表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

金の竜のお話1話

おはようございます。こんにちは。こんばんは。はじめまして。特ルリと申します。

オリジナルはほとんど執筆しないのですが、ファンタジー+SFという挑戦することがほぼないジャンルでスローペースで少しずつでも皆さまが和めるようなお話を投稿できればと思っています、もしよろしければお手に取っていただければこの上ない幸運でございます。内容上かなり話が駆け足になりがちですが……

見てくださった全ての方に感謝を。ありがとうございます……!

※一部設定に自作小説「星空の彼方で」と類似した箇所があります

※同じお話は今後pixiv小説にも投稿させていただきますので、お好きな方でご覧ください。


「金の竜とSF」


宇宙船「クラーク号」は、人間的判断によらない艦長を擁いた同時存在システムによる推進力と循環型ライフスペースからなる巨大な移動式住居……もっとひらたく言うのであれば、人工知能に艦長を任せた一つの国ほどもある巨大な宇宙船である。

<<アテンション・オールクルーズ。オーラリオ・ラ・ラクルー。全クルーへ通達します……>>

「……おっ、全体会議が始まるようだね」

号名の由来にもなったAI(人工知能)「クラーク」の穏やかな起動音と共に、あるクルーは修理していた銀色の機械を頑丈な箱に仕舞い。

「ふああ、もう朝なの……日照再現システム壊れっぱなしだったっけ、私の部屋……」

あるクルーは放送の大音量に大あくびなんてしながら目覚め。

「それでは、資料も取れたし参りましょうか」

またとあるクルーは目の前に咲いていた桜をカメラで撮ると、急いでテレポーテーションの準備をする。

「……」

そして、またまたとあるクルーは。

「……な、なんだお前?!」

もう何百度目になるかもわからないその会議に出席する以前の、恐ろしい問題に突き当たったりするのだ。

「……え、えっと……ですね……?」

何せ、隕石でも降ってきたかのように驚く彼の前に居るのは。

おとぎ話でしか見たことないはずの空想の存在「竜」なのだから。



宇宙船「クラーク号」とこの広い宇宙に無数にいる類似した宇宙船の目的は、移住できる星への人類の移送であり、またコールドスリープを併用して世代交代することなく生きて第一世代にその星を踏ませることにある……わかりやすく言えば、「諸事情で地球が住めなくなったため光速のおよそ150倍という絶望的な遅さを冷凍睡眠によってごまかしながら他の星へと移住する」ことにある。

「……しばらく寝ているうちに技術が大幅に進歩して空想を実体化できるようになったとか、そういうものじゃないのか」

「し、失礼な!わたしはれっきとした本物の竜ですよ!」

そのため、次に目覚めた時に文明が格段に前進していないとは限らないのだが……

「ほら、炎だって氷だってこの通り!」

「ひ、非常警報が鳴る前に消せ、早く!」

目の前で喉を大きく鳴らして氷の息を吐く「彼女」を見るに、「彼」の想定は的外れそうであった。

「……それで、ここはどこです?」

「……」

小首なんてかしげているその竜は、背丈は大型犬くらい、瞳は綺麗なヒスイ色、うろこの代わりに絹のようにつややかな黄金色の体毛を持ち、おまけにいかにもドラゴンらしい立派な曲角と蝙蝠羽根をしていた。

「ここはクラーク号内セクター・ジャパン、居住ブロック5566の居住エリア……です。」

同じクルーである可能性を想定して一応敬語になったその人は、年齢の頃は青年、背丈は平均的より少し低いくらい、目は綺麗な黒、服は今の今まで船外作業でもしていたのか不思議な銀色の作業着、おまけに少し目つきが悪かった。

