1話 老人と少年
(なにやってんだろう。わし。)
ケイルナート=ガルシウルはそんなことを思っていた。
ケイルナートは今「メルスの森」に居るのだが、地面に倒れている状態である。
理由は別に魔物に襲われたとか、病気が身体を蝕んでるとかではない。
この、メルスの森は魔物が存在するがこれといっていいほど脅威となる魔物は住んでいない。昔には一体の魔人が住み着いていて此処を縄張りとしていたらしいが六年前に退治されたので門題は無い。ましては、病気については一週間前に健康診断をやったばかりで何も門題はなかった。
なら何故倒れているのかというと
(食べなきゃ良かったわい)
薬草を食べたからである。 何故食べたのかは実はケイルナートは太陽が昇り始めた頃からメルスの森にいたのだ。理由はこの森に生えている薬草が必要だったので朝早くから来て薬草を採っていたのだ。そして必要な量の薬草を採り終えて帰ろうとしたときにある薬草を目にした。その薬草は他の薬草の色が緑やら黄緑なのに対して白だったのだ。
ケイルナートはそんな薬草を見たことが無かったので駆け寄って見てみると感嘆した。すると、同時にお腹減っていることも自覚した。
そういえば朝から何も食べていなかったと思い出すと視線は目の前にある白い薬草に向き、それを採ろうとしたところで手を止めた。見たことも無い薬草なのでこれ一個だけなら食べるのは悪いと思い、周りを見渡すと右に五メートルのところに同じものを見つけたので安心して薬草を採って口の中にいれーー
結果今の状態になっている。
普通ならそんな色をした薬草など食べようとしないだろう。例えそれが朝から何も食べてないとしても色が色なのだが、これにはある訳がある。
このメルスの森には毒の薬草が存在しないのである。
何故なのかは解らないが、何時の頃からか、そうなっていたのである。
ケイルナートもこの事は知っていたからこそ食べたのだが・・・
「・・・・・・」
結果この様である。
しかし、
(まぁ、大丈夫じゃろ)
それほどケイルナートは焦っていなかった。
何故なら、
(身体が動かないが直ぐに治るじゃろ。別にそれぐらいじゃし)
身体が動かない時点で焦った方がいいと思うのだが、それは、このメルスの森が安全だと思っているからである。
なので、ケイルナートは気長に人が通るのを待つことにした。
そして、先程から三十分経ったのだが、人が来る気配もなく、一向に治る気配がないので、流石に
(あれ?もしかして相当マズイ?)
とケイルナートは思い始めた。(薬草を食べて身体が動かない時点で考えるべきなのだが・・・
(どうするかの?、声もあまり出ないし、)
(本当にどうするかの?)
と、その時
タッ
タッ
足跡が聞こえてきたので、
(お、これで助かるわい)
と、安心したのもつかの間、
「・・・グルル」
(・・・グルル?)
と、何故か獣の声が聞こえた気がした。
実際、俯せに倒れているので、姿は見えないのだが、
しかし、
(いや、気のせいじゃろ・・・獣な訳が・・・)
「・・ガアアアアァ!!」
(・・・・・・・・・・・・)
もはや、何も思えない状況である。
ケイルナートはとりあえずただでは済まない事を覚悟した。
(まさか、こんな事になろうとは・・・)
後悔しても遅いのだが、それでも後悔はするものである。
しかし、
(いや、待てよ?)
ケイルナートはあることに気が付いた。
(メルスの森には凶暴な魔物は住み着いていないはずじゃ・・・)
大抵の森は魔物が住み着いている。それはこのメルスの森も例外ではない。しかし、先程説明通り、メルスの森は他の森に比べると脅威な魔物はいない。いるとしても集団で襲って来る《コバード》と呼ばれる鳥の魔物ぐらいなのだが、体長は三十センチぐらいであり、攻撃もただ突いてくるだけである。
ただ、比較的広い森なので奥に行けばもしかしたらいるかもしれないが、
(グルル言ってるが、まぁ大丈夫じゃろ)
冷静に考えるとそれ程危険じゃないと思い、大丈夫だと確信した。
ハムッ
(えっ!?)
