表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mind Of Darkness  作者: 渡 巡
第三章 親睦合宿
31/36

本と現実

 四月二十日、金曜日。

 帰りのホームルームにて、五日後から始まる親睦合宿のしおりを教師から配布された。

 この親睦合宿はクラス内の親睦を深めるのではなく、学年を通した親睦が目的という少し変わった趣旨であった。何でもクラス単位の場合だと、秋になる頃には大勢のクラスメイトは自然にそのクラスに馴染みが湧いてくるが、学年単位の場合は中々接する機会が無いからだという理由らしいが、この企画の発案者の価値観のゴリ押しが何となく感じ取れるのは俺だけだろうか?

 しかし、言われてみると、部活が一緒だったり、友達の紹介だったり、何かしらのきっかけがないと中々他クラスとは接さないと思った。

 この合宿はAコースからEコースあり、それらは全てくじ引きで決められたらしい。

 本当にくじで決められたかどうかは分からないが、どのコースだろうと、旅費はなく、宿泊日数や国内旅行なのは変わらないらしい。違うのは行く場所と人数だけ。かくいう俺、喜多村誠はAコースである。

 Aコースは総生徒数五十名。行き場所は(きゅう)国立(こくりつ)翻刻(ほんこく)学園(がくえん)がある翻刻島だ。

 この翻刻島は我が校の私有地であり、創立仕立ての頃はそこで学業で励んでいたと、しおりに記載されていた。

 そのしおりはコース毎に配布され、冊子の厚さ同じくらいだが、中身が全く異なるらしい。

 それにしても、しおりにしては、各一日の日程を記載されていないのはいかがなものだろうか。

 まともに記載されているのは旧校舎と寮の案内図と、Aコースの班構成くらいだ。

 班は各五名ずつのA~J班まで存在しており、俺はG班である。他の班員は見たことも聞いたこともない男女二人ずつと一緒になる。

 俺が惚れている女性である黒部彩紗はA班であり、その班には俺が知っている《財団》の社長の息子である武燈勇、アストライアー星人のミソラがいる。他にもエドワードという男性と、ウサカという女性がいるのだ。

 しかし、ウサカという女性は昨晩、ミソラが言っていた人物なのではないかと思うのだ。

 仮にそうだとしたら、くじ引きにしては抽選が偏っており、とてもアットランダムに選ばれたものだとは思えない。そういう思考に至るのは、俺だけが仲間外れにされているという嫉妬心から来ているからだろうか。

 それはそうとして、俺は蚊和邊(かわべ)入人(いりひと)という作家の本を読まないとならなかった。

 その人物の著書は今回の合宿に何かしら関係があるらしく、彼の作品を未読なAコースの人達は、月曜日の班員顔合わせを主要にした集会までに読むことが宿題になっていた。彼はここの学校の生徒だったらしく、図書館に同じ種類の本が十冊ずつあるらしい。

 その宿題を読んだ感想文をはじめとする提出物などはないので、読まなくても先生達にバレはしないのだが、合宿を楽しむために読んでおこうと思ったのだった。

 彼の本を借りる際、彩紗に図書館へ誘うが、彼女は既に全作品を読んでいて、内容も大まかに覚えているらしく断られた。彼以外の未読の本を探すのもしないみたいだ。まあ、無理に本を読むのも体に毒だろうと思い、無理強いはしなかった。

 一人で図書館へ(おもむ)き、彼の作品である“宝石”と“大陸”を借りた。

 他にも“石版”、“寄生”といった二文字の熟語のタイトルが十種類くらいあり、いずれもハードカバーで製本されていたのだった。

 俺はそのまま図書館を出て家へと帰宅していったのだった。

 

 夕食やお風呂を済まして、借りた“宝石”と向き合っているが、普段本を読む癖が無いせいなのか読み始めるのに時間がかかる。読書は嫌いではないが、意欲が無いため今まで読破した本は四、五十冊くらいだろう。

 これ以上、無駄に考え込むのは時間の無駄だと思い、読み始めた。


 そして、読破した後に思う。

 この宿題をそっぽ抜かした方が良かったかも知れないと。


 二日後の日中。

 午前中に二冊を読破したのだが、正直ゾッとしている。

 この作者のことをネットで調べてみるものの、該当するものは存在しなかった。次に出版会社を検索するが、先程と同じ結果だった。彼の本は、この翻刻学園しか存在しないのだろうか?