「……くらーくごう?それは、ラースバイント大陸のどの辺ですか?」

「……」

いちいち挟まる会話の間を塗りつぶすように、クラーク艦長のクルー招集アナウンスがかかる。

「……一つ言っていいか」

「はい!悪い人じゃなさそうですしなんでも!……えっと」

その音響をバックグラウンドに、にこにこと微笑む金の竜に向かって……

「サトウ、サトウ=タロウ。好きに呼んでくれ……さて、言っていいな。……エイプリルフールは昨日で終わりだ!馬鹿な事してないで電子幻覚を解いてさっさと集合!」

「サトウ?!」

……まるっきり、現実を受け入れる気のないサトウの声が響くのだ。




宇宙船「クラーク号」の艦長「クラーク」は、生身の人間であれば絶えることができない数万年の間世代交代を起こさず司令塔となれるよう、また一つのミスすら致命的になりがちな宇宙において感情に流されないような判断を行えるようにと作られた人工知能である……砕いて言ってしまえば、皆に的確な指示を与える頼れる電子頭脳といったところだろうか。

<<……ミスター・サトウタロウ。……これは本物なのですか?>>

そんな頼れる彼すら、困惑する者が居住ブロック5566の全てのクルーが集まった大広間に居る。

「そうらしいです、クラーク艦長。……そういう本があるとはまだ俺にも信じられないのですが」

「はじめまして!……あれ?透明ですね、幽霊ですかクラークさんって」

立体的な電子画像として表示されているのは軍帽を被った黒い髪の背の高い男性。

彼に向かう竜は、サトウに向けたのと同じ笑みを花が咲いたように返す。

<<……呆然としている、あるいは念のためテーブルの下で銃を構えている他のクルーにも説明しなければなりませんね。ミスター・サトウタロウが連れてきたこの生物は……>>

言葉が終わる前に、全員の前に一冊の本が映った電子パネルが展開された。

<<……空想小説「ラースバイント伝記」に出てくる架空の生物なのです。……その、はずなのです>>

何故そうなったかこちらが聞きたい、とでもいうかのように電子画像に若干の乱れが見られた後……なんとか取り繕うためかサトウ達が話を引き継ぐ。

「えーっと……つまりは、皆さんわたしが本の中から来たか、あるいは誰かがそう思い込ませてわたしを作ったって言いたいんですか?」

自分でもどちらかわからない、といったぐあいに、あっけにとられるクルー達の前で彼女は小さな羽根をパタパタさせる。

「……そんなところだ、言いたいとかじゃなくてそうなのだろう多分」

思いもよらぬ方向からのフォローにそう吐き捨てると、気まずい雰囲気を払拭するためにサトウは話を続ける。

「そういえば名前を聞いていなかったな……なんて言うんだ?」

「はい!それなんですさっき私が言いたかったのは!」

その名前を知っている者かららしい、どよめきが会場から聞こえた。

「……わたしの名前もサトウって言うんです!お揃いですね!」

「……なんだって?!」

                  *

<<非常に理解が困難な事象だらけです、なぜ架空の生物が本から出てきたのか、そしてなぜその名前がミスター・サトウタロウと一部同じなのか……>>

複雑な思考を施すためかセーフモードがかかり映像を大きく乱す艦長に聞こえたのは、慌てたようなこんな声であった。

「ど、どちらにせよ……クラーク艦長、彼女の処遇はどうしますか?」

<<……>>

しかし。

何処かで見たような会話の間の後、

<<……どうやら知能はあるようですし、……いいでしょう。これより一定の研修期間の後彼女をクルーとして認めます。教育役はミスター・サトウに一任しましょう>>

そう言って、ドラゴンに負けないほどの笑顔でにっこりとそう言い放つとはまだ彼は知らない。




宇宙船「クラーク号」においては大きく分けて国や集団別に分かれたスペース「セクター」と、その中において実際に労働したり居住する「ブロック」に分かれている「セクター・ブロック構造」……簡潔に表現すれば、内部では地球における国―市町村の関係と同じような構造がとられている。

そうであれば勿論普通の街のように食堂があり、商店街があったりもするのであるが……

「……それで、ですね!わたしが姫様の身代わりになろうと前に出た瞬間、彼女はさっと私を抱えて死神のカマをよけたのです!」

「……確かにその記述はある!『ラースバイント伝記』第16章、「姫の試練の段」にご丁寧に挿絵付きで!」

その日、とある食堂はドラゴンを遠巻きに恐る恐る見つめるクルー達にぐるっと包囲されるという異常事態になっていた。

「挿絵ではすごく精悍なドラゴンに見えるんだがなあ……こいつと同じとは思えない」

「失礼しちゃいますねサトウさん!……おかわりいただいていいですか、えっと……」

ああどうぞ、と本をめくりながら手元にあったサラダボウルをサトウ達に渡すのは利発そうな顔をした青年。かけている眼鏡の片目には先ほど読んだ本に関するあらゆる資料が映像として流れていながらも、それによって会話に支障をきたしている風はない。

