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Mind Of Darkness  作者: 渡 巡
第二章 鳳凰
19/36

勧誘

 四月十七日火曜日。

 俺は居間でいつも通りに朝食をとっていた。

 横にあるテレビはワイドショーが映っていた。

 それをチラチラと見ながら食事をしていると、ある報道が流れて、俺の動きは一瞬止まった。

 その要点を最期まで聞き、理解した俺は、それについて何も気にも止めずに食事を続けた。

 それが、友人であったりしたら俺は心が乱れるのだろうが、そうでない人物では俺にとっては何とも思わない。

 まあ、そんな風に心が歪んでしまったのは、俺の過去が原因だ。

 別に、過去に悔いはないし、思い出も少ない。その証拠として、中学一年生以前の記憶。特に、学校生活の部分がほとんど覚えていない。

 部分的な記憶喪失なのだろうか?

 仮にそうだとしても、学校生活のみなのだから、脳はその記憶を維持しない方がいいと判断したのだと勝手に思っている。

 そんなことを思っていると、食事が終わった。

 「ごちそうさまでした」

 そう言って、立ち上がり、食器をシンクに移動させて洗面所へ行った。

 ハブラシに、歯磨き粉をつけてそのまま水につけずに歯を磨く。

 『テレビで言っていた男って、誠の中学校時代の同級生でしょ?』

 俺の体内にいるあいが心の中で喋りかけてきた。

 (ああ。同姓同名かと思ったが、事件発生現場と年齢からして俺が知っているのだろうな)

 『何とも思わないわけ?』

 (スカッとしたよ。あいつ等がいない方が少しはこの町の治安が良くなるものさ。もしかして、気に食わない?)

 『いいや。悲観していたら、(ののし)るつもりだったの』

 (俺はそこまでお人好しではないよ。第一、俺を(いじ)めていた奴等なん死ねばいいと思っていたからな)

 『それが普通でしょ。私の場合は自分で手を汚しているけどね』

 (俺だって、あいが生きている時代だったら、自分で()ってるさ。殺人は今よりも隠匿(いんとく)しやすいだろうし)

 俺はコップに水を()んで、うがいをしたあと、自室に戻って制服に着替える。

 携帯電話にメールの受信や、着信がないかを確認してカバンを背負って、家を出た。


 学校に到着し、自転車を駐輪していると、隣に彩紗(ありさ)がやって来た。

 「おはよう」

 と、彩紗の方から声をかける。

 「おはよう。黒部(くろべ)さん」

 挨拶を返すが、やっぱり、彩紗がかわいいので少し顔を赤らめてしまう。

 彩紗が自転車を停めるのを待ってから、昇降口へ向かった。

 彩紗はまた、俺の隣に並んで歩いている……。

 緊張して、昨日みたいに逃げないようにしないといけない。

 「喜多村(きたむら)君って、窪田(くぼた)新一(しんいち)君と話した事がある?」

 ん?

 どうした?

 いきなり、俺以外の男の名前を出して?

 「ああ、あるよ。どうかした?」

 もしかして、アレかな?

 彩紗は窪田君の事が――――。

 「彼、法条先輩の情報によると、どこの組織にも属していないらしいの。だから、私達の仲間になってくれないかなって、思ってさ」

 ああ、そっちか。

 恋愛関連じゃないのね。良かった。

 「私は何の接点もないし、彼と同じクラスの喜多村君からなら、話聞くだろうなって思ったの。どう思う?」

 「彼は、入らないと思うけどな。一応、聞いてみる」

 「ありがとう」

 その時、右上の方から、誰かからの視線を感じたので、その場所を見上げると、誰もいなかった。

 こちら側からは死角になっている場所から、観察をしているのだろうか。

 このまま、上を向いていると、知らない人から不審者扱いされるのでやめる事にした。

 「やっぱり、誰かから、監視されている感じがする?」

 彩紗も不審な視線に気付いていたらしい。

 「ああ。もしかして、今日からのことではないの?」

 「ええ。入学式から二日目くらいからね」

 そう言っていると、昇降口に到着した。

 すぐに、靴を履き替え、昨日のように逃げないようにと念じながら、彩紗を少し待って合流する。

 「誰かのストーカーかな?」

 「かもね。喜多村君と一緒だ」

 そう言われて、何も言い返せなかった。

 気を紛らわせるために、他所の方を見ると、窪田君が、右腕を右耳で当てながら何処かへ歩いていた。

 先生に見つからないようにイヤホンで音楽を聞いているのだろうか?

