復活
私は会議が終わると、仮面を付け、奈央と一緒に走って春日公園に向かっていた。
「あのナンパ男達、断ったらいきなり暴力振るってきあがって、女を何だと思ってをやがる」
「イラついているからと言って、言葉が乱暴すぎよ。もう少し落ち着いたら?」
奈央の言うとおり、もう少しで、戦地だ。少しは落ち着かないと、足をすくわれる。
「倒しきったと思ったら、その状態で口にコインを入れて、ゾンビのように起き上がって、能力使ってきたからね。弱かったけど驚いたよ。奈央はそいつらが何者か知っている?」
「ヤクザの《震夜汰夷》の仕業でしょうね。最近入った新入りが能力者で、少しずつ地位を上げているらしいし」
族の名前を聞いて、ネーミングセンスがまるでない。カッコイイつもりなのだろうか?
「ヤグザね。たまに、仕事を請け負う事あるけど、あいつら、金と女が大好きだよなって思う。そういえば、普通の女子生徒は大丈夫かな? そいつらに、声をかけられたら、抵抗できないでしょ」
「大丈夫。我が女子生徒に手を出そうとしたら、守ってくれるヒーローがいるから」
「あの、有名な馬鹿ね。《財団》トップの息子だということはあまり知られていないけどね」
そんな雑談をしていると、春日公園に私の弟であるユウキが立っていた。
公園内の気配を探ると、喜多村君と八白が一対一で戦っていて、彩紗ちゃん達はそれを観戦しているようだ。
「ユウキ。なんで、喜多村君一人で、戦わせているの?」
「最初は一緒に戦おうとしたが、苅野豪がサシで戦りたいと言ったから、俺は観戦していた。すると、喜多村誠が入ってきて、俺は共闘する隙が無く、いつのまにか俺は蚊帳の外になっていた。ハニエルがいたから、そろそろ法条さんと姉ちゃん来ると思って、待っていたってわけさ」
私的には、蚊帳の外になってでも、助けて貰いたかったが、ユウキの性格上無理だろう。
「ユウキ君。昨晩の依頼覚えているかな?」
「はい」
奈央は私に内緒で、弟に依頼していたのか。どんな依頼だろうか。
というより、なんで、近くにいる私に依頼しないのかな?
「それは取り消しね。その代わりに、ある事について、調べてほしいの」
奈央はポケットから、二つ折りにされた紙を取り出して、ユウキに渡すと、ユウキはすぐにそれを読む。
「OK。記載されている期限に間に合うようにするよ」
そう言ってユウキはこの場から去っていった。
「奈央。何で、私に依頼してくれないの?」
私は、ユウキよりも優れているし、奈央と仲が良いのにどうしてだろう。
「簡単よ。私は……。アミと少しでも一緒にいたいからよ」
「……っ」
照れ気味に笑う奈央の可愛さと、私と一緒にいたいと思ってくれている嬉しさで、思わず絶句してしまった。
「アミ、喜多村君を助けに行きましょうか」
「うん」
この時を境に、私は奈央の為なら何だってしようと心に決めたのだった。
「ここは、精神世界か……」
目を覚まして、見回すと、夕焼けがかかった綺麗な景色が一面に広がっていたので、そこに来たのだと分かった。
そういえば、八白の攻撃によって意識を失ったんだっけ?
「やばい。もしかしたら、あいが俺の身体で暴れていr――――」
「ません」
背後から、大きな声が発せられたので、驚いて全身がビクッとなった。
「ビックリした。後ろから大声で喋るなよ」
後ろに振り返って、あいを見る。
「誠が、私の悪口を言うからでしょ」
あいはムスッとした顔で答える。
「悪口のつもりじゃなかったのだけど……。ごめんなさい」
あいは何もないところから黒色の鞘に収まった日本刀を出現させ、それを俺の目の前に差し出した。
「黒部誠の刀よ」
「どうして、前世の俺の刀をあいが持っているんだよ」
「転生される直前に渡されたの。『お守りだ』って。私が持っていても、仕方ないからあげるわ」
あいは、俺の右手を手に取って、刀を握らせた。
「ありがとう。刀の名前とかあるのかな?」
「《龍漸》。そう言っていたわ」
「かっこいい名前だな。そういえば、このまま目が覚めて大丈夫なのか? 八白との戦いで負った傷や消費した体力で、万全に戦っていける自身は無い」
「大丈夫」
あいは俺の左胸をそっと触る。
「私の魂を貴方に注げば傷は癒えるし、体力は回復する。楽の時もそうしたの。だから、良いって言うまでじっとしていて」
「それって、あいには何も影響ないのか?」
「誠の精神世界でいられる時間が減少するだけよ」
あいは寂しそうに答える。
「ちょっと待った」
俺はあいの手を優しく払う。
「何するのよ」
「俺は嫌だ。あいと過ごす時間が減るのは」
「何? 二股かける気」
あいは声を上げて叫ぶ。
「そうじゃない。友達として、少しでも長くいたいだけだ」
すると、あいは、俺の胸倉を掴んだ。
「私はね。誠が死ぬと一緒にあの世に行ってしまうの。そうなった時、私は閻魔大王に確実に魂ごと消滅させられるわ。それほど私がやった事は重罪なの。今まで通りに何もせずに誠の精神で、のほほんと過ごすよりも、誠のために魂をすり減らして何かをやっている方が私は幸せなの。だから、その生ぬるい考えなんて聞かない」