「紹介が遅れましたね、私は技術局勤務の「アサダ・ケイタ」。サトウとは小学生のころからの友人です。どうかアサダとお気軽に呼び捨てしていただければ……そして、この本によればあなたは」

「はい!……わたしはサトウです!ご友人と同じ名前ですね!」

「……ふむ、そうだね……」

フォークを使わず前脚で手づかみにサラダを頬張るほがらかな竜を前に何やら考えると、やおらアサダは立ち上がる。

「みんな、騒がせて悪かったね。これは技術局の生物技術の最新テストモデルなんだ。たまたま友人と同じ名前だったから面白がって作ってみたけど……うまくいかないもんだね、脱走してしまったよ!」

そして、そうわざとらしい声で外のクルー達に叫びながらこちらを振り向いてウィンクなんてするのである。

                      *

「はー、あんなに食堂の前にいた人がほとんどいなくなっちゃった……」

「今のは一時しのぎ……クラーク艦長にも同じことを報告した方がいいと思うな、僕は。」

窓から顔を出して通行人を仰天させる竜のサトウを背後に、声を潜めて2人の男性が会話を続ける。

「そうすると今度はアサダの立場が悪くなるんじゃないか?」

「心配ご無用。実は……」

一方が食器を下げた後の台にとん、とトランクを置くと中の銀色の機械を取り出してもう一方に見せる。

「空想の産物を実体化するような技術は、未完成だが実際に研究されている。だから後から言い訳はいくらでもきく。これはその試作機第一号……といっても動かなかったのでただのガラクタだったんだけどね」

「……!お、おい、サトウ!お前がいつの間にかここに立っていた時、こんな機械なかったか?」

いつの間に行っていたのか厨房の方から思わず大声で呼びつけられた竜は、その銀の光沢をじっと見つめると……

「……覚えていません、でもこんなものはなかったような……気がします……」

そう、途端に顔を曇らせる。

「技術局の機械のせいではない可能性が高いと思うよ、テストランどころか電源すら入らなかったんだからこの試作機は……」

「フォローありがとな……となると、「宇宙人」の仕業とかか?」

ほっと胸をなでおろす人間サトウは、よくよく考えれば問題は何も解決していないと今泣いたカラスのごとくすぐ表情を変化させた。

「可能性はあるな……カーリーさんに聞いてみたらどうだ?ここのお勘定は僕が払っておこ――」

「あ、それなんですが!」

ぱあっと辺りが明るくなったかのように笑うと、金竜は食堂の老人がおっかなびっくり運んでくる料理を誇らしげに見せる。

「素材を大事にするお料理を食べてみて感動したので、わたしもこちらにあるわたしの世界と似た食材で作ったお料理でお返しいたします!こう見えて姫様や仲間たちにはおいしいって評判だったのですよ!」

「……な、なんとうまそうな匂い……」

「トマトを丸ごと使った料理かい?どうしてこんないい匂いがするんだろうか、また空腹になってきた……」

そう、ひととき彼らを食という安寧にいざないながら。

「……僕ももっと研究を頑張ってみようかな、何しろ空想の産物を実体化したかもしれないサンプルが目の前にいるんだから!」




宇宙船「クラーク号」の個人スペースは、一般的にテレポートと呼ばれる可能移動学と空間節約構造により極限まで広いスペースをとりつつも日照再現システムなど健康を護り、パーソナルスペースの不可侵の概念を守った構造になっている……もっと楽な言い方をすれば、艦長放送以外は完全防音であり耐火・耐爆あらゆる機能を備えた鉄壁の住居である。

