四凶鳥
「これは、どういうことかしら?」
彩紗が思わず呟いたのは、眩い光が無くなり、そこから現れた出た生物を見たときだった。。
背に赤、青、紫、白の四色の羽が生え、中肉中背の体系をした中性の顔立ちをした生物であった。
「いやー。実に愉快だ。これが私の本当の力か。クックク。そういえば、小さい頃。近くにいる陰陽師が親の本当の正体をバレそうになった時に、俺は二人に分離していた事を忘れていたよ。それで、妹の舞が生まれたこともな」
「あー。もう嬉しくて嬉しくてどうにかなりそうだ」
「……。貴方は何者?」
彩紗と布川は警戒して、少しだけ後退する。
「俺かい? 名前は梧桐羊瓶。鳳凰。つまり、五方神鳥とほぼ同類の力を持つ四凶鳥の能力を百パーセント備えた突然変異の化物さ。クックク。ボスや両親が言っていた通り、無能な善人面していれば俺の正体がバレなかったらしい」
その時、《ヴァリアス・ロッド》で瞬間移動をした苅野とミソラが到着した。
「やはり、遅かったようね」
「フフフ。可愛いお嬢ちゃんが二人。どんな悲鳴を奏でるのか、聞いてみるか」
途端。梧桐は彩紗の懐に一瞬にして入り、彼女の首元を握り締める。
彩紗はそれに反射して、梧桐の身体を発火させるが、効果が無く、更に首を強く締め付けられる。
「お嬢」
苅野が咄嗟に梧桐の頭をぶん殴ると、それは吹き飛んだが、一瞬にして再生した。
「効かねぇよ。お前らの攻撃でたとえウィークポイントに攻撃しても俺には無傷だ」
梧桐が言い終えると、苅野は何もされていないのに後ろに突き飛ばされる。
「あー。首を絞めたら声が出ないかぁ。まあ、苦痛な顔でも悪くは無い」
苦しい表情をする彩紗がニヤリと笑うと、全身が液体化し、その全てが地に落ちて梧桐から逃走する。
「やるじゃん」
梧桐が彩紗を追跡しようとすると、彼の身体に青い光を放った剣が数十本無造作に突き刺さった。
「しつこい男は嫌われるよ」
ミソラが言うと、梧桐は拍手をし始めた。
「うーん。悪くはない。この系統の攻撃しか効かないけど、当たりは引かなかったようだ」
そう言いながら、剣を一本一本引き抜いていく。
「自ら弱点を告白してくれてありがとう」
ミソラは更に先程の剣の数を増やし梧桐の頭上に降り注ぐ。
「調子に乗りすぎ、本当に死ぬぞ。ヨウ」
片手に本を持った山形情治が彼の背後に姿を現すと、近くの壁に触れる。
「悪い。久しぶりすぎて、ついな」
剣は山形が触れた箇所に一斉に向かっていった。
「ったく。相変わらず世話が焼けるな。ヨウ。俺等の目的はここではない。行くぞ」
「えー。もっと美女と遊びたい」
「……お前、いつから女好きになったんだ……?」
山形は顔を引きつって問いかける。
「さあ? 美女を見ると何か勝手に嬲りたくなって仕方ない。四凶鳥の若者はきっとこういう症状があるんだよ。後で、親父に聞いてみればいっか。《RP》にいるんだろ?」
「ああ。やっと、カイを落第できるって喜んでいたよ」
「ふーん。それが目的か。俺がガキの頃から、わざわざ家まで来て親父と喧嘩するほど仲が悪かったしな。で、奴の所へ行くにはどうする。青髪の美女でも攫うか? 用事が終われば使いたいし」
いやらしそうにミソラを見つめる。
「下衆が、こっち見んな」
ミソラが激怒して、杖を翳すが何も起こらない。
「どうして?」
再び同じようにするが、何も起こらなかった。
「さっき僕が壁を触れたでしょ? その時に触れた付近を強力な磁石化したのと、この部屋を十分間だけ僕以外はいかなる能力を発動出来ないようにしたのさ」
「だったら素で殴ればいい」
苅野は山形の距離を詰めていく。
「そう来ると思ったよ」
山形は本を開くと、苅野は一瞬にして部屋の奥に移動した。
