少女は三つ編みと創作論を語ろう
「まあ、気をおとすなよ」
私は三つ編みになぐさめられている。
朝、玄関の扉を開けるとそこは森の中で、気がついたら家もなくなっていた。
「異世界転生ってやつ?」
死んではないか。
「いや、死んでないから、転生はおかしい。ここは、転移または転送と」
三つ編みの根元を掴んで、揺さぶってみた。
自分の髪の毛だ。
「痛い、やめて、くれ」
不安な顔をつくるのは得意だ。
「笑うといいぞ、ストレスを溜め込むのはよくない」
「私の考えを読んでるの……」
えーと、誰なんだろう、これは?
「ミッチだ」
やっぱり、思考を読まれている。
「その通りだが、その通りではない」
「じゃあ何?」
「俺はストーリーの強制力。このままではお前は死ぬ」
*
私は、私の三つ編み――ミッチに案内されて森の中を歩いてる。
「考えてもみろ、朝起きて、森の中だぞ。平然としているお前の方がおかしい」
確かに異常な状態なのに泣いたり、スマホを探したりしない方が変だ。
「お前は既に都合の良い物語の一部になってストーリーを推進している」
じゃあ、あんたは何なの?
人間の内心をきれいに表現できるなんてことがあるの。
自分でも判らないのに。
「匂い。感じないだろ?」
鼻から、大きく息を吸い込む。
感じない。
森なら、森らしい樹や土の匂いがない。
「もう、お前は物語の一部なんだ」
やっぱり、感情がよくわからない。
状況を淡々と受け止めてしまう。
本当なら、泣き叫んで、拒絶すべきなのだろう。
これが強制力?
「俺は、ナレーションなんだ。セリフが説明臭いだろ」
頷く。
都合がいい。
予想される状況に誘導されている気がする。
「本来、俺は地の文で喋るはずなんだ。それが、お前の髪の毛に固定されちまった。だから、ナレーションと強制力、内心の表現が混ざった状態にある。
ストーリーの展開上、お前は死ぬんだが。今の状況だと俺も死ぬ。
済まないが、俺を振ってくれないか?」
私は、言われた通りにミッチを振った。
「ぶるぶる」
なに?
「済まないな。物語の創作論が『説明するな、行動しろと』うるさいんだ。だが、私は髪だからな。それはムリだろ物理的に」
この髪、私なのに、私より感情面ですごい熱を感じる。
「これからも”行動”を説明するからな、その時はよろしく頼む」
ここは頷くべきなんだろうか。
「俺の死に対する緊迫感が足りない? よく言われるんだ。そんな時、言ってやるんだよ、お前は死んだことがあるのかって。そんな物無くたって、物語は進むんだってね」
私は、目を細めた。
「ほら、明るい場所に出たぞ。村まではあと少しだ」
私は歩き出す。
「あと、これは短編だから、オチはないからな」




