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第1章 模擬戦闘

 如月学院校長室前。

 校内は静寂に満ちている。唯一聞こえるのは、グラウンドで体育の授業でも行われてるのか生徒たちの喧騒のみ。

 廊下を歩いている自分の足音だけが鳴り響く。

 あたりを見回すと、国の補助を受けているだけあって一つひとつの装飾が目を引く。それなりにお金がかけてあるのだろう。

 

 だからこそ、扉を全力で蹴り開ける。


「なっ!何事だ一体」


 扉が部屋の反対側で壊れる音と校長のあわてる声が聞こえる。

 ざっと室内を見渡すと、手前にソファーが4つあり2つずつガラスのテーブルを挟んで置かれてあり、その奥にずっしりとした机が陣取っている。

 そして机で仕事でもしていたのか知らないが、驚いた顔でこちらを見つめる校長。

 その視線を無視してソファーに座り、足をガラスのテーブルに投げ出す。


「おい校長。俺を学院に転入させろ」


「な、なんだねき……」


「お前の用事など聞いてないし関係ない。お前にあるのは”はい”か”Yes”の2択だ。さっさと答えろ」


 焦った調子で校長が悪あがきをする。


「警備の者を呼ぶぞ!」


 深くため息をついてから立ち上がり、校長の首をつかむ。


「いいか、これは命令だ。お前に同行する権利はないんだよ」


 校長のあまりの馬鹿さには付き合ってられない。

 袖からナイフを取り出し校長の眼球5mm手前で止める。


「ひっ!!」


「俺は馬鹿と使えない奴が大嫌いだ。そして使えない奴に用はない、お前はもう用無しだ。じゃあな」


 そう言ってナイフを大きく振りかぶって振り下ろす。


「わ、わっかった!君の転入を認める!そのほかの事もすべてこちらでやるから!!」


 首の数ミリ手前でナイフを止める。


「よかったな、あとコンマ一秒遅れてたら首は胴体とおさらばだったぞ。今度はもう少し早い返答に期待するよ。俺は無能な奴が嫌いだ。だから容赦はしない。覚えておけ」


「わ、わかった。善処しよう……」


 校長は額に脂汗を浮かべ、顔が引きつっている。

 もうこれ以上は用はないとさっさと壊れた入口から出ていく。

 廊下に出ると、そこにはこの学院の制服ではないブレザーを着た女子生徒がっ立ていた。


「ずいぶんおっかないことをしてるのね」


「……」


「あら、無視?そんな怖い目でにらまないでよ、別に怪しいところなんてないででしょ?」


 笑顔でそんなことを言ってくる。

 無視して女を通り過ぎると


「ち、ちょっとー!なんで無視するのよ!」


 めんどくさいが足を止めて振り返る。


「俺はお前に用はないからな」


「私が話しかけてるでしょ!」


「そうか、だけど俺は興味がない。じゃあな」


 それだけ言って歩き出すとまた女が話しかけてくる。


「私も転入生なのよ。だから次あった時は仲良くしてよね!」


 (ほんとにどうでもいいな……)


「お前のことを俺が覚えていたらな」


 その間も足を止めない。


「私の名前は水無月瑠夏みなづき るか。瑠夏だからね~。ちゃんと覚えておいてね~」


 そんな声が聞こえるが覚える気はさらさらないし、めんどくさいだけだ。

 そのまま歩き去る。



 ◇◇◇



「は~い、みなさん!今日は転入生を紹介しますね」



 教室からこのクラスの担任小川小百合先生の声が聞こえてくる。


「今日は2年生初日で普通なら紹介はしないんだけど、皆さんはエスカレーターで上がってきてますからね。というわけで、今日から新しくこのクラスの仲間になるので皆さん仲良くしてね~。この場を温めるために転入生くんが誰ににてるかというと―――」


 話の途中だけど扉を生きよいよく開けて教室に入る。


「え~、普通高から転校してきました早瀬那月です。お前らみたいな仲良子よしのよなやつらと仲良くするつもりはないから、話しかけるな。それだけだ」


 それだけ言うと、教室の一番後ろの窓際に空いてる席に座る。

 机の上には花瓶に花が活けてあるが、構わずそれを床に置く。

 その時何人かの生徒がこちらを睨みつけてきたけど、無視する。


「あらあら。そんなんじゃだめですよ~。生きて世界を救うためには皆さんなかよくしないとね」


 頬杖をついて窓の外を眺める。

 今や日本はほとんどが滅びてしまった。主要な都市が初めにモンスターたちに襲われ、今や凶悪なモンスターが徘徊するだけのゴーストタウンになっている。

 そして、そのような地域は〈危険区域エリア〉とされ完全に封鎖されている。

 初めてモンスターが現れはじめたのは10年前。あれから<危険区域>は星の数のように増えた。

 そしてその<危険区域>を解放すべく作られたのが、今俺がいるこの殲滅科。殲滅科はここ如月学院だけでなく、日本にいくつも存在する。

 

 それとこの10年でわかったことと言えば、<危険区域>にはレベルがあるということだ。

 一桁のレベルは、団体で行けば安全に攻略することができるレベル。

 二桁になると、少なからず1人の犠牲が出てしまうようなレベル。

 しかしそれはレベル10~19までの話。レベル20を超えると雑魚モンスターが格段に強くなり、一瞬の油断が即命取りになる上に多くの死者が予測される。そしてエリアを支配するボスを倒すこともかなりの危険が伴う。


 ほかにも<危険区域>はある日突然出現することと、エリアのボスは少女に憑依することが分かっている。

 そして憑依すると、モンスターを生み出し始める。よって<危険区域>は憑依されてから時間がたつほどエリアの危険度は高まっていく。

 しかし危険度は無限に高まっていくわけではなく、あるレベルに到達すると安定する。最終的なレベルは安定しないと把握することができない。雑魚モンスターの強さやエリアの複雑さによって大体のレベルを知ることはできるが、それでも完全じゃない。急激に上がる場合もあるかもしれないから、安心することはできない。


