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Mind Of Darkness  作者: 渡 巡
第二章 鳳凰
24/36

四月十八日 校内

 次の日の昼休み。

 校舎の階段付近。

 「山形君」

  階段を下る少年を訊ねる付近の廊下にいた一人の少女。

 「副会長さん。俺なんかに何か用ですか?」

 ぶっきら棒に答える山形。

 「昨晩。《忍》を雇ったそうじゃない。何かあったのかなって思ってさ」

 副会長は彼に近付いてくる。

 「さあ? 貴女も《忍》なら自分で調べればいいじゃないですか。得意分野ですよね?」

 「それもそうね。そういえば、君と成績争いをしていた彼。転校した扱いになっているけど、本当は行方不明って知っていた?」

 「そうなんですか。最近学校に来ないし、連絡出来ないから、俺の事を無視しているだけかと思いましたよ」

 山形は笑みを浮かべながら喋っていると、突然。アミは山形の背後にある壁を殴った。

 「(うつつ)を抜かすな。行方不明になる直前に彼方と接触していたそうじゃない。彼に何をしたの?」

 山形は笑い出す。

 「そこまで調べをついているのなら、きっと、俺が君の里にしたことも分かっているだろ? それを(おさ)に知らせばいいのに。どうしてそれをしない?」

 「彼方に何をされるか分からないから。下手をすれば《忍》の里どころか国一つを滅亡することになる」

 「確かにその行為をした場合は、君が言った通りに俺は動くだろう。で、その事を知っている《忍》は?」

 「私だけよ。今すぐ殺す?」

 「まさか。君にも何かしら利用価値があると思うから何もしない。そもそも、今の俺は目的のために動いていない。”本”に付いてきた手下が勝手に色々やっているのさ。俺はその手下が君の友達に滅ぼされるまでは動かないつもりでいる」

 山形は廊下の曲がり角に向けて言葉を放つ。

 「誰に向けて言っているの?」

 「一ヶ月前、“本”に付属していた陸王ガルナムカを滅した少女にだよ」

 そう言い残して、彼は階段を下っていった。

 「何。あの余裕」

 そう呟くと、山形が視線を向けた先から法条奈央が現れた。

 「情報通りみたいね」

 アミは法条の横に来た。

 「ええ。彼が奈央達の倒すべき相手。彼が何処かと徒党を組んでいる可能性は?」

 「異星のメイオール人と組んでいる。というより、メイオール人が彼を唆してこの状態を作ったと言ったほうがいい」

 二人は並んで廊下を歩き出す。

 「メイオール人……。影に潜むのが得意な人種。彼等は星が消滅する直前に各地に散らばった希少種。地球に飛来したのは二名で、その内一名は五十年前の戦争で死んでいるけど、もう一名は行方不明。そいつが首謀者と踏んでいいのかしら?」

 「多分ね。異星人は何が目的で行方知れずの《悪魔(ディクテイタ)独裁者(リトゥン)血書(ブラッド)》を入手した後、どういう理由で新種の《憑依魔(イービル)》を作り出して、彼に渡したのかは謎のままだけどね。で、彼を今から倒すの?」

