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神鳴寮  作者: MASA
16/24

銀×雀=籠の中の鳥、檻の外の獅子④

「君を大和が助け出した理由、始まりは何にせよ、現状、大和は君の事を好きだ。」

その言葉に雀は辛そうに表情を曇らせた。心が痛いという事を身をもって知った瞬間だ。

「本来それは俺の口からいう事じゃない、本人から君に言う事だ。

だが大和を見ていれば君だって気づいているはずだ。

君に接する大和の優しさが他の人と違う事を、その中にあるのが君への好意であることも明確だ。あぁ、あいつは呆れるくらいに、人前でも、無意識下でも君だけ特別だ。

友達以上、恋人未満、絶対的な恩人という関係性をいつまで続けるつもりだ。」

「、、、、私なんかが大和さんの事を好きだなんて、思っていいわけないじゃないですか、

大和さんには私は釣りあいません。

私は少しでも恩返しをしたいだけ、対等な関係なんて望んでいません。」

「釣り合わないというのは大和の家の話か?」

「それもあります。大和さんの御家柄はこの国にとっても重要な役割を担う立場にあると聞いています。将来大和さんは、そういう立場になる事を約束された人です。

そんな人を、私みたいな父親も分からない。呪いの島といわれているような場所で、

人形として生きていた私が、好きだなんて、ご迷惑がかかってしまいます。

それにそれだけじゃありません。大和さんの優しさも、強さも、懸命さも、私にはもったいなすぎます。大和さんにはもっとふさわしい人がたくさんいます。

わたしみたいな人形じゃ、全然だめですよ。何一つ、須らく、分不相応です。」

「そうか、だから、大和の気持ちには答えないという事だな。」

「はい、私は今のままで十分幸せです。」

「今のままで十分?まるで今ある物がこれから先も続くような、物言いだな。

常世は常に千変万化、この世に変わらぬものはなし、永遠を誓う愛であれ、神の在り方であれ、変化をする、もし今のままでいたいと望むなら、君はやはり変わる必要がある。

人は時間経過と共に変わっていく、

それを成長ととるか衰退ととるか、それは本人が行動の結果と心持ちだ。

雀がいかに今に満足しようと、それは永遠なんかじゃない、変化して変わっていく。

少なくとも本人は隠しているつもりだが、予兆の表れ始めている湊はあと1年足らずで、神憑きに覚醒するだろう。それまでにあの島の呪いを何とかしないと湊はあの島に囚われ、あの島の大人のようになってしまう。

まずはそれで一人。

他の3人もそうさ、時間の問題。

一人また一人と神憑きに目覚め島へ戻っていく。

それで、20を過ぎる頃には大和だけ

そして大和もまた家の宿命により、自分の意思でここから出ていく日がやってくる。

そして誰もいなくなった。

もう二度と会う事もない、変わらぬ事を望んだところであと数年の現状さ。

雀の望む今のままはあとどれくらい続くだろうな。」

「、、、、、」

「まぁ、そうでなくても。特殊な力や特殊なお家事情なんかなくても、人は変わっていく。

高校を卒業して大学に行って就職して、その過程で付き合う人間も変われば、環境も変わる。そして考え方も、大切なものも、そんな中で、君は一人残される。

この古びたボロ屋敷で、君は何も変わらない、それでいいのか」

「仕方のない事です。私は今の思い出を糧に生きていきます。」

「これだから欲のない人間は、実に詰まらない、実に気にいらないな、

籠の中の鳥はかごの中から出ようとしない。」

「それしか生き方を知りません。」

「開けられた籠から出ようともせず、次の主を求めて鳴き続ける。

されどやがて、その声は枯れ、その歌声に見向きもされない。

誰かの為に歌い続け、やがて誰もいなくなる。その鳥は籠の中で何の為に鳴くのだろうね。」

「だったらどうしろっていうんですか、大和さんが私の事を好きなのは知っています。

私に遠慮して、その事を胸に秘めたままでいてくれている事も、、、、」

ずっと銀を背に目も合わせようともしなかった雀が、感情を抑えきれなくなり、まるで自分の最も大切で、最も頭で処理できない思いを、おもちゃにしているような銀を睨みつける。銀はそんな真剣な雀の表情に引くことも真摯に受け止める事もなく、それも一興と言わんばかりに口元が笑う。

「でもだからって、どうしろっていうんですか!

