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明日の目覚めへ 後編

 ☆☆☆☆☆



「春彦」

 皿を洗う秋人は春彦を呼ぶ。

「ん?」

「この世界がもう少しで無くなる、って言ったら信じる?」

 突拍子もない、と春彦は思った。しかし、春彦の中で少し合点がいく感覚があった。

「無くなるの?」

「確証は無い。っていうか、なんつーの、うーん」

 秋人は顔を上げては下げてを繰り返している。

「本能的に、ってのが一番近いんだけど。世界の終わりが近づいているって気がする」

「……秋人、最近時間の進みが早く感じないか?」

「春彦も?」

 秋人は振り替える。ソファに座っていた春彦は、テレビを消して秋人の方を向いていた。

「ってことは、秋人もそう感じてたのか」

 人間の体感時間というものは、普通はいい加減なものだ。遅く感じることもあれば早く感じることもある。それでも少し話をしただけで昼から夜になるのは明らかにおかしい。それほどの密度があったとは思えない。

「でも、時間の進みだけで判断は」

「神様が、限界なのかも」

 秋人は言った。

「神様」

 春彦の頭に茉莉子の顔が浮かぶ。

「秋人、お前、茉莉子が神様みたいだって、知ってるのか?」

「今日の一瞬、天気が不安定になったの、あれは茉莉子の仕業だろ? でも」

 秋人は言い淀む。

「茉莉子は神じゃないんだ」

「じゃあ、蘭子が」

 秋人は頷く。

「茉莉子って、一体何者なんだ」

 春彦は呟いた。秋人は「え?」と聞き返したが、春彦は答えない。

 神というものは存在しない。そう春彦は思っていた。いや、都合の良いときに頼るばかりで、普段はそんなもんはいない、と思っていた。

 しかし今日見た茉莉子の力。あれは科学的なトリックではない、摩訶不思議な力だった。

 そして茉莉子は神ではなく、蘭子の方が神だと秋人は言う。

「………………ふぁぁ、なんかもー、めんどくさ」

 考えても分からない。

 春彦は立ち上がる。今日はもう寝ることにした。

「だな。春彦」

「なんだよ、俺は寝るんだ」

「あたしは味方だ。助けが欲しかったら呼んでくれ、必ず駆けつける」

「頼りになるな、秋人は。おやすみ」

「おやすみなさい」

 秋人は微笑み、言った。優しい妹の顔だった。



 ☆☆☆☆☆



 翌日の昼休み。

 春彦は秋人お手製の弁当、金髪は日の丸弁当を食べていた。優は奈々枝と一緒にどこかへ行ってしまった。

「うーん」

 唐突に金髪が唸る。

「どうした」

 春彦は卵焼きを口に運ぶ。いつも通り、味はしない。

「委員長はさー、奈々枝だろ。お前は茉莉子。次は俺だよな」

「は?」

「彼女ができるのだよ」

「別に俺は茉莉子と付き合ってる訳じゃないぞ?」

「クレープ一緒に食ってたろ」

「見てたのかよ」

「羨ましくなって泣いて帰ったよ。で、話は戻すけどさ、次は俺だよなぁ」

「どうだろう」

「俺なんだよ。きっと、たぶん、恐らく。でなきゃ世界がおかしい」

「お前の中でこの世界は一体どうなっているんだ」

「いいじゃんよー、夢見たって。できるなら優しいくてかわいい子がいいなぁ、胸のサイズとか身長とかよりやっぱ居心地、性格だと思うわ」

「ブスでもいいのか?」

 春彦は冗談のつもりで言った。

「お前、なんか吹っ切れてると言うか、怖いもの無くなったのか?」

 金髪はキョトンとした顔で言った。確かに今の春彦に怖いものは無い。よしんばクラスから総スカン食らおうと、ループすれば元に戻る。

「ブスねー。うーん、ありだと思う」

「マジで」

 金髪は頷く。

「結局、俺がこいつと一緒にいると居心地がいい、って人が良いわけだからさ、別に美人だろうがブスだろうが関係ないって」

「お前それ一生言えるの?」

「言ったからには一生言い続けるぜ。男に二言は無い、ってのを実践するぜ」

 金髪は歯を見せて笑う。春彦は金髪はすごい奴だと思う。彼はきっと、馬鹿正直に今言ったことを守り通すだろう。

 馬鹿で正直な彼が、春彦には羨ましかった。



 放課後、今日は山の方へ来ていた。学校から上り坂を上って、最初のY字路を右に曲がって歩いていけば山へ入る。

 特に寄り道をせずそのまま鋪装された道を真っ直ぐ歩いていけば一周して戻ってくる。ちょっとしたウォーキングコースになる。

 山に入ってすぐの分かれ道には看板もあって、お散歩コースなる道順が描かれている。

「こんなとこに来たかったのか」

「街を一望できるのは、学校の屋上だけじゃないんだよ」

 山の中は静かだ。風の音、木の枝が揺れ、葉っぱが擦れサラサラと音を立てる。鳥の囀ずりは、心なしか小さく少ない。

 黙々と歩く茉莉子は、そんな山の音を聴いている。

 ただ真っ直ぐ道なりに歩いて、春彦の体感ではそろそろ半分に達したかと思う頃、道の外れに木で作られた階段が目に入る。先は森が深く薄暗い。

 茉莉子はその階段を上っていく。

「さぁ、もう少しだよ」

 その階段は結構長い。階段としてのバランスも悪い。足場が短かったり長かったり。注意していないと踏み外しそうだ。

 茉莉子はトントントン、と軽やかに上っていく。

「早く早くっ」



 上り終え、春彦は近くの木に背を預けた。

 相変わらず静かな森。ふと上を見上げれば深い木の枝と葉っぱの層が空を隠している。お陰で薄暗いが、枝と葉っぱの層の合間合間から日の光が差している。それはまるで道しるべのように、階段の所々を照らしている。残念ながら、春彦の今いる所は照らされていない。

「ふぅ」

 春彦は息をついた。額にうっすらと汗をかいている。

 一体何段上ったのだろう。今上ってきた階段を見れば、一番下までかなり遠い。めちゃくちゃ長い神社の石階段と言えば想像がつくだろうか。

「春彦、もう少し」

 茉莉子の顔にもうっすら汗が滲んでいる。少し呼吸も荒いようだ。

「ホントにもう少しなんだろうな」

「うん、ほら、空が見える」

 茉莉子が指差す、さっきよりは短い階段。その先は開けているようで、空がはっきりと見える。

「あと少し、か」

 春彦は改めて、階段を上り始める。茉莉子は相変わらず、トントントン、と軽やかに上っていく。



 トンネルを抜けて一気に開放的な気持ちになる。春彦はそういう気分になる。

 近くは天星川高等学校、遠くは急な山の麓の駅まで見渡せる。春彦の住む安木町やすらぎちょうは、日本国内でも非常に小さく、かつ山に囲まれている神野県こうのけんの中で更に山で囲まれている。二重丸の中心。

