10話 登校最中の騒動
次の日の朝、何時も通り少年は門を潜り、校舎に向かっていた。
そして、何時も通りの「視線」が、キョウヤに向けられている。
「視線」
それは見えるわけでも無いのだが何故か感じるものである。
嫉妬
尊敬
怒り
この他、様々な感情が入り乱れる。しかし、向けられた視線がどの様な物なのかは何故か分かってしまう。ただし、視線がどの様な物か分かっても
「・・・俺にどうしろと?」
と、思ってしまうのが普通である。
キョウヤにとっては視線というのは慣れっこであり、(慣れていいのか疑問があるが)また、日常茶飯事でもある。
そして、
「・・・・・・これが」
「おっはよう!!」
と、一際大きい声が後ろの方から聞こえた。キョウヤが振り返るとそこには、
刹那がいた。
「おはよう、キョウヤ君」
「・・・・・・あぁ」
キョウヤは刹那の挨拶を軽く返した。
「いやー、よかったね」
「何が?」
何がよかったのか、いきなりよく分からない発言を刹那がするので、それをキョウヤが聞き返した。
「今日は休校にならなくてよかったねって」
「・・・そうだな」
正直、この時二人が思っていたことは同じなのだがそんなことはお互いが知るはずも無い。
「教室まで一緒に行こうよ!!」
と、刹那がそう言うとキョウヤは「あぁ」と言って歩き出し、刹那もキョウヤの左側に並んで歩き出した。暫く歩くと刹那が「そうそう」と何かを思い出すように言った。
「あのさ、キョウヤ君・・・昨日の話し覚えてる?」
「昨日の話し?」
「うん」
と、キョウヤは少しの間考え、
「覚えているが・・・どの話だ?」
「私の出身国の話なんだけどさ」
「ジブサムのことか?」
「そうそう。昨日あれから色々考えたんだけどさ・・・刀ってキョウヤ君分かる?」
「知らん」
「・・・・・・だよね」
刹那は苦笑いをすると、
「んーあんまりこっちだと伝わってないんだよね」
「・・・・・・」
「簡単に言えば剣の一種で、片方にしか刃が無い剣の事だよ」
「剣の一種か」
「うん」
「で、その刀とやらは、ジブサムとどういう関係だ?」
「ジブサムは刀の発祥地なんだよ」
「そうなのか」
「そうなのです!!」
刹那は少し威張って言うので、
「なぜ、威張る?」
キョウヤは少し疑問に思ったので聞いた。
刹那はキョウヤの質問に
「気分的に」
と、答えた。
その答えにキョウヤは、
「訳が分からん」
と言った直後、
「お前みたいな奴に分かるわけ無いだろうが!!」
何処からか男の声が聞こえてきた。
その声がした方向をキョウヤと刹那は見ると、一人のガタイのいい男子が近づいて来ていた。
ガタイのいい男子はキョウヤと刹那の前で止まると、キョウヤを睨みつけた。
「お前・・・いい度胸だな」
キョウヤを睨みつけながら言うが対するキョウヤは、
「・・・・・・・・・」
無言でガタイのいい男を見ていた。
「けっ・・・気に入らねーな」
キョウヤの態度に気に喰わなかったのか、悪態を付きながらガタイのいい男は言った。
そして、
「お前に常識ってもんを教えてやるよ」
ガタイのいい男がそう言った後「出てこい」と言うと、周りから男子生徒がぞろぞろと出てきてキョウヤと刹那を円で囲んだ。
「そんじゃ覚悟はいいか?・・・と、その前に、東條」
と、言うとガタイのいい男は刹那の方を向いた。
「何ですか?」
刹那は一瞬嫌そうな表情なったが直ぐに元の表情に戻ったのだが、
「心配いらねぇ、直ぐに助け出してやる」
「は?」
直ぐに、何言っているんだろうこの人?っていう表情になった。
それもそうだろう。刹那は自分からキョウヤに話し掛けて一緒にいるのだ。それなのに助け出してやると言われても意味が分からないだろう。
なので刹那は誤解を解くべく、
「いや、違いますって!!私から一緒に居るんですけど!!」
ガタイのいい男にそう言った。
「東條。別にこんな奴を庇うなんてしなくていいぞ」
「人の話、聞いてます!?」
「大丈夫だ。大方コイツに言わされてるんだろ?」
「違いますって!!」
刹那はガタイのいい男に言うが、相手が全く聞く耳持たずであり誤解を解けなかった。それどころか、刹那が何か言う度にキョウヤの評価が下がっている。
「お前ら、東條を連れ出せ」
ガタイのいい男は周りの男子に言うとキョウヤと刹那を囲んでいる男子の内の二人が刹那に歩みよって行き、近付いたと同時にキョウヤが刹那の前に出た。
「えっ!?」
「何だ、お前」
「・・・・・・・・・」
男子生徒の言葉を無視して、キョウヤは肩越しで後ろにいる刹那に、
「少し円の外に出てろ」
と、言った。
「・・・でも」
と、刹那が心配そうに言う。
キョウヤは分かっていないが刹那は今、自分達を囲んでいるのは「三年生」であると分かっている。人数的に、明らかに不利と分かる。ただし、「三年生」達は自分に手出しをするつもりが無いと会話で分かる。つまり、刹那が円の中から出なければ「三年生」達はキョウヤに手を出せないので、刹那としては無理矢理にでも円の中に居続ける必要があるのだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
