前置き
年に一度の祭りの日、私は今年も籠の中、
その年その日その時に、彼はひょこりと現れた。
年に一度の祭りの日、人生かけたその賭場で、
彼は迷わず躊躇わず、ただの一点大博打。
奇跡が霞む奇跡を重ね、
万物を見通す親の目潜り、彼は全て奪い取る。
怒れど狂えど、破れぬ掟、
ゴネど騒げど、変わらぬ結果
選ばれたるは、部外の者、
勝ち取りたるは、この世の全て
命一つ、身一つ賭けて、誰も思わぬその勝ちに、
仕切り島長、恐れ尋ねる。
浮世で叶わぬ願いなし、汝は何を欲する者ぞ、
彼は指さす、囚われ籠の鳥
「彼女をもらうよ、それでいい。」
一人の命で済むのなら、
唯一残った血脈なれど、それでも、破格の代償と、
私は籠から放たれる。
知らぬ男にこの身を買われ
「お好きにどうぞ、この命。
元よりただの人形なれば、
籠の中の鳥なれば、
自由も意思もありません。
ですがひとつ聞かせてください。
金銀財宝数知れず、地位も名誉も望むまま、女や愛も思うまま、
なのにどうして私を選ぶ」
彼は答える飄々と
「だって、あそこじゃ、つまらない。
飾るだけなら人形を、だけど君は人間だ。
魂持った人間だ。心を持った人間だ。
可愛いだけの女の子」
そうして手を引き、楔を外し、彼は私を外に導く。
今宵は満月、輝く星、彼は笑うよ、淀みなく、
それが笑顔と分かれども、
今まで誰とも違うそれ、
私もつられて笑い出す。
星空輝くこの空に、
彼は自由に飛びなさい、そういい私の手を離す。
飛ぶこと知らぬ籠の鳥、行く宛無きなり籠の鳥、
だから私はここにいいる、自分の意思でここにいる。