4話 学園長の苦悩
場所はアルド魔法学園の一階にある学園長室。
そこは、多少の広さがありそれに見合う様に周りには棚や高価な壷がある。部屋の真ん中は来賓が来た時の為にソファーと長方形の机がある。そのソファーと机の隣、学園長室の奥には、学園長専用の机と椅子がある。その後ろには窓がある。そこに一人の老人が椅子に腰を掛けながら窓の外を眺めている。
そこは校庭であり、大勢の生徒と教師がいる。そして、順調に授業をしていると分かると窓から目を外して机の方に目を向けた。
しばらくは机を見つめていたが、
「よしっ」
と、言うと机の引き出しを引き、一枚の紙を出した。そこには、負傷生徒百名・負傷教師二十名・破損備品・金額など、びっしりと書かれている。
その紙を見ると老人は、
「はぁ」
溜息をついてしまう。
紙に書かれている事が最早異常なのだが、それ以上に老人の頭を悩ませているのが、この紙に書かれている事は全て一人の少年によって起きたもの、という所である。
自分が学園長になってからというもの、大きい問題は起きず、学園に貢献してきた。教育法や設備、など様々な事を取り入れ、学園を大きくしてきた。そのかいあってか、数多くの優秀な生徒を輩出してきた。その中には既に歴史に名を残すであろうという者もいる。 そのおかげで、この学園を全国に匹敵する学園にする事が出来たのだが、
「はぁ」
と、もう一度紙全体を見る。
だから、この紙に書かれている事は凄く困るのだ。 当然、この紙に書かれている事を起こした少年に処分を下したのだが、その処分の内容に多くの教師や生徒達から苦情がきている。 苦情には退学や無期限の謹慎などの言葉が大半であった。
確かに少年のやったことと比較すれば退学などが相応しいかもしれないが、流石に自ら学園にスカウトした少年にそれを下すには躊躇いがあった。
躊躇うと同時に何で自分はあの少年を学園に誘ったのか、疑問が出てくる。
そこで、老人――ケイルナートは少年を誘った時を思い出す。
「魔法学園に行ってみないか?」
ケイルナートは少年に向かって言った。
「・・・・・・・は?」
案の定、少年は、何だこのジジイ?と言うような顔をしてきた。
「おぬしはまだまだ強くなれる。」
「・・・・・・・・・」
「だが、個人では限界がいずれ来るじゃろう。学園に来れば最新の設備、優秀な教師、充実した環境が全て揃っておる。その中で自分を高めて見たい思わんか?」
「・・・・・・・・・」
「今のおぬしは宝の持ち腐れの状態じゃ。」
「・・・・・・・・・」
「そんな状態じゃいずれ足元を救われるじゃろ。そうならならない為にも学園に行ってみるべきじゃ」
ケイルナートは少年を説得する様に言った。別に学園に行ってないから可哀相とは微塵にも思っていない。
そこには、学園の長としての思惑しかない。
「だから、学園に行って――」
「断る」
その学園の長の説得を聞いた少年は、そう一言言った。
ケイルナートはその一言に呆気に取られたがすぐさま、
「な、何故じゃ!?」
質問した。
少年は、
「そんなの決まっている」
と、一区切り付けると
「お前が嫌いだからだ」
「何!?」
驚くのも無理は無いだろう。学園に行きたくない理由が「お前が嫌い」、の一言なのだから当然だろう。 だから、
「ワシの何処が嫌いなんじゃ?」
ケイルナートは質問するのだが、
「・・・・・何もかもだ」
(ワシ、全否定!?)
まさかの全否定により何も言えなくなってしまう。
「もういいだろ・・・・・・帰る」
少年は言うべき事は言ったというような顔でそう言うと歩き出してしまった。 断られたら仕方ないかもしれないがケイルナートは此処で諦めるつもりはなかった。
「ちょ、待つのじゃ!!」
「・・・・・・まだ何かあるのか?」
少年はもう、うんざりだという気持ちが分かるような顔で返事をした。
「ワシが嫌いかは抜きとして本当に学園に行く気はないのか?」
「無いな」
「・・・本当に?」
「ああ」
「本当の本当に?」
「そうだ」
「本当の本当の本当に?」
「・・・・・・殴るぞ」
どうやら少年は本当に通う気が無いらしい。
なら、
(通いたくなる様にするしかない)
と、ケイルナートはそう決めると
「強くなりたくはないのか?」
「・・・・・・・・・」
「おぬしにだってあるはずじゃ。強くなりたいっていう気持ちが!!」
「・・・・・・・・・」
「その気持ちに嘘をつくのか?」
ケイルナートは、ただ強くなりたくないのか、しか言っていない。
だが、それだけでも充分効果はあると思っている。 それは、他人より強くなりたい、凄くなりたい、と誰でも思う気持ちに訴えている。
(少しでも気持ちが傾いてくれれば、後はどうにでもなるわい)
ケイルナートはどうしてもこの少年を学園に入れたかった。
理由は学園の為、学園を有名にしたいが為である。
(さあ、どう出る?)
