篠見
「おやおや。班員が爆発に巻き込まれていますよ。助けなくてもいいのですか?」
黒いお面の《忍》が篠見に問いかける。
「ああ。死んではいないようだし、俺はアンタを倒すことに専念するよ」
既に頬にかすり傷を負っている篠見が答える。
「賢明な判断でしょう。私は貴方が班員を助けている隙を付いて攻撃を仕掛けていました」
《忍》は両手に持った銀製のコインを親指でトスして片手ずつ受け止める。
「だろうな。そういえば、アンタの名前は何だっけ?」
苦笑して問いかける。
「申し送れました。私の名前はニコ」
「ニコさんよ。カードゲーム好きか?」
「《忍》をしていない時の私はギャンブラーですから。大好きです」
それを聞いた篠見はニヤリと笑う。
「だから、コインを使うのか。丁度良い。コインとトランプどっちが上か確かめようぜ」
「それなら、私の勝ちでしょう。何せ、貴方はトランプを取り出してから何もしていないのだから」
ニコは両手から途切れることの無いコインを銃弾のように篠見に向けて発砲する。
「それは、喜多村に見られたくなかったからさ」
両手にあったトランプをばら撒くと、それらは裏側状態で巨大化し、篠見を包み込むように覆われる。
コインの弾丸はそのトランプに命中すると、そのトランプは表になって消失し、また新たな裏側のトランプが出現した。
ニコはこれ以上撃っても効果がないと判断したのか、その攻撃を止めると、それに呼応するかのようにトランプは消失した。
「おや? 先程と姿が違いますね」
ニコが見た篠見の姿は顔に大きなスペードのマークが現れ、中央に数字が書かれてあり、体操着の上にはダイヤのマークが現れ、スペードと同様、中央に数字が書かれていた。
「《数字還元》。お前が撃った数字の目の合計が零になるまで痛みつけてやるよ」
顔に記されていた数字が変化すると、篠見の右手に剣が出現した。その後、空いている左の掌を見て苦笑する。
「んー。難しいな。一応少量飲んどくか」
途端。左手に綺麗な水が入ったワイングラスが現れると、篠見はそれを飲み干し、ワイングラスが消失した。
「何をn――――――」
ニコが言おうとした途端。篠見が彼の背後に回りこみ斬り込もうとしているのを気付き、横に移動して回避する。
「何か言ったか?」
篠見はニコの動きに反応して、彼との距離を先程のまま維持する。
「クソが」
ニコの言葉が乱れると、篠見の目の前に紙幣のようなものが現れた。そして、それは彼を囲むように襲いかかる。
「その程度で取り乱すなら大したことないな」
篠見の剣が消失すると、彼は無防備の状態で目をつむる。
「もらったあああああぁぁぁぁ」
ニコが勝利を確信したかのような雄叫びを上げると、その紙幣は巨大化し、篠見を包み込む。
「ふっ。この《硬貨札》に包まれたら最期、おr―――――」
その時、《硬貨札》が点火して、篠見が火達磨になっているのをニコは見てしまったのだ。
「どうなっている? まさか……」
「そのまさかさ。俺がお前のお札を燃やしたのさ」
焼失した紙幣から現れたのは真っ赤な炎を纏っている篠見だった。
「お前、火も使えるのか?」
「ああ。《数字還元》でダイヤのポイントがある程度貯まっている時はな」
ニコは篠見の腹部にあったダイヤの中に記されている数字を見ると、そこには英数字でゼロと記されていた。
「《数字還元》には制限時間が設けられていてな。それまでにお前がめくった数字の数値をゼロにしないとならない。時間が過ぎたらそのポイント相当のダメージが俺に返ってくる。お前は思っていた以上に弱い。だから、直ぐに終わらせる」
篠見を護っていた炎が消えると、彼は左手からまた水が入ったワイングラスを取り出して、それを飲み干す。
「まさか、貴方の左手にはハートが記されているのでは?」
「ご名答。トランプのハートには聖杯を意味している説がある。では、クラブは?」
「棍棒」
ニコが答えた途端。篠見の右手から巨大な金属製の棍棒が出現し、軽々と持ち上げる。
「正解。さすがギャンブラーってことかな。ちなみに、払うポイントが大きいほど武器や能力は向上する」
そう言いながら、篠見のスペードの数値がゼロになった。
「スペードがゼロになったようですが、何をしました? スペードは剣を意味しています。見たところ剣は現れていないようですし……」
それを聞いた篠見は鼻で笑う。
「剣以外にも意味はある。お前はただそれを知らなかっただけさ」
そう言いながら、棍棒を素早く振ると、ニコに直撃した瞬間に突風が発生した。それによってニコは遥か彼方まで吹っ飛ばされていったのだった。
「本当に弱かったな」
そう呟いて、篠見は元の姿に戻ったのであった。