あいの瞳からは、覚悟を決めた本気が伝わってきた。
「ごめん。俺が悪かった」
あいは、再び俺の左胸に手を置いた。
「許さない。今晩。私がたっぷり説教をした後、ちゃんと誉めながら頭ナデナデするまでね。ちゃんと上半身脱ぎなさいよ」
「……分かった」
それから、俺が目を覚ますまで、沈黙を保ったままだった。
「誠おおお」
私は倒れていく彼を見て決死に叫んだ。
「シャシャシャ。彩紗ちゃ~ん。君を守った人達はご覧の有様だ。布川以外倒れちまっている。さあ、こっちに戻っておいで、君には俺の子どもを産んで、育てなきゃならいんだからよ」
八白はゆっくりと、私の元に向かっていた。
「ごめんだね。好きでもないやつの子どもを産む気はない」
「そうか。なら、また洗脳されるか? せっかくガキに救って貰ったのにな。とんだ無駄骨だな」
「大丈夫。私が倒すから」
《三色眼》の能力で、瞳の色を赤に染める。
「彩紗様。挑発に乗ってはいけません。何かあるに違いありません」
洋治は、遮るように立ち塞ぐ。
「どいて。さもないと、焼き殺すわよ」
洋治を見つめていると、上空に何かが落ちてくる気配を感じた。
見上げると、《異空間の黒色の布》が大きく広げられた状態で落下していた。
私は横に移動して回避し、洋治の鳩尾に殴打して彼を失神させた。そして、落ちてくる《異空間の黒色の布》をキャッチし、洋治に被せると、布の中身は消えて縮んでいき消滅した。
「おいおい。良いのかい? 戦力を減らしてしまって。シャシャ。君一人で俺は倒せないと思うがな~」
あー。ウザイなこの蛇は。
本当に、暴走しそうだよ……。
私は、八白の全身を目視し、彼を紅蓮の炎で覆いつくしたが、何故だが私は思うように力がでなかった。次第に息が荒くなり、無意識に膝をついていた。
どうした。私。
この程度でへたばるなんて……。
「アチィ、アチィってか。」
燃えさかる影から八白が出現した。火傷の痕どころか、先程誠によって傷を負っていた箇所が綺麗に治癒された状態だった。
「何が起こったの?」
薄れていく意識の中、そいつを見る。
「脱皮だ。君の炎で大分焦げ付いていたからさあ、丁度いい機会だと思って、脱皮したんだよね~。シャシャシャ」
七つ首の白蛇はそろって高らかに笑う。
「その様子じゃ、他の能力はもう使えないらしいな。仮に万全だとしても、《オーラ》を過剰に消費することで威力が倍増し、三原色を兼ね備えた黒色の《三色眼》でしか俺様には効かないだろうしな。シャシャ。いい気味だぜ。二度と元に戻せないように念入りに洗脳してやる」
そういって、八白は私に近付こうとした途端。一本の光り輝く白い矢が白蛇の右端に命中し、苦しそうに悲鳴を上げて、全身をジタバタしていた。その時、八白が大きいせいで、少しだけ、地面が振動する。
私は矢を放った人物を知ろうとして、後ろを振り向くと、そこには白銀の弓を持ち穢れが一つも無い白色の服を着た法条奈央先輩がそこにいた。
何で先輩がここにいるのかが分からなかったが、私達を助けてくれたので嬉しかった。
「大丈夫、彩紗ちゃん? 私が来たから安心して」
先輩は優しい声で私に話しかける。
「うん。でも、先輩が放った矢って、私達のものと少し違いますよね。《オーラ》ではない別の何か」
「ええ。私は《オーラ》なんか纏ってない。私は《白の使徒》の一員だから、私を選んでくれたハニエルの力を借りているだけ」
「《白の使徒》ですか……。一体何なのでしょうか?」
「私達《白の使徒》は《神》や《天使》によって選ばれた人間であり、地球に影響を及ぼす《悪しき闇》を滅する組織よ」
立ちきれなくなった私は、後ろへ倒れこむと、法条先輩はそれを受け止めた。
「大丈夫? 原因は貴女の子宮から発するとてつもない《悪しき闇》によるものでしょうね。先にそれを滅しましょう」
「で、でも、アイツはまだ生きているみたいですけど……」
さっきまで苦しんでいた八白はこちらに向かっていた。
「アレ、今はたいした事ないし、私が出る幕もないと思う」
「ふざけないでください。アイツのせいで、みんなやられたんですよ。倒れた人達を見て、先輩はなんとも思わないのですか?」
私は剣幕で声を出す。
「彩紗ちゃん。落ち着いてちゃんと見なよ。一人いるよ。気持ち悪い蛇を退治する人がね」
「え?」
先輩がそういうので、辺りを良く見ると、先程、誠が倒れていた場所には血痕以外、何も残されてはいなかった。
「ハァ……ハァ……。再生できない……。弓矢の女、貴様はさっき消えていった《天使》が言っていた主か?」
消滅された白蛇の隣側が息を切らしながら言う。
「ええ。お前は私に滅さられてもいいのだけれど、どうやら私の出番はないようだ」
「おいおい。女。それは、挑発のt――――――」
途端。声を発していた白蛇が切り落とされたのであった。
「何が起こった。な……。貴様は」
その隣の白蛇がそれを見て驚く。
「俺が切ったんだよ。文句あるか?」
誠は右手に日本刀を構え、八白を軽蔑するような眼でみていた。