「それで、この子が噂のサトウちゃん?」

「はい!はじめましてカーリーさん!」

そんな個人スペースのとある一室、窓の外にある人工の海を背に、金の竜と金色の髪の女性が対峙する。

「はい、元気でよろしい。……なんてね、ごめんね可愛いからつい……じゃあ改めて」

ベッドから起き上がると、小さなあくびをしてから先に女性が名乗った。

「私はカーリー。「カーリー・ネプト」。サトウちゃんから見れば「宇宙人」ってことになるのかな」

年のころは妙齢の若い女性、染み一つないネグリジェ、流れるような黄金色の髪に青い瞳。そのどれもが、どこか遠い星から来たとでもいうかのように整っていた。

「……うちゅうじん?」

「他の星から来た生き物のことだ。カーリーさんはかつて地球に住んでいたカノープスβ星人だぞ。見た目だけは地球人っぽいがそれは科学技術かなにか変身しているだけで実際の姿は猫に近い」

狐につままれたような顔をするサトウに、サトウがすかさずそうフォローを入れたのはいい采配であったであろう。

「ふふ、科学技術かなにか……か。サトウくんナイスフォロー!うん、そうなのよ、ワレワレハウチュウジンダ、チキュウヲシンリャクシニキタゾ!って感じ……じゃなくて、私外交官なのよね地球とカノープスβの間を取り持つ」

「人間の姿だったのは彼女だけだったから、平和使節を送り合った当時は相当混乱したらしいな。……俺が生まれる前の話だけど」

絶妙にフォローしあう二人には、実は種族を超えた友情を築いたあるきっかけがあるのだが……それはまた、別のお話。

「うちゅうじん……地球という星と仲良くするための使節……なるほど、わかりました。それで」

ふむふむと興味深げに頷くと、ではなぜここに呼ばれたのかという当然の疑問が沸き上がり……

「あ、それは私にフォローさせて!……カノープスβ星人はね、ごくまれに夢で見た人物や物を実体化してしまう事があるの。」

「……!」

うまくやんわりとフォローしようとしたサトウを遮って、驚くサトウに対して直接本題に切り込む。

「お、おいカーリーさん……」

「どうせ話すことになるでしょ、遠回しにしても仕方ないわ!……でも安心して、その能力は一生に一度しか発現しない。」

串を手に取ると、優しく諭すように彼女はサトウ達に向き直った。

「ああ、だからもしかしてカーリーさんのそれが今朝発現……」

「一生に一度……?それってもしかして」

青い世界に向かって、金の竜に向かって、黒と銀の人間に向かって誇らしく、あくまで誇らしく。

「そう、私が実体化してしまったのは……ううん、実体化できたのは、この「人間に変身できる串」。……地球が好きだからこそ叶ったの、きっとね!だからサトウちゃんがこの世界に現れたのとは無関係!」

でもね。

サトウちゃんも地球とそこに居た人たちの事、私みたいに好きになられればいいなって思うの。

気づいていたサトウと気づいていなかったサトウに、潮騒の中でやさしく微笑みかけながら。

そう、彼女は願っていた。

「ところで……私「ラースバイント伝記」の大ファンなのよ!まさかご本人、いやご本竜に会えるなんて!……ねえ、黒百合の騎士と名もなき犬はその後宮廷でどうしてるの?姫様の夢である「世界中の人間を少しでも幸せにする」は進んでる?!」

「わ、わわっ……?!はい、黒百合の騎士さんはナモと名付けられた犬と一緒に約束通り剣を捨て、平和な世の中を護ろうと大陸の各所で外交官として活躍していると聞きました!姫様はわたしがさすらいの旅に出た後は手紙でやり取りしているだけですが、まずは不毛だったラーファの地を一面の果樹園にできたそうです!」



宇宙船「クラーク号」においての船外活動は、隕石やテレポート時の破損を修復することが主任務となる。放置しても数年かけて自動修復システムが破損個所を修繕するがむやみにエネルギーを食うことをよしとしない慎重なクラークの方針であり、クルー達も不満を持つものがいないわけではないがおおむね納得して……端折って言うのであれば、クラーク号のエネルギー倹約は船外での安全だが肝が冷えるような光景の中でのメンテナンスに支えられている。

「……結局、お前がここに居る理由は分からずじまいか……」

「はい……でも……あ、危ない!!」

安全ではあるのだが、ごくまれに事故が起こらないわけではない。それを示すかのように、並んで船内を歩く1人と1匹の前で宇宙服を着た一人の人物が命綱をなくしいずこかへ飛ばされていく。

