会議
夕飯を食べ終わり、自室へと戻った頃。彩紗から一通のメールが届いていた。
今から《黒の四十四部屋》に来てほしいとの事なので、《異空間の黒色の布》を被った。
マントを剥ぐと、そこに四角いテーブルがあり、三人はそれに囲むように座っていた。
空いている席は彩紗の隣。
内心。少し緊張しながら、そこに着席した。
テーブルの上に目がいくと、どこかの建物の間取り図が広げられていた。
それは二階建てで数多くの部屋があるためとても広そうだった。
「橘から仕事の依頼。《NDNO》を《RP》からの襲撃に備えて明日の午後から守護してほしいとの事。発注理由は《NDNO》に《RP》のスパイがいた事が数時間前に発覚し、近日中に襲来する可能性が高いから。それに対して何か質問がある方」
他の二人が挙手しないので、俺が挙手する。
「どうぞ」
「《RP》はこの前Reverse Policeの略称と手束という人に教えてくれたのですが、それは本当ですか?」
「半分本当で、半分嘘。《RP》はその略称と、Revenger placeというものがあって、それが彼等の本来の目的」
直訳で、復讐者の場所。
神代先生が言っていた事は本当だった。それでは、何の目的で彼等は警察の業務をしているのだろうか。
「前者は本来の目的を隠すために副次的にやっていることにすぎない。彼等が運営している刑務所から出所した強者のほとんどは調教や洗脳をして《RP》に入隊しているから、戦力集めしているということね。ちなみに、彼等を主としている人や刑事目的で入隊した人達を“副”と呼ばれていることが多い。その人達の大半は《RP》をReverse Policeのみの意味だと思っているらしいわ」
「この前あった手束って男はその“副”ってことか?」
「彼は普通の人間であるし、苅野が手束を殺害しても指名手配されていないところをみるとそのようね」
彼は《RP》の仕事をどのような思いでしていたのかは知らないが、その実態を知った彼は受け入れられるのだろうか?
「本当。あいつが“副”で良かったぜ。指名手配なんかされたら、殺された者の身分と賞金額によっては執拗に襲ってくるらしいからな。程よく闘うのは良いが、闘いすぎると身が持たなくなる」
好戦的な性格の苅野さんでさえ嫌がる《RP》。よっぽど嫌われているらしい。
「Revenger placeの方は、ほとんどの構成員が人間を憎んでいる人外。本来の目的は人間の絶滅であり、彼等のことを“主”と呼ばれている」
人外が人間の絶滅を望んでいるのは、ありきたりな展開だと思った。
「最低限の知識はこれくらい。何か質問ある。誠?」
「ない」
「なら、次へ進みます。私達が守る部屋はこことここ」
彩紗は一階の奥にある大広間に繋がる廊下と、それと隣接した部屋を指で指した。
「私達の依頼はルヌス星に繋がっている《闇の穴》があるこの大広間に敵を入れられないようにすること」
《闇の穴》。
法条先輩によると、地球が滅亡する前兆といわれている空間の歪み。宇宙内のどこかに繋がっている場合もあるらしい。それを守るとはどういうことだろうか?
「ルヌス星ですか……。確か、《財団》と同盟を組んでいる星ですよね?」
洋治さんが問う。
「ええ。《財団》の社長婦人がルヌス人であるし、過去に色々交流があるみたいだから、その信頼を損なわれては《財団》にとっては痛手。王を怒らせて《財団》を乗っ取られる可能性や地球の征服だってあるから。重要な依頼よ」
ルヌス星。
見た事も聞いた事もない星だ。
太陽系にある星か?
いや、太陽系以外の天の川銀河に属する星だったり、その近くにあるといわれているアンドロメダ銀河にある星だったり、もっと遠い銀河系にある星かもしれない。
「それを見通してか、《財団》から一人派遣することになった。それが、彼」
彩紗はその人の写真をテーブルの中央に置く。
そこに写っていた人物は、今日初めて会ったあの人だった。
「武橙勇。《財団》の社長息子」
「しゃ、社長の息子」
つい驚いて、声が上がってしまった。だから、彼は強くて色々知っているのか。納得。
「そうよ。私達よりも一つ年上だけど同学年。仲良くするのも悪くはないでしょうね」
そういえば、彼は俺が《デュアル》だと知ったことで、何かが分かったみたいだが、一体なんだろうか、そのことを彩紗に報告した方がいいのか?
いや、自分で蒔いた種だ。自分で処理しよう。
「明日の午後七時にこの場所に集合。《RP》の襲来もしくは、任期が切れる二週間後までは毎日。異論は?」
「なし」
俺を含めた男性陣は揃って答えた。
「今日はこれでお仕舞い。後は帰るなり、自分の部屋で寛ぐなりしてね」
そう言いながら、彩紗はテーブルの上にあった資料を片付ける。
「手伝おうか?」
「ありがとう。でも、少量だからしなくていいよ」
「分かった。そういえば、メンバー集めはどうする? 他に候補はいないの?」
「いないからその件は後回し。そういえば、誠の知り合いとかで私達の仲間になりそうな人はいないのかしら?」
彩紗は首を傾げて訊ねる。
今日会った梧桐先輩はどこかに所属している可能性だってあるし、そのお友達の方々ときたら名前を知らないし、顔だってうろ覚えだ。
「いないよ。じゃあ、じゃあ、先に失礼するよ。お疲れ様でした」
そう言って、俺は《異空間の黒色の布》を全身に纏いこの場を去った。