「無駄な戦いはしたくないんでね。さて、筋肉馬鹿が来ない内に行くよ。ヨウ」
「ん? 攫って、調教しなくてもいいのか?」
それを聞いた山形は顔を真っ赤にした。
「これで、瞬間移動できるから。その必要は無い。後、下品な事は少し控えろ。こっちも変態だと思われるだろうが。死ね」
激怒しながらこの部屋を去っていった。
「チッ。部屋から出やがった。カイって言う男の居場所を教えろ。この施設にいるんだろ?」
苅野はミソラを睨みつけながら問う。
「少し前にいた場所なら、私達が最初に集合した場所の近くにいるわ」
「で、ここはどこだ?」
「目的地まで対角線上にある四階の空き室」
「だったら、そこの穴から降りて、お前の能力で瞬間移動すればいい」
苅野がそこから降りようとすると、そこから、黒部彩紗がジャンプして、こちらにやって来た。
「お嬢。いつの間に下に?」
下の階に彩紗がいた事に気が付かなかった苅野は驚いていた。
「増援が来る少し前にね。実体化するのに時間がかかって、彼の能力が発動する前までに攻撃ができなかったわ」
彩紗は悔しそうな表情で説明する。
「お嬢の説明だと、下の階も使えないって事か?」
「ええ。あと少し彼の到着が早ければ、液体化した私はその時の状態で元通りになるから、死んでいたわ。本当、運が良かった」
「ですね。誠様が知ったらきっと激怒して、施設そのものを破壊するかもしれませんし」
布川の言葉を聞いた彩紗の耳が真っ赤になる。
「そ、そうかな? あ、早く行かないと、誠が危ない。ミソラちゃん、お願い」
「…………気安くちゃん付けしないで」
四人は扉を開けて、部屋を脱出すると、ミソラの《ヴァリアス・ロッド》で誠達がいる場所まで移動したのだった。
「クスクス。カイさんの目が無くなっている~」
突然現れた四色の羽の翼を生やした男が、武燈と対峙している敵を指差してからかっていた。
「また、会ったな。どうだ、騙された気分は?」
男の隣にいる本を持った男がカイという敵に向けて問いかける。
「お前は、昨日の……。一体どうなっている」
途端。武燈の刀がその二人に向けて振るうと、後方に移動してかわされる。
「オレの獲物だ。邪魔するな」
武燈は二人を睨み付ける。
「そう怒るなよ。君さっき言っていただろ? 将来有望で君と同い年のセイと戦ってみたいって。それ、俺の事なんだよね」
それを聞いた武燈は、左腕に握っていた刀を吸い込まれるように体内に吸収した。
「どうした? 戦わないのか?」
「……気が向いたらな」
その時だった。セイが持っていた本が刀に突き刺さり、床まで貫通したのであった。
「な……」
セイが顔を上げると、そこから窪田君が降りてきたのだった。
「お前、本がなかったら弱いだろう?」
両手にメリケンサックのようなものを装備していた窪田君はゆっくりと、セイに近付く。
「よくも俺等を騙しやがったな。覚悟しろや」
窪田君の拳はセイの顔面に放つ。しかし、横にいた翼の男の手がそれを遮ろうと横から出てくるが、それをすり抜けてセイの顔面にヒットしたのだった。
「これは俺が盗った《百発百中拳》。狙った者を確実に命中する装備系の能力だ。俺等の怒りはこれだけじゃ済まないぜ」
「チッ」
セイという男は舌打ちをして、殴られた箇所を触る。
「うーん。俺に眼中ないのかな?」
羽を生やした男がいかにも窪田君に攻撃をしようとしているので、俺は《オーラ》を纏い、烈風を彼に向けて放つ。
すると、羽を生やした男は気付いたのか俺の方を向いて、攻撃を受けて傷を負うが、当たった場所が再生して元通りになった。
「おー。お前は、喜多村誠。こんな所にいたとはな。さっきお前の好いている女を殺しそk―――――」
ヴぁあ?
