戦闘開始
「ここは何処だ。喜多村」
越智君から話しかけてきた。
「《NDNO》という組織の空き部屋さ。でも、君が《RP》の人だとは思わなかった」
気が荒いが曲がった事や陰湿な行動は毛嫌いしそうな人だと思っていたため、《RP》という組織に加盟するような人ではないと思っていたからだ。
「何勘違いしてやがる。俺はただカイとかいう男をぶん殴りたくて追っていたら、ここに来ただけだ。《RP》とかに入ってねぇよ」
カイって誰だ?
越智君は追って来たと言うのだから、他の所にカイという人物がいるのだろう。
「だったら、一緒にそのカイという男を探そう。共通の敵だと思うヴぁだ――――」
見えない何かが、俺の顔面に当たった。
鼻に痛みが続くので、手で鼻を触ると、いつもより凹んでいる気がした。その手を放して見ると、付近に血が付着していたのか、手が赤く汚れた。
もし、《オーラ》を纏っていたらそこまでのダメージは無かっただろう。
第二撃がいつ来るのか分からないため、《オーラ》を纏った。
「なぜ、攻撃した?」
「俺はお前みたいな奴が嫌いなんだよ。だからさ、カイと戦る前の準備運動をさせてくれよっ」
越智君は何もない場所で殴るモーションをする。その数秒後、左肩に重い何かが当たった。
ダメージは負わなかったが、さっきの越智君の打撃が俺の左肩に命中したのが分かった。
技の正体はおそらく拳圧。
素早く殴打する事で、衝撃波を飛ばしているのだろう。
越智君はまた先程と同じ仕草をする。
何度も拳圧を飛ばしたって、正体が分かれば怖くは無い。彼が殴った直線方向に身体を向けなければいい。
俺はその射程内に入らないように距離を詰めていると、へそ辺りに、鉄球が命中したような重みのある打撃を食らった後、続けておでこにも同様なものが直撃した。
よろめきながら、何とか持ちこたえて立ち止まった。
さっきの攻撃は一体何だったんだ?
辺りには何も落ちていないため、何かがぶつかったとは考えにくい。
まさか、これが越智君の能力なのか?
もし、そうだとしたら、拳圧は俺の読み違いだ。放たれたはずの拳圧は直線上に移動するだろうし、一振りで二発の拳圧は不可能だと思うからだ。
「何を驚いている? 俺の気が済むまで戦ろうぜ」
越智君は再び何も無い場所を殴打する。
次は烈風で身体を覆って防御することにした。
技の正体が分からないため、そうすることでヒントのようなものがつかめるかもしれないからだ。
すると、右から烈風が何かと当たる音が何度も聞こえたので、左方向に移動しようとするが、かわす方向にも同じような音が幾度も聞こえる。しゃがんで回避するという選択があるが、上下のどちらかから来るのか、音で上手く判別が出来ないため、下位を狙って来ているのならそれは無意味に終わる。だったら―――――。
烈風に消費している《オーラ》以外のものを脚に集中させて力一杯垂直飛びをした。
飛距離は二メートル強くらいだろうか。
仮に上部を狙って何かを放っても、先程の烈風の守備範囲外にいれば二つの何かは当たらない。だが、それは彼が放ったのが全部で二つならの場合だ。三つ四つとなれば、その残りがこちらに向かっていてもおかしくはない。
すると、思惑通りに右方向から烈風の衝突音がした。
空中を自在に動けないため、回避は難しい。
落下している自分の速度は、彼の放射物の速度よりもおそらく遅いため、着地する前には衝突すると判断し、俺は右手に刀を出現させた。
落下物の正確な位置は分からないが、勘でそれをぶった切って、ダメージを減らしたい。
音がしていそうな方向に刀を振るおうとした瞬間。何かがぶつかった音が響く。
刀を振り下ろし終わると、一つだった音が両端から聞こえるようになる。それは次第に音が大きくなり、身体に触れることなくその音が小さくなっていく。
途端。別の方向から烈風との当たる音が、両端から身体を挟むように鳴り始めた。
二つのスピードは同じくらい。身体を回転するように刀を一振りするのがいいだろうか?
