遭遇
G班は《式神》を倒した後、大きな時化もなく、のんびりと船で過ごしていた
「おーい。島が見えてきたよー」
船首付近にいた逢崎さんが叫んだため、俺は起き上がってそれを見た。
視界に入っているのは、高い崖の上にある深く生い茂る森林や、高くそびえる山であった。こうして見る限りでは普通の島だが、蚊和邊入人の作品によると、裏の世界の視点だと、そこは戦闘訓練島と揶揄されていたらしい。島の内部に入れば何か分かるのだろうか?
その時、船は急加速し始めた。不意の出来事だったため、俺はよろめいて倒れそうになるが、何とか踏み止まった。
後ろにいる阿邊山君はそれが可笑しかったのか、クスリと笑われたがしたが気にしないようにした。
それから一分程度で翻刻島に到着した。
丁度着いた場所が停泊できる海岸だったので、そこに船が停まった。
「着いたー。俺達は今何位だ?」
阿邊山君がそう言うと、タイミング良く上空から白い鳥が下降した。その鳥の嘴には便箋が咥えられていた。
阿邊山君はそれを受け取ると、白い鳥は飛翔して森の中に入っていく。
「何それ?」
逢崎さんが興味津々にそれを見つめる。
「さあ?」
そう言って封を切り、中に入ってある手紙を取り出す。
阿邊山君が読んでいるのを俺と逢崎さんは横から覗き見る。
そこには、俺達G班の到着順位が記載されていた。
十位中六位。初端から半分未満の順位である。
「マー君が遅刻しなかったら、五位には入ったんじゃね?」
阿邊山君から胸を突き刺さる一言が飛び通う。
「そうかもしれないけど、本人の目の前で言うのは止した方がいいよ」
逢崎さんは苦笑いしながら注意するが、それも余計だ。
「お前ら。そこで何しているか知らねぇが、とっとと降りな。内屋さんはとっくに降りているぞ」
操縦室にいた篠見君が甲板に出て発言する。
「こんな所で時間潰すのも勿体無いな」
そう言って、阿邊山君は飛び降りると、俺と逢崎さんは同じようにして船から降りた。
「で、篠見は何処行った?」
阿邊山君は見回して彼を捜していると、さっきまで乗っていた船が忽然と消えたのだった。
「き、消えてる。まさか敵襲?」
俺はそう言って、気配を感じ取りながら《オーラ》を纏う。
周囲には近くにいる班員三人と、少し遠くに篠見君がいるだけで、敵らしき者は見当たらない。上空からの攻撃か?
「悪い悪い。船が消えたのは、俺が他の者に認知させないためにした事だから、気にするなよ」
篠見君はそう言いながら、俺達と合流する。
「俺等六着らしいから、急ごうぜ」
阿邊山君はそう言いながら先頭を切って、島の奥にある森へ走っていくと、俺達も彼の後を付いていったのであった。
森に入って三十分が経過しようとしていた。
植えられている木のいくつかは意思を持っているのか、時度、枝や根を用いて攻撃を仕掛けてくるが、大したことがないため、回避や軽い攻撃をするだけでそれらは退いく。
「ねえ。道ちゃんと合ってる? 木が邪魔するだけで、《忍》に会わないじゃん」
逢崎さんが先頭にいる阿邊山君に問う。
「心配しなくても、その木が道を教えてくれている」
「もしかして、途中違う道を通ろうとしましたか?」
内屋さんが言う。
「ああ。近くに人の気配がしたからな。そこに行こうとしたら、木が邪魔してきた。恐らく誰かが監視して木を操作しているのだろう。まあ、生徒の審査をしているらしいから、していないほうがおかしいけどな」
そう答えた後、彼の表情が引き締まる。
「そろそろ。来るみたいだ」
そう呟いた途端。前方の木にクナイが刺さると、それが起爆の合図だったのか、周囲の木々が一斉に爆発した。
木を破壊するまでの威力はなかったようだが、爆発によって発生する煙が異常に多く、視界が周りの様子が良く見えないほどだ。しかも、他人の《オーラ》が感じ取れなくなっている。ということは、この煙は普通のものではないということだ。
「ちょ……なにs――――」
「アラン。エシ。この子貰っていくぜぇe」
内屋さんの声が遮られると、擦れた感じの野太い声が聞こえてくる。
「フフフ。僕はこっちの方が好みだから気にしないよ。ゲド」
先程の声とは違い、爽やかな声が聞こえると、電撃が視界に入った。
逢崎さんがもがいているのだろうか?