 だったら、教室で聞けばいいのに。見つかったら没収されるぞ。

 そんな事を思っていると、いつの間にか彩紗はいなくなっていた。

 ストーカーの話をしなければよかったと少しだけ後悔した。

 

 校舎の屋上。

 そこには、転倒防止用の三メートル程の高さをほこるフェンスが付いており、そこを上って自殺しないよう、フェンスの網は細かく、天辺には有刺鉄線が施されている。

 現在、屋上では、男子生徒の溜まり場になっており、彼等は制服を着崩していたり、髪の毛が金色や青色だったりと校則に反した姿をしている。

 その中の一人、天然パーマで中性的な容姿の男は、フェンス越しで何かを見つめていた。

 少しすると、彼の存在が誰かに気付いたのか素早くしゃがみこみ、その状態を数十秒維持する。

 彼はフェンスにゆっくりと近付く。その人が去ったかどうかを覗くように確認すると、彼は座り込んだ。

 「あっぶねーー。もう少しで、男の方に気付かれる所だったぜ」

 「いいかげんに諦めろ。他に可愛い子はたくさんいるって」

 短髪の男が彼に近付き、肩に手を置く。

「でもなー。彼女に目をつけて一週間で男が出来るって思っていなかったしなー。ショック」

 落ち込んでいる彼の前に、短髪の男はメモ帳を差し出す。

 「ボスがチェックした、校内の写真つき美女リストだ。これでも見て元気出せって。財布を()られた俺の方がショックだっての」

 「ありがとう」

 メモ帳を受け取ると、屋上に通ずる唯一の扉が、力強く開けられた。

 そこから現れたのは長身の細い女性と、法条(ほうじょう)奈央(なお)だった。

 「生徒会が何のようだコラ」

 ピンク色の髪をした男が奈央に近付く。

 「邪魔」

 奈央は目にも止まらない速さで、その男の首に足をかけそのまま蹴り落とす。

 ピンク髪の男は地に伏せたまま気を失った。

 奥の方に座り込んでいた大男が、腰を上げゆっくりと奈央達の方へ近付く。

 「悪ぃな。こいつは新入りの一年坊主なんだ。テメェの実力なんて知らねぇのさ。で、何のようだ」

 「お前達。全員退学だそうよ」

 奈央の一言で、男等は一斉に彼女を睨みつける。

 「おいおい、いきなりかよ。理由は?」

 「簡単なことよ。学校の評判が悪くなるから」

 「学校の評判なんてな、俺らが知ったこっちゃねぇんだよ」

 大男はポケットから金色のメダルを取り出し、口の中に放り投げる。

 「そのメダルまさか」

 大男は空を掴み、奈央に投げつけた。

 「奈央様。危ない」

 長身の女性が奈央の前に移動し、懐から“龍”という文字が書かれた長方形の紙を懐から取り出して、それを前に出す。

 すると、彼女等を囲むように水の壁が出現した。それは、見えない何かと接触して、その箇所のみが爆発した。

 それを見た男達の大半が唖然としていた。

 「メダルがないのに、超能力が使えるだと……」

 大男が言うのと同時に、水の壁が消滅した。

 「ありがとう。メグちゃん」

 「奈央様の為なら何でもしますよ」

 メグは笑って答える。

 「何で書記が超能力を使える。答えろ」

 大男はメグを睨みつける。

 「《オーラ》を知らないのかな?」

 「《オーラ》? 何だそれ。どこの国の言葉だぁ?」

 「無駄よ。彼等は窪田新一という男に唆されて彼のメダルを所持している。貴方達はそのメダルで能力を使っているに過ぎない。でしょ?」

 「うるせえよ。ところで、生徒会長さんよ。お前さん達はメダルがなくても超人的な力を使えるようだけどよ。それをセンコーに言ったらお前らも退学処分を下すんじぇねーの?」