そう思って、柄をしっかり握り身体を竹とんぼのように回転させる。
カァン。
と、烈風に当たったとは思えない金属音が響いた。
それが鳴り終えた後、刀に何かを切断する感蝕が伝わるのとほぼ同時に、別の物体によって左肩が後ろから前へと貫通した。
激痛を伴いながら血が迸ると、再び刀は何かを切ったのが分かった。しかし、別の放射物があったのか、それが背中に命中すると、体勢は仰向けになり、そのまま地面に叩きつけらた。
着地時の後部の痛みよりも、貫通した時の方が大きかったせいなのか、そこまで気にも止めなかった。
『誠。私に乗っ取られたくなかったら、今直ぐ私の願いを聞いたあと、《融合》して、栗のイガで防御しなさい』
あいは取り乱して叫ぶ。
(願いは?)
『誠の可愛い寝顔を見たい』
(いいよ)
俺は、纏っていた烈風を解き、あいの言う事を信じて、身体を囲うように、栗のイガを覆いつくした。
ふと、手を見ると、《融合》が完了したせいか、肌の色がとても白くなっていた。
自分の手なのにまるで、別の人のように感じたので、少し気味が悪い。
それにしても、なぜ、この技で防御をしないといけないのか俺には理解ができなかった。
「こんな技があったとはな。俺の能力がバレたみたいだから少しはやるようだ」
越智君が喋りだしたので、攻撃が終わったと思い、イガを解除した。
「うわっ。顔白すぎてキモッ。まさかさっきの流血で血が足りなくなったか?」
越智君は化け物を見たかのように驚き、数歩後ろに引いていた。
そこまで白いのか。俺の顔は。
「気にするなよ。それくらいじゃ死なない。怖いの?」
「怖くは無い。殺す気がなかったから、クラスメイトとして心配しているのさ。でも、俺の《透明球》の性質、特徴を見抜いた事は誉めてやるよ。お前が察しているので全部だ」
…………残念ながら全く分かっていないが、あいは気付いたらしく、的確に防御の仕方を教えてくれたのだが、一体どういう技なのだろうか?
『……彼の能力は弾力製がある硬い見えない球を操ることが出来る。その球は切断されると、その大きさの球となる。切断された弾の威力は誠の肩を貫通させる程だから通常状態よりも増大していると考えた方がいいと思う。あと、球は彼が殴る時に放たれていて、球はおそらく、球威が無くなるまで弾みながら動いていると思うわ』
(ありがとう。あい。お礼として、今日から一週間膝枕して俺の寝顔見ていいよ)
『お気遣いありがとう。多分、飽きると思うから、遠慮しておくわ』
(そう……)
「何ボーっとしてやがる。お前立っているのがやっとなんじゃねぇのか? 無理するなよ」
「君をどうやって倒すのかを考えていただけさ」
「はたして勝てるかな?」
越智君は両手を使って何度も空を切った。
これで、数多くの《透明球》が放たれたに違いない。
さて、どうする?
切断したらその数だけ増えて威力が上がり、それに、見えないときたものだ。なかなかやっかいだ。対処法はあるのか?