「宇宙空間って空気がないんですよね!大変です、今助けに行きます!」

星空が透けて見えるガラスのような透明な素材を打ち破って、突如として炎をまとった竜が突進する。

「お、おい待て、空気がないと呼吸できないのはお前も……!」

「た、大変だ!空気が漏れるぞ!非常警報を鳴らせ!」

「非常事態!非常事態!ブロック12233封鎖せよ!自動テレポーテーション装置起動!」

それを止める暇もなく、誰かが押したセキュリティ警報によって男は強制的に安全圏にテレポートさせられた。

                   *

「……ご、ごめんなさい」

「……もう一発殴ってもいいんだぞ、本当に心配させやがって。……でも本当に英断だったな、クラーク艦長に言い訳くらいは協力してやるよ。……大丈夫ですか、クルーの方?」

慌ただしくクルーが修復作業を始めるのに隠れるようにして、金色の竜が正座(と言って適切なのかはわからない前脚を折った格好)させられている。

「そ……ぜえ、ぜえ……そんなに怒らないであげてくださいませんこと?彼女はわたくしの恩人です。……ちょうどお会いしたいとも思っていましたわ」

その横で息も絶え絶えに切れた命綱の付いた宇宙服を脱ぐのは、焦燥にもかかわらずどこか落ち着いた雰囲気の女性。敬語と貴族の言葉が混じる妙な話し方をし、黄金をじっと見つめるその目と髪は宇宙のように黒く、華奢な身体に強い意志を宿しているかのようにしっかりと立っていた。

「……ぶ、無事でよかった……お会いしたいと思っていた、ですか?」

オウム返しに聴き返す竜のサトウに対して、人間のサトウから気付けの紅茶をもらうとええ、と彼女はそのまま言葉を戻す。

「わたくしは歴史研究家「リンドウ=ニューマン」―歴史に残る実績はニホンの「ヤマタイコク」のあった場所を判明させたことくらいしかございませんが以降お見知りおきを……単刀直入に言わせていただきますと、『ラースバイント伝記』は歴史の事実である可能性がありますの。」

「ニューマンってあのニューマン遺跡の発見者のニューマンさん?!」

「じ、事実?!」

ニューマンの名前と、その唐突な切りこみ。

その両方に怯んだ男と竜をじっと見据えると、まるでお節介でもするかのように歴史研究家の話は続いた。

「助けていただいたお礼もせずにぶしつけに申し訳ございませんが……世界の各所で、『ラースバイント伝記』の描写と一致する旗や遺跡の跡が見つかっています。」

空中に何やらキーボード入力すると、巨大なデータベースから複数の遺跡や古い旗が展開される。

「……!こ、これは、紋章が見えないですが色には何となく覚えがあります、黒百合の騎士様のものでは……!」

「……いや」

そこで背後の星海を振り返ると、彼女のため息がほう、と聞こえた気がした。

「「かつて」見つかっていましてよ。……遠い遠い、星海の彼方の地球で、ね。」

「……」

今となっては、それは確かめようもない。

かつての人類の歩みは、もう遥か向こうなのだから。

それを改めて実感した人間たちは、改めて暗黒の彼方に立ち尽くす。

「だからこそ、サトウ様の存在こそがラースバイント王国がかつて存在したという証拠でございますわ……と言いたいのです、できるのなら」

「もしそうだとしたらなんで、わたしが今も生き残っているか……?」

恐る恐る、彼女はそう訊く。

「察しがよろしいようで。例えラースバイント伝記が事実であり、王国が存在したとしても……それは遥か三千年前の事。いくらドラゴンが実在したとしてもそこまで生きられる生き物などいません……」