 つまり俺たち殲滅科のメンバーは、エリアが確認され次第そこに乗り込みボスを倒すことになる。もちろん毎回全員が無事に生きて帰れるわけじゃない。


 エリアのボスは<神>と呼ばれることがある。それは大体のボスの雰囲気が神々しく、武器や防具の装飾品がイメージの神を具現化したような姿だからだ。

 エリアのモンスターの傾向は女の子の性格に左右されやすい。女の子の思想・考え方・好きなものなど、いろいろなことがエリアを特徴づける。

 俺が昔行ったエジプトでは、モンスターはミイラだったり骸骨だったり、ボスはツタンカーメンのようなやつだったりもした。


 もちろんそんなやつらに人間が生身で敵うわけがない。

 その対策に人間は【リスト】と呼ばれる機器を開発し、殲滅科の生徒すべてがこれを所有している。

 【リスト】の主な機能としては、武器の換装、呪い、パーソナルエリアの展開、危険区域からの強制脱出がある。

【呪い】は強化タイプ、減衰タイプ、感知タイプといった基本種と個人で作った特異種がある。

 武器の換装は、自由に出し入れができる利点があるが、【リスト】が壊れてしまった場合は何も出せなくなって無防備になってしまうという欠点があるが、そればかりは個人で気を付けるしかない。

 【リスト】の一番重要な機能は緊急脱出だ。これがあるのとないのでは生存確率もかなり変わってくるし、最悪の場合を回避することができる。

 しかし、緊急脱出は発動までに多少の時間がかかるし、一度の脱出で連れて行けるのは自分を含めた2人までだ。

 パーソナルエリアは言うなれば、自分の思い通りにすることができる絶対領域だ。絶対領域の広さがその人の実力に匹敵する。

 パーソナルエリアは基本、防御壁として使われる。強度は使用者の強さによって変わり、初心者ならマグナムくらいなら余裕で止めれるし、上級者に至っては戦車の砲弾や対戦車ライフルですら軽々と止めれてしまう。

 モンスターはそれを軽々と破るのだから、人間の兵器が効かないのもしょうがないだろう。

 【リスト】の形状については個人さまざまで、ピアスや腕輪、ベルトなど多種多様。ちなみに俺は右手首にブレスレットとしてつけている。


 といった装備を与えられてはいるけど、生きるか死ぬかは使い手しだいだ。気を抜かない限りは死者が出ることはあまりない。

 あくまでレベルの低いエリアでは……だが。


 ぼーっとしていたところで、担任に呼ばれていることに気付いた。


「もしも~し、早瀬くん聞いてますか~?」


「もちろん聞いてますよ先生。転校初日なんだから当たり前じゃないですか」


 もちろん話は一切聞いていなかったが……


「ならいいですけど、とりあえず先生の方を見るようにはしてくださいね」


 先生は苦笑いで話してくるが、もちろん無視。


「それではHRを終わります」


 それだけ言うと先生は教室から出ていく。

 それを皮切りに、教室中から一斉に視線を感じるが気にしない。

 そのなかで一人、金髪ポニーテイルがいかにも話しかけてこようと近づいてくるのが分かったところで俺は立ち上がり、教室から出ていく。

 しばらく廊下を歩いていると、先ほど俺に話しかけようとしてきた金髪ポニーテイルがつけてきているのがわかる。

 相手をするのは面倒だが、人けのないところまで来て角を曲がったところで自分に相手の認識を阻害する呪いをかける。

 少し曲がり角から離れて様子を見ていると、案の定金髪ポニテがつけていたのか、角を曲がったところで俺を見失ったことに焦りはじめた。


「なっ、いない!一体どこn―――」


「おい、金髪ポニテ。俺に何の用だ」


 呪いを解いてわざと後ろから話しかけると、目に見えるほど肩を跳ねさせ驚く。


「あんた一体どこから―――」


「うるさい、何の用だと聞いている」


 金髪ポニテは空気をリセットするかのように、一度咳払いをしてから話し始める。


「ねぇ、あんた。私のチームに入りなさい」


「興味ない。じゃあな」


 即答してから、教室に帰ろうと歩き出す。


「そうよね~、あんたがどうしてもって言うなら特別に……は!?ちょ、ちょっと!!私が誘ってあげてるのよ!私が誰か分からないの!?私はあの星宮財閥の娘なのよ」


「知らん。聞いたこともない」


 もちろん知っている。一応この学院に入る前に下調べはしてある。こいつの家は、軍事産業の8割を独占する大手産業だ。

 そして一番お世話になってるのが俺たち殲滅科のやつらだ。


「うっ……ってそんなわけないでしょ!どれだけ大きい会社だと思ってるのよ!あなたも殲滅科の一員なら知っているに決まっているわ!」


 (こいつ、よくしゃべるな……)


「いや俺は普通高校から来たから、その辺の事詳しくないし」


「ああ、そういえばあなた普通高校からの転入って言ってたわね。なら知らないのも仕方な……って、ちょっと待ちなさいよ!普通高校からの転入って、どう考えてもおかしいでしょうが!そもそも普通高校の生徒が殲滅科に入れるわけないでしょ!ここがどんな科かわかってるの!?」


「わかってるからここにいるんだろ?お前は馬鹿か?この学校のことを知りもしないでいるならここにいるのか?そもそも日本語わかりますか?それならさっさと転校して、日本語の勉強してベッドに引っ込んでろよ」