 隣町に行くには電車か、車でないと大変だ。

 まるでジオラマか箱庭の街、と呼ばれていた。春彦は思い出す。

「全部見えるの、ここは」

「確かに、双眼鏡でもあれば何でも見えそうだな」

「干してある下着でも見るの?」

 茉莉子はくすくすと笑う。

「どーしてそーいう発想になるんだ?」

「私の家に干してあるよ、わざと。見る?」

 茉莉子はスッとコンパクトな双眼鏡を取り出す。

「いやいらんから。誰にでも見せたいのかよ」

「見て欲しくないに決まってるじゃん」

「つか、外に干すなよそーゆーの」

「だってー」

 茉莉子はそこで会話を切った。そのまま遠く、景色を見る。春彦も同じように、景色に目をやる。

「ここが見たかったのか」

 春彦が聞くが、茉莉子は答えない。

 ピュウと風が吹く。茉莉子のもみあげが揺れる。表情は、憂いを帯びている。

「ねぇ」

 おもむろに茉莉子は話し始める。

「私たちが住むこの街ってさ、色々な不思議があるんだ。例えば絶縁トンネル。通った人とこの街との縁が切れるって言われてるトンネルね。それから、今立ってるここ」

 茉莉子は自由に揺れ動くもみあげの片方を押さえる。

「ここで探し人を強く思って大声で叫べば、探し人に声が届くって言われてるの」

「……」

「誰かが春彦を起こしてくれたから、奈々枝は助かったんだよ」

 奈々枝の話を聞いてあげるはずが、つい居眠りをしてしまったときだ。誰か、聞き覚えのある声を聞いて、春彦は目を覚まし、奈々枝の自殺を阻止できた。

 誰の声だったか、春彦は思い出せていない。声を聞いた、という事だけしか思い出せない。

「茉莉子が叫んでくれたのか?」

 茉莉子は答えない。

「…………茉莉子……茉莉子はさ、ループを終わらせたいんじゃないか?」

「どうしてそう思うの?」

 茉莉子は突然、ギロリと春彦をにらむ。蘭子にすりかわった。

「終わらせない絶対。私は春彦と一緒にいつまでもこのループにいるのよ」

「お前、またそれを言うだけか」

「何度でも言うわ。私は春彦を逃がさない」

「逃がさない、って言われたら逃げ出したくなるんだ」

「…………まぁ」

 ふっ、と茉莉子は笑う。元に戻った。

「ともかく降りようか」

 茉莉子は身を翻し、階段を下りていく。



 お散歩コースを通って、山を出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。

「家まで送ってくよ」

「じゃあ、手を繋ごう」

 茉莉子は手を差し出す。春彦はその手を握った。小さく、柔らかな手。

「春彦の手は少し固いね」

「茉莉子の手は柔いな」

 しん、と静まり返った道。学校の前を通り、下り坂を下っていく。車の通りも人の通りも無く、風の音以外は静かだ。

「明日」

 茉莉子は言う。

「明日、真鏡湖まことかがみのみずうみに行こう。そしたら、私の行きたいところはおしまい」

「真鏡湖……」

 どんなところだったか、思い出せなくて春彦はピンとこない。

「電車で一駅の小さな湖だよ。夏にはひまわりが沢山咲いて、とても綺麗なところ。湖が本当に綺麗で、幻想的」

「……そこも、俺に何か関係があるのか?」

「そうでもある。けど何より、私が春彦と行きたいの」

 茉莉子は笑う。ずっと計画していたデートの前日、そんなワクワクした気持ちが伝わってくる。

 そして、目的地は春彦に関係があると言う。一体どう関係があるのか。

「着いたよ」

 ぐい、と引っ張られ、春彦は足を止めた。

 住宅街の一軒家。二階建ての普通の民家だ。

「じゃあ、また明日ね」

「おう、またな」

 短い挨拶だけを交わして、茉莉子は帰っていった。

 春彦はそのまま帰路に着いた。



 家では秋人がチャーハンを作って待っていた。テーブルに置かれた二皿のチャーハンは冷めている。

「遅くなるなら連絡くらいしろ」

「ごめん」

「全く」

 秋人は律儀に自分の分にも手をつけていない。

 春彦が帰ってきてようやく一口目を食べ始めた。

「明日さ、真鏡湖に行くんだ。だからまた遅くなる」

 春彦は席についてチャーハンを食べ始める。

「えっ」

 秋人はチャーハンを掬う手を止める。目を見開き、驚いている。

「いただきます……どうした?」

「……それは、初めてだ」

「いままでで?」

「ああ。でも、なんで真鏡湖なんだ?」

「茉莉子が行きたいんだって」

「…………一体あいつは何を考えてるんだ?」

「分かんねーよ、そんなの」

 普段から人が何を考えているのか、なんて分からない。茉莉子の場合は特に分からない。その表情から辛うじて読み取れなくは無いが、それが演技の可能性だってある。

 しかしそこまで疑う意味もまた無い。楽しそうなら楽しそう。そう思うしかない。

「秋人は茉莉子が嫌いなのか?」

「嫌いってのとは違う。それにあたしは蘭子の方が気にくわない」

「蘭子の事知ってるのか、どうして?」

「あたしは、蘭子みたいに自棄になって何もかも壊しかねない奴は好かないんだよ」

「ずいぶんよく知ってるんだな」

「まぁね」

 自棄になって何もかも壊しかねない。その一言が出る秋人は、一体蘭子とどういう関係なのだろう。春彦は疑問に思う。

「ところでさ」

 しかし秋人の様子から、おそらく聞いても答えないだろうと春彦は思い、話題を変えることにした。

「真鏡湖って、どんなとこだっけ?」

「今の時期だと何も無い。せいぜい湖が変わらず綺麗なだけ、夏ならひまわり畑が満開になるけど。春と秋と冬は何にもないところだよ」

「そんなに湖が綺麗なんだっけ?」

「淀みは一切無く、汚れず、非常に純粋な湖。まるで鏡のような水面で、その鏡には真実が映る、って伝説がある。で真鏡湖ってわけ」

「真実、って?」

「幽霊に憑かれてりゃ幽霊が映り、嘘を吐いていればいやらしく笑う自分の顔が映る。それから好き合う男女が一緒に覗けば良縁かどうかが分かる」

「詳しいな」

「まぁね」

 秋人はふふん、と得意気な顔でもするかと春彦は思ったが、実際は無表情で淡々としていた。

「ということは、茉莉子は相性占いをするために行きたがってたのか」

「良縁だといいなっ」

 秋人は拗ねたように皮肉っぽく言った。

 やはり春彦には、その拗ねた表情に見覚えがあった。だがまぁ、ずっと一緒に暮らしていたのだから何度か見ていても不思議ではないな、と至ってのんきに解釈した。

 血の繋がりも家族の繋がりもないと秋人自身が言っていたが、実際彼女と暮らしていたのは間違いなく事実だ。

 訳が分からなくなった春彦の頭は、都合よく、義理の妹として彼女を扱うことにしたのだ。



 ☆☆☆☆☆



 翌日、学校。登校し、下駄箱で靴を履き替えるところから異変があった。

 下駄箱に「殺す」と書かれた紙が入っていたのだ。

 そして、どこか皆の態度がよそよそしい。

 教室に入れば次なる異変が待っていた。

「…………」

 机の椅子が無くなっていた。後ろの席の金髪は険しい顔をしていた。

「よう、俺の席は?」

「春彦、ちょっと」

 金髪は春彦の肩を叩いて、着いてくるように促す。春彦は鞄を机に置いていこうとする。

「それも持って」

 金髪は言い、春彦はそれに従って、鞄を持ったまま金髪に着いていく。



 校舎裏にそれはあった。

 骨組みが歪み、木が割れ、その木には様々な文字が書かれている。

「これ、俺の椅子か」

「ごめん。俺が気付いたときにはもうこうなってて」

「どうしてこうなったんだ」

「たぶん、隣のクラスの公原きみはらがやったんだ」

「公原?」

 春彦には一人思い当たる人物が居た。春彦に茉莉子と付き合うなと警告してきた女子だ。

「あいつ、茉莉子を一目見たときから目の敵にしてるんだ。髪型と態度がキモいからってだけの理由で」

「それで、なんで俺の椅子が?」

「警告かもな」

 不意に優が会話に入ってくる。来たばかりなのだろう、鞄を持っている。

「茉莉子と仲良くする奴に席は無い。と」

「隣のクラスだろ。関係ないじゃんか」

「いずれにせよ、許されない。春彦本人にはいじめであり、学校側としては備品を壊されたのだからな」

「犯人は分かってるんだ、やめさせよう!」

 金髪は怒っている。

「無駄だよ」

 にゅ、と春彦の横から茉莉子が顔を出す。

「なら、先生に報告しよう。生徒指導の渕山先生に報告すれば」

「頼りになる先生だよね。だけど、無駄だよ」

「無駄、って?」

 金髪は腕を組み、聞く。茉莉子は苦笑した。

「今日、私は死ぬ。春彦は暴行を受けて大ケガする。そしてループする」

 金髪と優には突拍子もない話だ。

「未来を変えよう。そうでないと私は春彦と真鏡湖に行けない」

「未来を変える……君は未来が見えるのか?」

 優はにわかには信じがたい、という表情だ。

「見える、というより知ってる。うん、君達に分かりやすく言うなら、そういう予知夢を今日見たの。で、今日春彦と電車で真鏡湖に行く予定だったんだけど、その駅で私達は酷い目に会う。なーんて嫌な夢を見たから怖いの。助けてー、って話」

「「…………」」

 優と金髪は互いに顔を見合わせる。そして頷き会う。

「どうすればいい。どうしたら未来を変えられる?」

「駅の改札口で襲われるの」

「おっけー、だったら皆で行こう」

「いや、心配するな。俺がなんとかしよう」

 優は自分の胸を叩く。

「じゃあ、優が何とかならなかったら俺が何とかするぜ」

 金髪は歯を見せて笑う。

「二人とも、ありがとう」

「友達が怪我する、ってのに何もしないわけに行くか。やらない後悔よりやる後悔、だ」

 優からその言葉を聞くのは二度目だった。

「ま、気にすんなって。なんとかなるって」

「ともかく、椅子をなんとかしよう」

 それから職員室に行って事情を話し、新しい椅子を都合してもらうことになった。それまではパイプ椅子を使うことになった。

 ただ、公原の名前は出さなかった。茉莉子の言う通りなら出したところで、先生達に信じてもらえなければ、何かしらの対処も期待できないからだ。


 

 ☆☆☆☆☆



 放課後、まず優が先に別行動することになり、金髪と春彦と茉莉子で駅に来ていた。金髪は先に改札の向こうで待機している。

 春彦と茉莉子は券売機で乗車券を買う。

「そろそろか?」

「改札に入ると、すぐに襲ってくるよ。気をつけて」

 珍しく、茉莉子は真剣な面持ちだ。当然だが、春彦にはそんな表情が新鮮だった。

 券売機に硬貨を入れ、一駅分の金額の乗車券を二枚買う。出てきた二枚の券を手に、二人は改札へと向かう。

「何が襲ってくるんだ?」

「何だろうね」

「分からない?」

「知る前に殺されちゃってねぇ」

 いよいよ改札を通る。切符を通しながら、春彦は辺りを見渡す。よく見れば、妙に二、三人で固まっているグループが多く見られる。

「あいつらだ」

 ふと、どこからか聞こえて春彦は改札を抜けた茉莉子の手を乱暴に掴み、走り出す。

 グループは一斉に動き始めた。全員がマスクをしており、中にはキャップを被る者や、手に金属バットを持つ者もいる。

 春彦は一目散にホームへと向かう。すると、ホームへの階段から数人の男が駆け上がってくる。春彦はとっさに茉莉子から手を離し身構えたが、男達は春彦の横をすり抜けていく。