 大男はニンマリとした顔で言葉を発す。

 それに対して、奈央は鼻で笑う。

 「残念ながらこの学校はそういうのは寛容よ。むしろ、私達のような生徒を歓迎しているわ」

 「おいおい。本当かよ。仮に本当だとして、ここは国立の高校だ。国に隠れてこんなことをしたら、学校ごとお仕舞いだな。ハッハッハーー。いい気味だぜ」

 「馬鹿ね。国が認めているの」

 それを耳にした男子生徒の数名は恐怖からなのか、身体が震えだした。

 「どうせ嘘だ。俺達を脅したいだけのハッタリだろ?」

 「残念ながら、奈央が言っているのは本当だ。何なら、君達を能力で殺しましょうか?」

 屋上の扉から現れたのは、手に大きな茶封筒を持ち、メガネがとても似合い、右腕に金色のブレスレッドをした若い男性教師だった。

 「先生。どうしてここに?」

 奈央が不思議そうに質問をする。

 「学園長から彼等の処分について聞いてね。見たところ、彼等は非合理的なもので能力を使用しているらしい。これを利用しない訳にはいかないだろう」

 「センコーはすっこんでろ」

 木刀を持った男が、教師に襲い掛かるが、教師はそれを左手の二本の指で挟んで止める。

 「君からか。いいだろう」

 教師は一瞬で銀色に光る剣を出現させ右手で握っていた。

 そして、教師はその剣で木刀の男の身体を貫いた。

 「ガアッ……」

 教師が剣を抜くと、木刀の男は流血せずにうつ伏せで倒れた。

 「どうした? メダルの力を使ってもいい。かかってきなさい」

 リーゼントの男がメダルを取り出した時、大男が一歩前に出た。

 「挑発にのらねえ。で、用件は何だ。俺等をただ刺したいだけか?」

 「いや、そういうわけではない」

 教師は警戒しつつ、持ってきた茶封筒の封を切る。

 そこから現れたのは、数十枚のプリントである。

 「君達に退学を免れるチャンスを与えよう」

 教師は一人ずつ、プリントを配る。途中、攻撃が当たりそうになるが、教師は軽やかにかわして、プリントを配り終える。

 「そのプリントに書いてあるのは、ある条件で抽出した能力者のリストだ。一人、彼等を三人始末したら在学しても良い。期限は金曜日の二十三時」

 それを聞いた彼等は一喜一憂する。

 「ただし、校内での乱闘は禁止。そして、一回でも負けたら即退学だ。君達は暴れるのが好きだから、最高の条件だと思うが、いかがかな?」

 「いいぜ。その条件のった」

 「それは良かった」

 教師は薄笑いを浮かべる。

 「先生。そのリスト余っていますか」

 奈央が言うと、教師はそれを渡す。

 奈央はそれを見て、プリントを握りつぶす。

 「先生。これはどういう条件で選んだのですか?」

 顔を強張らせて、教師を睨む。

 「俺らに脅威となってもおかしくなくて、彼等が倒せそうなレベルだ。もちろん。能力の種類は全種類。どうした? 仲の良い友達にもいたのかい?」

 「《心の闇》は《悪しき闇》のみでは駄目だったのですか?」

 「今は《正しき闇》だったとしても、将来的に《悪しき闇》に変わる者だっているからね。まあ、君の友人がそれに該当するなら、きちんと面倒みるのも大切だ。君が友を殺さなければならないようにね。それが、嫌なら、《心の闇》の友達は作らないことだ」

 教師はそう言い残し、この場を去っていった。

 「奈央様……」

 メグは心配そうに見つめる。

 「大丈夫だよ。恵ちゃん。神代先生の考え方は《白の使途》としては、理に適っている方だから。さあ、私達も教室に戻りましょう」

 「はい」

 生徒会の二人は自分の教室に戻っていく。

 「で、どうしますボス? 神代(かみしろ)のセンコーに従うのでしょうか?」

 モヒカン頭の男が大男に問う。

 「さっき見ただろう? あれは、全然本気出してなかったぜ。それに、晃の奴。刺されたのに、血が一滴も流れずに、気を失ってやがる。こういう得体の知れない能力は迂闊(うかつ)に近付かない方がいいと思ったからさ。不満か?」

 「いや。ボスの言う事も一理あります。挑発に乗っていたら、在学する手段は無かったと思います。まあ、俺は中卒でもいいですが、中には高卒が良いと主張するのもいるから。良かったと思います」