「は……?」


 金髪ポニテがポカンとした顔をする。

 をして一拍おいてから自分が馬鹿にされてることに気付いたのだろう。どんどん顔が赤くなっていく。


「あんたが変な事言うからでしょ!!それに私は日本人よ!義務教育もちゃんと受けてきたわ!」


「はいはい、まったくお嬢様は自分勝手だな。これだからお嬢様は困る」


わざとらしく肩を落としてため息をつく。


「くっ//もうそんあことはどうでもいいのよ!それとお嬢様はやめて。私の名前は星宮沙奈ほしみや さなよ。ちゃんと名前で呼びなさい。って、また話がずれてるし!そんなことはどうでもいいの!いや、よくはないんだけど……」


 (なんて感情の移り変わりの激しい奴だ。情緒不安定かよ……)


 もちろん声には出さにけど。


「チームよチーム!私のチームに入れば安全に危険区域を攻略できるわよ!」


 顔には出さにが、正直この馬鹿にはあきれるしかない。たとえどれだけ準備したところで、危険区域に安全などない。気を抜けばそれで人生が終わるというのに。

 いい加減面倒になってきたから、適当に話を折る。


「あー、その話今じゃないとだめですかね?俺は早くトイレに行きたいんだけどさ。それにトイレの目の前でそんな話をされるのもちょっと……」


 顔にわかりやすく困った表情を浮かべると、金髪ポニテは自分がの状況を見て顔が真っ赤に変わっていく。


「わかったわよ!ここで待ってるから早くしなさいよね!そのあとでちゃんと話きいてもらうからね!」


「はいはい、わかりました。んじゃ、ちょっと失礼して」


 中にはいるとき、後ろで金髪ポニテがつぶやく


「って、別にトイレの前で待たなくてもいいんじゃ――――」


 (何か言われる前に入って正解だったな。にやにや)

 このとき那月の邪悪な笑みに、星宮沙奈は気づかなかった……


 トイレに入って那月は、突き当りまで行って窓を開けて外を確認する。

 4階だけど飛び降りても特に問題は無いだろう。ということで、外の金髪ポニテにばれないうちに素早く飛び降りる。


 

「わっ!びっくりした~」

 

 すぐ後ろからそんな声が聞こえてくる。


「上から落ちてくるとか何なのあなた?一体どこのラピ〇タから落ちてくるのよ。こういう場合はやっぱり『親方!空から男の子が!!』とかいったほうがいいのかしらね」


 そんなボケと疑問を投げかけてくる。


「そもそもなんでトイレから飛び降りてくるのよ。トイレからのダイブなんてそうそう経験できることじゃないわよ。てか4階って……マジか」


 4階を眺めながら散々ボケを繰り返していたのは昨日、校長室前で遭遇したあの女だった。


「どちら様ですか?僕、親から知らない人とは話してはいけないって言われてるのですが」


「いやいやいや、昨日会ってるから。一応知り合いだから。校長室の前で会ってから転入生同士の秘密を共有した仲だから」


 明らかな嘘が含まれてる……。

 それに段々声のトーンが上がっていくし。


(面倒な奴に遭遇したな~……)


「はぁ、それなら人違いですね。転入生同士の秘密を共有したことなんてありませんし。目が悪いなら、眼鏡かコンタクトをつけることをお勧めしますよ。それではこれで」


 制服の砂埃を払って歩き出そうとすると


「待ってってば~。少しくらいお話ししましょうよ。転入生同士仲良くね」


 にこっと微笑んでくるが、なんとなく計算された雰囲気を感じる。おそらく自分の見せ方というものを熟知してるんだろう。俺には通用しないが。


「はぁ……んで?何を話すんだよ?」


 素で声にめんどくさい感が含まれる。


「そうね、友達できた?というかできそう?(笑)」


 語尾に違和感を感じたが気にしない。


「当たり前だろ、もう100人も友達いるぜ。今度みんなで登山しておにぎり食べる予定まであるし。人気者は大変で困った困った」


 少しオーバーに身振り手振りをする。


「いやいやいや。普通科を除いた私たち殲滅科って20人の4クラスで80人しかいないし、あなたと私を除いて78人しかいないし……」


「そうだっけ?まあいいけどさ。俺、友達と昼食取るから教室に帰りたいんだけど」


 (クラスメイトはどうでもいいけど、早くここから抜け出したい……)


「え~。こんなナイスバディで可憐な美少女の私と話してるのに友達優先とか正気?普通の男の子なら喜んで友達を投げ出すところなんだけど。あなたもしかして男にしか興味ありませんってクチですか?」


 そんなことをいいながら腕を組んで、胸を持ち上げるような仕草をする。

 (胸が大きいだけどのポンコツ女か……)


「ナイスバディで可憐な美少女?そんなのどこにいるんだよ。お前の目、腐ってるんじゃないか?」


「こ・こ・に・い・る・の・よ!」


「はいはいわかったわかった。お前の中ではそうなんだろうさ。お前の中ではな」


「なにそれ!まったく。はぁ、あなたは顔は良いんだから性格さえよければ問題ないのに。というか口を開かなければ最高よね」


「それはそれは。そんなに褒めても何も出ないぞ!」


 わざと満面の笑みであははと声を出す。


「別に褒めてません~」


 なんていいながら少し舌を出してくるが、おそらくこれも計算されてるのだろう。


「んじゃ、そろそろ教室に戻るから」


 水無月に背を向け歩き出す。


「はぁ……まったくあなたってやつは」


 呆れてるのか、大きなため息が聞こえてくる。


「今度会う時まで、ちゃんと覚えててよね~。水無月瑠夏だからね~、瑠夏でいいから~。それと早く友達作りなさいよ~」


 軽く手を振ってこたえる。


 (面倒な奴と知り合っちゃったな~)





 教室に戻って机から外を眺めていると


「はぁぁぁぁぁぁやぁぁぁぁぁぁせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 廊下からものすごい声で俺を呼びながら走ってくるやつがいる。

(もう戻ってきたのか……)