「警察だ!」

 その一言を背に春彦と茉莉子は階段を下りる。手はさっき身構えたときに離したままだ。

 丁度、電車が来たところだった。ホームの中は人はまばらだが、ザワザワと騒がしい。上はもっと騒々しい。

 電車に乗ろうとし、ふと後ろの茉莉子の様子を見ようと春彦は振り替える。茉莉子の後ろにはバットを持った男がすでに振り上げていた。

「茉莉子!」

「させるか!」

 どこからか現れた金髪はバットを持った男に飛びかかる。

「行けよっ!」

 金髪は男と揉み合いになる。春彦は茉莉子と一緒に電車に乗り込み、ドアの閉ボタンを押した。ドアが閉まり、その向こうで、金髪とバットを持った男との戦いを見守った。

 男は黒いマスクを着けた大柄の男だ。バットを大きく振るうが、金髪はスレスレでそれを避ける。金髪はあくまでも逃げに徹するつもりだ。隙を見て、上に逃げてくれれば警察に保護してもらえるだろう。あるいは誰かが上の警察に知らせてくれれば。

 どちらにせよ、春彦には金髪の無事を祈るしかなかった。

 やがて電車は定刻通りに発進する。

「…………」

「無事だよ」

「……だよな。絶対無事だ」

 電車は揺れる。

『――この電車はぁ、上り快速ぅ、高志野行きです』

「……快速?」

 春彦は耳を疑った。

「…………」

 茉莉子はやっぱりね、という顔をしている。

「ま、まぁ、高志野から一駅戻れば」

「そうだね」

 茉莉子は浮かない顔で言った。

「ねぇ」

 やがて、春彦との距離を縮めて寄り添い言う。

「ここまでは、予定通りなんだ」

「予定?」

「私は次の、高志野駅で殺される。春彦もボコボコにされる」

「……」

 そうはならない、俺が守るし、ボコられない。と言えればかっこいいのだ。

 喉まででかかった言葉を、春彦は言えない。自信が無い。


 助けが欲しかったら呼んでくれ、必ず駆けつける。


 秋人の言葉だ。春彦は携帯を取り出す。しかし電波は圏外だった。

 そうだ、秋人を呼んでいなかった。しまった、と春彦は思った。

 秋人は頼れる弟。ずっとそう思っていた。しかしそれは嘘で、頼れる弟というのも、刷り込まれた記憶だとしたら。そもそも、秋人の存在事態が嘘だとしたら。

 いいやそれよりなにより、弟ではなく女の子だった。妹だった。危険に巻き込まなくてよかった、そう思うのが兄だろう。春彦はそう自己完結する。

『まもなくぅ、高志野ぉ、高志野ぉ。車内にぃお忘れ物の無いよう、ご注意ください』

「もうすぐ、高志野だよ。 ……春彦」

「ん」

 茉莉子は春彦に抱きつき、目の端に涙を浮かべ、無理して笑う。

「また、私を選んでね」

「……行くんだろ真鏡湖」

「うん」

 電車の速度が落ちる。



 二人は電車を下りる。

 上り電車が発車するのをホームの柱に背を預けて見送り、下りの電車を待つ。

 するとカチャ、と何かが春彦の足元に落ちる。サングラスだ。春彦はそれを拾い、顔を上げる。目の前には拳を振り上げる男が。

 避けられない、助けて。咄嗟にそう思うばかりで、体が動かない。

 秋人。春彦は声を出さずに口だけを動かし言った。

 グイ、と突然男は膝から崩れ、後ろに倒れる。

 男の後ろには少女が。少女は男の頭を思いっきり蹴飛ばすと、男は気絶した。

 ゾロゾロと三人集まってくる。いずれも柄が悪く、マスクとキャップを着用している。

「春彦、線路を行くんだ。そうすれば行ける」

 少女、秋人は春彦に背を向けて男達に立ち向かう。

「秋人!」

「頼れる弟、ってのを証明してやる。いいから行った行った」

 秋人は春彦の方を見ず、シッシッと手を振る。

「なんだ、てめぇ」

「邪魔、っつーか、かっこつけてさぁ」

「オンナノコ虐めんの、趣味じゃねーんだけど? オトコボコらせてくれたら君らはちゃんと良い思いさせてやるけど?」

 男達はチンピラだった。

「馬鹿だな」

 秋人はフッ、と嘲笑う。

「んだと」

「オンナノコとか、オトコとか関係ないだろ。あたしは春彦を守るんだ」

「秋人すまん!」

「はいはい」

 春彦は茉莉子の手を引いて、線路に降りて、走る。

「待ちやがれ!」

「てめぇが、な!」

 春彦と茉莉子を追おうとしたチンピラに飛び蹴りをかます。

 襲いかかる他の二人を上手く捌きつつ、挑発的な一撃を入れ、相手を怒らせる。行動が単調になってくる頃にはもう春彦と茉莉子は、線路の先、トンネルに入っていた。

 秋人はふぅ、と息を吐く。辺りはとても静かだ。

 車の音も、人のざわめきも、チンピラの声も、アナウンスもない。風もない。

 人の姿形一つ無い。

「まったく……石投げたり、起こしてやったり。ホント頼れる、弟、だな」

 秋人は自嘲する。




 ☆☆☆☆☆



 トンネルの中は薄暗い。等間隔でライトで照らされているとはいえ、薄暗いことに変わりはない。

「秋人……圭……無事かな」

「無事だよ」

「どうして言い切れる?」

 茉莉子は笑うばかりだ。

 しかしどのくらい歩いただろう。水滴の滴る音と自分達の足音以外に音はない。初めの内こそ電車が来るのではと警戒していたが、時が立つにつれ、警戒心は薄まっていった。今はもう、頭の片隅にしかない。

「まだかな」

「まだだよ」

 会話もいつしか、それだけになっていた。



 空気の振動。 

 わずかな振動。

 すっかり鈍感になっていた感覚が危機を知らせるとき。

 遅かった。目の前のカーブから電車がくる。

 春彦はハッとして、辺りを見渡し、隠れられる所を探した。ちょうど横に凹型の窪みがある。そこに逃げ込めば。

「春彦!!」

 茉莉子は春彦を突き飛ばした。

「まりっ――」

 照らされる茉莉子はいつものように笑っている。

 春彦は咄嗟に、茉莉子の手を掴み、ありったけの力で引いた。



 ☆☆☆☆☆



 春彦は線路の上で、体に乗る小さな体を抱き締めていた。

 息を切らしたまま、ただただ抱き締める。心臓の鼓動は、お互いに早い。

「…………あはは、痛い」

「無事、か」

「うん、無事です」

 茉莉子はブイサインを作り、春彦の目の前に差し出す。

「立てるか」

 抱き締める腕を離す。

「うん」

 茉莉子はスッと、立ち上がり目を細めて笑う。

「ありがとう」

 短い言葉だったが、最大の感謝だった。

「春彦こそ、立てる?」

「ああ…………ちょっと、手を貸し……茉莉子」

 茉莉子にこっちに来るように促すと、茉莉子も気づいたようで、春彦共々凹の中に避難する。できるだけ奥に詰めて待つ。

 ガガン、ガガン。すぐに電車が通った。目の前を通る電車は、普段の便利な交通手段ではなく、高速で駆け抜ける巨大な凶器。人を運ぶ殺人箱。春彦はそんなことを考えて背筋が寒くなる。

 やがて電車が通りすぎ、春彦は茉莉子の手を借りて立ち上がる。少しだけ足がふらつく。

「もうすぐだよ。そこのカーブを曲がって真っ直ぐ」

「もう電車は来ないよな」

 春彦が確認するように言うと、茉莉子はくすりと笑って答えた。

「来ないよ」

 春彦がちゃんと歩けるようになるまで、手を繋いで歩いた。

 カーブを曲がると、出口が見えた。



 ☆☆☆☆☆



 ボリビアの小さな町ウユニ、そこの観光地としてウユニ塩原という場所がある。そこは広大な塩の平原で、高低差が非常に少なく、雨季に雨で冠水すると水が波も立たない程に薄くなり、水が蒸発するまでのわずかな期間、「天空の鏡」が現れる。空を映す広大な天然の鏡。



 茉莉子はトンネルを抜けるまでの短い時間、ウユニ塩原の話を春彦にしていた。

「私、いつか行ってみたいんだよね」

 そう締め括った。

 トンネルを抜けると、眩しい日差しが目に差し込む。春彦は思わず腕で日除けを作る。

 やがて目が慣れて腕を下ろす。

「ここが、真鏡湖……」

 何もない所。まず始めに春彦が持った印象だ。

「切り立った崖の底。太陽が真上に来る時間だけ、日が当たる」

 今の時間は。春彦は携帯を取り出した。しかし、画面が消えていた。電源ボタンを長押ししても点くことはない。

「さぁ、行こう」

 茉莉子は春彦の手を引く。

 まるで天然のコンサートホールのようだ。舞台が湖で、今は何もないひまわり畑が観客席。そして太陽スポットライトが湖を照らす。湖には太陽と、青く抜けるような青空が映っていた。