 「ボス。俺さ、どうしてもサシで()りたい奴がいるんだけどさ、そいつ独り占めして良いかな?」

 天然パーマの男が手を挙げて発言する。

 「羊瓶(ようへい)。言ってみな」

 「所属《BLACK14》の喜多村誠」

 「そいつ戦りたい奴いるか」

 数十秒待つが、それについて反応する者は誰一人いなかった。

 「じゃあ。そいつお前にやるよ。で、そいつとどんな因縁がある?」

 「俺が好いていた女が、こいつにとられただけさ。そういうことで、俺、教室戻ります。今日は昼休みも、放課後も来ないのでヨロシク~」

 そう言って、羊瓶は屋上を去っていった。

 「そういえば、羊瓶に新一から貰ったメダル渡してなかったな。(すぐる)

 大男がそう言うと、短髪の男が彼の所にやって来た。

 「何でしょうか?」

 「このメダルを羊瓶に渡してくれ。あいつ素のまま戦りあうらしい」

 大男は銀色のメダルを放り投げると、卓はそれをキャッチする。

 「分かりました。では、羊瓶を追うので朝はこれにて失礼致します」

 卓もこの場から去って行った。


 四限目の終了の号令を終えると、昼休みになった。

 四時間、眠たくてあまり聞いていない教科もあれば、真面目に聞いて頭に入れた教科もあった。

 弁当を持って来ていないので、食堂に行くことにした。

 廊下を歩いていると、突然後ろから肩に手を置かれた。

 「君、黒部彩紗の彼氏だよね?」

 聞き覚えのない爽やかな声だったので、振り返ると、そこには天然パーマで顔面偏差値が高い男が愛想笑いしていた。

 「いえ、彼氏じゃないです。ただの友達です」

 そう、俺は彼女にふられている。

 でも、他人が勘違いしているという事は似合っているのか?

 ってことは――――――

 ヤバイ。少し妄想したら、顔が赤くなった気がする。

 「そうか? それにしても、顔赤いぞ。照れてるんじゃねえのか? 図星だから」

 やっぱり、赤くなっていたか。

 「まあ、いい。本当は交際しているのに堂々と言えないのなら、君は大して彼女の事が好きではないのだろうな。彩紗ちゃん可哀想」

 この人、勘違いしている。

 「いや。違うって、本当にt―――――」

 「今日の放課後。この近くにあったコンビニ跡の空き地がある。そこに四時三十分までに集合だ。遅れたら、お前を見つけしだい殺す。いいな」

 そう言って、彼は折り返した。

 彼を良く見てみると、スリッパは二年生のグレー色で、《オーラ》を微量に纏っていた。

 理由は分からないが、知らない上級生に喧嘩を売られたようだ。

 相手は《オーラ》を使うため、俺が強くなるには丁度いい練習相手だろう。

 「あっ」

 《オーラ》で思い出したが、窪田君を《BLACK14》の勧誘話をするのを忘れていた。

 折り返して、窪田君を探すよりも、空腹を満たしたい気持ちなので、そのまま購買に向かった。


 羊瓶が誠と話した後、階段を上って自身の教室へと戻ろうとしていた。

 「お。いたいた。探したぞ」

 彼の目の前に卓が現れた。

 「ほら。これ、忘れ物。これがないと勝負にならないだろ」

 銀色のメダルを羊瓶に見えるように差し出す。

 「悪いけど、いらねえ。卓が持ってな」

 「は? お前、朝の話聞いてなかったのかよ。俺らがt――――」

 「知ってるよ。俺も、そいつらと同類だからな。じゃあ」

 羊瓶は涼しい顔をして去っていった。


 食堂で、カレーライスを食べ終わる。

 辺りを見回しても窪田君はいないので、ここを出て教室へ戻ることにした。

 廊下を歩いていると、窪田君に出会った。

 周りは俺と、窪田君の二人しかいない。

 これはチャンスだと思い、話す事にした。

 「窪田君。時間ある?」

 「あ? 短い話ならいいぜ」

 面倒臭そうに答える。

 勧誘話なんか今までの人生でしたことがないので、短時間でちゃんと説明できるか不安である。

 「《オーラ》使えるのに、無所属らしいじゃん。だから、俺のところの組織に入らない?」

 それを聞いた窪田君は溜息を付いた。

 「喜多村の所は《財団》が後ろにいるんだろ? 俺はあそこ好きじゃねえ。今回の話は無かった事にしてくれ。じゃあな」

 そう言って、何処かへ去っていった。

 勧誘失敗。

 失敗したからといって、ペナルティとかがないので、何も気に止めなかった。

 そんなわけで、彩紗にこの事と、放課後に用事が出来た事をメールで送る事にした。


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