自分の身体が宙に浮くまでは。
ケイルナートは不思議に思い目を開くとそこには、体長が五メートルはあり、毛が蒼銀の色をした狼がいた。いや、実際には狼にくわえられていた。
そんな、狼を見て
(今度こそ、終わった・・・)
と、ケイルナートは思った。
◆◆◆
老人が地面に倒れていた。
俺――(名前など、どうでもいいだろ。)は少し此処の先の場所に用事があったから歩いて向かっている途中で倒れている老人――ジジイを見つけた。
というか、何故このジジイは倒れている?。はっきり言って此処は街から外れた森の中だ。しかし、そんな危険があるといった所でもない場所だ。むしろ、倒れている方がおかしい。
このジジイは寝てるのか?
だったら声ぐらいは掛けてやろうと思ったので、
「・・・・・・おい」
呼んでみたが反応は無い。
「・・・・・・おい」
再度呼んでも反応が無い。寝てるということは無くなった。
なら魔物に襲われたか? いや、それは無いだろう。 この森に住んでいる奴らは無意味には人を襲わない。これは「絶対」と言い切れる。
じゃあなんで倒れている?
俺は、一つの結論にたどり着いた。
「・・・・・・・」
このジジイは自ら・・・・・・
「・・・・・・馬鹿が」
何故、自分から命を絶つ?
訳が分からない。
いや、同情したくないし、理解したくもないな。
なので、俺はこのジジイを無視することにした。
何故って?そんなこと聞くな。
俺がその場を立ち去さり少し歩いた時だった。
「うっ・・・・まっ・・・・て・・・くれ」 そんな声が聞こえた。
俺は、最初空耳だと思ったが、
「う・・・・・・うっ」
また聞こえたので、その声がした方向――後ろを向くと、倒れていたジジイが呻いていることに気付いた。
「・・・・・・」
俺はそれを見て自分の結論が間違っていたと反省した。
そして、呻いているジジイの所に戻り、
「・・・・・・・・・」
ジジイの頭を踏んだ。
ジジイは頭を打ったのかたまらず、
「ぐふっ!?」
と、言ったがどうでもいい。俺はそのジジイに向かって
「・・・・・・お前・・・・・・生ける屍か?」
言った。
すると、
「ちがうわい!!」
先程とは違う、元気溢れる声で否定されたが、
「・・・・・・ふざけるな、第一さっき死んでただろうが」
「死んどらんわ!!勝手に決め付けるでない!!」
何故か、生ける屍に怒鳴られた。
「・・・・・・決め付けるな?・・・・・・声掛けたのに返事しなかっただろうが」
とりあえず、反撃することにした。
しかし、ジジイも反撃してきた。
「返事しなかったからと言って、勝手に決め付けるのはどうかと思うんじゃが・・・」
「返事をしなかったら=屍という法則を知らないのか?」
「知らんわ!!第一そんな法則はない!!」
「貴様が知らないだけだ。俺は知っている」
「・・・・・・もういいわい」
「認めたか?」
「あーはいはい、認めるわい」
「そうか、・・・・なら、」
そして、ジジイを踏んでいた足を退かし、
「死ね」
と同時にジジイの頭をもう一度踏んだ。
「グフッ!!」
なんか、さっきと同じ感じがしたがどうでもいいことだ。
「おぬし!!何する!!」
ジジイがこちらを睨みながら言ってきたが
「何って・・・・・自分が生ける屍と認めただろうが・・」
「そんなの認めとらんわ!!」
俺はその言葉に面を食らってしまった。
何を言い出すこのジジイは?さっき自分で言ったことを否定するのか?
俺がそんなことを考えていると、
「とりあえず・・・・解毒草を持ってきてくれんか?」
と、ジジイが言ってきたので
「は?」
何言ってんだこのジジイは?そんなんで生き返るわけないだろうが。
「・・・死んで頭まで可笑しくなったか?」
「だから、可笑しくもなってないし生きとるわ!!」
「・・・・・・・・・・・」
だめだ。埒が明かない。
仕方ないが、このジジイを納得させる為にも解毒草を持ってきてやろう。
俺はそう決めると足を退かして解毒草を探しに行った。