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Mind Of Darkness  作者: 渡 巡
第二章 鳳凰
20/36

綿

  放課後。男に指定された空き地に到着した。

 ここは俺以外に誰もおらず人通りは悪いためとても静かだ。なので、このような土地で、小売業のお店をしても赤字だろうなと思った。

 「俺より早く来ているとは思ってなかったな」

 俺を呼び出した男はカバンを持って現れた。

 「何の用でしょうか?」

 「そりゃ。喧嘩しかねぇだろうよ」

 男はカバンを空き地の隅に投げるようにして置く。

 「俺。貴方になにかしましたか?」

 「黒部彩紗に手ぇ出したから。屋上でさ。一年生に可愛い子いないかなと探していたら、彼女に惚れた。そして、数日が経つとお前が彼女の隣にいるからさ、ムカついているわけ」

 彼は、俺と同じ人に惚れていて、俺とその人の関係に嫉妬しているようだ。

 「という事で、俺が勝ったら彼女から手を引け、いいな」

 彼は肩を回しながらこちらに歩いてくる。

 「勝手に決めるな」

 俺が《オーラ》を纏うと、彼も同様に《オーラ》を纏う。

 量は俺の方が多い。

 攻撃は彼から仕掛けてきた。

 左、右、左と交互に腕を振るった後、右脚で蹴り上げるが、俺は全てかわす。

 「どうした? 逃げてばかりで。ビビッてるのか?」

 すると、急に早くなった左の拳が頬に当たってしまう。

 《オーラ》は俺の方が多く纏っているのに、首が千切れそうになるような痛みを感じた。

 「この調子だと能力を使わなくても勝てそうだな。少々買いかぶりすぎたか?」

 「うるせぇ」

 仕返しに左手で力を込めて殴るが、右手で軽々と受け止められた。

 「なっ……………」

 彼はそのまま俺の腕を引っ張り、鳩尾に左の膝蹴りを一発入れて放り投げる。俺は受け身をとることができずにお腹から地面に叩きつけられた。

 気を失わなかったが、息が苦しい。

 「立てよ。これで終わりじゃねぇだろ?」

 彼は見下した目で俺を見ていた。

 『手伝おうか?』

 体内から、あいの声が聞こえてきた。

 (遠慮しとくよ。でも、死にかけたら乗っ取ってくれていい)

 『分かった』

 その声を聞いて俺は立ち上がる。

 「そうこなくっちゃな」

 男は笑みを浮かべながら呟く。

 俺は走りながら、男の距離を縮める。すると、男が右蹴りをしてきたので、タイミングよくジャンプしてかわす。そして、そのまま身体を横回転させながら、男の顔面に蹴りを入れると、男はよろめいて、膝をついた。

 彼の顔を良く見ると、鼻血が出ていた。

 彼はそれに気付いたのか、手でそれを拭う。

 「今の効いたよ。でも、パンチと威力が格段に違うのは、なんでだ?」

 「蹴りの方が得意だから」

 「そう。じゃあ、そろそろ能力を出すかな。ただの殴り合いは飽きてきたし。お前からかかってきな」

 「いいのか?」

 「ああ」

 男はまた笑みを浮かべながら答える。好戦的な性格なのだろうか?

 それはともかく、俺はお構いなく彼を囲むように烈風を発生させた。

 すると、男は自身を覆うように、“綿”のようなものを発生させると、それは烈風の威力を減らしていき、男の身体に達せずに烈風は消滅した。

 「“綿”か……。思ったよりも防御力があるみたいだな」

 俺の攻撃を終えたからなのか、綿が消えていく。

 「まーな」

 そう言うと、男は一瞬で間合いをつめながら、突っ込んできた。

 男は右のジャブで顔を狙ってきたので、俺は首を動かして回避すると、男はそのまま身体を半回転して、左足で回し蹴りをしてきた。

 それが脇腹にヒットし、その衝撃が全身に響き渡った。

 その隙に、男はまるでトランポリンを使用したかのように高々と跳ね上がる。

 男の靴底を良く見てみると、綿のようなものがあった。

 どうやら、彼の“綿”は烈風を止める防御力と、あのように衝撃を加える事で、反発力を生み出せるらしい。

 男は空中で右脚を伸ばし、そのままの状態で落下する。

 落下地点は俺の頭上。

 俺はかわそうとするが、何故か足がピクリとも動けないでいた。

 足元をみると、いつの間にか、膝から下が“綿”で覆いつくされており、それは俺の身体から半径五十センチメートル程まで存在した。

 たがか“綿”なのに、まるで、底なし沼で足がはまったような感じだった。

 回避ができないため、《オーラ》で俺の前世が使っていた《龍漸(りゅうぜん)》という刀を出現させる。

 彼は《オーラ》を纏っているが、俺の刀で脚を失わないか心配だ。

 心配?

 この俺が名も知らない先輩に?