 寂れた駅に着いた。線路からホームに上がり、誰もいない改札を抜ける。誰もいないこともだが、春彦はもう一つ、違和感があった。

「なんにも音がしない」

「そうだね」

 鳥が囀ずる音も、風の音も、草木が揺れる音も。足音と声だけがあって、他の音は無い。

 駅を出て、階段を降りる。真っ直ぐ湖まで延びた坂道を下っていく。

「ひまわり畑なんだってな」

「そうだよ。夏には満開。ただ、本当に一瞬しか咲かないんだ」

「……ループ抜けたら是非来たいな」

「私はいないけどね」

 茉莉子は諦めたように言った。

「ループしたこの世界なんて、つまらないじゃないか」

「けど私は神だからね。神様は世界を見捨てちゃダメなんだよ」

「……」

「私個人としては、こうして来れただけでも嬉しいよ。綺麗だよね」

「ああ、本当に」

 湖の前で止まる。波も立たぬ湖は現実味が無い。

「さぁ、覗き込んで」

「水面を?」

「そう。閻魔様は死者の現世での善行悪行を見るため、浄玻璃鏡じょうはりのかがみを使う。この真鏡湖がそうじゃないか、って話もある」

「俺の善行と悪行を映すのかよ。やっぱやめる」

「記憶を映し出すんだよ。真実の記憶をね」

「…………」

 春彦は怪訝な顔を隠せない。

「神様が言うんだから、間違いはないよ」

 茉莉子は胸を張る。

 春彦は再び水面を見る。波一つ立っていない、本当に水があるのかと思わずしゃがみ、水面に触れようと手を伸ばす。

「触って良いのか?」

 伸ばした手を止めて茉莉子に問う。茉莉子はくすりと笑い言う。

「ただの水だから」

 スッ、と指先を水に入れる。そこで生まれた波紋が水面を伝っていく。冷んやりと冷たい、ただの水。指を抜いて少し待てば、また波一つ立たぬ現実味の無い湖に戻る。

「さ、覗いて。きちんと自分の記憶を見ようとしてね」

「……やってみるか」

 意を決し、とまで気負ってはいないが、春彦は水面を覗く。

 大体の人は毎朝一度は鏡を見るだろう。春彦はそれと同じだなと思う。目の前には無表情な自分の顔がある。自分の記憶を見る、とはどういう感じなのだろう、とふと考えた。とりあえず、違うよなと自嘲しながら、記憶が見たい、と願ってみた。しかし目の前の自分の顔が若干しかめただけだった。

 しかし、異変が起こり始めたのはそれから少し経ってからだった。水面が波打ち始める。

「…………はっ」

「春彦」

 茉莉子が春彦の肩を叩く。春彦は立ち上がる。

 水面には次々と、映像が映し出される。

 始まりは母の顔、生まれた直後からだ。

 順調に成長していき、幼稚園、小学校。小学二年の時だ、一人で遊ぶ少女に出会った。それから四年間の記憶は殆どがその子との記憶だ。

「師匠……」

 春彦が思わず呟くと隣の茉莉子は失笑する。

「師匠ねー」

「師匠だったんだよ、アイツは」

 六年生の夏休みに入る頃、少女は転校してしまった。

 それから中学はとても退屈な映像、同じ光景が延々と続き、面白味など無い。

 そして卒業式、特に何の感慨も無い卒業式を終え、少しの慌ただしさの後に高校生活へと場面を移す。

 一年目は中学時代のように普通だった。ようやく二年目に入る。

 始業式へ向かうため登校した春彦が、下駄箱で見つけた一通のピンク色のラブレター。「春彦くんへ」と書かれたラブレターに思わず挙動不振のままトイレに駆け込んだ。個室で慎重に封筒を開ける。文面の最後に、「舞島 蘭子より」と締められていた。

「やっぱり春彦だ。ヘタレ」

 茉莉子はくすくすと笑う。

「し、しょうがねーだろ」

 そして始業式を終え新しいクラスでのホームルームを終え、春彦はラブレターに書かれた場所へと向かう。

 体育館裏。すでに彼女は待っていた。背の中心まである黒い髪、赤い縁の眼鏡、身長は小さい。地味な子だった。

 ラブレターの主は緊張しているのだろう、お腹の前で指を絡め、顔は俯いたりチラと春彦を見たりとせわしない。やがて意を決したように頷き、言った。

『は、春彦君、私はあなたの事が――』

 その時、映像が大きく動く。突然背を向けて走りだし、体育館の影に隠れた。

「…………」

「やっちゃったんだね」

 少し気を落ち着けるように胸を撫で、戻る。しかしすでに誰もいなかった。

 辺りを探したり、校内を探すが、蘭子の姿はなかった。結局その日は帰ることにした。後はただいつも通りに夜まで過ごし、明日、謝ろうと思い、床に着いたのだった。

 そして、このループの出来事が始まる。

 奈々枝や金髪や優と楽しく話しているシーン。幸音と出会うシーン。茉莉子と屋上で昼食を食べるシーン。秋人とゲームで遊ぶシーン。幸音と下校するシーン。コンビニで奈々枝に会うシーン。

 茉莉子も幸音もいて奈々枝もいるお花見のシーン。金髪とタイムクラッシャーをやるシーン。優とタイムクラッシャーをやるシーン。一人でやるシーン。秋人とラーメン屋「縁」でラーメンを食べるシーン。


 次々と表示される映像、止まることなく映像は続く。


 茉莉子があのチンピラ共に捕まり、春彦が殴られるシーン。幸音が目の前で通り魔に殺されるシーン。首を吊る奈々枝のシーン。

 秋人に幸音と奈々枝が死んだことを告げられるシーン。そして秋人を殴るシーン。

 そして、学校の屋上でくすりと悪魔の笑みを浮かべる茉莉子を突き飛ばすシーン。

 秋人がふらつき、階段から落ちるシーン。

「…………っ!」

 春彦は息を飲み、膝が崩れる。

「俺は……なんてことを」

「いいんだよ、春彦」

 春彦の後ろから茉莉子が抱きつく。

 そして映像は最近の出来事を映し始めた。

 幸音の義兄から幸音を託されるシーン。幸音が死体を見てしまうシーン。男性を恐れる幸音。幸雄の頭に石が当たるシーン。優がやってくるシーン。優の秘密を聞くシーン。過労で入院していた弁護士の敦に話を聞きに行く話。幸音を抱き締めるシーン。そして幸音がふわりと笑って「さようなら」と言うシーン。

 暗い奈々枝が副委員長に選ばれるシーン。優がそんな奈々枝を気にかけているシーン。奈々枝と一緒に帰るシーン。奈々枝に自分は被害妄想が強いと告白されるシーン。奈々枝と携帯のアドレスと番号を交換するシーン。奈々枝の家で過ごすシーン。そして奈々枝の自殺を阻止したシーン。奈々枝を連れて学校へ行くシーン。古海や新原と親しく話すシーン。そして明るさを取り戻した奈々枝に茉莉子を助けてあげてと言われたシーン。



 そしてここに来るまでの映像が流れ、映像はゆっくりと消えていった。水面が穏やかになる。

「…………」

 頭の中の霧は晴れた。今ならば思い出せる。

「さて」

 茉莉子は春彦を抱く手を離し、立ち上がる。

「これが私の目的だったんだよ。春彦の記憶を「統合」するために」

「とう……ごう?」

 記憶を戻す、ではなかった。春彦は振り返り、茉莉子を見上げる。優しく微笑む茉莉子は小さく頷いた。

「ほんの四週前から、春彦は居たんだよ。それより前の春彦は、春彦であって春彦じゃない。誰か他人がイメージする春彦だった。けれど、何周もしている内にそのイメージが劣化して、像を保つのが難しくなってきた。だから、私が本物を引っ張ってきたんだよ」

 春彦は茉莉子が言っている事の意味がわからない。

「誰がイメージしてたか、そしてここが誰の世界か。春彦、だーれだ?」

 答えは頭のなかに、一つしかなかった。

 現実の昨日、登校時間、春彦は下駄箱で一通の手紙を見つけた。その手紙はラブレター。男子トイレの個室で見たそのラブレターの送り主。

「舞島……蘭子」

 春彦はハッとする。駅と湖までの坂道、その丁度真ん中に一人の少女が立っていた。昨日、体育館裏で待っていた時のように、立っていた。ただその表情はあの時とは違う。

「なに、これ…………!?」

 蘭子は愕然とし、一歩下がる。

「春彦、紹介してあげるよ。あの子は舞島まいしま 蘭子らんこ、春彦に告白した女の子で、この世界の創造主だよ」

 春彦は立ち上がり、茉莉子と蘭子を交互に見る。

「募りすぎた思いは妄想を、妄想はやがて世界を生んだ。人間だけが持つ世界すら構築する想像力。この世界は蘭子が自分の分身と春彦が付き合うのをシミュレートし、春彦への想いを発散する場所だった」

 茉莉子は身を翻し、蘭子と向き合う。

「私は妄想日記。あなたの作った妄想世界」

「…………」

 蘭子は口を紡ぐ。そして顔を覆った。

「蘭子」

「ぅるさぃ」

 一瞬、聞こえた声、春彦は「えっ」と聞き返す。

「うるさい、うるさい! 日記が、私を否定するの!?」

「否定じゃないよ。ここでやめて終わりにして。もうページは無い。これ以上続ければ春彦をここに永遠に閉じ込めることになる。そして、あなたは? 奈々枝のように絶望して死ぬつもりでしょう」

「妄想日記? ページ? 何のことなんだよっ?」

「もうすぐページが尽きる。世界をそれ以上創造できなくなるの。春彦だけが生きていて、永久に四月一日からの時間を繰り返す。そして展開は私、妄想日記に書かれている事だけしか起こらない。まさにゲームの世界。エンディングの存在しない、終わらないゲームの世界」

