7話 屋上と少女
次の日の朝、少年は学園に向かっていた。
今日も天気は快晴で気温も程よいぐらいなので、気持ち良く屋上で寝る事が出来ると少年は思っていたのだが、
「・・・・・・・・・」
目の前にいる人込みを見て、早々に気分が悪くなった。昨日の夜ほどではないが何時もの朝と比べると多くの人で賑わっていた。
とりあえず、此処を通らないと学園に行けないので、
「ハァ・・・・・・」
溜息をつくと、仕方ないといった表情で人込みの中に入って行った。
暫くして少年は校門に着いた。
少年としては、もう少し時間がかかると思っていたのだが案外そうでも無かった。
校門を潜り抜けると街とは違って静かであり快適であり、少しだけ気分が良くなった。
また、暫く歩くと校舎が見えてきたが、少年にとっては校舎などどうでもいいので、さっさと屋上に行って寝ようと思い玄関口に向かった。
玄関口に向かうと何やら教師が何故かほぼ全員揃っており話をしている。
(何だ、こいつら?)
少年は疑問に思うが、
(・・・・・・別にいいか)
と、改めて思うと玄関口に向かった。向かうと、教師達が少年に気が付いたらしく、顔を見てくるが軽く少年を見ただけですぐに顔を逸らしたり、冷やかな目で少年を見たりと様々であった。 対する少年は自分に向けられる視線を全て無視して玄関口を通って屋上に向かった。
少年が屋上に着くと同時に風が吹いた。
そして、
「・・・いい風だ」
と、言うと仰向けに寝転がり
「・・・・・・寝るに限る」
一言言うとそのまま眠った。
「ん・・・・・・んぅ」
少年はそんな声を出しながら目を醒ました。
目を醒ました後も茫然と空を眺めていたが、次第に頭もはっきりしてきて、
「・・・・・・・・ん」
と、軽く頭をかいた。
そして
「・・・・・・まだこんな時間か」
まだ頂点に達していない太陽を薄目で見ながら少年はぼやいた。
「・・・もう一回寝るか」
「また寝るの?」
「当然だ、今日みたいな日は寝るに限る」
「確かに・・・いい天気だもんね」
「ああ」
そして、少年は寝ようとして、
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は誰と会話している?)
疑問が湧いてきた。
朝来た時は確かに誰もいなかった。隠れるといっても屋上は余り広さはなく、何もない、言わば殺風景と言っても過言ではない。
そしてこの屋上には少年以外は誰も踏み入らないはずである。
少年は身体を起こして、声がした方に顔向けると
手摺りから外の方を見ている少女がいた。
少女は外を見ているので顔は分からないが、髪型は色素の抜けた青色のショートヘアで身長も平均よりじゃかん高いぐらいに見えた。
「でも、こんな日なら遊ぼうっ!!て思わない?」
「・・・・・・全然」
「うわっ!?冷た!!もっと楽しもうよ」
少女はそう言って身体をこちらに向き直り
「ね、ネックラー君!!」
と、少女――ステージで踊っていた少女が笑顔で言ってきた。
こちらに振り返って顔を見たが、大きな目にツンとした鼻、笑顔が似合う整った顔立ち俗に言う美少女である
「・・・・・・お前か」
少年は自分に笑顔を向けてきた少女に対して言った。
「いや・・・お前かって言われても会ったの初めてだよ?」
「・・・・・・・・・」
「まっ、どっちでもいっか・・・」
と、少女は言った。
「そういえば、まだ名前教えてなかったね」
「・・・・・・・・・」
「私の名前は刹那。東條刹那って言うんだ。よろしく!!」
「・・・・・・ああ、よろしく」
ステージで踊っていた少女――刹那はそう言い、少年も軽く返事をした。
「少し聞いていいか?」
「何?ネックラー君?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・髪型違わないか?」
「髪型?」
祭の時は刹那は髪を後ろに結んでいたが今はショートヘアなので少年はそれが気になった。
少年が聞くと、刹那は最初は何の事?といった感じだったが、何かピンときたようで
「もしかして、昨日祭に来てた?」
「・・・祭?」
「そう、祭。凄かったでしょ、あの人の数」
「・・・ああ」
「毎年凄いんだよね、本当に」
「・・・そうか」
「っと話が逸れちゃったね、あれは付け髪だよ、付け髪」
「付け髪?」
「そ、髪に付けて長髪に見せる物だよ。昨日はたまたま使ったけどね」
「・・・そういう事か」
「うん。そういう事」