 ああ、なる程。

 俺は相手に対して、怒りや恨みがないと非情になりにくいらしい。

 だからどうした。

 この攻撃を凌げないと勝ちが遠ざかる。

 「うおおぉぉぉぉぉぉ」

 声を上げて、男に向かって刀を振りかざす。

 途端。俺達の攻撃の間に、学ランを着た誰かが現れた。

 「二人とも、今日はここまでだ」

 そいつは空中で俺の刀を右手の指一本で受け止め、先輩の足を左手で掴んで止めた。

 「邪魔だ。どけ」

 先輩が叫ぶように言う。

 「俺は、武燈(むとう)(いさみ)だ。喜多村(きたむら)(まこと)は知らないだろうが、梧桐(ごとう)羊瓶(ようへい)は知っているだろ?」

 武燈と梧桐は着地すると、武燈は梧桐の足を放した。

 「お前が……か……?」

 「ああ。信じられないなら、学生証でも見せようか」

 懐から学生証を取り出し、俺達に見せ付けた。

 武燈は俺と同じ高校の一年二組であるらしい。

 というか、俺と同じ高校の制服なのに、それを見分けられていない自分が少しだけ情けないなと思った。そもそも学ランで高校の見分け方があるのだろうか?

 「ん? 俺が聞いた噂じゃあ、武燈勇は俺とタメだと聞いたが……。ああ成程な。留年しているのか」

 彼の生年月日を見ると、確かに俺よりも一歳年上のようだった。

 「で、何の用だ? 大したことじゃなかったら殺すぞ」

 「まあまあ。落ち着きなって。ちゃんと話してあげるからさ」

 ポケットから、ガムを取り出して、梧桐に差し出す。

 梧桐はガムを一つ取って、口の中に入れる。

 「君もいるかい?」

 「はい。いただきます」

 ガムを頂いて、口に入れて噛む。

 それを包んでいた紙によると、キシリトール配合のグレープ味らしい。

 ガムは小学校の頃に食べた十円ガムしか食べたことがないので、キシリトールというものが、ハミガキ粉のミントのようにスースーするものだと初めて知ったのだった。

 「梧桐。お前等の仲間、さっき全員死んだ」

 梧桐は左手で武橙の胸倉を掴む。

 「全員死んだだと……。ふざけるな」

 「正確には全員ではないのかもしれないが、お前等の溜まり場になっている屋上には少なくとも数十人の遺体があった。それを確認したかったら、今すぐに向かった方が良い。誰かに気付かれる前にな」

 両者そのまま硬直する。

 「どうした? 行かないのか? それならそれでいいが、いいかげんその手を放せ。腕を千切られたくなかったらな」

 武橙がとてつもない量の黒々しい《オーラ》を纏う。

 その《オーラ》のせいで、今すぐに逃げ出したくなったが、恐怖で足が動かなかった。

 「……わ……わりぃ……。お前の事信じるわ。じゃあな」

 梧桐は逃げるように腕を放して、この場を走り去る。

 「ったく。ありがとうぐらい言えっての。ウチの母親だったら、あいつ殺されているな」

 武橙は《オーラ》を解除して、俺に近付く。

 「君にも用があるんだよね。さっきの彼の話聞いた?」

 「は……はい。屋上に遺体がある話ですよね。盗み聞きして、申し訳ございません」

 さっきの恐怖が抜けきっていないせいか、思わず敬語を使ってしまう。

 「いや、さっきの話と関係ある話をするから、別に謝らなくても良い。それと、敬語を使うな。本当に俺を心の底から敬いたい気持ちがあるのなら別だがな」

 何か面倒な人に絡まれたな。

 「分かった。で、どのように関係がある?」

 「あいつ等を殺ったのはお前と同じクラスの窪田新一だ。それと、この前から報道されている君の同じ中学校の同級生である野川(のがわ)公太(こうた)を犯人に仕立て上げたのもな」

 どうやら、野川公太の事件は昨日の話ではないらしい。

 それにしても、彼を犯人にするくらいなら、殺してくれた方が良かったのに。

 まあ、他の三人を殺してくれたのはありがたいことだけど。

 「そう……。で、俺にどうしろと?」

 その返答が意外だったのか、武橙の表情は少しだけ固まった。

 「……成程な。そういう性格か……」

 他人に性格がどうこう言われる筋合いはないんだけどな……。

 ちょっとイラッとくる。

 「まあ良い。とりあえず、彼の処遇によっては死罪になる可能性がある。君はどうする?」

 「そりゃ。止めに入るに決まっているでしょ。その処遇は誰が決めるの?」

 「生徒会だが?」

 生徒会なら法条先輩がいるから、説得できるかもしれない。法条先輩以外の生徒会に見つけられないように、早く屋上へ行かないといけない。

 「情報をくれてありがとう武橙君。またな」

 「君付けするな」

 という叫び声を聞きながら、学校へ戻ることにした。


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