「夢、そう夢っ! 覚めろ、覚めろ!!」

 蘭子は首を乱暴に振り。髪を頬を、手をつねる。

「ごめんね春彦。私の方が残酷なことしちゃった」

「…………?」

 ただただ、着いていけず怪訝な顔をするばかりの春彦。

「蘭子の世界を維持するために、寝てる春彦の意識を連れてきちゃったんだ」

「どうやって」

「これは夢なんだよ。だけど、他人の夢に入っているから春彦の意思じゃ目が覚められない」

「蘭子が目覚めないと」

「そう。それでね――」

 そこで茉莉子は言うのをやめた。顔色が蒼白になる。

 バッ、と振り返り蘭子を見た。


 ビリッ。


 紙が破ける音。蘭子の手には一冊のノートが握られていた。

「蘭子……!」

 蘭子は虚ろな目で、ノートを破く。

「…………っく、あっ」

 茉莉子は悲痛の声を上げて崩れる。

「茉莉子!」

「こんな世界……私を裏切る世界なんか……滅んでしまえ」

 蘭子はノートを破る。

「やめるんだ! 自分の作った世界だろ!?」

「うるさい、私の気持ちを裏切ったくせに!」

「裏切った…………!?」

 春彦はハッとし、気づいた。しかし気づいたのと同時に、蘭子はノートを真っ二つに割った。

「……ぁぁああああああああぁああああ!!」

 茉莉子が悲鳴をあげた。


 そして。


「……ごめんね」

 茉莉子はそう呟いた。



 ☆☆☆☆☆



 春彦は頬を撫でる風で目を覚ます。

「まり、こ」

 目の前には遠くを見る茉莉子の顔。学校の屋上で、春彦は茉莉子に膝枕してもらっていた。

「失敗しちゃったな」

「失敗?」

 春彦は起き上がろうとするが、茉莉子は春彦の胸に手を置いた。

「うん、春彦の記憶を戻して、あの場で謝らせようと思ったんだけど」

「先に破られたってわけか」

「そう。おかげで、私はもう消えちゃう」

「消える」

「いつか言ってたよね、私の思いはどうなのかって」

 茉莉子は優しく微笑んだ顔を春彦に向ける。

「ああ」

 そんなこともあったな、と呟くと茉莉子は、忘れてたでしょ、と笑った。

「春彦が好きだよ。蘭子の分身ではなく妄想日記の設定ではなく、茉莉子として好き。あんなだけど、蘭子も……私は好きだな。だから、蘭子の事好きになってあげて欲しい」

「……その前に謝らないと」

「そうだね。 ……もう一度、あの子は世界を創るよ。今度はね、心中するために」

「なんだって……」

「この世界と心中する気だよ」

「次の世界で、蘭子が心中するまえに俺がここから抜け出さないと、俺も巻き込まれるわけか」

「ちょっと」

 茉莉子は珍しく怒ったように眉をつり上げる。

「蘭子を見つけるの。そして謝りなさい。 ……どうしてそう、逃げるかなぁ」

「…………ごめん」

「意気地無し」

「ごめん」

 茉莉子は人差し指で春彦のおでこを突っつく。

「もう逃げないでね」

「うん」

「良し」

 茉莉子は春彦の頭を撫でた。

「次の世界ができるまで少しかかるよ。だから、秋人に会っておいで」

「秋人……」

「彼女はね、漂っていたの。生死の境ってところに」

「なんだって!?」

「この世界を構成する為に、生死の境をさ迷っていた秋人をここに取り込んだんだ。そしたら春彦の事知ってるでしょ? 驚いちゃったな」

「秋人は、何か病気か何かなのか?」

「本人に聞けばいいよ」

 春彦は起き上がり、出入り口のドアに手をかける。

「茉莉子も行こう」

「私は動けないから」

「何で」

「いいから行って。秋人とお話してきなさい。水入らずでね」

「…………わかった。消えるなよ」

 春彦はドアノブに手をかけて回す。重いドアを開けてくぐると、そこは。



 ☆☆☆☆☆



 春彦はハッとする。

 あれ、ここで何をしていたんだろう。

 夏の蒸し暑い昼下がり。公園の南口前。ちょっとした広場の真ん中には噴水がある。その噴水を見上げる子供。オレンジ色のTシャツにクリーム色の半ズボン、そして紺色のキャップ。短髪で、肌は薄く小麦色。

「秋人ちゃん」

 春彦がその子に声をかけると同時に、春彦はここに来た理由、目的を思い出す。

 今は学校の後で、秋人ちゃんと遊ぶんだ。昨日や一昨日や去年や一昨年、出会った次の日からのように、今日も遊ぶんだ。

「遅いっ! 時間無くなっちゃったじゃん!」

 振り返った秋人は頬を膨らませ、怒っていた。

「まだあるよ」

「ちょっとでも無くなるのがヤだったの! だって――」

 秋人の目の端から一粒、零れる。

「あたし、明日にはいないんだよっ! 本当に分かってんの、春彦!?」

「わかってるよ。だからいつも通りに来たんじゃないか。泣くなよ」

「泣いてない!」

「なにしよっか」

「最強動物ごっこ!」

 秋人は両手をチョキにし、ハサミを作る。

「ええっ、ヤだよ! 秋人ちゃんのカニバサミ痛いんだもん!」

「うるさいっ、カニは最強なんだよ! ライオンもワニもコモドドラゴンも目じゃないんだ!」

 最強動物ごっこ、とは名ばかりの八つ当たりだった。



 かくれんぼ。鬼ごっこ。近くの空き家街を探索。駄菓子屋でメンコを借りて勝負、秋人の勝ち。

 時間は瞬く間に過ぎていく。昨日はもっと長かった気がする。何度か嫌々遊んでいた気がする。時計を見たくない。傾く日を見ていたくない。秋人は時間が近づくにつれ、焦っていった。

「次は……次は……なにしよう」

 次の遊びを考えよう、実行しよう。そうすればこの焦りも消えるはずだ。遊んでいる間は。

「ねぇ」

 春彦は棒付きアイスを二つ買って戻ってきた。

「アイス食べようよ」

「…………うん」

 秋人はアイスを受け取った。

 駄菓子屋の隣には小さな駐車場がある。そこには少し古ぼけたベンチがある。春彦と秋人はそのベンチに腰かけて棒付きアイスを食べる。

 空は夕焼け。時計は持っていないが、もうすぐ帰る時間になってしまうのは春彦にも分かる。

「春彦」

 秋人が沈黙を破った。

「あたし、転校しちゃうんだよ」

「うん」

「引っ越しちゃうんだよ」

「うん」

「…………絶縁トンネル、通るんだよ……?」

 安木町から隣の某県へ行くには、必ず通らねばならないトンネルがある。そのトンネルには、通った者とこの町とのえにしが切れてしまうという都市伝説がある。真実を確かめたものはいない。何故なら県外へ出た者達は皆、縁が切れて、ここに戻っては来ないのだから。

「もう二度と、帰ってこれないんだよ!」

 秋人はついに泣き出した。大粒の涙が零れる。

「秋人ちゃんって、そんなの信じるんだね。めーしんだよ」

 その都市伝説がただの迷信であることを春彦は望んでいる。だからその都市伝説を否定するように、存在しないと声に出して言うように、そう言った。

「めーしん……」

「よく知らないけど、嘘ってこと。嘘だよ絶対、俺は秋人ちゃんを忘れない。二年の時からだから、今六年で、四年。四年も一緒に遊んでてさ、どうして忘れるの?」

「…………そう、だね」

 秋人はようやく、まだ涙は止まってはいないが、笑う。

「俺、待ってるよ。いつか必ず秋人ちゃんは帰ってくるでしょ?」

「んっ、帰ってくる。高校は、神野の高校に行きたいって、ママとパパには話したことがあるんだ。そしたら、考えておくって」

 秋人は溶けて柔らかくなったアイスをシャク、シャクと一気に食べきる。春彦も真似た。頭にキーンと来るのは必然。

「っ…………ママとパパが考えてくれる時って、殆どOKって言ってるようなものなんだ。だから」

「帰ってこれるって……事だね」

 秋人は頭を押さえながら頷いた。



 お別れの場所。いつもそこだった。


 また明日。学校、遅刻すんなよ?