『宿木の種で全身を覆うようにしなさい』
(宿木の種なんて俺は知らない)
『だったら、交代。前のを追加して誠の頭を撫でたいのだけどいい?』
(ああ)
途端。俺の意識は朦朧としていった。
「ねぇ、梧桐舞っていう少女知らない? 私達、彼女を助けに来たのだけど」
恵は札を持って、ミソラに尋ねる。
「…………辞めた方が良いわ。貴女は騙されている」
哀れむように答える。
「ここにはいないって言うの?」
「そういう意味ではなくて、助けない方が貴女のためだってこと。何で彼女が此処にいるか分かる?」
「貴女達が攫ったんでしょ、しらばくれるな」
恵は“雀”と書かれた札を前に突き出して炎をミソラに向けて放つ。しかし、ミソラは錫杖をかざして目の前に見えない壁を作り出して防御する。
「力量も大したことがなさそうね。早く終わらせて勇様の所へ行きますか。あ、そうだ」
そう言って再び錫杖をかざすと、《闇の穴》が近くに発生し、そこから大型犬のような身体に東洋の龍のような顔をした体毛の白い生物がそこから現れると、《闇の穴》は閉じて消え去った。
「ジョアット」
ミソラはしゃがんで、その生物の頭を優しく撫でる。
「お腹すいたでしょ? ゴメンね。今日のご飯はあの地球人。遠慮なく召し上がりなさい。貴方が殺されそうだと察したらこの《ヴァリアス・ロッド》で強制進化させるから、心配しないでね」
ジョアットに優しく口付けをすると、それは恵に襲い掛かる。恵はすぐさま別の札を取り出した。
「《式神》よ。我の元へ降臨せよ」
その札から、緑色の柄が特徴的な大きな白い虎が風を纏って出現した。
「貴女も召喚術を扱えるのね。でも、体が大きいだけで弱そう」
ジョアットは大きく息を吸い込み、巨大な鼻息を吐き出した。すると、恵が呼び出した虎の両前足が一瞬で消失し、虎は前に倒れこんだのであった。
「なっ、私の白虎がこうも容易く……。か、勝てる気がしない……」
驚く恵は全身が震え出す。
「何を怯えているの? 貴女にはまだ何もしていないじゃない。今更負けを認めたって、命をとるかどうかはジョアットの気分次第。ジョアット、良ければ目の前にいる虎という生き物を食べても良いわよ」
ミソラは悪魔のように笑みを浮かべながら言うのであった。
「うわーーーーー」
恐怖で叫びだす恵は数十枚の札を周囲にばら撒いた。
「《式神》よ。我の力を極限まで消費し、可能な限り我の元へ降臨せよ」
すると、七分の六程度の《式札》から《式神》を呼び出し、恵は倒れこんだ。
「…………………」
ミソラは倒れている恵を見て、ゆっくりと彼女との距離を縮めて行く。
「主に指一本でも触れてみろ、お前は死ぬぞ」
ウサギの耳が特徴的な体毛が白色で覆われた人型の《式神》がミソラに真正面から襲い掛かる。
「黙れ」
ミソラは相手に空いている方の手でアッパーをくらわすと、錫杖を翳して、恵がいる所へ瞬間移動をした。
「ジョアットのエサを沢山出させてもらってありがとう。保存さえすれば、一日は持つでしょう。だから、今日は殺さないであげる。だから、ゆっくり家で寝てなさい」
錫杖を翳すと、恵はこの場から消えていった。
「よくも主をおおおお」
ミソラの背後から、長身の馬面男がハンマーで叩きつける。しかし、そこには彼女の姿はなかった。
「何処に行きやがった」
辺りを見回してミソラを探す。
「ジョアット。ここにある生物全て食べて良いわよ。満腹になったら私が彼らを保存するから食べ過ぎないようにね」
姿が見えない筈のミソラの声が室内に響くと、ジョアットは雄叫びを上げて次々と《式神》達を食していくのであった。
「お前。この前殺ったやつじゃん。どうして、生きているの? 蘇生術でも使ったか?」
窪田は苅野を静かに見つめる。
「知らんな。お前のようなやつ。ただ、オレはお前と同じような者だとは臭いで分かる」
苅野は鼻をピクピクさせて、臭いを大きく嗅ぐ。
「俺と同類ねぇ……。君が人工的に入れられたのならあり得るのだろう。ただ、俺は君と違って純粋なのさ。さて、君は実験体になってくれよな」
窪田は漆黒の《オーラ》纏うと、皮膚から毛がたくさん生え始め、彼の顔はオオカミそのものの姿に変貌していた。
