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Mind Of Darkness  作者: 渡 巡
第二章 鳳凰
27/36

勘違い

 警報が鳴る少し前。

 《NDNO》内。ナパーム弾でもビクともしない強化ガラスで囲っている一室。

 室内には様々な機器が設置しており、それらが接続されている配線はベッドで寝ている少女の身体に伝っていた。

 男の叫び声がこの部屋まで聞こえてくると、少女は起き上がった。

 「羊瓶兄が呼んでいる。行かなきゃ」

 少女は自身に付いていた配線を次々と外していくと、警報がこの部屋から鳴り響く。

 「五月蝿(うるさ)い」

 途端。彼女の周りは火の海となり、強化ガラスが次第に溶け始めた。

 「ん?」

 彼女は自分自身の腕を見て何かに気付いたのか、他の部位を見回す。

 「いつの間にか身体が大きくなっている……。私、どれくらい寝ていたのだろう……。そんな事よりも羊瓶兄の所へ行かないと怒られちゃう」

 彼女は溶け出したガラスを(くぐ)り抜けると、施設内の職員と鉢合(はちあ)った。

 「ミソラさんの能力でこの部屋は職員達以外目視できなくしたはず。敵は気付いたのか」

 眼鏡を掛けた若い男が首をキョロキョロさせて敵を探す。

 「敵? 何を言っているのやら、私が自力で脱出したんだよ」

 その職員は突然発火して全身火ダルマになる。

 「あああああAAAAAAA」

 苦痛を叫びながら床の上に何度も転がる。

 「兄の気配は上からか」

 彼女はジャンプをして、天井を突き抜けると、上階にある部屋に向かっていく。

 その時、《ヴァリアス・ロッド》で瞬間移動したミソラがこの部屋に到着した。

「すごい炎……。彼女の気配は上の方。もしかしたら、私が追っても、すでに遅いかもしれない。せめて、建物が燃焼してしまわないように鎮火しないと」

 錫杖(しゃくじょう)(かざ)すと、室内なのに天井に雨雲が発生し、雨が降り出した。すると、炎の勢いは次第に弱まっていったのだった。


 やっと、羊瓶兄に会える。

 その思いで部屋に突入すると、最初に視界に入ったのは黒い炎で焼かれている兄の姿だった。

 「羊瓶兄…………」

 視線を感じたのでその方向に振り返ると、黒髪ロングの少女と目が合った。

 「絶対に許さないから」

 咄嗟(とっさ)に言葉を吐いた私は、燃えている兄の中に飛び込んだ。すると、暖かくて眩い光が発生し、私はそれに包まれたのであった。


 「それにしてもあのイカレ狼どこに行きやがった」

 苅野は腕を振るいながら煙を掻き消し、相手を捜索する。すると、さほど遠くない場所から火が突然現れた。

 「……まさk―――――」

 大きな爆発音が建物全域に鳴り響いた。


 《融合》が完了した誠は、瞳が大きくなり、顔の大きさが全体的に小さくなった。

 誠の《オーラ》には小さな緑色の平べったい種で囲っていた。

 《透明弾(スケルトン・ボール)》が命中したのか、種はそれを包み込み、誠の体内に吸収した。

 「な……」

 越智が驚く頃には十数個の宿り木が《透明弾(スケルトン・ボール)》を捕らえ吸収する。

 「マジかよ。顔が変形したら何かの植物の能力で俺の能力が無力化かよ。辞め辞め。俺の負けだ」

 越智は両手を挙げて降参を意思表示した。

 「…………本当に?」

 透き通る声で質問する誠に驚いたのか、まるで、コントのように越智はずっこける。

 「…………そんな声芸いいから、元に戻れ」

 越智は起き上がってそう言うと、誠は普段通りの姿形に戻った。

 「ったく。お前の能力って、身体の部位を変えることでいろんな能力が使えるのか?」

 「う、うん。そんなところ」

 誠は苦笑いをしながら誤魔化す。

 「そっか。じゃあ、そろそろ窪田の所に戻るわ。お前よりも強いカイなんかと戦っても勝てそうもなさそうだし下手したら死ぬかもしれないからな。で、窪田がどこにいるか知ってるか?」

 「全く」

 誠は首を横に振りながら答える。

 「そう。じゃあ、建物の出口まで案内してくれ、先に帰るわ」

 越智がドアノブに触れると、横から大きな爆発音とともに壁が破壊された。


 破壊された箇所から爆炎が漏れてくると、そこから苅野さんと狼が現れたのであった。

 「狩野さん。大丈夫ですか?」

 彼の身体には傷があり、(すす)で黒く汚れていた。

 「ああ。それより、この狼気をつけろよ。何してくるか分からないぞ」

 その狼は苦しそうに雄叫(おたけ)びを上げる。すると、狼は大きくなり体毛が次第に抜けていくと、衣服を着た人間の姿になっていく。

 「ま、まさか……」

 越智君が驚くのも無理は無い。俺も驚いているからだ。まさか、この狼が窪田君だなんて思ってもみなかった。

 「お、おいどういうことだよ……」

 恐怖しながら俺に回答を求める越智君。

 「さあ……、分からない」

 すると、窪田君は目を開けてゆっくりと起き上がった。

「おい、大丈夫かよ。狼になってよ」

 越智君は心配して、窪田君の目線に合わせて腰を落とす。

 「あ、ああ。それより、越智。お前の言うとおり、アイツを信用するべきではなかった。《オーラ》を纏った途端、意識が吹っ飛んで何をしたかまるで覚えていない。越智は平気か?」

