黒部彩紗の過去
私が小さい頃。両親は多忙で構ってもらえず、寂しさばかり感じた。執事の洋治が一生懸命私の面倒を見てくれるが、やっぱり両親といたい気持ちが大きかった。
小学生に上がると、低学年の頃は友達はいたけれど、その友達はなぜか小学四年生の終わる頃には芽衣ちゃん以外みんな転校し、上級生は中学生になると、中々連絡が取れずに自然と私から離れていった。
転校しない芽衣ちゃんは中学も一緒だと思っていたが、小学校卒業と同時に転校し、離れ離れになった。
それがきっかけとなり、私に関わると百パーセント転校されると地元の同級生に揶揄され、中学の入学式の時には同じ小学校の人達は誰一人として私に近付かなくなっていた。
中学校に進学した最初の二ヶ月くらいは芽衣ちゃんとは手紙を使ってやり取りをしていたが、芽衣ちゃんの部活が忙しくなってくると、いつの間にか手紙の交換は終わっていた。それとほぼ同じ時期に、私のイジメが始まった。
最初は、私に関わると呪われて火事が起こるだの、事故にあうだの、といった根拠のない噂話から始まり、いつの間にか、私物が盗難されたり、壊されたりと次第にひどくなっていった。
私はイジメが辛くて、芽衣ちゃんに手紙で助けを求めるが、返事は無かった。だから、私は芽衣ちゃんが当事者なのではないかと疑い、怨んでいた。
執事の洋治には迷惑をかけたくなかったからイジメのことは何も伝えなかった。
去年の夏。今、私が通っている高校の体験入学の日。
芽衣ちゃんはこの高校に興味があることを知っていたので、この日に彼女は来ると私は睨んだ。彼女はイジメられている私を見て、どうゆう反応をするのか私は見たかった。
通っていた中学校が定めた集合時間と開始時間が三十分以上の空きがあったため、暇を持て余した男子生徒数人が、私を人目に付かないところに連れていかれ犯された。
この行為は初めてではなく、中学二年生の三学期の頃にクラスのいじめっ子である女子生徒の命令が発端で、月に四、五回やらされた。
妊娠はしなかったものの、されている私は苦痛で、心はズタズタ。いつ自殺してもおかしくはない精神状態だった。
そんな私を洋治達が気にかけてくれるが、彼らも男性であるため、その話をしたら襲いかかってくるのではないかと思い、私は彼らを遠ざけていた。
そんな時、私の体内から何かが聞こえてきたのだが、彼女が突然やってきたため、それはかき消された。
その彼女とは、迷子になっている生徒はいないかと校舎内を探索していた当時、生徒会書記であった法条奈央先輩と、一緒にいた男性の先生がその現場を目撃し、私は救われて、法条先輩と小学生以来の再会を果たした。
それから、私は法条先輩と二人きりで生徒会室で話した。
小学校の時、年が離れていても友達でいてくれた先輩が去ったあと、何が起こってどのようなイジメを受けたか、今どういった精神状態なのかなどの話をした。
その時の私は、先輩しか助けてくれる人はいないと思い、全て本当のことを話した。そして、先輩はそれを少しでも解決しようと、空いている時間を使って手を貸してくれた。
先輩のお陰で、私の一方的な芽衣ちゃんに対する怨念は一切無くなり、手紙交換を再開して、受験勉強の教えあいこをしたり、先輩の家に言って遊んだりしたりして、楽しみが増え、再び生きる喜びを再び味わえた。
中学校の方は入学説明会の件で公になり犯されることはなくなったが、陰湿なイジメは増加していった。心が多少傷ついたものの、芽衣ちゃんや先輩という存在により、中学卒業まで何とか耐えた。
高校受験の合否結果の日。
合格を知り、帰宅している最中、すれ違った中学の同級生の暴言でぶち切れ、人生初の《オーラ》を使い暴走した。
その時、洋治と豪が私の動きを止めて《オーラ》を解除した。
そして、《オーラ》の原動力である《心の闇》や、私の両親について教えてくれた。
私はそれを知り、ショックを受けた。
でも、それは人類の未来にとって、大切なことだと理解し、私は《BLACK14》の臨時総督として、裏社会での人生が始まった。
まずは、《財団》から請ける仕事をしつつ、メンバー集めをすることにした。
《BLACK14》の『14』は人数のことだ。
欠番は行方不明者を除いて四名。
私と常にいる人は二人だけだが、他の八人は私の知人や親戚の人であり、遠くで、仕事をしているらしい。
欠番者は遅くても、私が高校を卒業するまでには揃えておきたいと思った。
高校の入学説明会の日。
私が教科書を買いに並んでいると、異様に熱い視線を感じた。
中学校の時のような「消え失せろ」というような念がこもった、陰湿で振り向きたくない冷たい視線ではなく、振り向いたら暖かくて、優しい気持ちになりそうな視線だった。
ふと、振り返り、目が合うとその男子は赤らめながら私を見ていた。容姿は世間の一般レベルだろうけど、視線が合うたびに頬を赤らめ、とっても可愛かった。ただの猫を被った陰湿なストーカーの可能性があっても、私はそんな彼が少しだけ気になった。
入学式当日。
私はそのときになって、気がついたのだが、小学校のときに離れ離れになった、亜美ちゃんや、理佳ちゃんがいて、とても嬉しかったが、みんなと同じクラスでなくて、少しだけ残念だった。
それでも、校内にいるというだけでも嬉しかったが、同じ中学校の人が私のクラスにいたため、イジメの日々が始まると思った。
しかし、今日に至るまでイジメなんてものは一つもおきず、自分から他人を遠ざけて、勝手に孤立しているだけで、嫌な視線とかは感じないし、読書をしても邪魔が入らず何にも起こらなかった。
十分休憩の際に、クラス内を見渡すと私のように孤立している人は他にも四、五人いた。多分、同じ中学校の人が誰もいない。もしくは一人が好きなのだろうと思った。これから体育祭や文化祭といった行事でそれは解消されてくるのだろうか。もしそうなるのなら、私もそれと共に解消したいと思った。
そして、昨日。
私が気にかけていた彼が尾行をして、私が裏社会に関わっていることを知ってしまった。これで、彼は私に距離を置くようになると思うと少々寂しくもあり、ストーカーが消えて少しホッとした。だから、運命の異性は別の人間なのだろうと思った。
昨晩。
《INS》に向かう途中の公園で、彼の不安定だった《オーラ》が安定していた。
そのときは理由が分からなかったが、彼から告白をされたとき、彼は私と少しでも近付くために、《忍》から《オーラ》や裏社会について知ったのだろうと思った。
正直、関わってほしくなかった。死ぬ危険性が高くなるこの世界に。
いつのまにか、八白は私の目の前にいて、私の腕に注射針をさそうとしていた。
私はこんなゲスな男の人形になりたくない。
もし、私の《オーラ》を暴走させるために、過去の様々な嫌な出来事をこの男の洗脳によって全て行われていたのなら、私は彼の掌で踊らされているにすぎず、私はすでに彼の人形だったに違いない。
このゲスは私の弱点と彼の存在のせいで予定を早めるとか言っていた。だから、こいつにとって彼は邪魔な存在で予定外の存在。だから、昨晩、私が死にかけたときのように彼が助けてくれると信じよう。
注射器はすでに刺さっており、注ぎ込まれる薬品が体内に入っているような感覚がすると、次第に意識が薄れていった。