頭の中で少年を説得させる手順を考えながら少年の言葉を待った。
そして、少年は口を開くと
「くだらない」
と、答えると、また歩き出してしまった。
「ちょ、待て!!」
答えるなり、いきなり歩きだしてしまった少年の所に向かいながらケイルナートは言った。
そして追い付くと、
「・・・・・・何だ?」
と、少年はケイルナートを睨みながら言った。
「何だ、じゃなくて。何故行く?」
「用は済んだ」
「済んどらんわ!!」
「・・・・・・何故切れる?」
自分勝手に事を進める少年にかなり腹が立っているがそこは我慢し、
「まだ、学園に行くかどうか・・・」
「くだらない、と言ったはずだが?」
少年にケイルナートの説得は全く通じていなかった。それどころか、くだらないと、まで言われてしまった。
「くだらない?何がじゃ?」
ケイルナートには何が、くだらないか分からなかったので、少年に聞いた。
「お前が何が、くだらないか理解出来るなら最初から、くだらない、とは言わない」
「意味が分からないのじゃが・・・?」
ケイルナートには少年が言ったことがよく分からなかったが、学園に来る気が全く無い事は分かった。
しかし、このぐらいでは、ケイルナートは引くつもりはなかった。
何故なら、この様なやり取りは何回も経験した事があるからである。
「くだらない、なんて言わないで学園に通ってみたらどうじゃ?」
「・・・・・・・・・」
今度は少年は何も言わなかった。それを好機とケイルナートは思うと、
「それとも何じゃ?まさか、自分は学園に通わなくても強いと思っておるのか?」
ケイルナートは少年は自分が強いと思っている自意識過剰なタイプだと判断した。そして、自意識過剰なタイプを従えさせるには
自分が弱いと認識させる。つまり、それは
「何なら軽く一試合やるかの?」
圧倒的な力で屈服させる。それだけやれば、充分である。
ただし、
「誰がやるか」
相手が乗らないと意味が無い。
「負けるのが怖いのか?」
「・・・・・・怖い?」
「そうじゃ。負けるのが嫌じゃから、戦いたくないのじゃろ?」
「・・・・・・」
少年は、何も言わなかった。それが図星なのかは分からない。
だが、既に少年のケイルナートに対する興味が無くなっている事にケイルナートは気が付かなかった。
「・・・・・・だったら」
「ん?」
「だったら、お前は・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・何じゃ?」
「・・・・・・いや、何でもない」
少年はそう言うと、また歩き出した。
今回はケイルナートは追わなかった。今日はこの辺にしておこうと思い、最後に、
「魔法学園に行ってみないか?」
ケイルナートはまた同じ質問をした。
「ふざけるな、誰が・・・」
少年は途中で言葉を止めると同時に歩みも止めた。そして、ケイルナートの方向を見ないまま、
「・・・・・・いや、行ってやろう」
「本当か!?」
「ああ、・・・・・・いつ行けばいい?」
「二週間後じゃ」
「・・・・・・分かった」
「ちょっと待つのじゃ!!」
少年が再び歩き出そうとしていたのでそれを止める様にケイルナートは言うと、
「・・・・・・何だ?」
「肝心な事を聞いてなかったわい」
「・・・・・・肝心な事?」
「おぬし、名前は?」
学園に通うなら名前を聞いておかないと思いケイルナートは聞いた。
「お前何かに教える訳がないだろ」
「・・・・・・・・・」
名前を聞かない事には何も始まらないのだが、
「おぬし、何者じゃよ?・・・・」
「・・・・・・そんなの決まってる」
少年はそう言うと、肩越しにケイルナートを見て、
「俺は――」
「――『化け物』だ」
そして、入学式に来て問題を次々に起こし、今に至る。
「化け物・・・か」
少年が言った言葉を呟きながら、ケイルナートはもう一度資料を見た。
そこには、何度見ても変わらない異常な数字しか無く、
「やはり、化け物じゃな・・・」
そう思うしかないケイルナートであった。
更新が遅くなっている分、量は何とか増えてますが文才ないからきついです。
次も一週間ぐらいかかると思うので気長に待ってて下さい。