 「まさか。彼の事を報告して、キリアコウ様の命令に従うまで。正直、日本にいる《白の使途》の総動員でも勝てる気がしないしね」

 「奈央でも敵わないか。さて、彼に一体どれだけの《憑依魔(イービル)》が潜んでいるのやら。予測は?」

 「五体。低く見積もって私が倒した奴よりも五倍強いのがね」

 それを聞いたアミは、瞳を大きく見開く。

 「嘘でしょ……」

 「本当よ。私が冗談を言うとでも?」

 「……本当に地球が終わるかもね」

 「正確に言うと地球人でしょうけど……」

 彼女達はそのまま沈黙を保ちつつ、自身のクラスに戻って行った。


 梧桐は山形の教室の前に立っていた。

 「おう。情。待ってたぜ」

 梧桐は廊下を歩く山形に向けて、手を振りながら言う。

 「何?」

 山形は歩きながら言う。

 「舞の居場所が分かった。だから今夜一緒に行こう」

 山形はゆっくりと瞬きをする。

 「それ、誰から聞いたの?」

 「《RP》のカイっていう人さ。s―――――」

 「悪いが断る。そいつは信用できるのか?」

 梧桐の言葉を遮り、自身の主張を前に出す。

 「信用もクソもねぇだろうよ。それが偽りだとしてもそこに舞がいるのなら、行かない訳にはいかない。違うか?」

 山形は溜息を付く。

 「昨日、殺された奴らの(かたき)を討ちたいみたいな事言ってなかったけ? その(うら)みとか憎しみとかもうなくなったのか?」

 「……………」

 梧桐はそれを思い出したのか、唇を噛み締める。

 「……それよりも、……俺は舞を攫った奴らを許せねぇ」

 「そっか。とりあえず俺は行かない。騙されて死ぬなよ。じゃあな」

 そう梧桐に言い残して教室に入っていった。


 梧桐は昼食を食べに食堂へ向かっていくと、目の前に茶色いスリッパを履いた男子生徒三人が並んで歩いていた。

 「窪田――」

 山形は彼等の後ろから声をかける。

 すると、窪田以外の二人も一緒に梧桐の方を振り向く。

 窪田は薄笑いを浮かび、平松は驚き、越智は無表情だ。

 「テメェ。何堂々と俺らに声をかける?」

 平松はがんを飛ばしながら言う。

 「マツ。そう怒るなよ。俺に用があるみたいだ」

 窪田は平松の前を手で遮る。

 「カイは今夜どこかで暴れるらしい。居場所を知りたいか?」

 「あ? 昨日と言っている事とやっていることが違うじゃねぇか」

 窪田は一歩前に出て怒号する。

 「気が変わった。俺はお前達に協力する事にした」

 「だったら、お前の能力盗らせろ」

 窪田は《オーラ》を纏い、山形との距離を詰める。

 「そんなことしなくても君達を強くさせるから、落ち着きなよ」

 山形の影が不自然に伸びると、そこから背に翼を生やした黒い皮膚の人型の生物が現れた。そして、そいつは窪田の首を掴んで持ち上げる。

 窪田は掴まれた手を振り解こうとする。

 「何だ、コイツ……。人間なのか?」

 越智が呟くが、平松は何が起こったのか分からずにキョトンとしている。

 「僕はメイオール人のブレユ。普段は情冶の影にいるのさ」

 「勝手に出てくるなよ。お前は夜行性だろ?」

 山形は溜息混じりに言う。

 「そんなに怒らないでよ。僕は情冶を守っただけなのに」

 「まあ良い。ブレユが出ているついでだ。お前等に力を与えてやるよ」

 「情冶。本気で言っているのかい? こいつら裏切るかもしれない」

 「だろうな。でも、俺に攻撃されないように制約付きでできるだろう?」

 「ならおやすい御用だ」

 ブレユは窪田を放すと、黒々く発光し、それは三人を覆いつくす。

 数秒後。窪田達は発光した色の《オーラ》を纏っていた。

 「僕の力で、君達の《心の闇》を純粋にして増幅させた。気分はどうだい?」

 自慢気な顔で語る。

 「すげぇ。これなら、今までのように消費量をそこまで考えずに能力が使いたい放題できる……」

 窪田は全身に纏っている《オーラ》を見ながら言う。

 「はっはは。オ、《オーラ》が使えるようになってるうぅぅぅぅ」

 平松は昨日失われた筈の《オーラ》が復活して舞い上がる。

 「力が強くなったのはいいが、代償とか、対価を払えとか言うんじゃないだろうな。ええぇぇぇぇ」

 二人に対して越智は山形に疑いを持って接する。

 「今すぐ払えとは言わないさ。僕が本気を出したいときに強化した分を含めた君達の力を吸収するだけさ。まあ、僕の本気は滅多にならないから心配するなよ」

 涼しい顔をする。

 「だろうな……。俺の承諾なしに勝手に強化するんじゃねえ」

 越智は殴りかかろうとするが、突然苦しそうな表情をし、胸を押さえて膝についた。

 「さっき、僕と情冶のやり取りを聞いてなかったのかい? 君達は僕等に反抗できなくしている。無理をしたら心臓が破裂するからよした方がいい」

 ブレユは目線を越智から窪田に変える。

 「僕さ。君がどういう生物がさっきので、分かってしまったんだ。だからさ―――――」

 は窪田の耳に近付き囁くと、窪田は嬉しそうに笑い出した。

 「ブレユさん。ありがとよ」

 窪田はブレユの胸に拳を置く。

 「礼はいらないさ。さて、僕は情冶の影で寝るとするよ。真っ昼間は苦手なんでね」

 ブレユは沈むように山形の影に入っていった。

 「もう一度聞くけど、カイの居場所知りたいか?」


 六限目は国語。担当教師は神代陸。

 彼は《白の使途》の日本国内のリーダーであるらしい。

 昨日の放課後に窪田君達の殺しを辞めさせないと、彼に殺害する約束をしてしまった。

 本日。窪田君等は遅刻寸前に登校しており、休み時間は俺を避けるかのように過ごしていた。

 その態度から、昨日、俺がしたことは余計な事だったのではないかと考えていた。

 彼等との関係はただのクラスメイトでありそれ以上でもそれ未満でもない。その程度の関係で執行猶予を設けさせることはいけないことだっただろうか?