 「ああ。俺は何ともねえ」

 「そうか……」

 安心した表情で、越智君を見る。

「でも、念には念を」

 窪田君はポケットから硬貨を取り出してそれを握ると、もう片方の手で越智君の身体に触れる。

 「うっ……」

 何をしているかは分からないが、窪田君は苦しそうな表情をしている。

 「窪田、一体何をしている」

 「責任取っているのさ。俺なりにな…………」

 そう言って手を放すと、息切れが激しくなる。

 「あらあら。決着がついた四人方暇そうね」

 声がした方向に振り向くと、ミソラさんがいつの間にかここにいた。

 「部外者のお二方様は自分の家に帰りますか? それともここでまた暴れますか?」

 近付きながら俺達に近付いていく。

 「俺は帰るわ。なんか喜多村と戦ってから何かどうでも良くなった」

 越智君は何故か照れ臭そうに答える。

 「俺は残って奴と戦う……。そのために来たんだからな……」

 無理して窪田君は立ち上がる。

 「さっきの男もそうだけど、メイオールと手を組んだのかしら? その《オーラ》が貴方を苦しめているわ」

 メイオール?

 誰だ、そいつ。神代先生が言っていた人の事なのか?

 「ああ。……だが、向こうはその気がないらしい…………」

 「でしょうね。あいつ等はそういう人種。だから、滅ぼされたのよね」

 メイオールは人名ではなく、種族名ってことか。ふむふむ。メモをしたいが持ってきていない。頑張って頭に入れよう。

 「貴女は異星人だろ? 何でここにいる」

 窪田君はミソラさんを睨む。。

 「私はアストライアー人。宇宙で二番目に有能だといわれている人種。本来なら地球なんてどうでもいいけど、敵対する勢力が五十年くらい前に様々の惑星に行ってそこから勢力を上げてきた。その惑星の一つが地球だと判明して、《(ダークネス)(ホール)》を作ってここに来たの。この星には私達に匹敵するものはあまり無いけれど、敵対勢力が同じ《財団》と手を組んで情報交換しているわ。不服かしら?」

 「文句はねえよ。ただ聞いただけだ」

 「そう。一応、尋ねるけど、彼方がメイオール人から貰った《オーラ》持ち主に返しましょうか?」

 「……そんなこと、出来るのか?」

 窪田君は唖然として、彼女を見る。

 「ええ。この《ヴァリアス・ロッド》は私の《オーラ》が朽ち果てるまで、実現可能なことなら何でも出来る。それくらい容易(たやす)い事。どうしますか?」

 窪田君は彼女を見つめて考えていた。

 「代償は?」

 「ない。この杖は使用者以外何も求めない」

 「そう……。だったらお願いします」

 ミソラさんが杖を翳すと窪田君の頭上に大玉の黒い塊が出現した。

 「地球人のクセによくこの量の《オーラ》を抱えきれたわね」

 「ああ。何たって二人分だからな。さっき、越智の分を吸収したから。スゲェきつかった」

 さっき、越智君に触れて苦しんでいたのはそれをしていたからか。やはり、君はそこまでの悪人ではないのだろう。

 「ついでに、そこの方。お家に帰しましょう」

 ミソラさんが杖を(かざ)すと、越智君と黒い球体はこの場から消え去っていった。

 「さてと、残った私達は加勢しに行きましょう」

 そう言ってまた杖を翳すと、俺は武燈と三十代前半の男が戦っている赤みがかかった広い部屋に飛ばされたのであった。

 

 「カイ。会いたかったぜ」

 窪田君は、《オーラ》を纏った瞬間にその場から消えてしまった。

 「え、ちょ」

 いきなりいなくなったので、焦ってしまうが、彼は武燈と戦っている相手の背後にいた。

 窪田君はいつの間にか眼鏡と、短剣を持っており、その男の後頭部を狙って剣を振り下ろす。しかし、男はそれに気付いて首を動かしてかわし、窪田君の腹部に(ひじ)打ちをして、吹き飛ばした。

 「お前ら邪魔するな。死にてえのか」

 両手に日本刀を握っている武燈が大声で忠告をする。

 「全くだ。わざわざ殺されに行くとは馬鹿な奴らだ」

 敵は左手を背に向けて窪田君に火球を放つと、それは窪田君に当たる前で反射し、敵に命中するが、ダメージを与えた様子はなかった。

 「姑息(こそく)だな。まあ、雑魚はいつでも倒せるが、貴様は今倒さないとな。武燈勇」

 敵は背に生えている赤い翼から羽根を武燈に向けて放出させる。

 「さてと、そろそろ遊ぶのを辞めるか。今現在のウィークポイントの場所大体掴めたし」

 武燈は羽根を全て切断して、一気に間合いを詰めると、敵の左目を刀で突き刺した。すると、血が噴射した。

 自分に向けられた攻撃ではないのだが、思わず左目を押さえてしまった。

 「次のウィークポイントは何処かな? お前らは一度そこを攻撃されるとそれは体内に移動するから、また別のウイークポイントを見つけないといけないから面倒なんだよね」

 眼球を刺した刀を引き抜きながら言う。

 「どういう……ことだ……?」

 敵が負傷した目を押さえながら呟く。

 「ん? ウィークポイントがバレた事? 窪田の攻撃をかわしたから。君の性格なら回避しないしね。さて、次はどこに移動したかな」

 そう言いながら敵の身体をズバズバ斬っていくが再生して元通りになる。

 「違う。そっちではない」

 「え? 教えてくれるの。ウィークポイント。どうせ、嘘の場所を攻撃している隙に反撃するんでしょ? 聞くわけが無いじゃないか」

 「……お前ら、あれが、四凶鳥だと知っていたのか?」

 それを聞いた武燈は攻撃を中止した。

 「知らなかったの? 梧桐の兄妹は四凶鳥の《ハーフ》だって」



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