 秋人ちゃんこそ。


 そんな会話を幾度となくした。喧嘩した時でさえ、ここで別れて帰った。

 今日、最後だ。

「じゃあね、秋人ちゃん」

「…………泣いては、くれないんだ」

「泣かないって、決めたんだ。今日だけは泣かないって。いつも通りに「じゃあね」って言えば、また会える気がして」

「春彦も、実は信じてるんでしょ、絶縁トンネル」

「……うん、ホントはね、秋人ちゃんを連れて帰りたいんだ。家で暮らそうよ、そしたら転校しなくて済むよって」

 秋人は、ハハハ、とどこか照れたように笑う。

「ホント、そうしたいなぁ。 ……四年前は、想像もしてなかったよ、お別れなんて」

「俺も」

「大人になるまでずっと一緒だと思ってた。これって恋なのかな」

「よくわかんない」

「あたしも」

 まだ春彦にも秋人にも、恋なのか友情なのか区別がつかない。ただあるのは「一緒にいたい」という、遊び相手を欲するような感情だ。

 単語で知っている「恋」。それはこれなのか。恋とは一緒にいたい、という事なのか。だとしたら遅い。もうそれが恋でも、叶わない。

「でも…………恋、だよ。たぶん」

「春彦と恋かぁ。想像できないや。一緒に山に行って虫取するんなら想像できるんだけど」

「それは俺も簡単に想像できるなぁ。秋人ちゃんがセミを捕まえて、俺はカブトムシを捕まえるんだ」

「逆だろー? あたしがカブトムシで、春彦はセミの脱け殻」

「ひでぇ」

「……でも、最後には二人ともカブトムシ捕まえて、帰りに離してやるんだ。思い出話をしながらここまで歩いて、ここで……」

 秋人はまた、鼻をすする。

「秋人ちゃん」

 春彦は秋人の手を握った。そして。

「東方のカニは!」

 声を張って、言った。秋人は目を丸くしたが、すぐに息を吸い込んで続いた。

「王者のカニよ!」

「全身!」

「痙攣!」

「「烈破蟹乱!」」

「見よ、蟹の甲羅は!」

「赤く燃えている!」

 某ロボット格闘技アニメを見た秋人が考えた、二人だけの掛け声。

 作った秋人本人はいたく気に入ってるが、春彦にはイマイチなこの掛け声。作った翌日に完璧に言えるようになるまで練習させられた。

「これを思い出せば、きっと忘れないよ」

「……春彦」

 秋人はくすりと笑う。

「ありがとう。 ……じゃあ、またね」

「うん。じゃあね」

 お互いに手を振って。また明日も会えるのではないかと錯覚してしまうほどに普通に、別れた。



 ☆☆☆☆☆



 歩き去る自分。その背を見ているとあの時の気持ちが甦ってくる。春彦は隣に人の気配を感じる。

「秋人」

「よう、春彦」

 あの時と同じくオレンジのTシャツに紺のキャップ、下だけは違って今はジーパンを履いている。

「秋人、絶縁トンネルは通ったのか?」

 春彦は一つ思い出していた。それは中学時代、宮城から引っ越してきたという転校生。もちろん絶縁トンネルを通ってきた。その彼はこの町へ来る以前の友達や親戚の事を忘れてしまっていた。都市伝説は本当だった。だとすれば秋人も、やはり忘れてしまったんだ。しばらくその事を引きずっていた。二年もすれば、完全に諦めてしまえたが。

「通ったよ。うん、キチンと神野での記憶は消えた。特にその時は怖くなかったよ。あれ、あたし神野でどんな生活してたっけ? うーん、思い出せない、きっとつまらなかったんだろうな、って感じだった」

「マジで記憶が飛んだのか」

「うん。だけど何の偶然か、また神野へ行くことになって、また絶縁トンネルを通ったんだ」

「そこで記憶を取り戻した、と」

「違う」

 秋人は否定だけをして、口を紡ぐ。

 どんな理由でもいい、秋人が思い出してくれてよかった。それで春彦は自己完結させ、別な話題をふる。

「茉莉子に聞いたんだけど、生死の境をさ迷ってたんだって?」

「暗くて、何にもないよ。って言いたいところだけど、実際分からなかった」

「……何があったんだ?」

「春彦、ニュースは?」

「ニュース……」

 ふと、一週間前に見たニュース番組を思い出す。バラエティ番組の途中で緊急ニュース速報のテロップが流れた。それで報じられていた内容は、トンネルの落盤事故の事だった。春彦はハッとする。

「……まさか!」

「あたしは落盤事故に巻き込まれた。まぁお陰でここに来れて、春彦にも会えた。そういう意味では良かったよ」

「待てよ、それじゃあ、この世界が無くなったら」

「その前に、あたしが先に消える。これは何となくそう思うんだ」

「そんなっ……」

 春彦は愕然とする。 

「春彦。蘭子にちゃんと謝ってやれよ」

 秋人の言う言葉が遺言のように、春彦には聞こえた。

「やっと、分かったのに」

「何が?」

「秋人の事、親友だったお前の事」

「親友、か。思い出したばっかだもんな、そこから動いてないか」

 残念そうに秋人は言う。

「あたしがこの世界で与えられた役割は弟役だった。春彦との関係が蘭子に知られて、あたしが春彦を略奪しないように、弟、兄弟の役割。でも春彦と兄弟ごっこしてる内にさ、あたしはあたしの気持ちに気づいたんだ」

 気持ち、と春彦は反芻する。

「あたしは春彦が好きだった。四年も一緒にいて、全く気づかなかった辺り、あたしはガキだったね。まぁ今もだけど」

「秋人……ちゃん」

「今さら「ちゃん」付けは無しだろ。ま、いいや。とりあえずそうだったんだ。あたしは春彦が好きだった。 ……そう、「だった」んだ」

 春彦に背を向けて歩く秋人は泣いているのだろうか。少し鼻をすすった音が聞こえた。

「また、お別れだ」

「…………」

「今度は永遠のお別れだ」

「…………」

「……泣いてもいいんだぞ?」

「秋人こそ、泣けよ。昔みたいに」

「……わんわん、泣くぞ」

「泣けよ」

「…………っ……やっぱやめ! 未練になる。諦めたんだあたし! きっと今泣いたら、春彦に取り憑いちまう。安心して死ねない!」

「…………っ!」

 春彦は駆け出し、後ろから秋人を抱き締めた。

「死ぬ、とか言うなよ」

「……だって死ぬんだ」

「死なないかもしれないだろ。九死に一生って言葉がある」

「植物人間になってるかも」

「お前は、知らない間に随分ネガティブになったんだな」

「だって……あたし、覚えてるんだ、今でも思い出せるんだ。車の天井がへこんで、車がペチャンコになったんだよ。助からないよ」

「助かるよ」

「言い切るなよ!!」

 秋人は震えている。声も体も。そしてその声は悲しみに満ちている。

「変に希望を持たすな! 助かってなかったら、お前は残酷なことをしているんだぞっ!!」

「俺は秋人に死んで欲しくないんだ! だから、奇跡を願ったって…………いいじゃないか……!」

 春彦の目に涙が溜まる。やっと、本当の意味での再会だというのに、もう離ればなれで、しかも永遠の別れ。嫌だ、そんなのは嫌に決まっていた。

「俺は……」

「……もう離せよ、春彦。そろそろ新しい世界になる。そしたらあたしはもう居ない」

「……蘭子に謝って、この世界から抜け出して、待ってるからな」

「はいはい。勝手に待ってなっ」

 秋人は、子供の頃の秋人が帰って行った道へ歩く。

「じゃあな」

「…………東方の蟹は!」

 春彦は大声で叫んだ。

「……王者の、蟹よ」

 少し躊躇うように、秋人も応えた。

「全身!」

「けい……れんっ!」

 躊躇いを勢いで消し、秋人も叫ぶ。

「「烈破蟹乱!」」

「見よ、蟹の甲羅は!」

「「赤く燃えている!」」

 言い終えてみると、本当に、何を言っているんだと自嘲してしまう。しばらくして、秋人が先に噴き出した。

「…………っあはははは。よく覚えてるよなぁ、お互い」

「忘れるわけないだろ。お前の黒歴史」

「忘れろって、もうそんなの。恥ずかしい」

「また明日な」

「…………おう」

 秋人は去っていく。春彦は視界が白く霞んでいくのを感じる。

 世界が新しくなる。最後の一周が始まる。

 ループを終わらせる最初で最後のチャンス。



 ☆☆★★★



 破いた日記が散らばる部屋。倒れた椅子を起こして、私は座る。

 一瞬、日記に取り込まれたように感じた。

 書いていた妄想の中に自分を描いて、まるで自分が登場人物に嵌められたようだった。不快だった。


 まるで神にでもなっていたようだった。妄想日記を書いている時は、神様になって世界を思うままに作ってるようだった。


 ……春彦君に謝って欲しい。とは思っていない。

 けれども明日、私は学校に行く。どういう顔をして会えばいいんだ。蔑むような目で見ればいいのか。それとも何でもないように春彦君から目を逸らしていればいいのか。


 ふと、足元にあった一枚の日記の断片を取る。ルーズリーフのようになった断片の表にはびっしりと文字が書かれているが、裏はまだ白紙で使える。

 最後のページという訳だ。

 ここまで書いたんだ。辺りを見渡せば破れ散乱した日記の断片。それらには文字が細かくびっしりと書かれている。

 時間は五時近い。でも眠くない。

 書こう、最後の一ページを。私の中で春彦君との妄想に終止符を打つんだ。


 ポロリ、ポロリと涙がこぼれる。嫌だ、終わらせたくない。そういう思いが込み上げる。けれど。



 ★★★☆☆



 春彦は布団を退けて、むくりと起き上がる。

 外は静かだ。カーテンを開けて、外を見る。静かなわけだ、人っ子一人居ない。車もだ。

 制服に着替えて、鞄に幸音と買った「今夜はカレーです」というタイトルの本を入れ、指輪を通したネックレスを着け、一応目立たないようにシャツの中に隠す。

 奈々枝と機種がお揃いだった携帯をズボンのポケットに突っ込んで、部屋を出る。

 お守り、勇気を借りるつもりで持っていくのだ。

 居間のテーブルには小さな包み。添えられた手紙には秋人の文字で「がんばれ」と書かれていた。

 包みを開けると、中には弁当箱が入っていた。秋人が作ってくれた物に違いない。

 二段弁当の下段は日の丸、上段は肉団子にお浸し、ウサギリンゴ、小さな卵焼き。非常にシンプルだった。



 春彦は通学路を歩いているはずだった。

 しかし、誰も居ない。車も通っていない。風が吹く音、木の枝と葉が揺れ、擦れる音。

 そして自分の足音だけがある。

 学校前で、足を止めた。

 意を決したはずだ。迷う必要はない。一度深呼吸をして、右足を踏み出す。



 ふと気づいた。妙に辺りが騒がしくなってきた。春彦の横を一人の生徒が通る。春彦は振り返ってみると、そこには当たり前のように、天星川の制服を着た生徒が歩いてきていた。前を見直せば、さっきからいたかのように、生徒が歩いている。

 世界が始まった。春彦は思った瞬間、ふらりと、めまいに似た感覚を覚える。

 それはすぐに収まった。しかし。


 あれ、俺、何をしようと思ったんだっけ?


