3話 希望の街アルドと学園
希望の街「アルド」。
都市には人口などで負けているが、それといった差は無く、活気でいえばこちらが勝っている。
何といっても、希望の街「アルド」と呼ばれている一番の要因は、フリーマーケットである。
「アルド」では、商人に限らず誰でも商売が出来る。そのため、子供の小遣い稼ぎはもちろん、様々な物が手に入る為、全国から多くの人が集まってくる。 なので移住してくる人も少なくない。
一番の要因はフリーマーケットだが、他にも要因はある。
一つが、一校しかないが、学校である。
元々は、それほど大きくなければ有名でもなかったが、移住してくる人が増え、フリーマーケットのおかげで良い設備も入って来るようになり、それに伴って学校も大きくなり、優秀な人材を多く生み出した為、全国屈指の学校になった。
名前も昔は別の名前だったが希望の街「アルド」を全国に知らしめようと「アルド魔法学園」に改名した。
「アルド魔法学園」
街の五分の一を占める広大な土地を有し、全校生徒約千七百人が在学する学園である。
中等部・高等部が存在し、どちらも1クラス約40人前後でクラスはAからFまでの普通科とSの特進科の二つがある。 さらに、寮や闘技場・図書館といった施設も完備されていて行事も多くあるため数多くの人数が集まって来るのである。
そんな学園の校門に少年は、いた。
何やら人が多くいるが、横にデカデカと「入学式」という看板があるので納得だろう。少年はその校門をくぐり抜けて行った。
校門を抜けて、しばらく歩くと校舎が見えてきた。校舎は最近出来た様に見えるほど綺麗であり大きかった。その周りにも校舎と同じく綺麗な建物が多くあったが、少年は特に気にもせずに歩いていた。
さらに歩くと校舎はもう目の前という所まで来ていおり、少年はそこで一旦歩みを止めて顔を見上げた。 しかし、少年の目線は校舎ではなく別の方向にあった。
少年の目線の先にあったのは――時計塔であった。 それは、別に何ら変哲もない普通の時計塔である。 だが、少年はその時計塔に興味を持った。
何故なら、その時計塔は・・・
「おい、君」
考えていた所で、後ろから声が聞こえたので少年が肩越しに後ろを見ると男子がいた。
男子はサラサラのヘアーの茶髪で、顔は普通で服装はブレザーを着ていた。
そして、いかにもナルシストの感じがした。
すると、その男子が、
「君が邪魔で前に進めないんだ。どいてくれないか?」
と、言ってきた。
だが、
「・・・・・・・・・」
少年は何も言わなかった。
「・・・これだから平民は困る」
溜息混じりに男子は言うと、
「まさか君は、この学園が平等と言ってるからって僕と同じだと思ってないかい?」
「・・・・・・・・・」
「はっきり言おう。いくら学園が平等と言っても、君達平民と僕達貴族とでは根本から違うんだよ」
「・・・・・・・・・」
「それに僕の名はシクル=ダネル。シクル家の長男で次期跡継ぎだ。そんな僕に君は反抗するのかい?」
「・・・・・・・・・」
男子――シクル=ダネルは自分は言い切ったというような表情をしていた。
そんな表情を見て少年は
「・・・・・・・・・」
何も言わず無視する様に歩きだした。
「おいおい!?まさか僕の許可も得ずに勝手に行くつもりかい?
ダネルは少年に向かって言うが少年は何も反応しない。
「・・・いいだろう。なら、君には特別に僕の魔法の的になるという命令を与えよう」
ダネルは言うと何処からか槍を取り出すと、槍の先を少年に向け
「サンダーボール!!」
と、叫ぶと直径三十センチくらいの雷で出来た球が槍の先から少年に向かって放たれた。
当然、この行為――学園内で魔法を放つ事は許可無しには校則で禁止されている。もし、無断で使用した場合は校則違反として罰則される。しかし、この校則で罰則を受けるのは貴族の位ではない者達だけである。
何故なら、貴族は、一様それなりの権力を持っており、どんなに低い階級の「貴族」にもそれは同様に言える事なので、逆らったらどうなるかなど、目に見えてわかる。だから、貴族が校則を違反しようと周りの皆は何も言わないのである。そして、ある程度の位の貴族なら教師さえも目をつぶってしまう。
現に今も周りには大勢の人がいるが皆何も言わないのだ。
誰も助けようとはしない。だが、それが普通かもしれない。
自ら不幸になろうとする人間などいるはずがないのだから。
そして、ダネルが放った「サンダーボール」は少年の後頭部に向かって一直線に進んでいた。
周りの皆は目を閉じたり、反らしたりする者が大半だった。誰もが少年に当たると疑わなかった。
だが、少年にそれが当たる事はなかった。
少年は首を右側に曲げて回避した。
周りは少しの間静寂に包まれたが、すぐに騒がしくなった。
それも当然だろう。ダネルは少年に的になれと命令したのに少年は避けたのだ。
つまり、貴族の命令に反抗したのだ。
これにダネルが黙っているはずもなく
「貴様!!何をしたか分かっているのか!!」
少年に対して言うが
「・・・・・・・・・」
何に反応する事もなく、少年は無視した。
そんな少年にダネルは、
「平民無勢が貴族である僕に逆らうな!!」
叫ぶと、手に持った槍を握り締め、少年に向かって突進して行った。
そしてみるみる内に距離は縮まり、
「死ねぇぇぇぇ!!」
ダネルは叫びながら少年に槍を突き出した。
すると、少年は身体を一回転させてそれを躱した。 そして、一回転しながらダネルの後頭部を掴み、
「っ!!」
顔面から地面に叩き付けた。
「うぶっ!?」
と、声を上げるとダネルはそのまま動かなくなってしまった。
すると、周りからは、
「「キャーーーー!!」」
「ヤベーよ、これは・・・」
悲鳴やら心配する声がちらほら出てきたがどれも貴族に向けてで対する少年には何の言葉もなかった。
そして、少年はダネルから手を放すと、校舎に向けて歩いて行ってしまった。