6話 少女と暴風
(なんだ、この人の数は?)
少年は目の前に広がっている人の数に困惑していた。
先ほど、ドアを破壊してやっと学園の外に出ることが出来、自分の中で軽く一息をついた時にこの光景を目のあたりにした。
基本、夜になると街は昼間と比べると、人通りが少なくなって歩きやすくなるものだがそれが当てはまらない時はある。
実は、アルドは祭りの真っ最中である。アルドの祭りは他の街に比べると数多くありどれも規模が大きいのでこの人数は街の人達にとっては当たり前の光景であるが、初めて見た人達からすれば、何だ!?と思わずにはいられない光景である。
そして、それはいくら少年でも驚く光景であった。
「・・・・・・・・・」
だが、困惑はしているが表情には出さず、少年は目の前の光景を見ていた。
そんな、光景をみて
(・・・・・・邪魔だな)
と、少年は思った。
少年の目的は家に帰ることなので少年にとっては邪魔の一言に尽きるのである。
そして、どうやって家に帰るかを考えた。方法は幾らでも出てくるが少年は早く帰る方法を優先して考えた。(それは、ただ、少年が人込みに関わるのが嫌だからであるが)
そして、少年は
「屋根・・・だな」
一言呟くと、踵を返して人気の無いところまで引き返した。
しばらくして、少年は人気が無い場所を見つけた。(引き返したのはよかったが、なかなか人気が無い場所が見つからずかなり歩き回った結果、学園付近まで戻る羽目になった)そして、辺りを見渡して人が誰もいないのを確認すると、膝を曲げて一気に跳躍し、屋根に乗った。そこから、屋根から屋根に跿び移っていった。その屋根から屋根に乗り移るスピードは速く、気づけば街の中心まで来ていたが、そこで、少年は足を止めた。
足を止めた理由は、街の中心ということもあり今の屋根から対岸にある次の屋根までの距離が長かった為である。
少年にとっては普通にこの距離は跿べるのだが、ただ単に
(・・・目立つな)
目立ちなくなかっただけである。
少年の服は黒のジャケットに黒のジーンズといった比較的目立ちにくい服装で、そして今は夜なので更に目立ちにくくなるのだが、今、街は現在祭の真っ最中なので至る所に光源が存在しており、もし普通に跳べば如何に目立ちにくい服装や環境でも目立つだろう。それに祭ということもあり、大勢の人がいるためごまかすのは無理がある。
なので、
「・・・・・・無理か」
少年も目立つのは避けられないと思うと、せめて一気に跳躍しようと膝を曲げた所で、
「「「オオオオオッー!?」」」
屋根の下から、声が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・」
突然の事だったので集中力が切れてしまったが、興味がないのか少年は再び跳ぼうと
「「「「オオオオオッー!!」」」」
「・・・・・・・・・」
した所で、また声が聞こえきた。
そして、また集中力が切れてしまったのだがそれでも少年は跳ぼうと膝を曲げ、
(・・・・・・・・・)
ようとした所で少年は少し考えた後、跳ぶのを止めた。
そして、何を思ったのか屋根の縁まで歩き、下を見た。
そこには、ステージとそれを見ている大勢の人がいた。
◆ ◆ ◆
祭は神社やら寺院などの一部の場所を中心としたのが多いが街中などでも祭は行われる。他にも、数多くの屋台などもあり、それはアルドも例外ではない。(アルドの場合は街全体なので尋常な数であるが)
そして、本来、祭は祈願やらそれの成就に感謝するものなのだが、時代と共にそんなのは無くなっていき大抵が『楽しい』としか持たれなくなっている。
今、アルドで行われている祭も本来の目的があったのだが、それを知る者は少ない。
現に、本来の目的をなす為にあるステージがかくし芸やらパフォーマンスのステージになっているぐらいである。
しかし、本来の目的が無くても多くの支持を得られるのだからそれはそれでいいのかもしれない。
そして、今ステージ上ではちょうどパフォーマンスが行われている。そのたびに見ている観客が歓声を出している。(少年が聞いた声も歓声である)
その後も様々なかくし芸やらパフォーマンスが行われていき、気がつけば最後の出場者を残すのみになっていた。
「では、本日の最後を飾っていただきましょう・・・どうぞ!!」
ステージ上にいる司会者がそう言うと同時に最後の出場者である人物――少女が出てきた。
少女は色素の抜けた青髪で髪を後ろに結んであり、着物を着ており、手には扇子を持っていた。
そして、腕を伸ばし扇子を前に向けるとその状態で静止した。見ていた観客からザワザワと声が聞こえてきたが暫くすると音楽が流れ、同時に少女も動き出した。
少女は目を瞑りながら流れるようにステージ上を踊っていた。
優雅に
可憐に
華やかに
誰もがその少女に見惚れた。まるで、少女のためにステージがあると錯覚するほどに。
「おい!!逃げろ!!」
何処からか叫び声が聞こえた。
何事かと観客は叫び声がした方向を向くと火の玉が向かってきていた。
正確には、自分達の頭上を通ってきていた。
火の玉は大きかったが、突然のことであったため、誰も火の玉に反応できなかった。
そして、その火の玉は少女と同じ高さにあり、少女に向かって一直線に進んでいた。
少女は今も目を瞑りながら踊り続けており、火の玉の存在に気がついていなかった。
「逃げろ!!」
観客の誰かが叫ぶと、少女が目を開けて火の玉が迫っているのに気づき、
「えっ」
と、声を漏らした。
しかし、気が付くのが遅く今から逃げても避けきれない位に火の玉は迫って来ていた。
誰もが少女に当たると思った。
瞬間に風が吹いた。
風の切る音が大きく聞こえ、色んな物が吹き飛ぶ程の強風、いや暴風が街を吹き抜けた。
暴風に目を開けていられるはずもなく、暴風が通り過ぎるまで誰もが目をつぶっていた。
そして暴風が通り過ぎ、人々は目を開けた。
「何だ・・・今の風?」
「誰かが魔法を使ったんだろ」
「だけど・・・」
皆が、今の暴風についての話をしだした。
少女の事など無かった様に。
その少女は司会者に誘導され、ステージを後にしようとしていた。途中、少し立ち止まって建物の方を向いた。すると、
「・・・・人?」
屋根に人がいるのが分かったが分かった瞬間に何処かに行ってしまった。
「・・・・・・」
少女は暫くその屋根を見続けた後ステージを後にした。
前回より長く空けてしまってすいません。今回は分かりやすく章も増やしました。
次は受験が終わった後になると思うのでまっていてください。
受験生なのに何やってんだろうとしみじみ思います。