 勢いよく教室の前の扉が開かれる。

 騒ぎの元凶は俺の机の前まで走ってきて机をバンバンと叩く。


「なんであんたが先に教室にいるのよ!あんたトイレしに行ったんじゃないの!?ずっと待ってたのよ!トイレの前で恥ずかしいながらもずっとよずっと!それなのにいくら待っても出てこないし……。初めは、その、あの……大きい方でもしてるのかなとか考えて少し待ってみたけど全然出てくる気配がないし、周りには聞けるような人もいなかったし。だから少し恥ずかしかったけど、勇気を出して中をのぞいてみたら……誰もいないじゃな!!しかも運悪く、覗いてるところを通りかかった人に見られるし!!もう恥ずかしくて死にそうよ、このばかーーーーー!!」


 はあはあと荒い息を立てて疲れきっている。

 顔も走ってきたことによって赤くなってるというより、恥ずかしくて赤面してるのだろう。林檎に負けず劣らずの赤さだ。

 なんとなくおもしろそうだったからさらに追い打ちをかけるように、少し声を大きくして話す。


「なんだ金髪ポニテ。お前は男子トイレを除く趣味があったのか!?ちょっとさすがにそれは俺でも、引くぞ。俺だけなら別にいいけどほかの男子生徒にはやめた方がいいぞ」


「ち、違うわよ!そんな趣味あるわけないでしょ!みんな、違うの!今のは誤解だから!ほんとに誤解だから!そんなんじゃないんだからぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー……」


 赤面度が限界を超えたのか、叫びながら教室を飛び出していった。

 廊下にいた生徒も、いきなり教室から叫びながら走ってきた金髪ポニテにおどろきながら道を開けて、走り去る金髪ポニテを見送っていた。


「あいつの顔は一体どこまで赤くなるんだろうか……?少し面白いかも」


 しばらくすると教室にいつもの喧騒が戻ってくる。

(まあ転入初日だからいつもなんて知らないけどな……)


 すると近くに寄ってきた人当たりのよさそうな奴が話しかけてくる。


「あまり星宮さんをいじめないであげてよ。彼女はああ見えて強がりでさ。いつもクラスの皆を引っ張っていこうと頑張ってるけど、実際は寂しがりで恥ずかしがりやだからね」

 

 軽くはにかみながらそう言ってくる。


「何のことだよ。俺は何もしてないぜ?ほとんどあいつが勝手に自爆してやってることだ」


 ハニカミくんは少し苦笑いをしながらほほをかく。


「僕は相葉聡あいば さとし、よろしく。え~っと、早瀬那月くん」


 手を出して握手を求めてくるがもちろん無視。それを見て再び困った顔をする。

 すると今度は少し目つきの悪くて、短い金髪を逆立てたやつが寄ってくる。

 (金髪であの目つきだといかにもヤンキーって感じだな……)


「お前みたいなもやしはせいぜい死なないように気を付けるんだな」


 睨みつけてくるけど、特に興味ないからなんとなく見つめかえす。


「そうだなー気をつけるよー(棒)」


「けっ……」


 それだけ言って金髪ヤンキーは自分の席に帰っていく。


「気にしないでやってくれ。ああ見えて下田くんもいい人だからさ。以外と面倒見がいいんだよ、彼」


「そうなのか。意外だな……」



 そんなこんなで波乱の昼休みは終わり、2年生初日ということで今日は昼で終わり。

 HRのために先生が教室に入ってくる。そのあとに続くように金髪ポニテも入ってくるが、顔は幾分落ち着いたがいまだに赤いままだった。相当恥ずかしかったんだろうな。


 今日はこれで終わりだが、基本的に俺たち殲滅科の授業は普通科とは授業時間から違い、どちらかというと大学にちかい。

 授業内容に至っては普通科とは全く違う。

 殲滅科の生徒は基本、武術や呪いの鍛錬、チームでの戦闘といった風に基本実践戦闘がメインの授業になる。

 ほかにも殲滅科の生徒だけが使用できる設備とかもある。

 代表的なものと言えば闘技場だろう。

 闘技場は主にモンスターと実際に戦ったりするためのもので、日々の授業で普通に使用する。

 基本的に先生方に呪いでモンスターを作ってもらいそれを相手に剣や銃や呪いの練習をするのだ。


 ぼーっと外を眺めていると

「早瀬く~ん、もっしも~し?聞いてますか~?」


「聞いてますよー。転校初日なんですからあたりまえじゃないですかー(棒)」


「何か先生デジャヴをかんじるのですが、おかしいですね~?」


「デジャヴなんて気のせいですよ先生。きっと夢で似たような場面を見たんだと思いますよ」


 すっとぼけた雰囲気が出てるが気にしない。


「夢ですか~?そうですね、先生早とちりしちゃいました~」


「まったく先生ったらー(棒)」


 先生がこちらを凝視して視線を外さないがもちろん無視。


「早瀬く~ん?話すときはちゃんと相手の目を見ましょうね~?」


「気をつけまーす(棒)」


 再びもちろんの事当たり前のように一切目を合わせない。

 そんなことよそに、窓の外では普通科のやつらがワイワイ話しながら帰宅している。


「のんきな奴らだ……」



◇◇◇



次の日


 午前中1限目の授業。

 今日はリストを使った実践戦闘の授業だ。

 ということで今は闘技場に集まっている。

 闘技場と言っても建物は、普通の体育館を数倍大きくして強度も強くされてるくらいだ。2階は1階をぐるりと一周するようになっていて、吹き抜けになっている。

 2階には安全のために強化ガラスにさらに、先生たちの呪いで強化されている。よほどのことがあってもびくともしないかもしれない。

 


 授業が始まって5分してから担任の小百合先生がやってきた。


「すいませ~ん、遅れちゃいました」


 少し肩を上下させていることから、よほど急いで来たのだろう。


「ちょっと先生。先生が遅れてきてどうするんですか!もっとちゃんとしてください」  


 金髪ポニテの星宮が先生に注意している。


「えへへへ~。すいませんです。昨日少し部屋が散らかってきたな~って思ったので掃除してたら、なんだか次々と気になるところが見つかりまして~、そのまま遅くまでそうじしてて夜更かししちゃって朝に起きれなかったのですよ~」


