真っ赤なお顔
次の月曜日。俺はいつも通りに学校へ登校する。
一昨日はいろんなことがあったが、昨日はそれらをなるべく忘れて、テレビを見たり、宿題をしたりと一般人だった頃と変わりない過ごし方をした。
自分の家に裏社会の関係がある知らない誰かが、来訪するのではないかと心の中で思っていたが、そんなことは一切無かった。
そもそも、俺がこの世界に入ったのは、ただ一人の少女を救いたいというきっかけだった。そして、その少女は俺の知る限りでは救われたはずだ。
その少女を救う経緯で俺は《BLACK14》という組織に入ることになり、彼らと連絡先を交換したが、今日までに連絡は一度も無かった。活動は控えめなのか、それとも一昨日の件での休養という意味合いで連絡が無かっただけなのかは分からない。どちらにしろ、俺はもう今まで通りの一般的な生活には戻れないということは分かっていた。
そんなことを考えているといつの間にか学校に辿り着いた。
俺はいつもと変わらずに駐輪場に自転車を停めて昇降口に向かう。
「喜多村君。おはよう」
後ろから、自分が今一番大好きな少女の声が聞こえたので振り返ると、そこに確かに彼女がいた。
「おはよう。黒部さん。体調は大丈夫?」
彩紗は俺の右隣にきた。
そのせいで、また自分の顔が少し赤くなるのが分かる。
「うん。起きたのは今日の四時くらいだけど、元気だよ」
あれから、二十四時間以上熟睡していたらしい。
一日以上寝た事ないからどのような感覚かは分からない。時差ボケみたいなものだろうか?
「苅野さん達は元気?」
「ええ。でも、豪の場合は重症だったから、治癒のスペシャリストに頼んだみたい」
「そっか。何はともあれ、みんな無事でよかった」
「そうだね」
そのときの彩紗の笑顔がとても可愛いので、顔が真っ赤かになってしまった。
周りに見られるのが恥ずかしいので、逃げるように下駄箱まで素早く移動して、呼吸を整えながら、靴を履き替える。
「おーい。どうした? 顔が赤いぞ」
近くにいた窪田君に声をかけられた。
やばい。俺が黒部さんの事が好きだとバレたらどうしよう……。
「な……何でもねえよ」
俺は無意識にそう言って、逃げるように教室まで駆けていった。
「廊下を走るな!」
と、近くにいた生活指導の男の先生に怒鳴られたので、走るのをやめて、早歩きで移動していった。
その日、俺が黒部彩紗の事を好きだというのを他人に知られる事はなかったが、その代わりに窪田君からその事について、散々といじられたのであった。