
絵でも細工でも何でも構わないから、
取り敢えず作品を提出しろ。との事だった。
私も三作品ほど提出する予定なのだけれど、
最後のひとつの題材が決まらず、悩んでいた。
ふと、傍らにあったスケッチブックを開いた。
夕焼けの空、庭に咲いた日出蘭の花、朝の教室、
あの子に頼んでブランコに乗ってもらった公園の絵に、
帰り道二人で見つけた名前も知らない小さな白い花。
どれも思い入れはあるけれど、何かが、違う。
その時、ふと思い出した言葉があった。
去年卒業した先輩が好きだと言っていたとある言葉。
「芸術は技芸ではなく、それは芸術家が体験した感情の伝達である。」
ロシアの小説家、レフ・トルストイの言葉だそうだ。
―――――――――――――――――それなら。
あの子に気づかれずに気持ちを表現できるもの。
今までのありがとう、
そして伝えられない「好き」という気持ち。
思うままに描いてみよう。
自己満足かもしれない。でも、それでもいいと思った。
ひとつの絵に全てを込めて。
貴女に届くように。そして、届かないように。
・・・・あの時、この気持ちに気づかなければ。
もし、すきなひと、ではなくて、大切な友達のままだったら。
こんなに苦しい気持ちにはならなかったはずなのに。
いまさらそんなこと思ったってもう遅いけれど。
頬をつたった涙が、あのスケッチブックの端に滲みていった。
「となりで君の微咲みを」
というコラボ小説の外伝らしきものです。
「私」が想う「あの子」がどんな子なのか。
そしてこの恋の結末は本編をお楽しみに。
「私」側のヒントは、雪柳。