「はぁ、もういいです」


 先生のおっとりした雰囲気に毒気を抜かれたのだろう。怒気よりも脱力感の方が目立つ。


「ほんとに申し訳ありません。次からはもう少しまめに掃除するのですよ」


 


「はい、それでは今日は実践戦闘のトレーニングをします。今日は一人一人の実力を見たいので、モンスターとの1対1をしてもらいます。怪我をしても多少なら先生が治してあげるので安心してくださいね~。大けがの場合は……まぁ……うん、大丈夫だと思います!」


 空気が少し凍りついているけど、まあ何とかなるだろ。


「あ~でも一応念のために1対2でやりましょうか。実践では仲間とのコンビネーションも重要ですしね!」


 どうみても今考えた思い付きにしか見えないんだけど、ほんとにこんな先生で良いのだろうか。

 しかし、この少し抜けた感じがこの先生の人気な理由なんだろうな。


「それではみなさん、2人1組のペアを作って下さい」


 周りでは次々とペアが決まっていく。俺は残った奴とでも組むつもりだったが、横から声をかけてくるやつがいた。


「ちょっとあんた、私と組みなさいよ」


 金髪ポニテが話しかけてくるが、少し顔が赤くなってる。


「なんで俺とお前が組まなくちゃいけないんだよ」


 それだけ言うとちょっと顔をそむけながら言ってくる


「だってあなた、どうせ一人なんでしょ?だからこの優しい私が組んであげるのよ。ありがたく思いなさ――――」


「断る」


 間髪入れずに答える。


「うんうん、そうよね。私と組むしか……だから何で断るのよ!組む人がいないなら私と組んでくれてもいいじゃない!」


「だってお前弱いだろ。俺は雑魚には興味はないからな。だからお前とは組まない」


「うっ、そ……それはどうかしらね?こう見えて私はクラスの中でもトップランクよ!その私を雑魚呼ばわりとはね。ならいいわ、私の実力を見せてあげるわ。だから私と組みなさい」


(ふっふっふ……、け、計算通りよ!これで当初の予定通りに……)


「なあ武。俺と組まないか?俺、転入生だからまだお前意外に友達いないから1人でさ」


「あ?何でおれがお前と組まなきゃいけないんだよ。ありえないだろ」


 すでに那月はヤンキーの下田武に話しかけていた。


「いや、だってお前もハブられるじゃん。ならあまり同士、一緒に組も――――」


「はやせーーーーーーー!」


 顔を真っ赤にして金髪ポニテが叫んでいる。あの赤は怒ってというより羞恥心から来る赤面だな。

(なんか金髪ポニテの赤面具合で感情がわかるようになってる……マジカヨorz)


「わ・た・し・が、組みましょうって誘ってるでしょ!私と組みなさいよ!」


 星宮の目には若干涙が浮かんでいる。よっぽど恥ずかしいんだな。

 それを横目ににやにや笑う。


「そんなに、俺と組みたいのかよ。やれやれ、モテる人間も楽じゃないな」


「誰がモテモテなのよ!」


「仕方ないな~。ゴメン武、お前と組めなくなっちまった。ちょっと俺のハニーがやきもちでさ。まあお前なら1人でも大丈夫だ!」


 武に笑顔で言う。


「誰もお前と組むなんて言ってねえだろうが」


 すごい剣幕で睨まれたが、照れ隠しだとでも思っておこう。


「下田くんとは僕が組むよ。力になれるかはわからないけど」


 ここで登場ハニカミくんこと相葉聡。


「ちっ……」


「相葉、俺の武をとろしく頼む!」


「誰がお前のだ!いい加減にしないとぶっとばすぞテメエ!」


 だんだん武も突っ込むようになってきたなww


「はいは~い、そこの早瀬くんたち、喧嘩しないでくださいね~。それではそろそろ始めましょうか。それではどのペアからやりますか~?」


「それじゃあ、下田君。僕達から行こうよ」



「んだよ、めんどくせえな。行くか」


 めんどくさそうだけど、そこまで嫌ってわけじゃないみたいだな。


「はい、それでは下田くんペア以外の人は2階に上がって下さ~い」


 相葉と武を残して、全員が2階に上がっていく。


「ほら早瀬、私たちも早く上に行くわよ」


「わかったわかった。お前が俺と仲良くしたいことはよくわかったから、とりあえず落ち着け」

 

「うるさいわよ!黙らないと八つ裂きにするわよ!」


「はいはい、そんなこといいから上行くぞ~」


「もうっ!!」


 金髪ポニテが小走りでついてくる。それを見てると、金髪ポニテが小さいこととポニーテイルでなんだかリスみたいな印象を受ける。


「あはは、かわいいやつだ」


「ん?なんの話?」


「なんでもねえよ、気にするな」


 金髪ポニテは首をかしげて理解できなかったようだ。




「はい、それでははじめます。下田くんに相葉くん、準備は良いですか?」


「おねがいします!」


「いつでもはじめてくれ」



 目の前には強化ガラスがあるのに、1階にいる先生の声が聞こえる。おそらくこれも先生たちの呪いによってそういう風にされてるのだろう。


 1階の中央に青い光が集まりだす。やがてその光は収束し形を作り出す。

 光がはじけると、そこにいたのはいわゆる鎧武者と呼ばれるものだった。

 腰には2本の刀、先進は黒光りする鎧に包まれていて、頭部には2本のまるで鬼のような角が生えている。

 この時の皆の雰囲気は明確に分かれていた。

 鎧武者におびえるものと、無反応なもの。

 隣の金髪ポニテは少しビビッているようだ。

 外国で殺りあってきた中には、もっと異形なモンスターもいたから今更あれくらいどうってことはない。

 