少年が納得したのが嬉しいのか、刹那は笑顔で答えた。
「私もネックラー君に質問していい?」
「・・・なんだ?」
「ネックラー君って学校好きなの?」
「は?」
少年は何故そんな質問をするのか分からなかったので
「・・・・・・何故そんな質問をする?」
逆に聞き返した。
「何故って・・・今日学校に来てるから」
「・・・今日は平日だろ?」
少年は当たり前の答えを返した。
すると、
「いや、今日は急遽休校だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・休校?」
「うん、休校。朝、連絡来なかった?」
「・・・・・・連絡?」
今、少年にとっては、何言ってんだこいつ?状態である。
「その感じだと連絡来てないっぽいね」
刹那はそう言うと、少年の傍まで寄るとしゃがみ込み、
「何故か知りたい?」
笑顔で聞いてきた。
対する少年は特に興味が無かったので、
「・・・・・・別に」
と、返した。
すると、
「実はね、夜中に学校に侵入した人が居たらしいよ」
「・・・おい」
「それで先生達は朝から学園内を隅から隅まで調べて何か異変が起こってないか、大慌て」
「・・・・・・おい」
「幸い、何も盗られてなかったらしいよ」
「・・・・・・・・・おい」
「ん、何?」
何故か勝手に語り出したので、何回も止めようしたのだが全く聞く耳持たずであった。
「何故勝手に話した?」
「何故って――」
刹那は一旦言葉を切ると、
「――私が話したかったからです!!」
と、答えた。
「・・・は?」
「だから、私が話したかったから話しただけだよ」
何故か自信満々に刹那は答えた。
「つまり、俺がなんと答えようと喋るつもりだったということか?」
「そう、ネックラー君がなんと答えようと言うつもりでした!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・なら聞くな」
少年は肩を落としながら答えた。
「ま、それで急遽休校になったんだよ」
「・・・そうか」
少年は返事をしたが、今の話に疑問を感じた。
「・・・なあ」
「何?」
「その侵入者って捕まったのか?」
今の話には侵入者によって休校になったというのは分かったがその侵入者が、どうなったのかが判らない。
「あれ?、捕まってないって言ってないっけ?」
「・・・言ってない」
刹那は「言ってないっけ?」等と呟いていたが暫くして「ま、いっか」と言った。
「要は、物は盗られて無いけど、侵入者は捕まえてないし、学園内にいる可能性もあるから休校になったって覚えてくれればいいと思うよ」
刹那の説明を聞いて少年は
「・・・一様、覚えておく」
と言った。
そのまま暫くはお互いに無言だったのだが、刹那はじっと少年の顔を見つめたままなので、
「何か付いてるか?」
「ううん、何も付いてないよ」
「なら、なんで俺の顔をずっと見てる?」
「何となく」
「・・・・・・訳が分からん」
「分からなくていいのだよ」
「ますます訳が分からん」
と、少年が言うと刹那は笑顔で笑った。
少年は、特に表情を変えずに刹那を見た。
そして、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・怪我は無かったか?」
言った。
刹那は突然言われたので
「怪我?何の事?」
聞き返した。
「『ファイアボール』って言った方が分かるか?」
「えっ・・・・・・?」
刹那は何故かキョトンとした顔になった。
「何故、驚く?」
「えっ、い、いや、・・・・・・・まぁ、その・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・ありがとう」
「・・・・・別に」
少年は、何故刹那がそんなに動揺しているのか気になったが自分が突然言ったからだろうと思った。
「本当は一番最初にお礼を言わないと・・・・・だよね」
先程までとは打って変わり、声が小さくなったがそれよりも
「お礼?」
お礼という単語が気になった。
少年が刹那の心配をしたのは今であり、しかもそれに対して刹那はありがとうと言ったので特に問題ないだろう。それなのに一番最初にお礼と言われると意味が分からない。
「うん。だってネックラー君でしょ?」
「――私を助けてくれたのは」
二週間ぐらい空けてすいません。
まだ受験終わってないのですが、少し余裕があったので投稿しました。
今度こそは受験の後になるのでご了承ください。