 そんなことを考えていると、神代先生が俺の横を通る。

 先程提示された課題をきちんとしているのか見て回っているのだろう。

 先生が通り過ぎる際、俺の机の上に折りたたまれた紙が彼の手によって置かれ、何事も無く歩き去った。

 何が書かれているのか不安になりながら、恐る恐る広げてみる。


 昨日の事は忘れなさい。そして、彼等に必要以上に関わらない方が良い。

 詳しく聞きたいのなら、尾行されないように生徒会準備室に来るか、左記にあるメールアドレスにメールを送ること。

 分かっていると思うが、個人情報が記載してあるから公共の場で捨てないようにな。

 sfdskjp@―――――――


 と、記されていた。

 七時までに《(ブラック)四十四室(ボックス)》に集合だが、それまでには終わると思うので、直接会うことにした。

「みんな書き終わったようだから、喜多村。答えて」

 いきなり当てられた。

 あまりいい解答ではないので、自信がなさそうに答えた。


 放課後。神代先生の手紙に記されていた生徒会準備室に到着した。

 部屋の中に入ろうとするが、鍵がかかっており扉の前で待つことにした。

 到着して十分くらいが経った頃。神代先生は辺りを見回しながら現れた。

 「やはり来たか、警告通り尾行されていないようだな」

 「はい。ところで、どうして窪田君達と接するのを控えた方がいいのでしょうか?」

 「その話は中に入ってからだ」

 先生は鍵を開けて部屋に入ったので、後を追うように入室する。

 この部屋は何かの資料がたくさん置かれており、足場が少し制限されていたため、とてもじゃないがゆったりと出来る所ではないのが分かる。

 先生は奥の方へ進み、プリントの山となっているところに寄りかかる。

 俺は扉を閉めて、足場があるところを踏んでいき少し距離を詰めた。

 「お前は《憑依魔(イービル)》を知っているか?」

 イービル……。また、この手の話ですか……。それにしても、地球の裏側はいろんなものが存在していて、何が出ても驚かなくなってきた。

 「知りません」

 「そうか。では、こちらから話そう。君は知っているかどうかは知らないが、《白の使途》はここ数十年間。継承と訓練以外の活動は各個人で《悪しき闇》を宿した者を消滅することぐらいで、中には誰も殺さずに一生を終えた者もいる」

 あれ。俺って《白の使途》の歴史を聞きにここに呼ばれたんだっけ?

 「そんな《白の使途》が近年あることを境に本格的に活動を再開することとなった。それは誰かが、消滅されたといわれていた《悪魔(ディクテイタ)独裁者(リトゥン)血書(ブラッド)》の封印を解いてからだ」

「その何たらブラッドは聞いた事もありません」

 「簡単に言えば、その封印が解かれた事により、その本に封じていた《憑依魔(イービル)》が世界に散って行った。そいつらは生物に憑依して本来の姿を取り戻しつつ地球を悪魔のみの世界にするのが目的だ。そいつ等を滅ぼすために我々は今動いている」

 「それで、それが窪田君達と関係あるのでしょうか?」

 「その《悪魔(ディクテイタ)独裁者(リトゥン)血書(ブラッド)》の封印を解いた男と手を組んだらしい」

 何年も活動をしていなかった《白の使途》を動かした程のことをした人と窪田君は手を組んだ。彼は何の目的でそんな事をしているかは分からないが、いけないことをしているのだけは分かった。

 「その男は、窪田君等をどうするつもりでしょうか?」

 「分からない。彼等に《憑依魔(イービル)》を与えなかたから余計にな。ただ、彼等に何かをしたら、その男は何かを仕掛けるかもしれない。だから俺は目的が分かるまで手を出さない事にしたし、昨日の約束は無かった事にしたい」

 「その約束を破棄するってことは、彼等を退学にしないってことですよね?」

 約束を無効とすることで、窪田君らを殺害しようとしているのではないのだろうか?

 話の流れでそれはないと思うが一応聞いてみることにした。

 「その通りだ。その質問をするってことは俺の信用度が低いってことか、君が疑り深い性格ってことか。どちらでもいいが、俺の話は終わりだ。何かあるか?」

 「《憑依魔(イービル)》の見分け方と、そいつらが俺等にどのような危害を加えるのか知りたい」

 「君達に《憑依魔(イービル)》の見分けることは不可能。《心の闇》で《オーラ》を取得した者は誰れであろうとな。《憑依魔(イービル)》の危害はその種類によってまちまちだ。それに校内には《白の使途》が二人いるから、あの男に手を出さない限りは君達に被害がでないはずだ」

 「あの男は俺が知っている人物でしょうか?」

 心当たりはないが、どのような人物か知っていても損は無いはずだ。

 「名前は知らないかもしれないが、見た事はあるだろう。仮に君が知っている人物でも教えるつもりは無い。邪魔をされそうだからな」

 先生は左腕に巻いてある腕時計を見る。

 「さて、そろそろ時間だ。何かあったらメールで送ってくれ」

 「わかりました」

 俺は少ない足場を辿(たど)りながら部屋を出る。

 「失礼しました」

 一応の挨拶をしたあと、扉を閉めて、近くにある階段を使って一階まで下りたのであった。


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