 いや、そうだとしても卒業生のだれかがブログなどで紹介していてもおかしくはないし、そもそも俺と在学期間が同じあるはずである彩紗が既読なため、その可能性は低いと見積もった。

 悩んでいても仕方がないので、彩紗に彼についての疑問についてメールで送った。

 それにしても、この蚊和邊という作者。誤字脱字が酷かったが、ある事をいくつか知っていれば、彼の描いた空想の物語は実話の物語なのではないかと思い至ってしまう。彼の素性がネットで存在しないのもその考えに起因しているのだろう。

 すると、携帯電話からメールの受信音が鳴ったので、開いて見ると、今直ぐに《黒の四十四室(ブラックボックス)》に来て欲しいとのことだ。

 何の躊躇(ちゅうちょ)もなく、、《異空間(ディメン)黒色(ション)(クロス)》を全身で覆い、そちらに向かった。


 《黒の四十四室(ブラックボックス)》の中心部屋に到着すると、彩紗はいつも以上に無表情で椅子に座り込んでいた。

 「“宝石”と“大陸”」

 「成程。それじゃあ、聞きたいことが山ほどありそうだわね。それで、私は貴方の疑問をどうすればいいわけ?」

 彩紗は廃ビルと出会ったときよりも、冷酷で何かに押しつぶされそうな雰囲気を醸し出している気がした。

 「正直に答えてほしい。嘘偽り無く、何の気遣い何かしなくていいから」

 「…………おかけになって」

 彩紗は向かいにある椅子に向けて掌を差し出したので、俺はその椅子に着席した。

 「読んでいく内に、僕が知っている裏のワードがいくつかあった。蚊和邊入人の作品はもしかして、全て実際にあった話ではないのかと思ってしまうほどに。だから、聞きたい。彼の作品は全て本当の出来事なのか。それとも、彼が裏の人間であるけど、ただ単に彼の趣向でその用語を使ったかどうかを」

 彩紗はその質問に対して、ゆっくりと瞬きをした後、目の前にあるティーカップに口まで運ぶ。

 「誠。何でもかんでも人に聞くのは良くないわ。それに、貴方がここに来たのは自分の思考に自信がないから私に答えを求めているだけ。違う?」

 彩紗の言う事に、ぐうの音も出なかった。

 確かにその通りかもしれない。俺は彼の本に記された事が、現実に起こった事だと決定的な証拠を知っている。だからこそ、受け入れたくないだけだ。あの結末が本当なら、俺達は――――。

 「まあ、良いわ。一つだけ、教えといてあげる。《(ダークネス)(ホール)》の原因である一つは、“大陸”に記された戦争によるもの。人々の記憶を抹消されて復興したから仕方ないかもしれない。そうでもしないと、終戦後の人々は傷つき立ち上がれないほど壊滅的な状況で、表の人々に非現実的なことを見せたからでしょう……」

 「これを読むまで、今年は二〇〇七年だと信じていたけど、記憶操作されていなければ、今は何年だ?」

 「二〇六六年よ。ちなみに、あなたが学んだ歴史の年号もずれているわ」

 「まあ、そうでもしないと帳尻が合わないからな。ん? じゃあ、俺が学んだ第三次世界大戦がそれにあたるわけか。確か、一九六四年だったから、実際の年号だと、二〇一五年か。“大陸”の舞台と一緒の年…………」

 となれば、最期に出た人物の言葉を期にあれが出来たのだろう。だからこそ、――――。

 「頭を回転させているところ悪いのだけど、彼の作品を読んで、貴方が踏み入った世界から逃れたいと思った?」

 ああ。そういうこと、だから機嫌が悪かったのか。

 「むしろ、立ち向かいたいと思ったよ。来るべき日まで、俺は鍛えるよ」

 「そう。それは良かった。じゃあ、私は帰るから。またね」

 そう言って、彩紗は不機嫌そうに、《異空間(ディメン)黒色(ション)(クロス)》を被り、この場から消え去っていった。

 彼女の機嫌が悪かったのは、俺が真実を知り《BLACK14》を脱退するのが嫌だったのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。

 (自意識過剰でしょ)

 「うるさいよ。あい」

 俺も、《異空間(ディメン)黒色(ション)(クロス)》を覆い、ここを後にした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