 一瞬閃いたアイデアが何かの拍子に消えてしまったような、大事だったことを忘れてしまった。

 ともかく、下駄箱に行こうと他の生徒に混じり歩き出す。



 校舎に入り、何人かの生徒がクラス表を見て話しているのを横目に、春彦は自分の下駄箱を開ける。すると下駄箱の中には一通のピンク色の手紙が。

 ラブレターのようだが、妙だ。封筒の中には何も入っていない。宛先も送り主の名前もない。

「…………」

 いたずらか? と思い、春彦はその封筒を鞄にしまう。

 クラス表で自分の教室を確認して教室へ向かう。

 


 クラスにはすでに金髪とメガネが居て、窓際で話していた。

 金髪が春彦に気づき、よっ、と手を挙げて挨拶した。

「よぅ、今年もよろしくな」

「三年でも一緒だといいなっ」

「そうだな」

 メガネは、ふっ、と笑う。

 春彦は窓際の適当な机に鞄を置いて、窓の手すりに背を預ける。

「そういえば、春休みどうだった?」

 春彦が問うと、金髪はがっくりと肩を落とした。

「姉貴にコキ使われまくりだったよ」

「いいなぁ、姉貴。というか兄弟」

 春彦の暢気な言葉に金髪は首を振って言う。

「いいもんじゃねーよ。 ……まぁ、ほら、頼りになるときはなるけどさ」

「俺、弟が欲しかったなぁ」

「どうして弟?」

「同姓の方が気が楽だろ」

「ホモっぽい理由だなぁ。気を付けよっ」

「そーゆー意味じゃねーから!」

 金髪が笑い、メガネもまた笑う。これが日常だ。

 ふと春彦は、こちらへ来る一人の女子に気づいた。

 赤い縁のメガネ、制服越しでも存在を主張する胸。スポーティーなポニーテール。テニス部に所属していると言われれば納得する出で立ち。

「春彦君、屋上で茉莉子が待ってるよ」

 眉を吊り上げ、怒っている。

「茉莉子? って?」

 春彦がキョトンとして聞くと、女子は呆れたようにため息を吐いた。

「いいから行く! 鞄忘れないでよ。まったくもー」

 女子は強引に春彦に鞄を持たせ、屋上へ行くように促す。春彦は訳がわからないまま、言う通り屋上へ行ってみることにした。

 教室から出て、階段を上る。屋上への扉はいつも施錠はされていないので、誰でも出入りができる。

 ドアノブを回し、ギィ、と少し重い押戸のドアを開ける。

 緩い春風がドアの向こうから入ってくる。屋上へ出れば、開放的な空間が広がっていた。空は抜けるような水色の空。小さい雲がまばらに。

 屋上には二つ、ベンチがある。手前のベンチに女子が座っているのが見えた。彼女が茉莉子という子だろうか、春彦は近づく。

「春彦」

「はい」

 振り返った顔は少しムスッとしていた。

「また忘れた」

「何が?」

「はぁ。簡単に書き換えられるんだから、純粋というか無防備というか」

「だから、何が」

「春彦。その鞄の中の本は誰と買ったの?」

 春彦は鞄を開けて、中の本を取り出す。表紙に「今夜はカレーです」と書かれた本。

「これは……」

 栞の入ったページを開き、ぺら、と次のページをめくる。するとページの真ん中に一行。


 思い出してください。


 と書かれていた。

「幸音……」

 無意識に呟いた言葉に、春彦はハッとする。

 さっきの赤縁のメガネの少女は奈々枝、そして目の前の彼女は。

「茉莉子」

「一瞬春彦は隙を見せた。その隙に記憶を封じられたの」

「ここは蘭子の夢の中だもんな。あいつが全て好きにできる」

「でもこの世界はもうボロボロ。非常に不安定。崩壊の時は迫ってる。私は妄想日記、この世界自身。なんとか崩壊は押さえてるけど、次のループはできない。だから」

 熱にうなされるように茉莉子が話続けるのを、春彦は制止させる。

「もういい。行ってくる。答えを言ってくる」

「うん」

「ありがとうな。それから」

 春彦は笑って次の言葉を言う。

「お疲れさま」

 茉莉子は微笑んだ。春彦は校舎へ戻る。



 ☆☆☆☆☆



 校舎の中に人はいない。不気味な静けさの中を春彦は行く。下駄箱で靴を代えて、校舎を出る。行き先は体育館裏だ。



 体育館裏には誰もいない。満開の桜が静かに揺れていた。

「蘭子」

 声を挙げる。

「居るんだろ」

 姿も気配もない。けどここが彼女の夢の中ならば、彼女の世界ならば。そして誰もいなくなった今、春彦の声は届くはずだ。

「せっかくの告白だったのに、逃げ出してごめん! あの時は逃げ出してしまったけど、今答えを言わせてくれ! 手遅れでもいい、言うだけ言わせてくれっ!」

 声は虚空に響く。

 サァ、サァ、と桜の木が揺れる。

「OKだ! 君からの告白を受ける!」

「…………」

 春彦の後ろから足音がした。振り返ると、蘭子が立っていた。

 目の端に涙を浮かべ、顔はくしゃくしゃになっている。

「……ぁ」

 嗚咽か声か。蘭子から発せられるのはそういう言葉にならない音だ。

「蘭子。明日改めて、俺から告白する。だから、夢は終わりだ」

 春彦が笑ってそう言うと、蘭子もまた笑顔を作って頷いた。

「じゃあ、蘭子。また明日」



 ☆☆☆☆☆



 私は筆を止めた。カーテンの隙間から朝日が、向こうからは雀の声がする。

 結局、ハッピーエンドを描いてしまった。いくつもバットエンドを描いてきて、結局ハッピーエンドにしてしまった。


 結局妄想なのだ。

 全ては妄想。最後に春彦君にOKをもらえた。それも妄想だ。

 悲しさと虚しさだけが残った。

 このまま首を吊ろうか、とさえ考える。


 死ぬな、逃げるな。


 しかし、春彦君に言わせた言葉が頭の中に響く。まるで聞いたことがあるみたいに鮮明に。


 片付けよう。



 散らばった日記を集めて束ねる。破れてしまった箇所をセロテープで直して。

 これを捨てようと思えば簡単だ。庭で缶に入れて焼けばいい。

 けれど、振られた私に、彼を諦めることがまだできない私にとり、彼はこの日記の中だけにいる。

 もし諦められたからといって、捨てられるだろうか。

 ……どうでもいい。ともかく、今日の帰りにでも新しい日記帳を買わなくては。私はまだ、春彦君との妄想生活を続けたいのだから。



 部屋を出て洗面所へと向かう。鏡に映る顔は酷いものだ。

 涙で腫らした瞼、目の下のくま。表情は暗く生気がない。

 こんな顔で学校で春彦君に会いたくはない。だけど、学校には行かないといけない。ずる休みなど、病院勤務のお母さんには通じない。

 お父さんは医者で、最近は専ら海外で活動している。だから家にはお母さんと私しかいない。



「夜更かしなんかするんじゃないよ。それから夜中に暴れてたみたいだけど」

「何でもないよ。お母さんには関係ない」

 いじめ、というわけでもないのだ。ただ振られただけ。そんな下らないことを相談しても、どうにもならない。それは分かっている。

 お母さんはそれ以上なにも言わない。どこかホッとしたように見えたのは、きっと面倒事じゃなくてよかったと思ってるんだ。

 朝食はいつも私が私の分だけを作る。お母さんは勝手に作って一人で食べちゃう。家はいつもそうだ。



 朝食で使った皿やなんかを片付けてふと時計を見れば、もう七時になろうとしていた。もちろん学校まではもう少し時間があるけれど。

 少しだけ仮眠を取ることにした。自分の部屋に戻って、携帯電話のタイマーで十五分、セットしてベットに横になる。

 また春彦君の事が思い出される。

 告白のOKが妄想じゃなきゃよかったのに。そう思うと、また涙が出た。



 ☆☆☆☆☆



 どこかの病室。

 目覚めた患者はまず指を動かしてグーとパーを繰り返す。腕を上げようとすると痛みが走る。それほど激痛というほどではない。軽い打ち身のような、大したことのない痛みだ。この患者にとり、昔やった骨折の方が痛かった。