 実際に早退している2人も多少ビビッているものの、武はそこまでではないようだ。


「おい相葉。ビビッて動けないとかいうなよ」


「僕はそこまで戦いが得意じゃないからね。でも大丈夫だよ、たぶんいける」


 相葉の顔は多少青ざめているが、一体どうなるやら。




「それでは2人とも~、エリアを展開してください」


 その声を合図に2人がリストを起動させる。


「「エリア展開!」」


 すると二人からそれぞれ半径1mほどの半円形の薄い膜が現れる


 そして2人が片手を宙に伸ばすと、それぞれの手に武器が現れる。

 武は2mほどの両刃の大剣。

 相葉はハルバードと呼ばれる長物の棒の先に突くための刃があり、その少し下に斧のような刃がついている。


 2人は武器を構え、鎧武者を見据える。

 武はしっかりと腰を下ろしてるのに対し、相葉は武器を構えただけで棒立ちしてるようなもんだ。


 「行くぞ!」


 武が走りだし、それに相葉が続く。

 鎧武者は腰から刀を抜き、正面でそれを構える。


「はぁぁぁぁぁ!」


 武が雄たけびをあげて上段から切りかかるが、それを鎧武者はたやすく受け止める。

 そこで鎧武者の背後に回った相葉が背面を切りかかるが、武の剣を横にいなし相葉の攻撃も避け、2人から大きく距離を取る。


「あいつ、意外とパワーあるのに素早いぞ」


「そうだね、ちょっとてごわそうだね」


 相葉の不安の顔に比べて、武の顔に苦渋の色はなかった。


「このくらい、俺に任せてお前はそこで見てろ」


「ちょ!」


 相葉の声を待たずに武は走り出して唱える。


「ライズ!」


 呪いで威力を上げ、再び鎧武者に挑む。


ギンッ!


 鉄と鉄を打ち合う音が鳴り響く。数回打ち合って、互いに押し合う状態で止まる。

 どうやらライズであげた威力にすら相対するらしい。

 しかし、少しずつ武が押され始めた。


「くっ!」


 直感で危ないと感じた武は鎧武者の刀を剣の側面で逸らしなんとか距離をとるが、鎧武者がさらに追い打ちをかけてくる。

 何とか武も剣で打ち合ってはいるが、圧倒的に武の方が押し負けている。

 なんとかエリアで防御しつつ回避行動をしつつ避けて、相葉のところまで戻ってくる。


「クソ!」


「下田くんどうする?」


「正直お手上げだが仕方ない。相葉、お前の力を貸せ」


「どうするの?」


「さっきと同じく俺がライズであげた全力の威力で奴の刀をはじく。その隙にお前もライズでやつの体をつらぬけ!」


「でも僕にできるかどうか……」


「うるせえ!やるかやらないかじゃねえ。お前がやるんだ!」


 相葉の顔にはまだ少し不安の色があるが、しっかりとうなずく。


「わっかった。僕に任せてくれ」


 武はそれを見てかすかに顔を緩める。


「上等だ」


 一拍呼吸を止めて鋭く吐き出す


「行くぞ!」


 武が全力で駆け出す後ろに相葉が続く。


「「ライズ!」」


 武が全力で地面をけり、全体重が乗った状態で鎧武者に切りかかり、今度は鎧武者が押されて体制が崩れる。

 そして武の2撃目で刀を弾き飛ばす。


「今だ!!」


 相葉が武を追い越し、がら空きの胴体に全力の突きを食らわせる。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 相葉の雄たけびとともに武器が鎧武者の体を突き抜ける。

 鎧武者は武器で貫かれたまま数歩下がり、前のめりに倒れて動かなくなる。


 相葉と武は鎧武者が動かなくなったのを確認してから呪いを解く。


「そこまで~。2人ともお疲れ様でした。2階に上がって休んでください」


 そこで武が座り込んでいる相葉に手を伸ばし立ち上がらせる。


「お前もやればできるじゃねえか」


 素直に武が相葉を褒めるが、相葉は少し照れた風に


「下田くんこそ。でも下田くんのおかげだよ。ありがとう」


「あのくらい、なんてことないぜ」


 