「ケッ。二人とも女取りやがって、いいぜ。俺は痛みつけかいがありそうな者を攫うぜ」
これといって特徴がない男の声が聞こえてきた。
この男が誰を攫うのかは分からないが、俺が標的の場合があるので、警戒をした方がいいかもしれない。敵の狙いは班を分散するのが目的らしい。
「では、私はk」
紳士のような声が聞こえた途端。煙が一気に払われて視界が良好になった。
横を振り向くと、篠見君が先程とは違う色のバッグを開けていた。
「貴方の仕業ですか……」
黒いお面を被った背の高い《忍》が呟く。
「ああ。《俺様専用我侭鞄》。《オーラ》の量によって俺が気に食わないと思っているものを吸い込む鞄さ。ちと、発動するのが遅れたな。俺と喜多村以外ははぐれたみたいだしな」
辺りを見回すと、確かに俺達二人と目の前にいる《忍》以外は誰もいなのだが、目の前にある大木の上の方に、知っている《忍》に似た《オーラ》が感じ取れた。
「へー。思っていたよりもやるね」
そいつはそう言いながら、木から降りて着陸した。
「君はあの時の……」
春日公園で八白と一緒にハニエルに捕えられていた《忍》。ユイさんの弟で、名前は……何だっけ?
「そうだよ。こうして会うのは初めてかな。まあ、あの時は管轄外だから手を出さなかっただけだから。まさか、根に持っていたりしていないよね?」
「全く」
名前が忘却するほど興味がない。というより、自分の記憶力の無さが呆れてくる。どちらかといえば、覚えの悪さかもしれないが。
「それなら良かった。さて、ルールでも説明しようか」
「それより、清達を何処にやった?」
篠見君は殺気を《忍》達に向ける。
「彼等が殺されるほど弱くなければ大丈夫さ。ここから半径一キロメートル以内は決着がつくまで、僕等も脱出不能なのだから、捜せば見付かると思うよ」
「そのルールとは?」
篠見君は開けっ放しになっている《俺様専用我侭鞄》を閉めながら言う。
「タイマン勝負で君達が三勝したら解放される。反対の場合は、一晩。この森から抜けられず、先生達が厳選した猛獣達と一夜を過ごしてもらう。ポイントは一人につき十。監視者の気まぐれで特別ポイントも貰えるかもしれない。質問は?」
「勝敗の決定基準は?」
「相手が降参、気絶、死亡のどれか一つでもあればいい。死亡に関しては先の二つに当てはまる状態で相手を殺害した場合は失格。その程度によっては退学も考えられる。他には何かあるかい? 闘志を燃やす篠見壇君」
「何もない。俺の相手はどっちだ?」
篠見君は黒に使い灰色の《オーラ》を纏うと、先程の鞄が消滅した。
「私でございます。タイマンでの対戦相手も上司の命令で固定されていますので悪しからず」
黒いお面の男が言う。
「別に誰だっていいぜ。暴れ足りなくて、イライラしていたところだ」
彼は扇子を開くように両手にトランプを出現させた。
というか、彼の能力の元は何だろうか?
色々な能力を持っているようだが、それらは何かの共通点で発動しているはず。
「おいおい。余所見していていいのか?」
ユイさんの弟さんの声がしたので、そちらに振り向くと、少し前にある地面が突如爆発し、土埃が左目に入った。
「演習みたいなものだから甘くしているけどさ、殺し合いだったら死んでいたよ」
「だったら、なぜ殺さない? 殺せたのだろう?」
左目を瞑りながら問う。
「こっちにも人を殺したらぺナルティーがあるからな。本当姉と同じように甘いよ。あの人は」
溜息混じりに言う。
「そのペナルティーって?」
「教えるかよ。知ってもお前らには無関係ない話さ」
その途端。相手が背後に回りこんだので後ろに振り返る。すると、彼はクナイを既に投げ込んでいたので、刀を出現させて、それを刀身で弾く。すると、彼はそれを読んでいたかのように前進し、左腕に仕込んであった刀で俺の腹部を狙うが、間一髪のところで俺は後退して回避した。
「クスッ。少し焦ったでしょ? ワンテンポ遅れていたら君は重傷だったろうしね。さて、次はどう攻めようか。フフフ」
不敵な笑みをしながら敵は《オーラ》を増幅していく。
「さあ、始めようか」
そう呟くと、地面の奥の方から爆発音が鳴り響くと、足場が陥没し始めた。
崩れていない地面に飛び移ろうとしたが、 相手がタイミングよく放ったラリアットを食らってしまい、そのまま地面と共に落ちていくのであった。