そして、
「・・・・・・・・・」
「はぁ」
キョウヤが呆れた様に溜息をつく。
そして、刹那を見ながら
少しだけ、
ほんの少しだけ
そう、ほんの少しだけ
「・・・変わらないな・・・お前は」
懐かしむ様に言った。
「・・・変わらない?」
「んなこといいから早く出ろ」
刹那はキョウヤが言った言葉に疑問を持ったがキョウヤの言葉に遮られてしまった。
「分かったな?」
と、キョウヤは前を向いた。いつのまにか前にいた二人は元の場所に戻っていた。
そして、ガタイのいい男は、
「つくづく気にいらねえな」
「・・・・・・・・・」
「最後まで無視かよ・・・まあいい」
言い終わると同時にガタイのいい男の雰囲気が変わった。ガタイのいい男に続くかの様にキョウヤを囲んでいる男子生徒の雰囲気も変化して言った。正確には何かを纏った様な感じである。
「『身体強化』って知ってるか?」
ガタイのいい男はそう言いながら指の骨を鳴らす。
『身体強化』
それは、魔力を身体の隅々まで循環させ、身体能力を上げることである。
全ての種族には「魔力官」と呼ばれる物がある。それは、血管の様に身体中、いたる所に張り巡らされているものである。
魔力官には魔力という血管でいうと血液が流れている。
今は詳しく説明しないが、簡単にまとめると、魔力官を流れている魔力を流動させることである。
血管に当てはめると、血液(正確に言うとヘモグロビン)が新鮮な酸素を体中に行き渡らしているとほぼ同じである。
そして、『身体強化』は身体に纏っているのが濃いほどその効果が大きいと言われている。
「・・・そんじゃ行くぜ!!」
ガタイのいい男はそう言うと腰を屈め、キョウヤに向かって行こうとしたその時に
「待て」
「・・・あ?」
今まさに飛び掛かろうとした瞬間にキョウヤが何故か止めたので、思わずガタイのいい男は声をだした。
「何だ?まさか・・・今頃になってビビったのか?」
ガタイのいい男がニタニタした顔で言うと、周りも、軽く微笑が出てきた。
「・・・・・・・・・」
が、キョウヤは無視して後ろを向いて、
「・・・出てろって言っただろ」
呆れながら、未だに後ろに居る刹那に言った。
キョウヤは刹那を巻き込むつもりは無いので、先程言ったのだが、何故か刹那は一向に出ようとしない。それどころか、
「やだ」
と、言った。
この言葉にキョウヤは顔をしかめながら、
「出ろ」
と、もう一度言う。
そして、刹那も
「やだ」
と、言う。
キョウヤは更に顔をしかめ、肩越しで後ろにいるガタイのいい男に向かって
「おい、雑魚」
「誰が、雑魚じゃ!!俺には、ガタオと言う立派な名前が!!」
「少し時間を寄越せ、雑魚」
「人の話しを聞けよ!!」
ガタイのいい男(改めガタオ)は五月蝿いほど叫ぶが、キョウヤは無視して、刹那の方に向き、
「・・・・・・おい」
「やだ」
「・・・・・・何度も言わせるな・・・出ろ」
「やだ」
「・・・・・・・・・」
「やだ」
「何も言ってないだろ」
「やだ」
「・・・・・・・・・」
「別に・・・戦わなくていいじゃん」
「あ?」
「私が此処にいれば戦わなくて済むんだよ?」
「お前が出てない事が分かっているのに飛び掛かろうとした奴らがか?」
「そ・・・それは」
キョウヤの言葉に刹那は言い淀む。刹那を巻き込むつもりがないなら無理矢理でも「三年生」は、刹那を出すはずだからである。
つまり、
「あの雑魚どもは、どちらにせよ俺とやるつもりなんだろうな」
三年生の目的はキョウヤであり、刹那はただのオマケということである。
「薄々気付いてたんだろ?」
「・・・・・・・・・」
その言葉に刹那は答えなかった。
いや、それか答えたくなかったかもしれない。
「・・・そうだよね」
「・・・・・・」
「私なんかが居たって意味ないよね」
「ある」
「え?」
「俺にとっては、ある」
キョウヤは一言だけ言うと、前に向き直った。
そして、
「悪いな、雑魚」
「誰が雑魚じゃ!!」
「黙れ、雑魚」
そのやり取りにガタオは完璧に切れた。
「てめぇ、いい加減にしろ!!」
叫ぶと共にガタオはキョウヤに向かって行った。身体強化をしているため、一歩でキョウヤとの距離を詰める。右手を握りしめて腰を右に捩る。そしてそのまま、
「うらぁっ!!」
右ストレートをキョウヤに向かって放つ。
だが、
「ノロマ」
と、キョウヤは言い、左手でガタオの右ストレートを軽くはらう。そして、ガタオの腹に潜り込み、
「・・・・・・・・・」
ガタオと同じ右手を握りしめ腹を殴る。
「ガバッ!?」
ガタオは後ろに吹っ飛ぶ。ガタオの巨体が浮かび上がり、地面に落ちてその後三回バウンドして止まる。それに周りは沈黙する。誰も声など出せなかった。
ただ、一発殴るだけ。
それだけだった。
たった一発殴るだけでキョウヤは、場を支配した。
そして、周りに対して
「まだやるのか」
と、言い放った。
正直言いますと全然話しが進まないんですよね。
恐ろしいほど進まないです。
次も気長に待っていて下さい。
実は息抜きにもう一作品描こうかなと思ってたりしてますね。