 その頃2階では


「下田くんのあの威力をはじき返すとはすごいパワーね」


 金髪ポニテがそうつぶやく。


「そんなに武の威力はすごいのか?」


「このクラスのトップレベルね」


「それはそれは。実際に戦ってみたいもんだね」


 おどけた調子でそう漏らすが、本心では結構本気だった。


「あんたみたいなもやしじゃ、一撃で上半身と下半身がさよならすることになるわね」


 いつものお返しとばかりに馬鹿にした目で見つめてくるが、安定のスルー。



 しばらくすると相葉と武があがってきた。

 相葉がすぐに那月を見つけて、小走りにやってくる。


「お疲れ。なかなかよかったじゃないか」


「僕は何もしてないよ。下田くんのおかげさ。下田くんがいなかったら僕はなにおできなかったしね」


 当の武本人はさっさと椅子にもたれてくつろいで、こちらと目を合わせようとしない。


「随分手こずったようだね武君」


 少し馬鹿にしたようにそんなことを言うが


「うるせえ。お前なんかが挑んでもおしゃか様になるだけだぜ」


 相葉はそのやり取りを見て苦笑い。


「星宮さんも気を付けてね。あいつすごく強いから」


「わかったわ。相葉君も下田君もお疲れ様」


「がんばれよ、金髪ポニテ」


 さらりと那月が言ってくる


「あんたも頑張るのよ!」


 すごい剣幕で那月にかみついてくる。


「まあ、やる気が出たらな~」


「まったく……はぁ。何かかなり不安だわ」


 金髪ポニテの肩ががっくり下がってだるそうだ。






 そんなこんで次々と終わっていく。

 モンスターは全員統一されていて皆四苦八苦していた。やはりあの鎧武者のぱをーが手ごわいらしく、結局武たち意外に傷をつけたものはいなかった。

 そして最後、星宮と那月の出番が回って来た。


「さて行くわよ」


 どうやら金髪ポニテはやる気満々のようだが、あまりやる気が出ない。


「え~やっぱりめんどくさい」


「いいからいくわよ!」


 星宮が那月を引っ張ってれていく。


「二人ともがんばって!」 


 二人の背中に相葉の声援が飛ぶ。



 〇〇〇



「それでは始めま~す」


 担任の声を合図に始まる。


「展開!」 「てんか~い」


 なんともだるそうな声が後ろから聞こえてくる。


「ちょっと早瀬!もっとやる気を出しなさいよ!」


「何かね~。しばらくお前ひとりで頑張ってくれ」


 ほんとに何なのかしらこいつ。肝心なところで私に任せるなんて。


「わかったわよ。もう私1人でやるからあなたはそこで見てなさい」


 そう言って宙に手を伸ばし、直径30cmほどの鉄の輪を2つ出す。


「ほ~奇妙なものを使うな」


 隣で早瀬が感嘆の声を上げる。


「あんたの出番はないからおとなしくそこで見てなさい!」


 視線を早瀬から鎧武者に移す。

 鎧武者は刀を正面に構えピクリとも動かない。


「ライズ!」 


 呪いで自分ではなくリングを強化する。


「回りなさい」


 そう命令すると2つのリングがものすごい勢いで回転し始める。

 (まずは小手調べからね……)


「行け!」

 

 そういって1つのリングをエリアの力で音速より少し遅いくらいの速さで打ち出される。

 鎧武者は高速で飛んでくるリングを切り払い、刀と触れた瞬間に「キュンイン!」とものすごい音を鳴らす。


「どうやら1つではダメみたいね。なら2つでならどう?」


 落とされたリングを消してから再び出してから、今度は2つ一緒に打ち出す。

 しかしそれも、鎧武者のあまりに速すぎる剣さばきに撃ち落される。


「ちっ!……それならさらに倍の4つよ!」


 4つのリングを浮かせ、打ち出す。

 すると3つは撃ち落されたが1つが鎧武者に傷をつけると、歓声の声が上がる。


「おぉー!」


「ひゅ~♪」

 

 後ろから早瀬の口笛が聞えてきて少しイラッとする。


 今現在のところ初めの相葉ペア以外に傷をつけたものは誰ひとりもいなかったのだ。

 攻撃を当てることができても、鎧は意外と固くて火力不足で弾かれてしまうものがほとんどだった。


(しかし実際に厄介なのはあの鎧よりも刀の方よね……)


 散々刀に攻撃を充てているのに少しも欠けたりしていない。


「なら、これでどう」


 リングを2つずつ時間差で打ち出した。 

 初めの2つが見事に鎧武者の刀をはじき返した。


「とった!」  


 残りの2つの輪が首をとらえたと思った時、鋭い金属音が鳴り響く。


「なっ!」

 

 鎧武者の刀を弾いたと思っていたのに、もう片方の手にもう1本の刀が握られている。


(あの状態から、腰の刀を抜き撃ち落すなんて……)


 これ以上頑張ってもおそらく私に勝ち目はない。どうすれば……

 すると後ろから早瀬が声をかけてくる。


「お前はもう無理だ、諦めろ」


「じゃあどうすればい――――」


「俺がやるから下がってろ」


 間髪入れずに答える。

 さっきまで全くヤル気の無かった早瀬が前に出る。


「いいの?あいつは強いわよ!だから私も何か―――」


「いいから雑魚は黙って見てろ」


「うっ……」


(こいつまた私のことを雑魚って!ほんとにムカツク!あいつはほんとに全く!)


 仕方なく早瀬の後ろにまわる。


「あんた一体何を……」


 すべてを言う前に鎧武者が早瀬に突っ込んでくる。

 あまりの速さに目を見開くが、早瀬は鎧武者を見据えたまま軽く腰をおとしただけだ。

 鎧武者が刀を振り下ろして、早瀬をとらえる。


 思わず目をつぶり、あわてて視線を元に戻す。

 しかしそこには、素手で刀を掴んだ状態で立っている早瀬。


「はっ、なんだよこの程度か。傷の一つも付きやしねぇ」


 鎧武者は早瀬を切り倒そうと、刀に力を入れているが全く動く気配がない。


「生ぬるいぜこんなもの」


 そう言うと、早瀬は刀を握りつぶし刀が砕ける。


「おいおい、これで終わりとか言わねえよな?もう少し楽しませろ!」


 早瀬は鎧武者を全力で殴ると、鎧武者がものすごい速さで吹っ飛ぶ。

 鎧武者は反対側の壁まで飛ばされ壁に亀裂が生じる。

 鎧武者が起き上がると、鎧の殴られた胸の部分にかなりの亀裂が入っている。

 鎧武者は折られた刀を捨て小太刀を抜刀すると、腰を落とし走り出す。


 鎧武者が横なぎに刀を振ろうとしてるなか、早瀬は微かに笑った気がした。

 そして刀を振り切った時に、そこに早瀬の姿はなかった。


「あれ、早瀬はどこに!?」


 さっき確かに切られたと思った早瀬がどこにもいない。

 と思ったら、すぐ真横から声がする


「ここにいる」


 突然真横から声が聞こえた事にビクッ!と飛び上がる。

 早瀬は今のを見たのか、にやにやとこっちを見てくる。

 自分が驚きで跳ね上がったところを見られて、顔がどんどん赤くなっていってるのがわかる。


「あんた今のは一体。それにどうやってここまで」


「はいはい、そういうのいいから。弱すぎて飽きてきたからもう終わらせるわ」


 そういうと早瀬は鎧武者に突っ込み懐に入りきる前に刀が振り下ろされる。

 しかしそれを紙一重で避ける。続く2撃目も紙一重で避ける。あいつは完全に刀を目で見て避けている。 

 そして3撃目で早瀬は避けるのをやめた。


「何してるの馬鹿!!」

 

 思わず声が出てしまう。しかし次の瞬間。気づいた時には早瀬が鎧武者の背後を取っていた。

 そしていつの間に出したのか、その右手には30cmほどのナイフを持っている。


(どうやってあいつの背後に!?それにさっき確かに切られたはずじゃ)


 早瀬は素早くナイフで鎧武者の首を切り裂き、鎧武者が崩れ落ちる。

 

 そして今度はもう一つの異変に気付く。

(あいつは確かに始めに「展開」と唱えていた。にもかかわらず早瀬のエリアが見えない。どうして……一体何が起きているの?)