私はあそこから連れ出してもらっただけで十分です。

銀さんから見れば私はまだ籠の中にいるように見えるのかもしれない。

だけど私は、もう十分に自由を手にしました。

もう十分です。これ以上何も望む必要はありません。

もし、時が来れば私は大和さんの元からいなくなります。

大和さんの事です、きっと私の事を心配して探そうとしてくれるでしょう、

悲しんでくれるでしょう。でもそんな事は一瞬の事です。

きっと大和さんにはもっとふさわしい人が現れます。

私の望みは大和さんに幸せになってくれる事だけ、ただそれだけです。

、、、、、、、、銀さんは知っているんでしょう、私の体の事」

「弱志薄魂、淡意儚身。その身に神を宿すように宿命づけられ、

そうなるように育てられた。」

「そう。私は生まれてからずっと檻の中に閉じ込められ、本来人が持つ魂を削られ、自我を失い、なされるがままの人形になるように育てられた。そうする事で私は自我を持たない虚ろな生きた人形となり、神を下ろす器となる事で完成する。

そうなるように何百年も繰り返され、作られた。

そしてその最後の一人の私はその完成に近い段階の存在。

私は長く生きる事は出来ません。それに、人並みの量の食事が出来ないのも、眠る時間が多いのも、全てはそうあるようにと作られた体が出来ているせい。

そんな私みたいなものが大和さんの傍にいても足を引っ張る事しかできない。

ううん、それだけじゃない。私の体が器としての本来あるべき方へ傾いてしまえば、

やがて大和さんの事さえもわからなくなってしまう。

目の前にいる大切な人がだれかさえ分からなくなって、私が私でなくなり、

私は私じゃない誰かに支配される、そうして私はやまとさんを傷つけるようなことを口にする。それでも必死に私を助けようと大和さんは、万策つくして私に語りかける。

でもそれでも、私は元には戻れない。やがて大和さんは憐れんだ目で私を見る。

もう見捨ててくれればいいのに、諦めてくれればいいのに

私が消えていくほどに大和さんが弱っていく、大和さんでなくなっていく

私はそれに耐えられない。」

「まるでそうなる事を見てきたような怯えぶりだな、でも一つ聞く、

大和は、人を好きになる時、自分にふさわしいかどうか値踏みして人を好きになるような安い男か?

大和は、容姿や、家柄で人を好きになるようなつまらない男か?

大和は、愛した人間を自分のものとして道具のように役に立つかで考えるような下種な男か?」

「それは、、、」

「確かに大和には大和の立場がある。

そして大和自身その運命に逆らうのではなく、受け入れる覚悟を考えている。

それが大和の望む事、我を通し、迷惑をかけるよりも、

他人のために犠牲になる事を選ぼうとする。

それは大和が自分の意思で考え、選んだ結論だ。

そしてその大和が唯一、周りの事を鑑みないで、必死になれる存在それが君じゃないのか。

大和は君を必要としている、あるがままの君を必要としている。

君がいれば大和は何だってできる。ここに大和が居続ける理由も君がここにいるから、

それだけだ。それ以上でもなければそれ以下でもない、故にそれが全ての大和の行動原理。

君はそんな大和の思いを、俺のように理屈を並べて拒絶するのか?

なにより、もし、立場が逆なら君は大和を捨てるか?」

「、、、、でも、、」

「あの時の君と今の君は同じか?

今ある君は誰だ、神の意思か、そうでないなら、君は誰だ?」

「私は祇園雀。神鳴り島で神の憑代になるために生まれさせられ、小さい頃から島のおきてと価値観だけを教えられて、、、」

「違う。君の経歴を聞いているんじゃない、今いる君は誰だと聞いている

例えば、俺は宮司銀、背景も過去もなく、ただ己が意思にて己が信念の為に存在する。

俺を語るには俺をおいて他になく、また。いかなる比喩を以ても俺を語るは敵わねども、

俺を評すに相応しきは、傍若無人、異常、異端、変人、奇人。そして何より世界の敵。

狂と強、凶と興こそが本質。ただ純然に己の意思のみが俺を定義する。

自己を観察するシュレディンガーの猫、我思う故に我あり

それがこの俺だ。もう一度問おう、そんな俺にいじめられて泣きそうになっている君は誰だ。」

「私は祇園雀。私は銀さんみたいに自分の難しい言葉で語る事なんてできません。でも確かにわかるのは、私は臆病で、私は弱くて、私は馬鹿で、でも、潤ちゃんの事が好きで、湊ちゃんの事が好きで、千里君も、大貴君も、そして大和君の事が好きで好きでしょうがなくてそういうただの普通の女の子です。

「よく言った。神愛のみを与えられた君が持つ、人を好きになるというその感情、それは君が自分自身で獲得した君の意思だ。その気持ち決して忘れるな。雀を俺の目を見ろ」

そう言って、銀は雀の頭をわしづかみし、殺意に満ちた目で、雀を睨みつける

「これで分かったか?彼女はもう人形などではない。失せろ!ここは生者の世界。

何人たりとも汚す事許さん!雀の中から出ていけ!!」

次の瞬間雀は意識を失いそうになり、自分の中から何かが抜けていくような感覚に陥り、

体に力が入らず、銀に支えられ、ゆっくりと畳に寝かせられた。


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