窪田は身体を伏せると一瞬にして消え去り、姿を現した頃には、苅野の左腕の一部を毟りとった肉を咥えていた。
「これが、オリジナルの狼男か……。面白い」
苅野は嬉しそうに笑みを浮かべる。
窪田はまた姿を消すと同時に、苅野は右腕で払うように殴る。すると、窪田は吹き飛ばされ、着地する時に爪を立てて威力を和らげる。
「目に捉えられない速さではない。それに、お前は純粋と言ったが、お前を殴った感蝕はゼリーのようだった。本物の狼はそんなにやわらかくないだろうが」
狼化した窪田は唸り声を上げ、目付きが鋭くなる。
「喋れないのか……。まあ良い。代わりに戦闘で楽しませてくれよな」
苅野は窪田を殴りにかかろうとすると、窪田の口は大きく開き、そこからバズーカのようなものが現れた。
「ア?」
苅野が想定外の攻撃につい言葉がでると、弾丸は発射された。弾は苅野に命中すると同時に煙が室内に充満する。
「普通の弾丸なんぞオレには気かねぇぜ」
すると、苅野の背中にバツ印を描くように左右両方から何ものかが引っ掻いた。
「効かん」
苅野は引っ掻いた生物を瞬時に掴むと、それは煙となって消滅した。
「煙遊びか」
煙は苅野を囲うように集まり、狼に変貌した。
それらは四方八方に点在し、数は百を達する程だ。その中に窪田は指揮を執るためなのか、苅野から一番遠い地点にいた。
「何を狙っているかは知らんが、姑息な手を使っても無駄だと思うがな」
窪田の雄叫びで、煙の狼達は一斉に苅野に向けて飛び掛ってきた。
苅野は両腕で拳圧を飛ばして、前の方向にいた狼を消し飛ばす。
「所詮は煙。空気を飛ばせば形状は維持できない」
苅野は手当たり次第に拳圧を飛ばしていく。
その際に煙が少しだけ苅野に触れると、その箇所が鋭利な刃物で切られたかのような、細長い傷を負った。
「触れたら傷を負わせる煙か……。気を付けないと大怪我しそうだな」
そう呟きながら、増殖し続ける煙の形をした狼を退治していくのであった。
「まさか。君が《財団》の一味だったとはね。正直驚いたよ」
目の前にいる天然パーマの男は私の事を知っているようだ。また、ストーカー?
だとしたら、私はストーカーにモテるということ……。そう断定するのには、些か早い気がするけれども、そうやって、警戒するのはいいのかもしれない。ただ、警戒しすぎて自暴自棄になり暴走する可能性だってあるので、程々にしないといけない。
「貴方は私の事をご存知なのでしょうが、私は貴方の事を知りません。だからと言って、貴方のことを知りたくはありません。ただ、私は任務を遂行するのみ」
私は《オーラ》を纏い、すぐにその男の腹部を見る。
男は私が視点を置いたとこらから黒い炎を上げると、一瞬にして全身に火が回った。
男は叫び声を上げながら身体をじたばたしていた。
私自身の瞳はブラウン色なのだが、遠くにいる相手からすれば、ブラウン色から黒色に変色するのは中々気付かれない。そもそも、日本人の瞳の色は全て黒だと思っている人もいるため、あまり気付かないかもしれない。
《三色眼》の“黒”は通常の元々の色よりも精度が高い能力を選んで使用する事ができる。私の技では最高の威力を持っている色である。
この色は前の私には初手で使う事はあまりなかった。《オーラ》の消費量は他の色よりも少し多く、そこまで気にはならないのだ。初手で使わなかった理由としては本気を出さなくても自身が強いということを見せ付けたいという驕りからきていた。
それなのに、どうして、現在使用しているのかというと、今まで通りに余裕を見せながら戦うと、隙を突かれ死に追いやる可能性があるからだ。そのため、よく知らない相手には短期決戦を、知っていて長期的な戦いになるときには多彩の技を駆使して戦おうと私は決心したのだ。
それにしても、なぜ、この男は生きているのだろうか?
炎で焼かれて体が動けなくなっているのは分かるのだが、苦痛とも言える叫び声は衰えるどころか、耳の鼓膜が破れそうな程の音量で喚くのだ。
超音波にしては、音が聞き取れているし、仲間を呼んでいるのかしら?