 すでに頭の中は疑問符で一杯だった。


「は~い、終わり~。まったく相手にならないぜ。こんなのに手間取るとか、一体何してんだよ」


 本人は気楽だが、こっちは何が起こったのか全く分からなかった。

 切られたと思ったらすでに背後を取っていた。


 (それに皆が苦労しても傷一つつけられなかった鎧を拳ひとつで砕くなんて……何者なのよあいつ)


「お~い、金髪ポニテ~上行くぞ」


 早瀬の呼びかけに一瞬遅れて気が付く。


「あ、ちょっと待ちなさいよ!今のは何なのよ!」


「いいからいいから~」


 早瀬は流してまったく教えてくれない。

 そうこうしてるうちに早瀬はさっさと上に行ってしまう。


「ちょっと待ちなさいっていってるでしょ!こら、待ちなさい!!」


 あわてて早瀬の後を追いかける。




 〇〇〇




 二階に上がると、全員の視線を感じる。

 それにため息をこぼし、近くの椅子に座る。

 皆は凍りついたように身じろぎ一つせず、外の鳥の鳴く声がよく聞こえてくる。

 小走りで上がってきた金髪ポニテがこの静寂をぶち壊して話しかけてくる。


「あんた、さっきなにしたのよ。素手であいつを殴り飛ばすなんて何考えてるの!普通そんなことする?」


「せっかく人が気持ちよく静寂を満喫してたのに、なんてことしてくれるんだ。少しは黙るってことができないのかお前は?女は少し物静かな方がモテるんだぜ。お前はうるさいこと以外は可愛かったりするんだから、静かにすることを覚えたほうがいいぞ」


 そういうと金髪ポニテは顔を赤くして、黙ったかと思うとなにやらごにょごにょと聞こえる。


「(かかかか、かわいい!今私のことを可愛いって言った!?えええ、えっと……

)」


 星宮は早瀬に背を向け、耳まで真っ赤になってるが早瀬はそのことに興味がない。

 

「お疲れ様ー。さっきのすごかったね!まさか殴り飛ばすなんて思いもしなかったよ」


 相葉が話しかけてくる。

 武はその奥で椅子に深く腰掛けながら、こちらを半眼で見てくるが目を合わせない。

 しばらく葛藤した金髪ポニテは相葉の言葉で我に返ってようだ。


「そ、そうよ!さっきのは一体何!?あなたが切られたと思ったら私の真横に居て……」


「はぁ……」


 この鬱陶しさにため息をつく。


「そうだな。俺から言えることは一つだけだ……」


 金髪ポニテが喉を鳴らし一歩近ずく。

 層やら周りの奴らも気になっているようだ。

 それを見てにやにやと笑う。


「企業秘密です」


「なっ……」


 みんなを代表して金髪ポニテが声を漏らす。そして再び空気が凍りつく。


「ふぅぅぅぅぅぅざぁぁぁぁぁぁぁけぇぇぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅぅぅなぁぁぁぁぁぁ!はやせーーーー!馬鹿にするのもいい加減にしなさーーーーい!」


 金髪ポニテが腹を立てて掴みかかってくるが、さっきの鎧武者の時と同様に早瀬の姿が目の前から消え、掴み損ねたことによって金髪ポニテが前のめりに倒れる。

 それを見下ろし、言葉をかける。


「おまえこんなところで寝転がってなにしてんだ?匍匐前進の練習とかか?それならお前、通う学校間違えてるぞ。お前ここが何の学校か知ってるのか?」


 この前言われたことをあえて言い返す。


「このやろぉぉぉぉぉ……」


 目に涙を浮かべながら、背後に黒いオーラが広がっている幻覚が見える。


「は~い、皆さんお疲れ様でした~。今日の相手は少し強すぎたかな?本日はこれで解散にしますのでしっかり休んでください。それとけがをした人はこの後、私の所に集まって下さいね~。それでは解散してください」


 先生がそう言って、流れを断ち切る。

 そして先生の言葉を皮切りに、みんながそれぞれ帰宅していく。

 そして星宮が再び早瀬に詰めかけようとすると、そこに早瀬の姿はなかった。


「あのやろぉぉぉぉ……、絶対に許さないんだからーーーーー!!」


「まあまあ、星宮さん落ち着いて……」


 興奮状態で叫ぶ星宮を落ち着かせようと声をかけている中、武はわれ関せずとさっさと闘技場を後にする。





 その頃早瀬はというと―――――


「あ~めんどくせ、一々相手にしてられっかよ」


 先生の話が終わると同時に、金髪ポニテに気付かれないように窓から飛び降りていた。

 ちょうど飛び降りていたとこでは普通科の生徒たちが、体育の授業でサッカーをしている最中だったらしく、2階から飛び降りてきた早瀬に驚いていた。

 もちろんそんなことは気にしない。

 すると闘技場からは早瀬の名前を叫ぶ声が聞こえてくる。 

 それが少し面白くて、微かに顔がゆるむ。


 金髪ポニテの声を聞き流し、校門から出ていく。


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