それが、自分自身を傷つけると知っていながらも。

「ドラゴンの寿命は500年です……それに、もしドラゴンなんて「地球に存在した」なら……もっと伝説が残っていていいはずです、私と同じ種族の」

……その翼を、力なく垂らして。

「歴史研究家や考古学者の間では、「常識」からすれば当たり前ですが「竜のサトウ伝説」は後世の脚色であると考えています……の……。」

それを告げてしまうのは、残酷な事。

折角見えた自分のルーツの可能性を、無残に叩き潰す事。

それでも、彼女には彼女のためにそれを告げる義務がある。

「……だからこそ。」

その意図を察したのか、人間のサトウが竜に話しかけようとした時。

<<被害レポートを受理しました。クルー候補であるミズ・サトウ、直ちに中央広間までお越しください>>

……あまり良いとは言えないタイミングで、静かな怒りを含んだクラークの声が響いた。




<<……釈明を聞きましょう、ミズ・サトウ>>

「……。」

つい先ほど立ち寄った大広間で、電子の霊とたった2人きりで向き合う。

<<……釈明することはないのですね?あなたの理由がまっとうなものであれば、きちんとした釈明により意図的な施設破壊に対する罰則による到着までの強制冷凍睡眠だけは免れますよ?>>

ただクルーの安全を思っての行動ゆえに鋭くならざるを得ないその言葉は、どこか何も話さない彼女に対して心配しているようにも思えた。

「……釈明はありません」

<<なぜです?……あなたは罰則を受けたいとでも言うのですか?>>

「……そうです。」

<<……考え直す気はないのですか?……本当に?>>

「……。」

もどかしい、とでも言うかのように軍帽を脱ぐクラークは、改めて鋭い口調でこう言う。

<<ならば……>>

「ストップ!待って、待ってください!」

突如として、勢いよく扉を破って黒髪の男達が雪崩れ込んでくる。

それは、彼女と同じ名前を持ち、最も彼女を心配していた者。

「いくらこいつが考えなしで向こう見ずだといってもまっとうな理由はあります!クラーク号の備品の不備により他クルーの命綱が切れたのを救助しただけなのです、これはクルー規則356-2「緊急時の例外規定」にのっとっています!」

その後ろから利発そうな青年が、どこかわざとらしく申し訳なさそうに顔を出す。

「その命綱は僕が管理するブロックのものです。直接の責任はないとはいえ責任を負うべきは僕、今の今まで修復に時間がかかっていましたが、どのような罰則でもお与えください」

さらに後ろから、今ばかりはほんの少しだけまじめに金髪の女性が発言した。

「もし罰則をこのドラゴンに与えるのであれば、カノープスβ星の大使館への強制亡命を執行させていただきます。……ええ、物語の続きが聞きたいとかそういう理由じゃないですよ」

そして最後に、きっと人間のサトウも言いたかったであろう最後の言葉が言えなかった黒髪の女性が息を切らして走ってくるのだ。

「……だからこそ!自分がどこから来たかなんて関係ありませんわ!これからきっと自身の「竜の伝説」を作っていくであろうサトウさんを、わたくしを助けてくれた彼女への罰則を考え直してはくださいませんでしょうか!」

<<……あなた方は……!!>>

その様子に、この時代で最高のコンピューターの一つであるクラークシステムは一瞬だけフリーズし。

<<……さて、ミズ・サトウ。……彼らの言っていることは、事実ですか?>>

満面の笑顔を、嬉しすぎて驚いている金の竜へと向けるのだ。

まるで彼女が今日一日、そしてお話の中でずっとそうしてきたように。



「おーいサトウ、こっちの非常食を3番備蓄コンテナまで頼む。……それが終わったら銭湯に行こう!」

―宇宙船「クラーク号」には。

「サトウさん、あなたの体毛を分析したところ……ひどい寝不足のようですね、いい寝床を用意しましょう……あなたもですよ、人間のサトウさん」

「俺も?!」

「でもいくらなんでもあの行動は軽率すぎますわ。助けていただいて恩を知らないようですが、2週間労働刑で済んで良かったと思いませんとね……ふふっ」

―人間や。

「じゃあお返しに皆に今度はカノープスβ星の神話を話すわね、『昔々、原初には2つの太陽が……』」

―宇宙人や。

<<しっかりと新人クルーを教育してくださいね。あなた方に期待します>>

―機械や。

「……わたしは、かつてのような勇敢なドラゴンにはなれないかもしれません。自分がどこから来たかもわかりません……でも」

―ドラゴンがいて。

「でも、こうやって皆様と一緒なら……また、物語にあるような活躍ができるかもしれません。……だから!」

それだからこそどの種族も和やかに、新たな星を目指していた。



                                         続?
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