だとしても、私が全力で返り討ちにすれば良いだけの事だ。
「アンタか……。噂のセイが良かったなー。同い年で将来有望なんだろう? といってもオレも名前しか知らないけどね」
勇は、顎を上げてカイに問う。
「そいつの担当とは仲が悪くてな。よく知らないんだ。で、俺様と戦るのか?」
サングラスを外して現れた大きなつり目で、勇を睨み付ける。
「戦う前にさ、君の目的が知りたいんだよね。まあ、大方予想つくけど、梧桐羊瓶をここに連れて来たのはそのためだろう?」
それを聞いたカイはニヤリと笑う。
「そういうことだ。それに、《闇の穴》の発生が多発しているということは、そろそろあの時期なんだろう? こちらにもそれなりの戦力が欲しいのさ」
「よく言うよ。その元凶と手を組んでいるクセにさ。ひょっとして、彼等に裏切られそうなの? それとも、昔のように彼らを裏切るのかな? 昔はここにいたんだろアンタは」
「さあな」
カイの背に紅い翼が生え、禍々(まがまが)しい炎を纏った途端。急に高らかに笑い始めた。
「あーあ。どうやら、彼はそろそろ完全態に成れるらしい。君の仲間に感謝するよ」
「…………ミソラの奴、多分。オレ以外は適当に飛ばしたな」
カイに聞こえないようにボソボソと呟く。
「どうした? 曇った顔をして。計画が上手くいかなくて残念だったな」
「計画? 何勘違いしてやがる。あの子は研究材料なんかにしていない。むしろ、獰猛生物だと認識して表沙汰にならないように管理しているだけさ」
すると、勇は漆黒の《オーラ》を纏うと右の掌から日本刀が排出されるように出現した。
「さてと、アンタのウィークポイントを見つけるまで、楽しませてくれよ」
彼が言い終わる頃にはすでにカイの左側の翼が切断されていたのであった。
「オッサンが、俺の動きについて来られるだと……」
平松は自分が得意とする速さによる攻撃が総て受け止められ、カウンターをする形で反撃をされてイラついていた。
「私の能力は攻撃的ではありません。だからこそ、身体と《オーラ》を鍛えています」
「ウゼェ」
布川を殴るが、それを軽く掴んで後ろに放る。平松はその先にある壁を蹴って布川の背後に向けて拳を放つ。
「もらったああぁぁ」
高らかと叫ぶ平松。しかし、彼の目の前に突然白い布が出現し、彼を包む。すると、布川の目の前に突っ立っていた。
「んなb……グッアァ……」
平松が気付いた時には彼の腹部に、布川のパンチがすでに入っており、後方の壁まで勢いよく突き破り、仰向けになって倒れた。
「おやおや、これで終わりですか?」
ゆっくりと近付く布川。
「ソンナワケナイダロウ」
よろめきながら立ち上がる平松の《オーラ》が黒々しく変色し、目の色が充血していた。
「暴走というより、第三者による制約強化の副作用のようなものでしょうかね。さて、背後にいる人物はどこの誰でしょうかね」
「俺ハ強イ。ダカラ、オッサンナンカニ負ケナイイイイイイィィィィィ」
平松の身体の所々に砲弾のようなものが現れ、人間とはかけ離れた姿に変貌していく。
平松に搭載された砲弾は総て布川に向けられた。
「死ネエエエエエエ」
一斉に弾を発射させた。
「残念ながら、私に鉄砲の類は残念ながら効きません」
先程使った白いマントが弾に向けて放り投げると、それらは包まれて何処かに消えた途端。平松の砲弾が全て爆発し、身体のあちこちが可笑しな方向に曲がっていた。
「ナ……マタ何カシタナ」
「ええ。弾をお返しただけです。このご様子だと、もう動けないでしょう」
「ア……アア。何故ダ。身体ガ動クト痛イノニ勝手に動……グホッ」
突如出現したミソラは平松の胸に《ヴァリアス・ロッド》を突き刺した。
「メイオールの仕業か……。まあ、貴方の記憶から背後にいる人物が分かったことだし、特別に助けてあげる」
そう言うと、杖の先端に黒い塊が出現し、それが次第に大きくなる。
「結構な力ね。でも、私達には不要だから、元の所に戻すかな」
黒い塊は一瞬で消えた。
「あ、ありが……とう」
そう言い残して平松は気を失った。
「ここに残しても意味無いから回復しながら、お家に帰りなさい」
ミソラは錫杖を翳すと、平松は光に包まれながら消失した。
「現状は?」
布川がミソラに質問をすると、警報が鳴り始めた。
「これは?」
「マズイ。梧桐舞が脱出した。兄に会う前に止めないと。貴方はお嬢様の方に行きなさい」
そう言って錫杖を翳すと、この部屋には誰もいなくなったのであった。