 ふぅ、と息をつく。

「…………生きてる」

 生まれて初めて、生きている、と実感した気が、その患者にはした。

 口と鼻を覆う呼吸器が慣れず、外したい衝動に駆られていると、看護士がやってきた。



 ☆☆☆☆☆



 何事もない目覚めだった。

「…………ん、ん~」

 長い夢から覚めて、起きてみれば普通な朝。

 時計を見れば七時を過ぎていた。

「起きねぇと」

 春彦はベッドから出て、ふと部屋の中を見渡した。

 ベッドは一段。机は一つ。服が入っているタンスと、ゲーム機やらなにやらをしまってるボックス。

 間違いなくいつもの自分の部屋なのだが、なんとなく、物足りなさを感じた。

 夢と現実が混同してるんだな、と春彦は顔を洗うことにした。

 洗面所で冷たい水を顔に受ければ、たちまち夢がどうでもよくなっていった。

 居間に入ると、母が朝食の用意を、父が椅子に座り朝刊を読んでいる。典型的な光景だ。

「おはよう」

「「おはよう」」

 いつも通り挨拶して、席につく。

「怖い夢でも見たのか?」

 父が朝刊を畳んで茶化すように言う。

「ん、なんで?」

「夜中にトイレに起きたとき、突然寝言が聞こえてきたんだ」

「あー。 ……よく覚えてない。ごめん」

 いいけどね、と父は笑って朝刊を再び広げた。

 朝食はベーコンエッグ。リンゴの入ったサラダ。トースト。



 朝食を取り、自室で制服に着替える。

 鞄を開けて、ピンク色の封筒を見てハッとする。

「…………」

 そうだ、蘭子。春彦は蘭子に謝らなくてはならない。

 危うかった、全て夢で済ますところだった。済ましてはならないのだ。

 春彦はふと考えた。俺は蘭子を受け入れられるか、と。

 しかしすぐに自嘲した。俺は幸音も奈々枝も茉莉子も受け入れられたじゃないか。あれは彼女の妄想、ある意味彼女自身とも言える。それを受け入れられたんだ、彼女本人を受け入れるくらい、大したことではない。そう至った。



「行ってきます」

 居間にいる母に声をかけて、春彦は玄関へ行き靴を履く。

 外は少し肌寒い。風が少し温いだけで気温は低い。桜は咲いてはいるが、まだ満開には至っていない。後二、三日もすれば満開になる。

 通学路に人はそれなりにいる。キョロキョロと蘭子の姿を探すが見つからない。ちゃんと学校に来るか、少し不安ではある。

 確かに「また明日」と言ったが、それは夢の世界での話だ。彼女自身があの世界から覚めて虚しさを感じ、早まる可能性だってある。

 考えすぎとわかっていても、そういう心配をしてしまうのは、きっと奈々枝の事があったからだろう。

 一度頭を振って思考をリセットして、学校へ向かう。いくら考えても仕方ない。それに学校に行けば、ちゃんと彼女が来れば会える。



 下駄箱で靴を代えて、教室へ向かう。夢の世界では何度も繰り返していたというのに、妙な懐かしさがある。

 教室には金髪が居た。まだ優はいない。

「よう」

 声をかけて、前の席に座る。

「おうぅ……」

 金髪は眠そうだ。

「眠そうだな」

「ちょっとな。昔のゲーム見つけてさ、ハマってたら四時になってた」

「ハマりすぎだろ」

 金髪は机に伏して眠った。といっても、始業まであまりないが。

 時間が経つにつれ、人が増えていく。五分前には優も来た。しかしまだ、蘭子が来ない。

 やがて始業の鐘がなる。それと同時に、教室に少女が入ってきた。

 長いストレートの黒髪、表情は暗く、目の下にくまがある。少女は誰に声をかけることもなく、ゆっくりとした足取りで自分の席に行く。春彦の席の右に一個飛ばした先だ。

 先生が入ってきて、ホームルームが始まる。

「おはようございます」

 その一言の後、少し間を開けて話始める。

「……皆、一週間前の落盤事故の事は知ってますね。えー……宮城の方から転校してくる予定だった御舟秋人さんが巻き込まれて、病院に運ばれていたのですが、今日、意識を取り戻したそうです。奇跡的に怪我は軽く、来週には学校に来れるようになるそうです。ですが……ご家族の方、その両親が。えー、亡くなられたそうですので……」

「発言に気を付けろ、と」

 言い淀む先生の代わりに優が言い、先生は頷いた。

「しばらくは精神的にも不安定でしょうから、刺激しないように。以上です」



 ホッとする反面、両親が助からなかったという事実。

 御舟秋人。それは夢の世界で、弟で妹だった存在。そしてかつての師匠で親友。一週間後、彼女は学校に来るというが、どんな顔をして会えばいいのか。授業中はそればかりが気になっていた。

 四時限目に、その事を考えるのをやめた。それよりも、蘭子の事の方を優先することにした。

 授業が終わるとすぐに、春彦は蘭子の元へ向かう。

「蘭子」

 声をかけると、ビクッ、と驚いたように肩を揺らした。

「ちょっと、話があるんだけど。いいかな」

 蘭子は恐る恐る、という風に春彦の方へ、視線は合わせず小さく頷いた。



 昨日と同じ、体育館裏。同じように向かい合う。

「……昨日、逃げてごめん。あれ、告白が嫌だったんじゃあ、ないんだ」

「…………」

 蘭子は俯いたまま黙っている。

「その、OK、だ。付き合おう、俺ら」

 春彦は手を差しのべた。

「…………っ」

 蘭子は泣きそうな顔で、その手を取りかねている。

「……わ、私……」

「言ったろ、ちゃんと告白するって」

「……えっ?」

「俺は確かにあそこに居た。あの昨日に。けど目覚めてここにいるんだ。だから俺は、昨日君に告白すると約束した俺なんだ」

「……っ!」

 蘭子は顔を上げた。その目に涙を溜めて。

「何だかんだで、楽しい時間だったよ。でもそれは昨日の話だ。これから、よろしくな」

「…………は、はい…………っ!」

 蘭子の目に溜まっていた涙は零れ、顔は明るく笑った。


 四月二日。春彦は、時が明日へ進み始めたのを感じた。



 ☆☆☆☆☆



 告白から一週間後。秋人が登校してきた。今は親戚の家から登校していると言っていた。

 皆が心配していたよりも、秋人はずっと強かった。両親の死も、すぐに受け入れていた。正確にはあのループ世界にいる内に乗り越えていたのだ。



 そして秋人が登校してきたその日の放課後、春彦と蘭子、そして秋人の三人で下校していた。

「んで、告白はしたんだろ?」

「ああ」

「…………」

 蘭子は不機嫌そうだ。蘭子は秋人が苦手だと春彦に言っていた。

「……思うんだけど、春彦はあたしと蘭子だったらどっちがいい?」

「はぁ」

 唐突で思わず春彦は間抜けな声が出た。

「……私」

 蘭子は春彦の腕に寄り添う。

 蘭子はあの時こそ、目の下のくまが酷く肌も荒れていたが今はきれいになっている。前髪が少し延びすぎているのと、普段俯いている事が多いせいで顔が暗く見えがちだが、顔は春彦にとり、好みである。

 性格の暗さはそれほど気になってはいない。

「それは、春彦が決めるんだよ」

 秋人は両手を頭の後ろに持っていって右手に持った鞄をブラブラと揺らす。

 秋人は強引な所が多々あるが、春彦にとり気心の知れた仲であるし、五年近く経つ今でも腹を割って話せる唯一の人間だ。ただ好きか、と聞かれれば、五年前と同じで、分からない、と春彦は答える。

 五年前と比べ、女性らしい姿になった彼女に、魅力は感じる。

「…………春彦君。その人はただのお友だちなんでしょ?」

「え、えっと……まぁ、そうだな」

「友達じゃねぇ、親友だったんだよ」

「恋人じゃなかったんでしょ。だったら、私。 ……でしょ」

 蘭子はジトッ、と春彦の顔を見る。

「あ、はは……ううーん。俺と蘭子はすでに付き合ってるわけで……」

「煮えきらないのは、春彦がただ責任だけで付き合ってるからだろー? よし、じゃあ蘭子、こうしよう」

「勝手に決めないでよ」

「こうするんだよ。春彦、来年の四月一日、どっちか決めろ」

「はぁ?」

「一年で、あたしと蘭子、どっちと付き合いたいか決めるんだ。それで恨みっこなし」

「もう付き合ってる」

 蘭子は頬を膨らませた。

「一方的なのは長続きしねーんだよ。それに逃げた責任とか、そーゆーの抜きにした、春彦の気持ちが大事なんだ。あたしと蘭子、どっちがいいか」

「…………」

「…………それじゃあ、私に分が悪すぎる」

「そうかな。結局春彦が決めるんだから。それに分が悪いとすればあたしだ。あたしはあまりに春彦と親友で居すぎたからな」

 確かに今の春彦には、秋人は親友でしかない。

「親友ってのと、恋人ってのは違うんだ。幼馴染みだからって、好きあうとは限らないんだよ」

「…………」

「ま、難しく考えるな春彦」

「いや」

 春彦は、困ったような、嬉しそうな顔で言った。


「まだ夢を見てるみたいだ」

「現実だ、バカ」



 あとがきと言っても書くことがありません。

 春彦がどっちを選んだかはみなさんのお好みで妄想してください。

 一応、そのまま蘭子と付き合うのが私の中のルートですが、別に公式ではありません、どちらも可能性ですので。


 時間ばかりかけたのにこのような内容で、色々ごめんなさい。

 最後に、ご愛読ありがとうございました。

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