今、何て言った?
頭が真っ白になった俺は、瞬時にその男を通り過ぎるように首を切り落とした。
振り返ると、地に落ちた生首は不気味に動き出し、ゆっくりと胴体の上に移動していった。
「怖いな~。いきなりだもんな。昨日の続きをしたいのかな?」
何を言っているんだ。コイツ。昨日、お前みたいな翼を生やしている男に会った覚えはない。
それに、何で死なない。彩紗を殺しただ?
そんな奴、死ねばいいのに。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
彩紗を返しやがれ。
『誠。落ち着いて、《心の闇》が暴走するわよ』
(あい。少し黙っていろ)
『……分かった』
うるさいのが減ったし、殺すか。あのふざけた格好をした男を。
ありったけの《オーラ》を刀に一点集中させる。すると、刀を覆うように《オーラ》で出来た巨大な刀身が現れた。
「おい。ここは、じいちゃんがいる星と繋がっているんだぞ。そんな大技を出したら、どうなっているのか分かっているのか」
うるさいな。
彩紗がいない世界なんて、どうでもいいんだよ。
羽を生やした男に向けて刀を振るうと、男は切断し、周囲に巨大な烈風が無差別に放出した。
すると、辺り一面。烈風に触れた様々なものは切り刻まれたり、えぐれたりして、次々と破壊されていく。それを見ていて爽快感が生まれた。
「喜多村。ふざけんな。あともう少しで死ぬところだったぞ」
また、うるさいのが文句を言ってきた。
もう。みんな殺そうかな……。あぁん?
切断したはずの羽を生やした男がくっ付いて元通りになった。
「うーん。君のような人が俺に勝てる訳が無いな」
男は余裕の表情で言う。
「あー、ウゼェ。だったら、粉々に切り刻んでやる」
刀をしまい、両手に烈風の竜巻を発生させたあと、その男に向けて放つ。すると、男は悲鳴が聞こえてきた。
これで、死んだな。
そう思った途端。ミソラさんが、彩紗達を連れてここにやって来た。
あれ?
彩紗生きている。俺の聞き間違いか?
まあ、敵を一人仕留めたし、いっか。
「全員集合か。まあ、別に良いけど」
羽を生やした男は二つの竜巻を消滅させ、無傷で姿を現した。
「そんなに、驚いた顔をするなよ。俺は四凶鳥の《ハーフ》だぜ? 《闇》の攻撃で死ぬわけが無い」
「そうか。だったら、これはどうだ。鳥野郎」
聞いたことが無い声がすると、翼の男は横にある壁まで突き飛ばされた。
「弱いな。ただ、空気を押しただけで、身体が吹き飛ぶとは」
現れたのは、全身に橙色の鎧を装着し、腰に剣を挿した、黒い髭の中年男だった。
「さてと、こっちは眠たいんだ。ミソラ。お前の仲間どっかに連れて行け。俺は敵味方の判別ができん。一瞬にして終わらせたいからな」
「分かりました。小父様」
ミソラは言われるがまま錫杖を振るおうとする。
「待て。そしたら、こいつの本が復活してしまう」
窪田君は声を上げる。
「ほう。君が誰かの厄介な能力を封じているのなら、死ぬ覚悟でここに居れ」
「そのつもりだ。道連れにしてでも、この男を殺したいからな」
窪田君の冷酷な視線の先には、顔の様々な箇所が腫れたセイという男だった。
「じゃあな。もし、俺が死んだら、あいつらに仇は討ったと伝えてくれ」
その言葉を聴き終えた時、俺はここから立ち去ったのだった。




